冬陽コウの逃避行   作:有機栽培茶

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ヘイローを破壊する爆弾

これは後々聞いた話であって、その頃の私たちが知る由もなかった話ではあるが、どうやら私達が前線部隊に合流へ向かう直前、敵対勢力による生徒会本部への大規模侵攻が行われたらしい。

 

 

「追っ手は!?」

「まだ追ってきてる!」

 

 

 これまで行われていた襲撃といえば物資輸送のトラックが襲われたり、まるで「うちらちゃんと仕事してますよー」とでもアピールするためのような小規模な戦闘しか行われていなかった。相手さんの上はどんな考えであったかはわからないが、少なくとも現場ではすでに内戦を起こしてまで何かを成したいとかそういう意思はなかったらしい。この内戦自体何年も続いているんだ無理もない。私のような下っ端はなんで起こったのかすら知らないのだ。向こう側も同様なのだろう。

 

 

「いつまで追ってくるの!?」

「はっ、ひっひっ、し、じぬ…!」

「隊長!コウちゃんが死にそうです!」

「死にたくないなら走れ!」

「ひぃぃ!」

 

 

 だが、“外”からやってきた大人がその全てを変えてしまった。その者はあっという間に奴らの上層部全てを手中に収めた。その手腕は見事な者であるが、どうせろくな方法ではない。

 

 

「二手に分かれますか!?」

「却下だ!この先に教会があったはずだ!そこで一時的に迎撃する!」

 

 

 だが結果としてその大人は短期による内戦の終結を望み、この大侵攻は行われ───前線は崩壊。そして我々が出立した直後生徒会本部は敵軍に取り囲まれ降伏。内戦は終結した。

 

 本来ならばこのような侵攻は無謀としか言いようがない。通常防衛戦というのは守る側の方が優勢であるし、人数や装備面で言っても我々生徒会側の方が優勢であった。たとえ学園としてすでに崩壊していようと仮にも生徒会、それも世襲制の生徒会長───前世でいうところの天皇陛下みたいなものだろう───が所属しているときた。こちらに人や物資が集まるのは必然だ。

 

 しかし現実として、彼女らは我々の前線を突破した。無論、それなりの被害を出したのだろう。

 

 当時の私は知る由もなかったが、この無謀すぎる作戦が成功したのには理由がある。相手の運が良かっただとか、こちらの運が悪かっただとかそういうことではない。

 

 

「しゃおら開いた!」

「馬鹿者!扉壊してんじゃねぇ!」

「クリアリングよし!」

「ミナトは退路の確保!コウは狙撃ポイントの確保!他はバリケードの構築!あくしろ!」

「はい!」

 

 

 理由は二つあった。まず最初に生徒会側で3小隊分に当たる隊員が反旗を翻したことだ。奴らは前線を構築する部隊に穴が空いていることを敵に伝え、さらに侵攻に合わせ敵部隊の突破口を開く役割を担った。

 無論その程度のトラブルで戦況が逆転するわけがない。できるんだったら普段から「もうやだー!!!」とか言って脱走兵が出るたびに逆転されてとっくの昔に生徒会は解体されている。

 

 

「……きませんね?」

「流石に相手も飽きたのかな」

 

 

 もう一つの理由………いや、これが全ての原因と言ってもいい。3個小隊が離反することとなった理由でもあり、奴らが数的、地形的優里を覆しここまで一方的な戦場を築き上げることができた理由。こちら側がろくな抵抗もできず押し込まれてしまった原因。

 

 

「コウ、外の様子を見てくれるか?」

「は、はい」

 

 

 ちょうどソレを、たまたま敵の包囲網を抜け出せてしまい。たまたま追撃からも逃れてしまい。たまたま旧市街地に───敵が我々を逃さないよう作り上げたキルゾーン……いや、キズゾーンかすら怪しい。いうのなら“実験場”に足を踏み入れてしまった我々は身をもって実感することとなった。

 

 偶々開けていなかった2階への扉。偶々小隊長がその付近にいた私に外を確認するように命じ、偶々私がこの建物に2階があることに気づいており、そこから安全に外の様子が伺えそうだと考えていた。

 

 ドアに手をかける。

 

 老朽化からだろう。多少抵抗はあったものの問題なく開く。

 

 そのはずだった。

 

 

「───あ」

 

 

 “これはダメだ”

 

 私の直感が全力で警告を放つ。かつて経験したことのないほどの悪寒。これは、死だ。

 死を目の前にして高速で動く脳が、その原因を見つけ出す。扉の隙間。そこから微かに見える何かのピンが引っかかっているらしき紐。典型的なトラップだ。けれど、それだけじゃない。そんなおもちゃじゃない。明確な死が、この先にはあるのだ。

 

 しかし止まれない。今更気付いたところで意味がない。これで助かるほど罠というモノは甘くない。高速化された思考で動き出して止めることのできない体の動きをただただ見ていることしかできない。

 

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 

 だが、死神の鎌は止まることはなく容赦無く私の首を───

 

 

「コウ!!!」

「っひ!?」

 

 

 ───刎ねることはなかった。

 

 

 体制が崩れ後ろに向かって倒れてしまうほどに強く引かれる肩と共に私の視線を遮るように飛び出してきた赤毛の少女───アイナと呼ばれていた彼女が手を広げ、立ち塞がる。

 次の瞬間襲いくるは強い衝撃止めを覆いたくなるような閃光。そして奇妙な爆発音。不思議と体を焼くような熱はこなかった。彼女が庇ってくれたから?いいや違う。余理にも不自然だ。知識にあるどのような爆弾にも該当しない。

 

 

「アイナ!?アイナちゃん!?」

「っ、あ、なに、が」

「コウ!聞こえてるか!?怪我は!」

「だ、大丈夫、れす。怪我はどこも……」

 

 

「隊長!アイナが!血、血が!」

 

 

 きぃんと残響の残る耳に追い打ちをかけるように聞こえてきたのはマユと呼ばれた少女の悲鳴のような声。彼女は倒れて意識を失ったのかぐったりとしているアイナを抱えて半狂乱に叫んでいる。

 

 その手元を見れば、美しくも恐ろしいほどの赤がベッタリと付いている。

 

 

「コウ!救急セットを!」

「は、はい!」

 

 

 急いでバックから指示されたそれを取り出せば小隊長はひったくるように取り上げ、急いで彼女の元へと向かっていく。

 

 あれは、血だ。今更ながらに気づく。訓練で何度か見たことはあったはずだったにも関わらず。自分の体にも流れているものにも関わらずだ。

 その理由は明白。余りにもその量が多すぎる。流れ出た血はアイナを抱えるマユの足元に小さな血の池を作るほどに至り、それでも以前溢れ出てくる。

 

 

「はっ、はっ、はっ…」

 

 

 足がすくむ。立ち上がれない。それどころか私の意思に反して自然とその光景から逃れようすらしている。

 本来なら私が治療に協力すべきなのだ。そういう役割分担だったはずだった。だが、無理だ。足は震えて立ち上がれず、手は震えてとても物を持てる状況ではない。それを察してだろう。小隊長が一人で彼女の治療に走ってくれている。

 

 あとで殴られるだろうか。それとも捨てられるだろうか。そんな恐怖も感じる余裕すらない。目の前の光景が現実離れしすぎて、それを認めたくなくて、その恐怖から逃れたくて。逃げたくて。逃げたくて。逃げたくて。

 

 

「コウ!!!止血剤!!」

「ひっ、は、はい!」

 

 

 そんな恐怖を彼の怒声が吹き飛ばす。訓練で染みついていたのかバックの中から素早く止血剤を手渡し、彼が流れるようにそれを使用する。

 応急処置にかかった時間はわからない。だが、少なくとも私の感覚では何時間、何十時間もの時が流れたようにも感じられた。

 

 

「隊長!アイナは!?」

「……」

「隊長!!」

「血は、止まった」

 

 

 小隊長のコートの上に寝かされたアイナからはすでに出血はない。だがその顔色は非常に悪く、もはや死人に近かった。

 

 

「コウ」

「っ…」

 

 

 パァンという破裂音が響く。

 

 

「トラップには常に細心の注意を払えと教えたはずだが」

「……はい」

「カスが。死にたいのなら一人で死ね。次は庇ってもらえると思うな」

「……はい」

 

 

「アイナはマユが背負え。5分で準備しろ。敵が来る前に出発する」

 

 

 

 ああ、逃げ出したい。

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