冬陽コウの逃避行   作:有機栽培茶

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外へ

 

「行動を開始する」

 

 

 結果採用された案は私が提案した『アリウスの外へ逃げる』案であった。敵と交戦するリスクもほぼなく、奴らに降伏することによって生じる危険性も考慮した結果この案が1番安牌であると判断された結果だ。交戦の危険性を考慮して投降を進めたミナト先輩は特に反対することもなく、奴らに強い憎しみを持つマユ先輩は「今は一度逃げ、時が来たら復讐すればいい」と説得した。

 

 冷静になって考えてみれば、アリウスの外にだって世界は広がっているわけで、頭のおかしい敵兵に降伏することや自殺紛いの特攻をすることよりも圧倒的マシ。なぜすぐに思いつかなかったのか不思議なくらいだ。

 だがこれは仕方がない。なにせ私たちはアリウスの外を知らなかったのだ。ここ以外に居場所があるのだと知らなかったのだ。知らなければ思いつくこともできない。私だって、昨夜小隊長が“外”について話してくれていなければ思いつけなかったくらいだ。それほど私たちの世界はアリウスで完結していた。

 

 外を知らないのだ。

 この薄暗い世界の外側に、何が広がっているのか。

 

 それが楽しみでも、恐ろしくもある。

 

 

「敵影なし」

「よし、行くぞ」

 

 

 すでに日は落ちあたりは暗闇に満ちている。月明かりだけが私たちを照らし出す。満月、新たな生活への一歩を踏み出すには絶好の日だ。

 

 昨夜に続き愛も変わらず私たち以外の人影は見られない。戦場が移動し敵味方がそちらに集中した結果として納得はできるものの、兵士ではない貧民街の子供達まで見かけないのはおかしいのだ。こんな惨状だから〜とは言ったものの、あれだけの戦闘があったのだからこの場所の情報は広く伝わっているだろうし、見るも無惨な惨状だからと目の前の宝の山───兵士達の残した弾薬や銃、防弾チョッキなど金目のものを指す───を無視できるほどの判断ができるとは思えない。それだけの理性を持つものが貧民街にどれだけいることか。半数以上は1日も我慢することなどできないだろう。

 

 それがこの2日、全くといいほど見ていない。

 

 それが意味することは

 

 

「……現場の封鎖?」

「そうだ。奴らめ、今更自分たちのやったことの重大さに気づいて隠蔽でもしようというのか」

 

 

 出発前、小隊長に聞いたところ内戦後の統治に関わるから、だそうだ。そりゃそうだ。こんな大虐殺など行ってまともな統治ができるはずもない。学生相手とはいえ恐怖政治がまともに機能することはないのだ。

 

 とはいえそれは相手がまともな統治をしようと思っていた場合だ。

 相手にまともに統治する意思がないのなら。アリウスを、まともな学園として復興させる意思がないのなら。

 

 

「あ゛?んなこたぁしらねぇよ。気狂いの考えなんざわかるわけがねぇ」

 

 

 ……でしょうね。

 小隊長殿もそれなり……と考えていたらギロリと睨まれたので考えるのをやめた。

 

 

「とまあ重要なのはこの戦場は未だ敵に包囲されている。少なくとも何らかの作戦行動が行われているということだ」

「…じゃあ、どうすれば…?」

 

 

 相手方のリーダーさんの考えはどうでもいい。私たちが今考えなければならないのはそれではなく、この現場で何が起こっているのか、もしも起こっているのであればそれをどう切り抜けるか、だ。

 そういう対処法を考えるのは私のような雑兵の役目じゃない。いくら精神的な年齢が高かったとしても所詮は新兵。こういうことは実践経験のあるミナト先輩や小隊長に頼るに限るのだ。

 

 予備隊とはいえ完全に出撃する機会がないわけではないのだ。私はマユ先輩以上の期間従軍していたために何度かその機会があったと聞いている。小隊長こと教官殿などはその職に就く以前はそれなりに名を轟かせていたらしい。彼本人の口から聞いただけなので真偽はわからないが……。

 

 ま、まあとにかく!彼らならばいい案を発案してくれるだろう!

 

 そう期待していた。

 

 

「そりゃなぁ」

「ええ」

 

「「正面突破だろ」」

 

 

 脳筋しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!」

「残党だ!」

「旧生徒会だ!」

 

「もう旧扱いかよ…!」

 

 

 暫く歩き、丁度前線基地の範囲を少し離れたタイミングで敵の索敵部隊に遭遇。1度目の遭遇は隠れてやり過ごすことができた。脳筋といえどそのくらいはできるのだ。しかし2度も3度も遭遇することになればいずれバレてしまうものだ。

 

 

「あいつら…!しつっこい…!」

「マユ先輩…!今は戦っちゃダメ…!」

 

 

 案の定私たちは待ち伏せされていた。他の味方部隊が見当たらないのも、そういうことだろう。すでに捕まったか、囲まれているために入ることができないのか。

 

 疑問なのはなぜここに我々がいるとバレたのか。他にも部隊が集まっていただとか、元々我々の陣営だったからだとかそういう理由も考えるが、それにしては差し向けられた部隊が多すぎる。

 

 ここに私たちがいると確信していたかのような。

 

 いや、違う。そもそもの話なぜ我々のような小隊をここまでして潰そうとするのか。全体で見れば小隊一つ、それも予備隊上がりの、言葉を選ばずいえば取るにたらない小蝿程度になぜここまで全力を尽くすのか。

 

 

「なんで…!4人相手に、ここまで…!」

「知るか!獅子搏兎ってやるだろ!」

「しし、はく…?」

「調べろ!」

 

 

 しかし、私はそれだけではないと睨んでいる。

 理由があるのだろう。我々のような旧生徒会……謂わば反新生徒会派の人間の存在してはならない理由が。

 

 なーんて、それっぽくカッコつけて深く考えても私にわかるわけがない。どうせあの虐殺の証拠隠滅だか、統治後のゲリラ対策とかその辺だろう。考えずともわかる。それ以外に裏があっても私たちには関係がない。所詮は雑兵。知る由も意味もない。

 

 私たちがするべきことは今を生き延び、自由を手にすること。

 

 

「小隊長!まだ!?わざわざあいつらを巻く必要はない、でしょ!?」

「もうすぐそこだ!安心しろ!あそこに入って迷わないやつはいねぇ!」

「私たちは大丈夫なの!?」

「俺がいるからな!例外の俺が!」

 

 

 倒れた鉄塔の下をスライディングで潜り抜け、小隊長達の一歩後ろを追いながら走れば、随分と不気味な雰囲気を醸し出す墓地、そしてその地下への入り口が見えてきた。

 

 

「あれだ!」

「ひっひっ、つか、れた…!」

 

 

 目の前に広がるこれこそ地下墓地……カタコンベへの入り口だ。

 存在は知っていた。私たちがくたばったら道端で朽ち果てていくか、運が良ければここにぶち込まれるだろうって噂ぐらいだが。

 

 

「……不気味な雰囲気ね」

「早く行きましょう。追ってが……来てない?」

「ビビってるんじゃない?」

「面白い冗談だ」

 

 

 石壁を触れれば風化してしまっているのかボロボロと崩れ落ちる。随分と古びているようだが……本当にここが外につながっているのか?

 だが……ここが本当に外に繋がっているのなら。随分と雰囲気のある入り口だ。果たして地獄への入り口か。もしくは天国への……

 

 

 

「動かないでくれ」

 

 

 

 白銀の銃口が、この場に存在する唯一の大人の背に突きつけられた。

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