冬陽コウの逃避行   作:有機栽培茶

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ついにこの小説にも色がつきました。評価してくださった皆様ありがとうございます。愛しています。アイラブユーですの。

……逃げられなくなっちゃった。


家族

 私たちは家族だった。

 

 ミサキにヒヨリ。物心ついた時より3人一緒で過ごし、いつだってみんな一緒だった。3人一緒ならばなんだってできる、だなんて夢みがちなことを言うほど現実を見れていなかったわけじゃないがそれでも一人じゃないと言うのは心強かった。3人なら一人じゃできないこともできる。3人ならこのアリウスでだって生きていける。

 

 当時の私が自分の思っている以上に世間知らずであったと、現実が見えていなかったのだと思い知らされるのは思ったよりもすぐだった。

 

 

「離せ!」

「いい加減黙れよ」

「しょっぺーな。なんも持ってないぜこいつら」

 

 

 自分たちよりも何歳も年上の上級生に私たちは一瞬で制圧された。私たちの集めた食べ物は全て奪われ、やっと見つけた住処は壊され、私たちは抵抗できないほどに殴られた。

 

 

「姉さ──ぐっ」

「ミサキ!」

「うわぁぁぁん!もうおしまいです!」

「だからさぁ、黙れって。他の奴らが来たらどーすんだよ」

 

 

 私は家族が殴られている様をただ見ていることしかできなかった。

 

 けれど……“捨てる神あれば救う神あり”と言うのだったか?そんな時に彼女は来てくれた。

 

 

「何やってるの?」

「あ?見てわからねぇか──っ!?」

「くっそ!テメェ私たちが誰かわかってんのか!」

「知らないよ」

 

 

 彼女は私たちが敵わなかったアイツらを1人で相手取って一瞬で片付けてみせた。銃を鈍器として使って直接殴りかかっていたり、相手が倒れた後念入りに死体撃ちしていたりしたのは流石に引いたが凄まじいの一言に尽きた。私と彼女、そう年齢差はないはずだった。にも関わらず、だ。

 

 

「……ふぅ。大丈夫?」

「あ、ああ」

 

 

 それが私と彼女……冬陽コウの出会いだった。

 コウは強かった。本人は「そんなことないよ」だとか「戦い方も知らない子供相手に勝ってもねー」と謙遜していたが、当時の私たちにとってまさにコウはヒーローだった。しかも願ってもいないことに、彼女は自分から私達に協力すると、一緒に暮らさないかと提案してくれた。住居も食料も失い、力不足を痛感していた私たちにとって都合の良すぎる提案だった。

 

 初めは疑った。私たちを騙そうとしているんじゃないかと、何かを企んでいるんじゃないかと。けれど一緒に暮らせば暮らすほどにコウの善性がわかっていくばかりで後ろめたいことなど一つも見つからなかった。

 

 コウは生徒会に(本人曰く半ば強制的に)所属しているらしく、その強さもそこで訓練を受けているだからだと言う。

 生徒会。このアリウスの貧民街では憧れの対象だ。治安維持を担っているために恨みを買うことも多々あるが、あそこには貧民街の者だとしても才能さえあれば入ることができる。入ることができて仕舞えばそれなりのお金と生きていくのに十分な食料が手に入る。彼女のように力も手に入る。まさに一発逆転だ。

 

 それは今日を生きるのに精一杯なアリウスの人間にとって夢のような職だった。だがそれ相応に敷居も高い。

 

 そんな生徒会に所属できているコウがなぜ私たちを助けてくれるのか……それだけが唯一の懸念点となっていた。なぜコウは私たちに食べ物をくれるのか。なぜコウは私たちに戦い方を教えてくれるのか。なぜコウは……

 

 わからないことだらけだった。コウのことを私は何も知らない。私たちは、彼女に何も返せていないのになぜ彼女は私たちを助けてくれるのか。

 

 

 だから聞いた。

 

 

「え?それは……まあ、一人は、寂しいじゃない?」

「……それだけか?」

「うん。十分すぎる理由だと思うけどな。それに、貴方達は私に何も返せていないって言うけれど、十分に返してもらってるよ。食事っていうのは人と一緒に食べてこそだからね」

 

 

 あーん、と美味しそうに缶詰を食べるコウは実際とても幸せそうだった。

 

 

「だが……それじゃ、あまりにも私たちがもらいすぎている」

「そうかな?」

「ああ。だから何か、私たちにできることはないだろうか」

「なんかすごいグイグイ来る」

 

 

 コウはヘラヘラと笑っているが私は本気なのだ。

 私は知っていた。コウは私たちの前じゃいつだって楽しそうに笑っているがそれ以外はいつだって無表情、もしくは辛そうな顔をしている。私たちが不安にならないように笑顔を作ってくれているんだ。

 そんな彼女に何も返さないなんて、私はそんな恥知らずじゃない。

 

 

「私は真剣なんだ!」

「うぇ……う、うーん。そうだね。じゃあ、貴方達が大きくなったら、何か美味しいものでも奢ってよ」

「わかった。他にはないのか」

「え、えぇ?じゃ、じゃあ何か本でも買ってもらおうかな?」

「わかった。他にはないのか」

「か、肩揉みとか……」

「他には」

「ちょっとぉ!?」

 

 

 今思えば私はきっとコウにかなり心を許していたのだと思う。本人には絶対に言わないが私は彼女を頼りにしていた。年もそんな変わらないのに彼女の背は大きく見えた。彼女のそばにいれば安心だと思えた。恐ろしかった夜だって、彼女と一緒だったからその美しい星空に気づけた。

 そしてそんな彼女に頼ってほしいとも思っていた。

 

 私は彼女を家族だと思っていた。

 

 3人で一つだった私たちは、すでに4人で一つになっていた。少なくとも私はそう思っていた。

 4人一緒に食卓を囲んで、4人一緒の布団で眠る。それが普通だった。それが私たちにとっての日常に変わっていた。

 

 これがいつまでも続く。

 

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 

「前線行きになった」

 

 

 彼女がそう言った瞬間目の前が真っ暗になった気がした。

 前線行き。彼女の所属を聞いていた私はいつかそうなるってことは知っていた。けれどあまりにも一緒に入れた期間が長すぎて、それがどうも現実離れしたものだと無意識のうちに考えの外へと追いやっていた。

 

 

 

「ついていくことは…」

「……」

「……そう、か」

 

 

 無言の拒絶。

 私たちのことを思ってのことだということは十分に理解している。けれどそれは暗に私たちが役立たずだと、不要であると言っているように感じられて胸の辺りが苦しくなった。

 

 

「……大丈夫。君たちなら大丈夫。3人で協力すれば私がいなくてもやっていけるよ」

「そんなこと……っ!」

「大丈夫。私は君たちなら大丈夫だって確信してる」

「だが…」

「君は私を信じれない?」

「……それは、ずるい」

 

 

 ずるい。コウは、あまりにもずるすぎる。

 そんなことを言われたら断れない。私は、私たちは4人じゃないと。コウ、お前がいないと。

 

 

「……また」

「うん。またね」

 

 

 その言葉を信じて、私は扉に隠れ消えていくアイツの背中を見送った。

 きっと帰ってくるって。またこのトタンの扉を叩いて私たちの家に帰ってきてくれるって。

 

 

 

 

 その翌日だった。

 彼女の所属する生徒会の崩壊がラジオで流れたのは。

 

 

「姉さん…」

「コウさんは…」

 

 

 あの日以来、彼女が再びその扉を叩くことはなかった。

 

 彼女は、冬陽コウは、私たちを裏切った。




この小説はリハビリ作品ですし、作者自身が原作の本筋に関わりたい系の作者ではないのでコウちゃんはエデン条約には関わらないし、サオリちゃもきっとコウちゃんのことなんて忘れてアリスクやってなんやかんや幸せになることでしょう。
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