【習作】恋人以上で友達未満な二人 作:言語嫌い
【習作・短編】恋人以上で友達未満な二人
あの日、私と彼は出会ったんだと思う。
「かぶってろ」
「え? なんで?」
「見られたくないなら、かぶってろ。そうすれば、俺からも見えない」
「うん……ありがとう」
この日よりも前に、すでに彼とは何回もあってたし、一緒にもいた。
けれど、
きっと、
この日が始まりだった。
「どうした?」
「あの、これ、いつまで借りてていいんですか?」
「お前が必要ないと感じるまで」
「……じゃあ、その時まで借ります」
「ああ」
「その時まで……」
「大丈夫だ」
「……はい」
私と彼の不思議な関係は、きっと、ここから始まったんだと思う。
ふわり、と吹いた風に飛ばされないように、反射的に帽子を押さえた。
俺は画面から目を逸らすと、踵を返しその場を後にした。
「届かないな……」
俺は目の前に広がっていた絶望を思い返すと、そうつぶやいた。
「はは……ああ、だめだ。まったく、届かねえや」
俺には戦う力がない。
――力があった
誰かを守るための意思もない。
――誓いと決意があった
すでに、その刃は完全に砕かれてしまったから。
――研ぎ澄まされた鋭い矛先はすべてを穿つ
そう、最初の出会いで……
「 !」
遠くで、
近くで……彼女たちが必死に戦っている。
絶望を打ち砕くために、希望の光をともすために。
皆、見知った顔だった。
皆、知らなかった顔だった。
――――ただ一人を除いて、誰も知らなかったはずだった。俺にとっては……
けど、出会ってしまった。何の因果か、俺たちは一つの奇跡に吸い寄せられて、この町に集まり、そして出会った。
「何で、だろうな……」
そう、魔法という奇跡が、縁もゆかりもない俺達の心を繋いだ。
そして、壊した。俺と、あいつの関係を……
いや、そんなたいそうな関係ではなかった。
ただの知り合いだった。
――友達ではなかった
名前も知らなかった。
――教えなかったから
年もわからなかった。
――知ろうとしなかったから
なんで、一人なのかもわからなかった。
――わからなくても問題がなかったから
どうして、俺たちは静かに泣いていたのかも聞けなかった。
――言わずとも、語らずとも、何故か通じ合えていたから
だから、気が付いたら一緒にいた。誰とも遊ばず、公園の片隅で、いつも静かに二人並んで座っていた。
遊ぼうと声をかけることも出来ず、みんなの輪の中に入ることもできず、かといって、二人で何かしようとさえしなかった。日が暮れるまで、いつも、二人並んで公園で遊ぶ皆を眺めていた。日が暮れるまで、何も言わず静かに泣き出した彼女をあやしていたこともあった。日が暮れるまで、彼女にあやしてもらったこともあった。
俺達は足りないものを互いに求めて、寄り添って、その温もりを、その存在を離さないようにいつも一緒にいた。
それは、魔法と出会う前までずっと変わらなかった。互いに学校に通いだして、学年の違いに気付いて、学校も全く違った。
だけど――
どちらともなく、公園に集まっていた。示し合わせたわけじゃなかった。待ち合わせをしているわけでもなかった。でも、気が付いたら公園の片隅に二人で静かに並んで座っていた。
周りのことを全て放り出して互いに互いの姿を見つけるといつものように並んで座って、日が暮れる前にどちらともなく立ち上がると、振り返ることもせずに別々の方角へ歩き出していた。
ほとんど言葉も交わしていなかった。でも、なぜか心地よかった。この静かさが、隣から感じる温もりが、いつも傍にいてくれるという信頼が、俺達を繋いでいた。
友達じゃない。
恋人でもない。
家族とも違う。
けれど、
友達よりも親しくて、
――でも、どこかよそよそしくて
恋人よりも愛しくて、
――けれど、どこか冷めていて
家族よりも大切な、
――だけど、互いに何も知らない
不思議な関係。
そんな関係は……
「これのせいで壊れたんだよな……この、ジュエルシードのせいで」
青く透き通った宝石のようなきれいな石。しかし、世界を滅ぼしかねない、とても、とても危険な石。本当ならここにあってはいけない、俺が持っていてはいけないもの。
でも、そんなことはどうでもよかった。
これが俺達を変えた。いや、俺たちの中に眠っていた魔法の力を呼び覚ました。そして、どちらからともなく、彼の話を聞くと協力を申し出た。そして、彼を通してようやくお互いの名前を知った。
それからだった。
彼女が俺のことを名前で呼ぶようになったのは。
――俺が彼女のことを名前で呼ぶようになったのは
でも、それでも、互いに互いのことを深くは聞かなかった。彼女の持論である名前を呼んだら友達……それも、何故か俺には当てはまらなかった。結局、この時に変わったのはそれだけだった。
いや、それだけで終わるはずだった。
でも、そうはならなかった。
魔法を知ってから、たくさんの出会いがあった
――別れもあった
黒い少女と出会い、力のなさに打ちひしがれた。
使い魔の女性と戦い、2対1だというのに劣勢で、足手まといになったのは俺だった。
ジュエルシードの暴走には成すすべもなく敗れ、彼女の盾にすらなれなかった。
結局、俺はただ眺めていることしかできなかった。
いや、出来なくなった。それ以外の選択肢はすべて、選ぶことが出来なかったから。
俺が出たら足手まといになるから。
俺がいるだけで被害が増えるから。
俺という存在が彼女の心を傷つけてしまうから。
優しすぎる彼女の心を。
だから、俺は決意した。
もはや、魔法と出会う前の関係には戻れない。
俺達が出会ったことを失くすことも出来ない。
俺達が過ごした時間を消しされはしない。
故に、あいつから離れた。
全てが終わって、何もかもきれいに片付いたから、俺はあいつに会うのを止めた。
公園にも行かなくなった
――あいつが待ってるから
魔法も使用しなくなった
――あいつに気付かれるから
退魔の仕事もしなくなった
――力を使うたびに思い出がよぎってしまうから
でも、そんな俺たちを、運命はまた巻き込んだ。
気まぐれだった
――その依頼を受けたのは
――遠くで感じた魔力に懐かしさを感じたのは
――気になって見に行こうなどと思ったのも
何か、よくないことが起こると思ったのも……気のせい、そう終わるはずだった
でも
気の迷いだった
――あいつが襲われているのを感じて、結界に突入したのも
――無理と知りながらも、目の前の少女に戦いを挑んだのも
――あいつが苦しんでるのを見て無理を承知で引き返したのも
そう、きっとそうだった。
あの時の俺は何かがおかしかった。
だから、あんな無茶をした。
意識が途絶えるその時まで、腕の中に抱いた彼女を起点に退魔の結界を張り巡らせたのは。
自分の安全なんて顧みなかった。
――苦しんでほしくなかったから
体が壊れ始めても術の行使を止めなかった
――俺を見て、安堵と笑顔を取り戻した彼女を
ただ、守りたかったから
だから、
その結果、
全てを失っても後悔はしなかった。
でも、一つだけ辛いことがあった
――チャンスだった
それだけは後悔した。
――願いがかなえられるはずだった
でも、力はなかった……
けれど、諦めきれなかった。
なんで、そうなってしまったかは知らない。そんなこと、聞いてないのだから当たり前だ。
でも、教えたかった。伝えたかった。知ってほしかった。
人は一人ではないということを。助け合うことが出来るということを。そしてなにより、助けを求めてもいいということを。
「ん? お前は、どうかしたのか? 何か不測の事態でも……っ! い、いきなり、な、に、を……」
だから、俺は禁忌に手を出した。
管理局が見逃した、たった一つの
力を失くし、絶望しかけた俺に希望を与える
「まて、どこに行くつもりだ!! 魔法を使えないお前が行っても、状況は良くなりはしない。いや、それどころか……」
それに、俺は願った。
――願ったわけでもないのに静かに、ゲートが開いた
「なあ、聞いているか?」
過去にその願いを叶えたモノたちの末路を見ているにもかかわらず、それに願いを託す。
――ゲートの先には先ほど見た光景が広がっていた
「俺にはもうあいつを守ってやる力がない」
すでに、彼女を助けるための対価として失ってしまったから。
――落下しながら、俺は願いを伝える。
「あいつを助けることが出来ないんだ。だから、聞いてくれ。俺の願いを。叶えてくれ、たった一つの俺の望みを」
それでも、なお、助けたかった。
――急に足場が生まれ、それの上に着地する
「壊れた願望器だか何だか知らないが、一度だけでいい。奇跡を起こしてくれ」
何度も助けられた。きっと、あいつに言ったらそんなことはないと否定してくるだろうが、それでも、俺はあいつに助けられた。だから、今度は俺が……
――みんな、目の前のことで手いっぱいで俺に気付かない
「俺はどうなってもいい。もう二度とあいつに会えなくてもいい。だから、あいつを……傷つきながらも、絶望に立ち向かっている、あいつを助けたいんだ」
俺があいつを助ける。たった一つの彼女との約束を果たすために。押し付けた約束をかなえるために。
――止めるものは何もなかった
「だから、俺に、もう一度だけでいい。闇を切り裂き、光を灯すことのできる、彼女を救うことのできる力をくれ……ジュエルシード」
俺の言葉に呼応するかのように強く光りだし、魔力を周囲にまき散らし始めたジュエルシードに、先ほどまで戦いに専念していた彼女たちが気付いてこちらを向いた。振り向いた人たちの中には当然あいつの顔もあった。でも、驚きに満ちていたその顔は、俺が一番見たくない顔に変わっていった。
痛みを、悲しみを、つらさを耐えるような、泣く一歩手前の何かをこらえたような表情。
「だめ!! お願い、やめて!!」
彼女の叫びが聞こえてきた。けれど、もう、止まらなかった。いや、止まることなんてできるはずがなかった。すでに、この願いはジュエルシードによって叶えられようとしているのだから……
「なのは」
「なに?」
「約束、覚えているか?」
「うん」
「なら、わかるよな?」
「うん」
「……」
「……たすけて」
「ああ」
「お願い……私を助けて!!!」
「任せろ」
彼女の言葉に隠された本当の心を見ないようにして、俺は光りはじめたジュエルシードを握りしめ、一気に振りぬいた。
現れたのは槍。
俺の最も得意な武器。だが、これの使い方は、たった一つしかない。
静かに槍を構えなおすと、足場を強く蹴り、目の前の絶望へと駆ける。
「先に言っておくよ、なのは。ごめんけど、本当の願いはかなえられそうにない」
その言葉を聞いた彼女がどんな顔をしたのかは知らない。どのように行動したのかも知らない。
俺はすべてを投げ捨て、ただ一筋の光となって絶望を貫いた。
それ以外のことはもう確かめられなかったから。
ふと、あの日渡した帽子を返してもらってないことに気付いた……
「なのは。ずっと聞こうと思ってたんだけど、その帽子どうしたの。もらいもの? いつもかぶってるし、魔法で強化して壊れないようにしてるし」
「……違うよ。これはもらってなんかない」
「え? じゃあ、なのはが自分で買ったの?」
「ううん。違う。これは、借りてるの。いつか、必ず返すその時まで」
「そうなんだ。いつから借りてるの?」
「小学校に上がる前から、ずっと……」
「え? でも、着けてるとこ見たことなかったよ?」
「あの人の前でしか被らなかったから」
「何でかぶるようになったの?」
「遠くに行っちゃったあの人を忘れない様にするために」
「……その人とは仲が良かったの?」
「わからない。不思議な関係だったから」
「不思議な関係?」
「うん。友達みたいだけど、どこか違った。家族みたいに温かかったけど、どこか壁があった。仲間とも違う。でも、それでも、とても親しかったし、大切だった。お互いのこと何も知らないのに、知っていた」
「え、えぇと、矛盾してるよね?」
「うん。でも、そんな関係だよ」
「その帽子、返せるの? 遠くに行っちゃったから返しにくいんじゃないの?」
「うん。でも大丈夫」
「なんで?」
「助けてほしいときにはきっと、助けに来てくれるから。だって、そう約束したもん、――と」
「え!? でも、彼はもう――――」
「ほら、授業が始まるから、行こう!」
「え、え、あ、うん」
助けて――――そう言ったら必ず助けるって彼は言っていた。どこにいても、たとえ、どんな状況にあろうとも、必ず、私を助けに来てくれるって……
だから、
私は、
この時、
どうしようもないと知りながらも、
本当はそんなことは起きないとどこかで感じながらも、
それでも、ほんの少しの希望を抱いて、
小さく呟いた。
「……助けてよ、――――」
目をつむって真っ暗になった視界の向こうから、いつも感じていた柔らかな温もりと共に、いつもの声で、いつもの口調で、彼らしい言葉が聞こえてきた。そう思うと、張りつめていた緊張がほぐれ、安堵と共に流れ落ちていく温かなもので彼の服を濡らしながら、彼に抱きついていた。
「ああ」
結局、帽子はまだ返せそうになかった。次にあったら、返そう。そう思ってたのに。きっと、もうこれがなくても大丈夫だと思っていたのに。
――――任せろ
もう少し、私たちのこの奇妙な関係は続くみたいだ。
だから、
私のわがままでしかないけど、
「ただいま」
「おかえりなさい」
そうやって、また、いつもの公園で会いたかった。
書いてから思いました。
リリなのである必要性がほとんどないことに。
いや、ないでしょうね……
このような小説でしたが、もし少しでも楽しんでいただけたのなら、作者としてはとてもうれしいです。
時間を無駄に浪費させてしまった場合には申し訳ありません。
何かが足りない(速さが――)。そう思いつつも、わからないので、もう少し精進しようと思います。
最後に、読んでくださったみなさんありがとうございます。