【習作】恋人以上で友達未満な二人   作:言語嫌い

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第9話 魔法使いとの出会い

――走る

 

――走る

 

――ただ、前だけを見て走る

 

後ろは振り向かなかった。先へ、先へと進んでいった。

 

――ちがう、振り向けなかった。先へ、先へと進むしかなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「はぁっ、はぁ……」

 

少年は走る。暗い夜道を。乱雑に立ち並ぶ木々を避けながら、時に身を隠しながら走り続ける。後ろから迫る化け物から逃げるために。

 

「くっ!」

 

緑色の優しい光が彼の前に現れる。そして、ガラス細工のようにあっけなく砕け散った。彼を守るための光は目の前の脅威には全く無意味であった。その攻撃の余波で彼は吹き飛ばされる。不幸中の幸いというべきだろうか。化け物は先ほどの攻撃で地面にめり込んでおり、吹き飛ばされた彼が体勢を立て直すくらいの時間はあった。だが、もう走れない。彼は走ることが出来ない。脅威が襲い来るまでの間に走り出すことは不可能だった。自分の力量を上回る敵、満身創痍で逃げることすらかなわない少年。非常に厳しい状況ではあったが、彼は生きていた。かろうじて……そう言い表すのが正しいくらい絶望的ではあるが、生きてはいた。

 

「ま、まだ……だ!」

 

だから、あきらめなかった。少年の手から複数の緑色の鎖が4本――一直線に化け物へと向かう。化け物はそれを壊すべく暴れだすが、その行動に合わせ4本の鎖は化け物を牽制しつつ、様々な軌道を取りながら化け物へと向かう。

 

その技量は顔に幼さの残る少年が繰り出したものとは思えないほどに洗練されており、並みの相手であれば手玉に取ることすら可能である――そう思わせる技量の高さが少年にはあった。そして、少年もこれこそが自身の強みであるとわかっていた。だから、時間を稼ぐためではなく、これで決めるつもりで最後の攻勢に出ていた。

 

「GAhhAAAAAaaaaaa!!!!!!!!!」

 

だが、それは、敵が並みであれば……の話。今回の敵は少年の手に余るほどの化け物。彼をここまで追い込んだ化け物。

 

「!! あ、しまっ……!!

 

突如、化け物から放たれた大気を大きく震わせる咆哮。それは、周りの木々をなぎ倒し、化け物をとらえようとしていた鎖を弾き飛ばした。そしてその咆哮は対峙していた少年に空気の壁となって直撃し、その衝撃で魔力の鎖は少年の制御下から離れてしまう。制御を失った鎖を作っていた魔力は散り始め、咆哮にかき消された。

 

「……僕の、負けか」

 

最後の力を出し尽くした少年の意識が薄れ始めた。彼は力なく地面に倒れ伏す。あとは化け物に蹂躙されるだけ。運が良ければ命があるだろう。薄れゆく意識の中で化け物はこちらに狙いを定め突進をしてきている。

 

「……たすけて」

 

少年の口からこぼれた最後の言葉。それは、何の力もこもっていないただの言葉だった。それだけを残し少年の意識は完全に消える。

 

「GAhhAAAAaaaaaaaaaa!!!」

 

そして、荒れ狂う化け物は嵐のように過ぎ去った。少年の姿はどこにもなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「お母さん、昨日の夜に変な声聞こえなかった?」

「変な声? ううん、私は何も聞いてないわよ?」

「そうなの……」

「何かあったの?」

「ううん、なんでもない。寝ぼけてたみたい」

 

それは、ある朝の親子のやり取り。物語は必ず紡がれる。そう、たとえ、何があったとしても。

 

 

 

***

 

 

 

「学校は休むものだ。そうは思わないかな、仮病で学校を休んでいる倉橋?」

 

昨日の異変を感じ、爺さんとおれは話し合った。そして、意見は動き出したで一致した。学校に行っている場合ではないと強く爺さんを説得し、何とか許可をもらった俺は昨日の力を感じた付近を歩き回っていた。ちなみに、力を強く感じた場所には爺さんが向かっている。本当はそちらについていきたかったが、何があるかわからない危険な場所に連れていくつもりはないと拒否される。まあ、足手まといと言われたわけだ。

 

「先生こそ、何やってんですか?」

 

そして、異変がないかどうかを探しながら歩き回って今に至る。ビニール袋を片手に片手でゲームをしながら、ゲームから伸びているイヤホンを右の耳だけに入れて死んだ魚のような目をしている先生が気だるげにこちらに語り掛けているという意味の分からない状況に至った。

 

「なあに、パトロールだよ、パトロール。お前のような不良学生がいないかどうか見て回って、補導しないといかんからな。ってなわけで、学校に戻ろうか?」

「言っていることはもっともなんですけど……その手に持っているジャ○プと新発売のゲームソフトさえなければ完璧でしたよ。それと、ゲームしながら見回りってどうなんですか? PTAに訴えますよ」

「よし! 取引をしよう。ちょうどお昼だ。お前においしいご飯をおごってやる。だから、俺たちは何も見なかった。いいな?」

「いいですよ。おいしいご飯、楽しみにしてます」

 

相変わらず、すさまじい速さの手のひら返し。とりあえず、降ってわいた幸運に喜びながら、先生のおごりだから遠慮せずに食べることを決意した。くだらない決意だと思うか? だが、これは日ごろから純粋な松原を扱き使っている罰である。ついでだから、お土産もゲットできるように頑張らなければ。

 

「何を考えているか大体わかるが……お手柔らかに頼むよ」

「お土産も欲しいですよ、先生」

「……足元見やがって。俺の財布を空にするつもりだな? いいだろう、ならばその挑戦に受けてたとう。俺の財布をお前ひとりで空にできると思うなよ!」

「行くぞ! 先生! お金の備蓄は十分か!」

 

 

 

一時間後……

 

 

 

「高校生の食欲には勝てなかったよ……」

「いや、まだあるでしょ、お金」

 

しっかり食べたおれは机に突っ伏してうなだれている先生にふと思ったことを問いかけた。

 

「てか、先生、なんで首にならないんですか?」

 

この先生はあまりに自由奔放すぎる。HRは平然とさぼるし、入学式では恐ろしいことをやらかしたし、いきなり体育に乱入したこともあれば、校庭に落とし穴が彫ってあったり、授業中に突然消えたりとやりたい放題。もはや、学校でゲームしてたり、漫画を読んでいるのを見ても何も言わない。だって、その方が安全だから。

普通の先生はこんなことしたら何かしら罰があるはず。もしくはクビ。だが、この先生には何もない、おとがめなしである。

それに対する先生の回答は――

 

「権力ってやつよ」

「……」

 

あまりにもふざけた答えが、かえってきました。

 

「ははは、これ以上は言えんなー。ま、真面目に生きるがよい、少年」

「警察……いや、教育委員会か?」

「さて、デザートは何がいい? 好きなだけ選ぶといい」

「では、お言葉に甘えて」

 

権力のおかげ……そんなことを言っておきながら、先生は権力におびえまくっている。相変わらず、訳の分からない先生だと思う。まあ、とは言っても遠慮するつもりはないので好きなだけ頼む。

 

「それじゃあ、このケーキとパフェとジュースを」

「てめえ!! もう少し遠慮というものをだな!!!!」

「110は魔法の数字~」

「さあ、好きに頼むがいい雑種よ」

 

結局、さらに30分ほど延長した。少し寂しそうに、財布の中身を確認した先生は、大きく伸びをする。

 

「さて、先生は行くかな」

 

あくびをしながら伸びをして立ち上がる。そんな、いつものようにマイペースな先生につい言ってしまう。

 

「たまには教師として働いてくださいね」

「そうか、なら、少しくらい教師らしいことをするかな?」

「うん?」

「少し、昔話をしよう」

「先生?」

 

真面目な返事が返ってくるとは思っていなかっただけに、面食らってしまう。だが、それもすぐに呆れに変わった。

 

「俺はね……むかし、正義の味方に、なりたかったん……っておい!! 帰るな! はええよ! もう少しくらい聞いていったらどうだ!!」

「語る気のない先生の話を聞くつもりはないです」

「ひっでえなー。ここから、ヒーローに憧れた俺ががむしゃらに頑張って諦めたところまでつながるというのに……」

「あきらめたのかよ!!!」

「ああ、ヒーローってのはね……」

「帰る」

「待て待て、そう慌てなさんな。魔法の力は侮れんのだぞ」

「…………ふざけてるのなら、本当に帰りますよ」

「やれやれ、せっかちなお前に合わせて、仕方ないから結論だけ言ってやる。諦めはゴールじゃない。敗北は終わりじゃない」

「…………だから、なんだよ」

 

急に真面目に話し出した先生に、うまく返すことはできなかった。言われたことはとても普通なことだった。でも、どこか引っかかるような言葉。何かを見透かしているような、知りうるはずのないことを知っているが故に出てくるような言葉に聞こえる。

 

先生は何者なのか。そんな疑問が当然生まれる。そして、顔に出ていたのか、先生はいつものようにふざけた調子でこちらを茶化す。

 

「ははは、悩め少年。命は短く、青春はさらに短いぞ」

「うるさい、先生こそ遊んでばかりいちゃだめですよ」

「言われるまでもない。だがあえて言おう。断る! と。俺は失われた青春を最高の形で満喫しているのだ!!!! そう、現在進行形で!!」

「はいはい、じゃあね、先生。俺は行くよ」

「ああ、行ってらっしゃい。明日は学校に来いよ」

「わかってますよ、先生」

 

 

 

 

少年は走り出した。

少年は走っている。

何かを追って、何かを目指して、いつだって少年は走っている。

その先に何があろうと、彼らは走り続ける。なぜなら――

 

「俺たちは馬鹿だからな。それしか知らねえんだよ。そうだろ……倉橋」

 

 

 

***

 

 

 

その日の夕方――――

 

優しい少女は耳に届いた声を頼りに、導かれるようにそこにたどり着いた。どうやって、たどり着いたのかなんてわからない。どうして、ここだと思ったのかわからない。でも、確かな確信をもってたどり着いた。木の幹に体を預けて眠る少年のいるその場所に。

 

「あなたが、私を呼んだの?」

 

眠る少年がその声に反応し、うっすらと目を開けた。

 

「大丈夫?」

「……生きてる? 僕は……」

 

少年はうつろな表情のまま、ぼそぼそと言葉を紡いでいく。少女は彼が助けを求めた声の主だと確信するが、どうしてこんなところにいたのか、なぜ助けを求めたのかがわからなかった。それに、どうやって少女に声が届いたのかさえ分からない。だが、その答えはすぐにわかる。

 

「あの、私がわかりますか?」

「!? ご、ごめんなさい」

「よかった。一つだけ聞きたいことがあるの?」

「え、ええと、なにか……って、え!!」

 

少年は突然大声を上げる。それは、ありえないものだったから。あまりのも大きすぎる存在が目の前にあったから。

 

「あ、あの、なに?」

「……ごめん、なんでもないよ。ごめんね、突然大きな声を上げて」

「ううん、いいの」

 

気を取り直して、少女は尋ねようとした。少年もまた目の前の少女の言葉を聞こうとしていた。そして、日が山の向こうへと沈んでいく、逢魔が時。厄災は訪れる。

 

「GAAHhhhAAAAAaaaaaAAA!!!」

 

その咆哮は突如として響き渡る。

 

「っ!? な、なに……なんなの?」

「くっ!! こんな時に!!!」

 

少年は立ち上がると、目の前の少女の手を引いて走り出す。

 

「え! あ、あの」

「走って!! あとから話す。だから、今は僕と一緒に走って!!」

「う、うん。わかっ……」

 

少年は慌てて力から逃げ出す。少女にろくに説明せず、ひとまず逃げることを最優先して。あの脅威に勝てない。そのことは前回の戦いで十分にわかっている。だから、目の前にいる少女をとりあえず逃がすことを考えている。たとえ、どれだけの可能性があっても、この戦いにこの地域の人々を巻き込むわけにはいかない。そう、彼は考えていた。

 

 

――――だが、少年は知らない。出会いは必然であることを。彼と彼女は必ず出会う。出会ってしまう。出会うからこそ、少年はこの場所にたどり着けるのだから。

 

 

目の前の木が揺れる。そして、幹が折れ、目の前に化け物が襲い掛かってくる。彼のすべてを圧倒し、徹底的な敗北を与えた化け物が。彼はこの化け物を目にして、自分の甘い考えのままではすべてを失うと悟ってしまった。少女の持つあまりに大きすぎる力があの化け物を呼ぶ。どこまで逃げても、必ず、化け物はこの少女を追うだろう。そして、今の彼ではどう頑張っても、倒せない。

 

「すみません、頼みがあります」

「な、なんですか?」

 

ひどいお願いだとわかっている。それでも、少年はそうするしかなかった。

 

「お願いします。僕ではあれを倒せない。だから、ひどいことを言っているのはわかってます。それでも、あなたの力が……あなたの中に眠る力が必要なんです!!!」

「え……力? ……何を言って」

「くっ!! 伏せて!!」

 

言われるがままに、慌てて少女は伏せる。それと同時に大きな音とともにすさまじい衝撃が周りに広がったのが少女の目に映った。

 

「え……あ、あああ、なに? なんなの?」

 

少女の問いに少年は答えない。ただ歯を強く食いしばり、必死に魔力で編んだ盾を維持する。そして、絞り出すように紡いだ言葉は何も知らない少女にはあまりに酷であった。

 

「時間がないんです。無理強いするようで申し訳ないと思います。でも、ここで生き残るためには、無理だとしても力を使ってもらわないといけないんです!!」

「力? 力って、なんなの?」

「この宝石をつかんでください。僕の右手の宝石を」

 

今まさに化け物を食い止めている光の壁を作り出している右手に触れて欲しいと頼む少年。だが、何も知らず、平和に生きてきた少女が見たこともない黒く蠢く化け物に近づけというのは無理な話である。もちろん、少年とて理解している。でも、無理無茶を通さねば生き残れない。

 

「お願い! 少しでいい。だから!!」

「いや、あ、ああ!!」

 

今の今まで恐怖に耐えていた少女はついに折れてしまう。地面にぺたりと座り込み、小さな震える体を両の手で抱きしめる。少年はそれでも叫ぶ。お願い、力を貸して、と。そして、決定的な瞬間が訪れてしまう。

 

「あ」

 

盾が砕ける。化け物の体が地面に当たり、その衝撃で少年は弾き飛ばされてしまう。少女は一人。目の前には自信を脅かす化け物が一体。唯一、少女を守っていた盾はもう近くにいない。化け物はその場で一度、足踏みをすると、しっかりと狙いを定め少女へと駆け出す。

 

 

――そして、少年がここにたどり着いたのなら、少女をこの舞台へと連れてきたのなら

 

 

「あ……」

 

少女にできることはない。いかに、巨大な力を持つ少女でも、何も知らない今はどこにでもいる平凡な小学生に過ぎないのだから。だから、彼女は誰にでもできる。彼女に残されたたった一つの手を打つ。

 

「助けて!!」

 

それは願うこと。誰かに、何かにすがるように少女は求めた。

 

 

 

――二人は出会う。必ず、どんなことがあっても、二人は出会う。それが、運命だから

 

 

 

***

 

 

 

助けて、私はそう叫んでいた。誰に求めたかなんてわからない。そもそも、助かるなんて思ってなかった。でも、私の声は確かに届いた。

 

「ああ、任せろ」

 

白く輝く槍を携えた彼は化け物と私の間に割り込む。槍を持っていない方の手を前に突き出すと、化け物の突進が止まる。彼の手を中心に、化け物との間に光が波打ち広がっていた。それは奇しくも、先ほどの少年と同じように見えた。

 

「え……」

「黙ってて、悪かった。出来れば、知らないでほしかった」

「あなたは、何を知ってるの?」

「いろいろと。すべて話せないと思うけど。でも」

「でも……?」

 

いつもと変わらぬ彼の瞳。私を落ち着かせてくれる穏やかな声。そして、白い光を放つ槍を片手に、もう片方の手から放たれる光の波動で化け物を抑えている彼の姿。それは物語に出てくる、一つの場面に似ていた。

 

「でも、お前は俺が必ず守る」

「……うん、お願い」

 

その日、私は優しい魔法使いに出会いました。

 

 




次回予告

「あなたは?」
「僕はユーノ。ユーノ・スクライア」

少女は一歩踏み出す。少女にとっては小さな一歩を。でも、世界にとってこの上なく大きすぎる一歩を少女は踏み出した。

「あのままだと、良くないんだよね」

少女はだから求めた。彼が決意していたように、少女だって決めていたのだから。

「あの人を一人にはしないよ」

少女は不屈の心を胸に力を解き放つ

次回、「桜色の魔法使い」

「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」
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