【習作】恋人以上で友達未満な二人   作:言語嫌い

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それでは、どうぞ


第10話 桜色の魔法使い 前編

「……なんだ、結局見てるのか」

 

男は女性に語り掛ける。

 

「結果は変わらんぞ。前に確認しただろ?」

「そうね。でも、この目で見ておきたいの。あの子の関わる大切な女の子のことを。そして、その女の子を助ける彼のことも」

「そうか……」

 

男は女性の隣まで移動すると、女性がのぞき込んでいる窓を同じように見る。その先では槍を持った少年と桜色の光を放つ少女の姿があった。

 

『…………セットアップ!』

 

男は静かに立ち去る。女性はいつものように窓から外を眺める。

 

「結局、彼の言う通りに進むのね。それなら、あの子の運命も、すでに……」

 

今見ていたのとは別の窓に移る光景をちらりと見る。そこでは、金色の髪の少女がいつものように厳しい修業に耐えていた。

 

「私たちに……何ができるというのよ……」

 

その答えを知る男はすでに女性のそばにはいない。彼女の言葉はいつかのように暗い空間にむなしく響いて、消えた。

 

 

 

***

 

 

 

もうじき、日が暮れる。そんな時間に俺は爺さんと合流するために町はずれの建物を目指した。目的地である屋上には爺さんが腕組をして待っていた。考え事をしているのか、俺に気付いていながらも何の反応も示さない。俺はわかりきった結果を確かめるべく、爺さんに声をかける。

 

「どうだった、爺さん」

「うむ、まあ、予想通りだった」

「ってことは、やっぱり、あれが関わっているのか?」

「そうとみて間違いないじゃろうな」

 

爺さんは最悪の予想が当たったと告げる。すなわち、あの事件の再来だということを意味している。俺を中心にこの町に起きたある事件……それと同規模かそれ以上のものが起きることを意味する。いや、俺の時は俺の周りのみだったから、被害は俺の周囲だけで済んだ。被害の元凶がアレになったこともあり、事件の規模自体は小さかったことを考えると、確実に俺の時以上のものになるだろう。

 

「それで、どうする爺さん。この時間帯が一番危ないのは知ってるだろ?」

 

夕方……それは昼と夜が入れ替わる狭間の時。もっとも境界があいまいになり、魔が活性化しやすい時間。昔の人々はこの時間のことを逢魔が時と呼んでいた。

そして、それは俺たちのようなものにとっては、今でも重要で警戒を強めなければならない時間。

 

「知っておるよ。だからこそ合流した。お前さん一人ではどうせ解決できんからの。ここからは場所を移して、ここら一帯を索敵する。儂が町中心から全体に索敵網を広げるからその網の中をお前さんが探る。つまり、儂の補助でお前さんが索敵する形じゃ」

「なるほど。それなら、俺の消費は少なくて済むな」

「ああ、そうじゃ。さて、移動を……」

 

爺さんの提案でおれたちは移動しようとした……だが、言葉に反して爺さんは動こうとはしなかった。爺さんはある方角をじっと見つめている。そこをおれも見てみるが、そこには何もない。何もないはずだった。

 

「おい、爺さん……動かなくて」

「いや、その必要はないようじゃの」

 

どういうことだ? と俺は聞くことが出来なかった。俺がたずねるより早く爺さんの視線の先に変化が起こる。その先の空間に亀裂が走り、そこから黒い何かが浮かび上がる。ノイズをまとっていたそいつはゆっくりと体を生成していく。そして、黒いフード付きのコートを目深にかぶり、黒く染まった槍を片手にもつ人型の魔物になった。

 

「……いや、気付くのが早くないかい、あんた」

 

人型となった目の前の魔物はおどけた様子で爺さんへと話しかける。それは数日前に俺の前に現れた時と同じ姿の魔物。あのジュエルシードに憑依した魔物と同一のものとみて間違いはないだろう。ただ、前回、俺と対峙した時と決定的に違うことは、完全に逃げ腰だということぐらいだろうか。

 

「ふん、貴様の鍛えようが足らんだけじゃ。お前さんに戦う気があるのなら、この場で仕留めるのじゃがの」

「やっぱ、おっかねえじじいだな。あの時は逃げて正解だったか」

「んで、何の用じゃ? わしは、お前さんのせいで忙しくなったから、動きたいのじゃがの?」

「は! そっちも気づいてんのかよ」

「当然じゃよ――さて、馬鹿弟子」

 

俺を完全に置いてけぼりにした状態で話していた爺さんは、急にこっちに話を振ってくる。とりあえず、聞きたいことはたくさんある。だが、俺がすべきことはこれから爺さんが教えてくれることになるだろう。いや、おれにとっての最優先事項になると考えた方がいい。

 

なぜって?

 

「なんだよ」

「お前さんの大切な子が襲われておる。急いであの場所へと向かえ。なに、正確な場所は近づけばわかる」

 

あの時の経験から、そうとわかるからだ。大切な場面で爺さんの言うことは、絶対に俺の無視できないことだったから。そして、それを聞き逃したとき、俺は痛い目を見ることになる。あいつが消えた、あの日のように……

 

「……爺さん、そいつは任せた」

 

だから、俺は他のすべてを放り出して駆け出す。もう二度と後悔しないために。あの時のように……全力で……まえ、に……?

 

『……めん、な…………け……まえ………ない』

 

そう、あの時のように……?

――どこかで、何かが砕けるような音がする。

 

止まりそうになった足を無理やり前に出し、揺れる心を無理やり保ちながらそのすべてを胸の中へと押し込めて前へと駆ける。

 

「今度こそ……助けるんだ」

 

強く握りしめられた槍が淡く光る。呼応するように胸元に忍ばせているジュエルシードが光を放つ。それは夕焼けに消えてしまうような弱い光。

 

「今度こそ、助けよう。あの時の約束を果たすために」

 

――受け継がれた誓いを胸に彼は赤い空を駆ける。

 

 

 

***

 

 

 

その場に残された者たちは穏やかに語らう。

 

「さて、任せたといわれたが……お前さん逃げることしか考えておらんじゃろ?」

 

その名を広く知られている英雄は目の前の愚かな悪魔に静かに問いかけた。そんな問いかけに悪魔は自然体で答える。

 

「まあな。勝ち目がない戦いに挑む気はない。あんたの足止めが目的だし、これでいいんだよ。俺がここにいれば、あんたは向こうに行けない。今回は、俺の方が早くあの場所にたどり着けるからな」

「たしかに、この状況ではお前さんの方が早いの。こればっかりは準備の差じゃから、どうしようも出来んが」

「それに、あいつが頑張ったところで最悪な結末しか待っていない。だから、俺はここであんたを抑えることに徹するさ」

「やれやれ、お前さんもかい。あまり年寄りをなめるんじゃないぞ」

「…………」

 

悪魔は沈黙を返す。年老いた英雄は呆れた様子でその悪魔を見る。そして、ため息とともに力を抜いた。

 

「はー。まあ、勝手にせい。わしからは何も言わん。好きなだけ、足止めをするといい」

「なら、そうさせてもらおうか」

 

悪魔は英雄と未熟な弟子の間に立ち、英雄はその悪魔を見張る。悪魔がもしも英雄の弟子を狙えば、彼は英雄に消されるだろう。だが、ここで悪魔が逃げれば、彼の思惑はすべて無駄になってしまう。そして、英雄が弟子を助けようとすれば悪魔が先に到達する。逆に、英雄が彼を倒そうとすれば、弟子を助けるのは困難。

ゆえに、両者は動かない。

 

「さて、未熟な馬鹿弟子がどんな結末を持ってくるか、ここで楽しみに待つとするかの」

 

悪魔は何も答えない。ただ、その馬鹿弟子が向かった場所を静かに見ていた。

 

 

 

***

 

 

 

俺があいつを見つけた時、あいつの前にいた少年が吹き飛ばされた直後だった。その少年はどこか見覚えのある術を使っていたが、今はそれどころではなかった。

 

「助けて!!!」

 

だって、そんな彼女の声が聞こえたから。だから、俺はあの時と同じように答えた。

 

「ああ、任せろ」 

 

間一髪。

おそらく、その言葉が正しい。少女の体に化け物がぶつかる瞬間に何とか間に合った。槍で化け物の突撃をいなしつつ、持っていた札で簡易結界を作った。それだけで、あの化け物の突撃は止まった。

 

「え……」

 

驚きを隠せない少女を見て少しだけ心が痛む。普通の生活を送っていた少女からすれば、俺は間違いなく異端なのだから。だから、嫌われてしまうのではないかと、関係が壊れてしまうんじゃないかと考えると少しだけ怖い。

だが、そんな不安な気持ちと同時に、俺は安堵していた。

 

俺は少女の危機に間に合えた。俺は助けることが出来た。それは、きっと、俺の見ている世界の中で何よりも価値のあることだから。

 

「黙ってて、悪かった。出来れば、知らないでほしかった」

「あなたは、何を知ってるの?」

「いろいろと。すべて話せないと思うけど。でも」

「でも……?」

 

だから、これからも――――

たとえ、少女に嫌われたとしても――傍にいることが出来なくなっても。

 

「でも、お前は俺が必ず守る」

 

そんな俺の決意に。

 

「……うん、お願い」

 

帽子で涙を隠さない少女は初めて笑顔で答えてくれた。

 

 

 

***

 

 

 

帽子で涙を隠さない少女は初めて笑顔で答えた。

 

だから、決意した。

戦うことを……

 

 

 




後編に続く……(できる限り、早めに投稿します)
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