【習作】恋人以上で友達未満な二人   作:言語嫌い

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―― 聞こえますか、私の声が




第11話 桜色の魔法使い 後編

「下がっていてくれ。あいつは俺がなんとかする」

「うん。お願いします」

「ああ、任された」

 

槍を持った少年は少女を下がらせると、少し離れたところで戦闘を開始した。そして、その様子を心配そうに眺める少女に、彼女を導いた少年――ユーノが話しかける。

 

「すみません、少しだけいいですか」

「あなたは?」

 

こうして二人はやっと出会った。化け物は槍持ちの少年が抑えているためか、先ほどに比べ少女は落ち着いていた。ユーノはそのことにほっとしながら、本題を切り出すために、話し始める。

 

「僕はユーノ。ユーノ・スクライア。さっきは無理を言ってごめんなさい」

「あ、ううん、気にしないで。それだけ大変だったんですよね」

「はい、そうです。そして、そのうえで僕はもう一度あなたにひどいことを頼まないといけない」

「…………」

 

ユーノは戸惑う少女の顔を見て、決意を固める。先ほどのように断られたとしても、頼まなければいけない。これが少女の身を守る上で重要なことで、そして、ここから助かる上でもしなければならないことだから。

 

「どうか、僕に力を貸してほしい」

「どうして、あの人に任せてれば大丈夫そうだよ?」

 

少女の言うことはもっともだ。だが、それではダメだった。

 

「いえ、倒すだけじゃダメなんです。あれは封印しなければ、また暴走します」

 

ただ倒すだけでは、ダメだ。それは一時的におとなしくなるだけで外からの刺激があればすぐにでも暴走を始める。

 

「暴走すると、また今回みたいになるの?」

「最悪な場合、彼があれに飲み込まれる可能性もあります」

「…………」

 

俯いてしまった少女の表情は帽子に隠れてしまって伺うことはできない。だが、ユーノはお願いをやめない。これは少女のためでもある。少女は今後もこのようなことに巻き込まれる可能性が高いだろう。少女が望まぬとも、その身に秘めた力はそれだけで様々なものを寄せ付ける。それだけの力を持っている。ならば自衛はできるべきだ。少年は自身にそう言い聞かせながら、少女にお願いする。

 

「脅してるようで、申し訳ないです。でも、僕にはあなたの力が必要です。だから、お願いします。あなたの力を……」

「……うん」

 

だが、それは言い訳だ。少年は自分が最低な奴だと思っていた。彼は様々な言い訳を並べているだけだ。結局は自分が助かりたいから、見ず知らずの少女をこの事件に巻き込もうとしている。そして、力を使わねば生き残れないと脅している。

 

そんな最低なことを頼んでいる少年のお願いを、目の前の少女は引き受けた。

 

「―― そう、わかった」

「……いいんですか? 僕は自分が言っていることがどれだけひどいか」

「でも、断ることはできないよ」

 

顔を上げた少女の目には確かな意思が宿っている。二人の目の前で槍を持った少年と戦う化け物を前におびえこそすれどまっすぐに見つめていた。

 

「だって、あのままだと良くないんだよね」

「はい、あのままでは最悪の事態もありえます」

 

戸惑いつつも少年は答える。

 

「私がどうにかできるんだよね?」

「はい、あなたの力なら」

 

少女は少年の答えにうなずく。何かを確かめるように。

 

「なら、私の答えは一つだよ」

 

少年は不思議だった。どうして、そんなまっすぐに前を向けるのだろうか、と。開き直ったような感じではない。諦めたようにも見えない。自分の意志で、自分の気持ちで少女は前を向いている。そんな少女の決意の理由が、彼には理解できなかった。

 

「あの人を一人にはしないよ」

 

少女の導き出した答えは彼の理解を超えていた。だけど、少女は少女なりに考えてその答えを出した。なら、少年のすることは一つだった。

 

「……わかりました。それじゃあ、これを」

 

持っていた赤い宝石を手渡す。少女はそれを受け取ると、両手で祈るように握りしめる。

 

「僕の後に……」

「ううん、必要ないよ」

 

少年は力を使うための呪文を教えようとしたが、それは祈るように宝石を握りしめていた少女の言葉にさえぎられた。

 

「魔法は……もう、私の中にあるよ」

 

少女の手の中にある宝石が赤く光る。指の隙間から漏れる桜色の光は少女を囲むように魔法陣を幾重にも描いていく。驚くユーノを他所に、少女は静かに魔法を唱える。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

それは、かつて見た光景。

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

繰り返し、何度も唱えられた呪文。

 

「風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に」

 

これは普通の少女だった彼女が桜色の魔法使いと称されるようになる出来事。

定められた運命。覆せなかった世界の理。

 

「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」

 

ここに定められた奇跡は起きる。誰も書き換えることが出来なかった神の奇跡はここになった。白い制服に身を包み、赤い宝石を先端に付けた機械仕掛けの杖を手に、少女は戦場に立つ。

 

 

「ああ、そうだ。彼女はこうなってしまう。だれが、どうしようとこれも変えることができなかったことだ。どんなことがあっても、たとえ、彼女がユーノに出会わなくても、彼女は桜色の魔法を使う」

 

一部始終を眺める男は寂しげにつぶやく。その目線の先では少女は運命の定めるままに魔法に触れた。

 

 

「レイジングハート」

『なんでしょうか、マスター』

「私は、ずっと彼に助けられてきた。そして、彼からたくさんのものをもらった」

 

それは、少女がずっと抱えてきた想い。少女がどうしても一歩踏み出せなかった理由。だから、彼女は手にした力と共に、一歩だけ前に進む。

 

「だから、今度は彼を助けたい。彼の力になりたい。彼の隣に立ちたい」

『マスター、指示を』

「うん。私に力を貸して。彼と一緒にいることのできる力を……私に貸して」

『イエス、マイマスター』

 

少女の魔力があふれる。それをデバイスであるレイジングハートが意味のある魔法として練り上げていく。

 

「対象、ジュエルシード――お願い、レイジングハート」

 

少女が杖を構える。

 

『リンカーコア、一次解放。魔力パスをつなぎます』

 

杖の先には、少年により倒された魔物がいる。倒された魔物は核となるジュエルシードを吐き出し、その体は崩れていく。

 

『封印――開始します』        

 

少女は焦る。あのままでは最悪の結末が待っているのだとユーノから聞かされていたのだから。その気持ちをレイジングハートにも伝えた。彼女にとってここで救えないことは、終わりと同じだから……

 

「お願い! 急いで!」

『魔法陣生成。対象ジュエルシード、補足しました』

「うん、いくよ! リリカルマジカル! ジュエルシード封印!」

 

杖の先より放たれた桜色の光は対象のジュエルシードを包み込み封印を施していく。そして、今まさにそのジュエルシードに触れようとしていた少年は、魔法を使う少女をどこか寂しそうに見つめていた。

 

「っ! やったぁ!!」

『ジュエルシード、封印。対象を収納します』

「え? 収納?」

 

桜色の光に包まれたジュエルシードはそのままレイジングハートに取り込まれた。少女は危険な宝石を杖の中にしまって大丈夫なのかと疑問を持つ。そして、何が何だか全く理解できない槍持ちの少年。

 

「……」

「……」

「……うん、これで無事解決だよ!」

 

状況がいまいち呑み込めていない二人の代わりに、少年が締めるように告げる。

こうして、始まりの事件は悪魔の予想に反して、少しだけ優しい結末になった。

そして、そんな優しい結末を男は寂しそうに見ていた。

 

「やっぱり、なのははこうなるか」

 

彼の視線の先では初めて力を使った反動で疲れ、槍を持った少年によりかかるようにして立つ少女と、その二人から質問攻めにあっているユーノがいる。

 

「高町なのは――彼と同じ、この世界の鍵」

 

ここから紡がれていく物語は……どうなるか、彼には分らない。

 

「結局、何も変わってないじゃない」

「それでも、変わらなかったということを知ることが出来た。それだけでも十分だ」

「そう、まあ、いいわ」

 

クスクスと少女は笑う。そして、少女はもう一つ気になっていたことを聞く。

 

「それで、あれもあなたの予想通りだったのかしら?」

「……あれは、違う」

「へぇ、そうなの。あれは決まってないの?」

「あれは、誰も触れてない。何の理も関わっていない」

 

少女は男の言葉を正しく理解していた。

 

「あら、そうなの? もし、それが本当なら――」

 

ゴシックロリータの服を着たとても美しい少女は先ほどと変わらずクスクスと笑っている。その少女の見ていた先には、見慣れた金色の髪の少女と、中心に穴の開いた歪な大剣を手にした黒い青年がいる。

 

「それはこの世界で起きたたった一つの奇跡になるわね」

 

金色の少女は、黒い青年の手の中で静かに眠っていた。

 

 

 

 

男は……何も、言えなかった――

 

 

 




~次回予告~

少女は一人だった。

「ねえ」

大切だった人には裏切られていた。少女にはもう何も残されていない。

「もし……本当に願いが叶うなら」

もう何も無くなった少女はあきらめていた。目の前の脅威に抗うことに。

「わたしは……」

終わりを望んだのは……必然だった。

「サーヴァント、セイバー。……召喚に応じた」

だが、出会った。

「お前が、俺のマスターだな」

この歪な世界に零れ落ちた最初で最後の奇跡


次回 「たった一つの奇跡」
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