【習作】恋人以上で友達未満な二人   作:言語嫌い

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第8話 青い石 ジュエルシード

「来たか……本日は、見回りじゃ」

「ああ、わかった」

 

爺さんは俺が来ると端的に伝えた。そして、いつものお節介が始まる。

 

「さて、また、寄り道かの?」

「…………」

「図星のようだな。まあ、詳しくは問い詰めん。だが、立ち止まることはしてはならんぞ。お前がしなければならないことは、ひたすら前に進むことだ」

「わかってる」

 

こちらの事情を見透かした様に爺さんは語る。ぶっきらぼうに答える俺に対し、爺さんはため息をつくことはなくなった。だけど、何も言わずに、癪に障るような目を向けてくるようにはなった。

 

「まあよい、学校ではうまくいっておるようだしの。お前さんら3人の馬鹿話はわしの耳にも届いておるぞ。日々愉快に過ごして居るようではないか」

「……うるさい」

「これも図星じゃのー」

「……そんなに、噂になってるのか?」

「自覚があるようで何よりじゃ」

 

いろいろやらかした自覚はあった。だが、それが外にまで伝わるほどだとは思ってもいなかった。すこし、日々の態度を改めるべきだろうか。

 

「無理じゃから諦めるがよい。それに、お前さんくらいの年ならそれくらいでちょうどよい」

「……」

「さて、そろそろ行くか。油断はせん事じゃ」

「とは言っても、ここ最近は低級の魔ですら出ないぞ。まあ、平和なことはいいことだけど」

 

ここ最近、具体的には4月に入ってから魔物にあったことがない。週に2,3回の頻度で見回りをしているが、一度もあったことが無い。高校に上がるまでは結構な頻度で討伐やら封印をしていたのだが……やりすぎたのだろうか? いや、悪いことではないのだが。

 

「平和……と取るのは楽観的過ぎるぞ」

「どうしてだ? 討伐や封印がうまく行ってるから、魔が現れないんだろ?」

「……いや、そうともとれる。だが、ここではそうではない。お前は考えたことが無かったか? どうして、何度も封印、討伐をしているのに魔が消えないのか……と」

「そういえば……」

 

言われてみれば、確かにおかしい。ほかの町ではそもそも魔と遭遇することの方が珍しく、基本は魔になる前の霊への対処が多い。僧侶の真似事……といった感じらしい。見回りも封印が無事かどうかの確認……といった意味合いが多い。そのため、魔との戦いを経験するために、または感覚を忘れないためにここに武者修行にくる人も多い。

 

「じゃあ、なんだ? 何も出ていない。この状況がすでに異常だと?」

「……このようなことは、過去に何度かあったそうじゃ。儂も2回ほど経験しておる。一度目は、わしが若い時……全盛期であった30代のころ。そして、2度目はお前さんも経験したあの事件じゃ」

「……あの事件の前もそうだったのか? 俺にはよくわからなかったんだけど」

「あったんじゃよ。おまえがあやつと出会う前。ちょうどお前が修行に明け暮れておる頃、今と同じように不自然に魔物が出ないことがあった。そして、その後に起きたことは……語るまでもないの」

「今回も、似たようなことがあるとでも?」

「可能性は高いの……」

 

爺さんはその可能性がある……とぼかしていた。だが、あれは確信している。何か起きると。これから、あの事件と同じ……もしかしたら、それ以上の何かが起きると思っている。

 

「気を引き締めろ。けして油断してはならんぞ」

「わかった。それに……」

「悲劇は繰り返さない――じゃろ? 守りたいのだろう、あの少女を」

「爺さん」

「ふん、関わりはせん。あれは、お前の解決すべきことじゃ。だから」

「だから……なんだよ?」

「力ばかり追い求めてはいかんぞ」

「……見回りに行ってくる」

 

俺は、爺さんの言葉に応えなかった。代わりに大きく跳躍して見回りへと向かう。

 

「忠告も聞かん、馬鹿弟子が……」

 

爺さんのその言葉は俺に届くことはなかった。ただ暗い夜の道を俺は一人駆けてゆく。

 

「運命に負けるなよ」

「負けてたまるか」

 

かつて、交わされた言葉は……今の二人の間にはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

そして、事件が起きてしまった。

これは、誰も予想しなかった事件。早すぎた始まり。

 

「ユーノは!?」

「知っての通り、寝てるぜ」

「じゃあ、なんで!? どうしてなのよ! 彼がカギなのよ!」

「さあな……だが、カギは一つじゃない。ただ、それだけのことだ」

「……っ! じゃあ、どうするのよ! これじゃあ、私たちの計画は」

「まだだ」

 

その人物は静かに、だが鋭く告げた。

 

「終わってない。ジュエルシードは俺たちがすべて集める。それで、解決できる」

「そうね……それで、私たちの願いが叶う」

「ああ、そうだ。それに、まだ始まっただけだ」

「……たしかに、そうね。ごめんなさい、少し取り乱してしまったみたい」

 

相方の女性が落ち着きを取り戻したのを見た男は修正した計画を告げる。

 

「状況は最高じゃない。だが、十分に修正可能な範囲だ。だから、まずは」

「……ユーノを起こす。そして、地球へと放すでしょ?」

「ああ、そうだ。だが、今すぐは無理だ。明日以降に折を見て解放する」

「それで、次は何をしようとしていたの?」

「ああ、それは――――」

 

誰かが望み、だれも望まない始まりが訪れた。

 

 

 

***

 

 

 

違和感に気付いたのは、偶然ではない。必然だった。

 

「……あれは」

 

それは、かつて封印を施した洞窟。そして、事件の終わりを告げた場所。

そこに、何かがいる。何かがあった。

 

「……」

「……まだ、自我は薄いな」

 

それは、そこにあった。中心にある黒い核を中心として、それは周囲の魔を取り込みながら大きくなっていく。これだけの魔がどこに隠れていたのだろうという疑問はある。だが、それよりも、目の前のソレを今ここで消さなければいけない。消さなければ、取り返しのつかないことになる。そんな予感があった。

 

「……」

「ここで、終わらせる」

 

油断はしない。手早く結界を張る。簡易結界を施した後に、それを強化するために、さらに術を重ねる。そして、周囲からこの洞窟周辺を隠すとともに、爺さんへと異変を知らせるための式神を飛ばす。

 

「確実に、消す」

 

目の前のそれが覚醒する前に……術が完成し、目の前のソレへと突き進む。当たれば確実に消滅させることが出来る。この槍はそういう武器だし、これだけ力があれば可能――

 

「……オソイ」

 

だが、それは当たらない。見覚えのある青い光に阻まれ、俺の槍は届かない。青い光は収まることなく、その光は徐々に形のなかったそれに意味と形を与えていく。かつて、ある事件を引き起こすことになった原因にして、多くの魔に力を与え、あらゆる状況を覆す存在。その名は――

 

「ジュエルシード……どうして、ここにっ!!」

「アト、スコシ……ダッタナ」

「くそっ……まだ、だ!!」

 

攻撃をやめて、結界を強める。今の俺では倒せなくとも、時間を稼げば爺さんと合流できる。爺さんと合流すればこの状況は打破できる。打てる手はまだある。結界もまだ強固にできる。俺は、あの時と違い戦える。

 

「無駄だ。お前は、間に合わなかった」

 

はっきりとした声でそいつは告げた。そして、張っていた結界は強化したにもかかわらず、一瞬で消え去った。力の差は俺の想定をはるかに超えていた。結界で押さえていたのにもかかわらず、力技で突破されてしまった。そして、結界がなくなった以上、勝ち目はない。そんなことは、目の前の魔も理解している。

 

「さて、本来ならお前を消しておくのがいいのだが」

「……」

「時間を稼がれてはかなわん。あれとはさすがに戦いたくない。無駄に力を消費するのも得策ではないからな。ここは素直に撤退させてもらうよ」

 

音もなく、そいつは消える。そのすぐ後に、爺さんがたどり着く。

 

「逃げられたか」

「ああ、俺の結界では止められなかった」

「そうか……厳しいの」

「…………」

「対策は後じゃ。とりあえず、戻るぞ」

「ああ」

「……それと、理解していると思うが、これから忙しくなる。あの事件の再来じゃ。覚悟しておくのじゃぞ」

 

爺さんの言葉にうなずき、この場を後にした。向かう先は爺さんの家。今回消費した道具の補充と体力の回復を早急にしなければならない。

 

「今度こそ――――必ず」

 

あの時とは違う――震える手を握りしめ、俺は自分にそう強く言い聞かせた。

 

 

 

***

 

 

 

某所にて……彼が戦い続ける間も二人は話し合っている。これからの計画について。

 

「正気なの?」

「ああ、正気だ」

「あの子が、勝てると思うの?」

「勝ち負けはどうでもいい。大事なのはそれをあの二人が解決するということ」

 

女性は目の前の男を見つめる。その言葉の真偽を確かめるように。その言葉の裏に何を隠しているのかを見極めるために。

 

そして――――

 

「どうして……なのか、聞いても?」

「願掛け……でもある。そして、彼女がもっとも自由だ。彼女はもっとも運命に縛られていない。だからこそ、その可能性に賭ける」

「……私たちの運命を、それを名にもつあの子に託すというの?」

「ああ、そうだ。彼女なら……そう、俺は信じてる」

 

女性は窓から外を見た。その窓の先にはある一部屋の景色が映し出されている。過酷な訓練に耐え、縋るしかない偽りの希望にすがる少女の姿が。女性はその少女を憐れむ。何も知らぬ少女を。

 

「馬鹿だよ……本当に、何にも知らないんだから」

「……教えないお前が言えることじゃあないな」

「そうだよね」

 

二人の視線の先にいる少女……雷を繰り、ひたすら戦い続ける少女。その少女に更なる試練を二人は与える。

 

「ユーノを地球へと送る。その数日後に、あの子に接触して頂戴。そして」

「ああ、わかってるよ」

「……」

 

男は静かに退出する。おのれの仕事を確実にこなすために。残された女性は先ほどと変わらず、何も知らない少女を憐れむように窓から見下ろす。

 

「私の望みのために犠牲にするかもしれない。けれど、お願いね……フェイト。私の大切な――」

 

こぼれた言葉は誰にも届かない。

 

 

 

 




次回予告「魔法使いとの出会い」

数日後……

「助けて……」

一人の少年の声が、優しい少女に届く。

少女が不思議な少年に出会うとき物語は始まる。

***


次回の更新も頑張ります。 by作者
誤字脱字あればお願いします……自分で見つけるのが一番ですけど
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