ルイズが勇者兼王子(DQ5)を召喚しました   作:hobby32

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3話:ギーシュとの決闘

結局、ルイズが破壊した教室の後片付けを終えたのは、昼休み直前であった。

 

ほとんどの作業をこなしたのは、レックスである。窓ガラスを新しいのに交換したり、大きな机を運んだり、雑巾で教室中のススを落としたのもレックスである。ルイズは、机を拭いたくらいである。

 

しかし、こんなのは本来なら朝飯前なレックスであったが、あいにくと朝飯を食ってなくて、そろそろ限界であった。最後の食事は、召喚前の昼食が最後であった。食わないと死ぬのは、勇者とて同じである。

 

そうして満を持してルイズと食堂に向かったのであるが、出された食事は、ちょびっと具材の浮いているスープと、硬そうな二切れである。しかも床の上で食べるのである。

 

これには、レックスも涙目でルイズに頼み込んだ。

「ルイズ~、いくらなんでも、食べ盛りには辛いよ~」

すると、ルイズは、少し迷ったすえに、鶏肉を切り分けて与えた。さきほどの励ましの恩返しのつもりである。

 

しかし、レックスは、

「これだけ?」

と不満を露わにする。

「使い魔なのに、肉を食べられるだけで満足しなさい」

うー、と切なげに鳴くレックスは、旅の最中の貧相な食事を思い出して、何とか堪えることにした。もっとも、旅の最中に、こんな美味しそうな匂いは漂っていなかったが。

 

そんな様子を遠くから、メイドのシエスタが見つめていた。

 

そうして、ルイズが、次の授業に必要なものを取りに行くからと、席を立った隙に、シエスタは、切なげに食堂の床に座るレックスに近づく。

 

「あの、」

シエスタが少し緊張しながら、レックスに声をかけると、

「ああ、シエスタか。なに、どうしたの?」

レックスは、無邪気な笑顔を向けた。そんな笑顔を見ていると、心が落ち着くシエスタは、自然と緊張がほぐれ、笑顔でレックスに言う。

「お腹、空いてるんですよね?」

レックスは、勢いよく、何度も首を縦に振った。

 

 

「ああ、美味しい、美味しいよ、このシチュー」

レックスは、生き返った心地でスプーンでシチューを口の中に夢中でかき込んでいた。

「お口に合ってよかったです」

シエスタは、とても嬉しそうにレックスの食べている姿を見つめる。

 

「まったく、お腹と背中がくっつきそうだったよ」

レックスが、そう言うと、

「お腹が空いたら、いつでも厨房に来て下さいね」

と、とてつもなく優しい言葉をかけてくれた。レックスは王族であるが、相当マズくなければ、味にこだわりはないし、召使いたちに優しい性格である。なので、シエスタに対して、感謝の言葉を惜しまなかった。

「ありがとう、ありがとう! じゃあ、ルイズが戻ってくるから、もう行くね」

待たせたら、夜も抜きと言われるのが怖い勇者であった。

 

だが、ルイズはまだ戻っていなかった。そして、今はデザートの時間のようで、シエスタたちメイドが貴族たち一人一人にケーキを振る舞っていた。

 

レックスは、そんな光景を見ながら、ルイズのいた席の近くで立って彼女を待っていると、シエスタが、一人の貴族に声をかけていた。

「もし、貴族様。瓶を落とされましたよ」

だが、その貴族ーー金髪で、バラをポケットのシャツに差している男は振り向かない。

 

シエスタがどうしようか、と困っていると、別の貴族がその小さな瓶を奪った。

「おい、この香水は、モンモランシーのものじゃないか、ギーシュ」

「ということは、ギーシュ、お前いま、モンモランシーと付き合っているんだな」

 

すると、ここから、ギーシュという貴族の修羅場が始まった。

まず、1年生のケティがギーシュに近づいてきて、言い訳しようとしたギーシュに平手打ちを一発くれてやった。

 

次にモンモランシーという少女が近づいてきて、同じく言い訳しようとしたギーシュの金髪の頭に、近くにあったワインの瓶をドバドバと注いでやった。

 

ギーシュが、ハンカチで頭を拭いている時に、青ざめた顔で距離を取ろうとするシエスタは、

「待ちたまえ」

とギーシュから呼び止められた。シエスタは、遠目から見てもガタガタと震えながら、ギーシュに振り返った。

 

「君が軽率に、この瓶を拾ったせいで二人のレディの名誉が毀損された。どうしてくれるのかね?」

「も、申し訳ございません、申し訳ございません!」

シエスタは、しきりに何度も頭を下げる。

ギーシュは、傲然と言い放つ。

「いいかい、君。謝るのは僕に対してじゃない。君が傷つけたレディに対してだ。彼女たちに、誠心誠意、謝りたまえ」

 

シエスタが、はい、そうしますと、泣きながら、言おうとした時、一人の金髪の少年が割って入ってきた。

「やれやれ、二人の女の子を泣かせて、さらにもう一人泣かせているの? 罪作りな男だね。同じ金髪として恥ずかしいよ」

レックスは、青く鋭い目をギーシュに向ける。その射抜くような、並の人では出せぬ恐ろしい眼差しに、ギーシュはたじろいだ。

 

しかし、何とか体裁を整える。

「何だね、君は? 部外者を引っ込みたまえ」

「君がこれ以上、ネチネチとシエスタをいじめるのをやめるなら、そうするけどさ」

「そうはいかん。そのメイドには、落とし前をつけてもらわなくては、僕のメンツが……」

「二人の女の子に同時に手を出してフラれて、さらに公衆の面前でもう一人の女の子を泣かせている君に、今さら守るメンツがあるの?」

 

レックスの言い回しに、そうだそうだ、その平民の言うとおりだ、と周囲の貴族からも、賛同と嘲笑の声が上がる。

 

ギーシュの頬が赤くなっていく。もはや、この平民を痛めつけてやらなければ、腹の虫がおさまらなかった。

「どうやら、君は、貴族に対する礼儀を知らないようだね」

「貴族じゃないからねぇ」

王族だからねぇ、とレックスは心の中だけで笑う。

「なら、貴族への礼儀というものを教えてやる。諸君、決闘だ!」

ギーシュのかけ声に周囲が盛り上がる。

 

レックスは、やれやれ、この世界では誰も知らないけど、命がけの実戦から数年のブランクがあるとはいえ、『伝説の勇者』に喧嘩を売るのか。元の世界だったら、あり得ないことだな、と楽しそうに笑う。

「いいよ、受けて立つ」

「よかろう。では、ヴェストリの広場まで来たまえ」

ギーシュは、友人たちと去って行く。

 

レックスは、後ろでまだ震えているシエスタを見て言う。

「どうしたの? もう大丈夫だよ」

「でも、だって、レックスさんが殺される……」

レックスは、朗らかな笑顔で言う。

「大丈夫、大丈夫。負けたことはないから」

しかし、シエスタは、レックスの言葉を信じ切れないようで、急いで走り去ってしまった。

 

それから、今度はルイズから声をかけられる。

「あんた、何してんのよ! 全部見てたわよ!」

「決闘を申し込まれたから引き受けただけだよ」

「あんた……勝てる自信あるの?」

「もちろん」

レックスは、即答で言い切った。何だか自分を不安そうに見つめているルイズに、安心させるような笑顔を向ける始末。

そんな笑顔を見せられて、ルイズもしばらく、言葉が出なくなる。

 

本当に事の重大さをわかっているのだろうか? しかし、昨日は驚くほどの体術を、今日は強力な治癒術を自分に見せてきた。

いや、そんなことより、この自信みなぎる表情が、絶対に大丈夫だという安心感をルイズに与えていた。負ける方があり得ない、というものである。

 

レックスは、笑顔のまま言う。

「だから、ヴェストリの広場まで案内してくれるかな?」

「もう! 勝手なことばっかりするんだから!」

ルイズの先導に、レックスは笑顔でついてゆく。

 

日当たりの悪い広場がヴェストリの広場であった。そして、既にうわさを聞いた学生たちでいっぱいであった。

 

ギーシュは、薔薇の造花を掲げると、わー! という歓声が上がる。

ギーシュは、腕を振って歓声に応えていた。一方、レックスは、微笑みを崩さず、ギーシュを見つめていた。まるで、あどけない幼子を見つめるかのようであった。

 

ギーシュは、ニヤニヤ笑いながら言った。

「逃げずに来たことは、誉めてやろう」

「戦いの場から逃げるわけにはいかないからねぇ」

事務作業からは、知恵を絞ってでも逃げるけど。

 

ギーシュが宣告する。

「では、開始する」

レックスは、さて、どう出るかな、と笑みを消して、ギーシュをじっと見つめる。

 

すると、ギーシュは、薔薇の花を振って、花びらが一枚、宙を舞い、甲冑をまとった女戦士の人形となった。体長は成人男性と同じ程度。青銅製のゴーレム。

 

それを見たレックスの感想は、

「小っちゃいねぇ」

というものであった。

何しろこっちは、人をゆうゆう踏み潰せる石造りのゴーレムと何体も戦ってきて、父さんが仲間にした一体としょっちゅう押し相撲をしているんだから。レックスとしては、この程度かぁ、と嘆息せずにはいられない。

 

ギーシュは、「なっ!」と声を上げ、顔を赤くして、叫ぶ。

「言ったな、平民! ならば、このワルキューレの拳をその身で受けてみよ!」

 

ゴーレムが、レックスに突進してくる。そこそこ素早いが、何の工夫もなく走るものだから、レックスはひょいと簡単に横に避けられた。

 

一応拳の届かない範囲まで後退してみたが、腕を振り回してくる気配もない。

 

ゴーレムは、再びレックスに向かって突進してくる。レックスは、また横に避けてからゴーレムの背後に回りこんだ。

 

「えいっ」

そして、ゴーレムの背中を勢いよく両手で押した。すると、ゴーレムは、バタンとうつぶせに倒れた。

 

ギーシュは、歯がみするも、ゴーレムはすぐさま立ち上がった。しかし、今度はすぐさまレックスによってゴーレムは腰の辺りを掴まれてしまい、高々と持ち上げられた。

 

「なっ!?」

ギーシュと観客たちは、驚愕する。一般人の身長ほどもあり、かなり重量のある青銅製のゴーレムが、軽々と持ち上げられて、ジタバタと手足を動かしているのだから。いくらレックスが肉付きの良い体つきをしているとはいっても、こんな力は尋常ではなかった。観客のどよめきは収まらない。

 

「それっ」

それからレックスは、ギーシュのすぐ横にむけて、ゴーレムをやり投げのように放り投げる。下が草原なので、まだ壊れてはいないが、そういう問題ではない。

 

レックスは、飛ばそうと思えばもっと飛ばせたし、ギーシュに当てようと思えばいくらでも当てられた。

その意味を感じ取って、ギーシュは、肝が冷えた。

『まだやるの? 君に当てようと思えばいくらでも当てられるけど?』

目の前の金髪の少年の笑顔から、そんな言葉が読めたギーシュであった。

 

しかし、所詮一体を投げたに過ぎない。ギーシュとしては、怪力を見せつけられても、怖くても、まだ余裕があった。

「な、なかなかやるではないか、平民よ! しかし、今度はどうだ!」

 

ギーシュは、再び薔薇を振った。花びらが舞って、さらに六体のゴーレムが現れる。

 

「ふ~ん」

レックスは、ようやく楽しそうな笑みを浮かべた。起き上がった一体も含めて、計七体が一斉に、レックス目がけて、半円状に取り囲むように走り出す。

 

すると、レックスは急にギーシュ目がけて走り出した。これまた突風のように速い。

レックスは、一体のゴーレムを軽々と跳躍して飛び越えた。

 

「なっ!? 戻れ、ワルキューレたち!」

ギーシュは、どんどん近づいてくるレックスを見て、慌てて命令したが、もう遅い。

レックスはあっという間に距離を詰めて、ギーシュの胸ぐらをつかみ、そのかかとを刈って、仰向けに転倒させた。

 

「ぐあっ!」

ギーシュは、一瞬宙に浮かんで、背中から地面に叩きつけられる。それから、レックスは、武器と思しき薔薇の造花を遠くまで蹴り飛ばした。

 

そして、素早く振り返り、ゴーレムたちの動きを見つめるが、ピタッと固まってしまっていた。指揮官がやられたら動けないようである。

 

レックスは、動けなくなったゴーレムを投げて、別のゴーレムにドカンとぶつけることを計三回繰り返した。そして、最後7体目のゴーレムを倒れているギーシュの横に放り投げて、主従ともども並んで大の字に寝かせる構図をつくり出した。

 

「まだ続けるの?」

どっちでもいいと言わんばかりに、レックスは、自らの影をギーシュに重ねて訊ねた。

「こ、降参する」

ギーシュは、カチカチと歯を鳴らしながら喘ぐように言った。

 

「ギーシュが負けたぞ!」

「ルイズの平民の方が勝ったぞ!」

大きなどよめきの声があちこちで起こった。全くもって、文句のつけようのない完勝であった。

 

 

ルイズは、あ然としていた。

昨日は剣が大好きと言い、今日は魔法が強力だったのに、今は剣も魔法も使わず、腕力だけで圧勝した。それでいて、特に疲れた様子も見せない。

 

 

レックスは、頭の後ろで両手を組んで、ルイズの元まで戻る。

「それで、次の授業はあるの?」

「え? あ、あるわよ。ついてきなさい!」

あっという間に日常に戻るレックスの切り替えの早さに、何とか応えるルイズであった。

「はいはい」

「はい、は一回!」

「は~い」

ルイズは、どうやってこの使い魔に対して威厳を保てるか考え始めた。

 

すると、

「レックスさん!」

人ごみをかき分けて、メイドの娘が走ってきた。

レックスは、朗らかに笑いかける。

「やあ、シエスタ」

「さっきは、逃げてしまってごめんなさい」

シエスタは、すぐさま頭を下げる。

「いいよ、気にしてない。頭を上げてよ」

「その、とっても格好よかったです!」

「うん、ありがとう。ああ、そうだ、シエスタ」

「はい!」

「あとで、あのケーキ食べられないかな? 僕、お腹すいちゃって」

 

すると、今度はルイズが横やりを入れる。

「ダ~メ! あんたは、わたしの使い魔なんだから、わたしが許可したもの以外、食べちゃダメ!」

ええ、そんなぁ、とレックスは、切なげに言う。

 

ルイズは、コイツの食いしん坊なところを何とか使って、威厳を保とうと思った。

 

 

 

 

 

 

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