宵闇IS草紙   作:湯豆腐殿下

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ここまでがプロローグなんで連投してみます~。


日本?にて

-5年後日本-

 

 

 

「ぬぉおおおあああっ!!」

 

 

 とある古びた畳張りの和室で、一人の男が布団を跳ね上げ飛び起きる。

 

 男は目を見開いた真剣な顔で

 

 右を見て

 

 左を見て

 

 自分の体をペタペタ触って無事を確認すると、今まで飲み込んでいた息を大きく吐き出した。

 

 「……っぶはぁ~っ! ったく嫌な夢を見ちまったなぁオイ!」

 

 再び布団へうつ伏せにダイブすると、男は今見た夢を思い出し改めて大きな溜息をついた。

 

「ブリュンヒルデ(世界最強)の突進(チャージ)をモロに喰らうとか、そりゃトラウマにもなるわな。 ……にしてもあれから5年も経ってん のに、なんで今更あんな夢を見るかねオレは」

 

 そう言いつつ男は壁掛けの時計に目をやると

 

「っったく、まだ早いじゃねえか。 さぁてヤな夢は無かったことにして寝なおすべ」

 

 再度夢の世界へと全力でダイブするのであった。

 

 

 

------------------------

 

 

 

「おぉ~い竜の字、ちょっと起きとくれ~」

 

 

 声量があるでもないのに良く通る声に名を呼ばれ、枕元の目覚まし時計を見れば午前9時。 深夜2時に仕事を終えて帰宅した彼とすれば、休日の今日くらい後1~2時間は睡眠に費やしたい所であるのだが

 

「竜の字~、竜兵~!起きとくれってば~、チョロ松達を向かわせるよ~?」

 

 声の主は彼を寝かしておくつもりはないようだ。 このまま寝てれば本当に丁稚の六ツ子達に布団ごと移動させられる自分が容易に想像出来てしまう。

 しかもなぜか見事に簀巻きの状態でだ。 そうなってしまえば例え無理難題を吹っ掛けられても拒否権は発生しないだろう事が容易に想像出来た彼は、ならば自発的に『彼女』の元へ行ったほうが精神衛生的にも良いだろうと判断し、布団から起き上がり怒鳴り声を上げる。

 

「あぁっうるせぇ!今行くから待ってろ!!」

 

 普段の彼にしてみれば少々乱暴な物言いだが、彼女ならば気にも留めないだろうと自己完結しつつ右目に眼帯を巻き付け、背中まで伸びる後ろ髪を軽く3つ編みに結わえ、寝巻きの裾と帯を整えながら、まだ惰眠を貪ろうとする頭の中をゲンコツで切り替え居間へと向かう。

 

 

 

「お早っさんっつーか美津里さんよ、俺仕事で徹夜明けなんだけどもう少し寝かしてくれねぇかな?」

 

 ガラっと乱暴に襖を開け、朝の挨拶・兼抗議の声を居間の中央にあるちゃぶ台でキセルを咥えて一服入れている女性へと投げ掛ける。

 

当然不機嫌そうなジト目もセットである。

 

「おはよう竜兵、今日もいい天気だねぇ」

 

 そんな彼を気にもせず陽気な声で返事を返すのは、腰までまっすぐに伸ばした艶やかな烏の濡れ羽よりも尚黒い黒髪。 一直線に切りそろえた前髪の下の丸眼鏡の奥には、見るを者を引き付けて止まない妖しい魅力を湛えた濃紫の瞳。

 浅葱色の小袖を粋に着こなして緑茶をすする、パッと見少女にも妙齢にも見える年齢不詳の美女であり、彼の保護者にして雇い主・居候先であるこの店、『骨董・眩桃館』の主「麻倉 美津里」その人である。

 

 

 ちなみに青年の名は現在この眩桃館で美津里とともに住んでいる「長谷川 竜兵」25歳。 場合によってはエドワード・ロング、飛・烏龍 (フェィ・ウーロン)などとその場の思いつきで偽名を名乗る、眩燈館唯一人の従業員であり雑用兼荒事要員である。

 

 居候の肩身は狭く、今朝も今朝とて保護者との円滑なコミュニケーションを図るべく、こうして呼び出しに応じているわけだが……。

 

「竜兵や、お前さん学生になってみんかね?」

 

「……はぁ?」

 

 

 湯飲みを両の手で弄びつつトンでもない事を言ってきた美津里の言葉に、竜兵は思わず間の抜けた声を上げてしまう。 いや、世間一般からしてみれば幼少の頃から進学せず、得体の知れない骨董品店で朝に夕にと働く彼は確かに珍しいケースと言えるだろう。

 

 しかしコレが10年ほど昔の話だったなら、仮にも保護者を名乗っている彼女とすれば進学の一つも勧めてみようと思う親心が働いたと採れるだろう……が、流石に幾らなんでも25(この歳)になってから、何を寝ぼけてやがる? と思うのは当然の帰結と言えよう。

 

 そもそも父親が蒸発した彼を引きとったその日から、彼は彼女より大学卒業レベルまでの学問を叩き込まれた上に、医学薬学に始まり挙句の果てには何やら怪しい『専門知識』の手ほどきまで受けているわけで、それが今更学生などと、怪しい事この上ない。

 

 いや、どう考えても厄介事に違いないと竜兵が勘繰ったのは誰に責められる事でもない筈だ。

 

 

 ともかく、それ相応の知識・教養を身につけてる彼に今更学生をしろというからには、おそらく『仕事』……それも彼女の趣味の側面が強いそれに違いない。

 

(う~む、趣味だと退かないからなぁこの女性(ひと)。 簀巻きで連れてこられようが自分で歩いてこようが、元から選択肢は無かったって訳かぁ。 くそぅ、もうちょっと寝ておきゃ良かった)

 

 などと益体も無い事を考えながら美津里の淹れた日本茶(出涸らし)を飲みつつ思考を纏めた竜兵は無駄な抵抗をあきらめ、ため息を吐きつつ美津里に承諾の意を伝えた。

 

「ああっ、気は乗らねぇが仕事なら仕方ねえ。 んで俺ぁ何処の大学に潜り込みゃ良いんだよ?」

 

 結局何だかんだ言っても彼女の依頼を断れない自分の甘さにイライラしつつ、ちゃぶ台をはさんで彼女に向かい座って尋ねた竜兵に、美津里は切れ長の目を細め、それはそれはうれしそうに笑いかけた。

 

「いやいや、大学じゃないってば」

 

「はぁ?」

 

「高校、英語で言うならHigh Schoolだぁね」

 

「おいババァ、とうとう脳軟化でボケが始まっっはぁっ!!!」

 

 そこまで言いかけた竜兵は、突如ちゃぶ台の影から現れた成人男性の胴回りほどある灰白色の巨大な腕に殴り飛ばされて宙を舞う。

 

「おやおや、こんなうら若き乙女に対してババァ呼ばわりなんて。 躾が成ってないね、親父の顔が見てみたいモンだよ」

 

「ぐっっ、育ての親は間違いなくテメェじゃねえか!」

 

「……数世紀生きると物忘れが激しくてねぇ」

 

「都合の良い所だけ年寄り面すんじゃねぇ、この妖怪が!!」

 

「あらやだね、そこは魔女って呼んでおくれよ」

 

 プンスカと音が聞こえてきそうな分かりやすい怒り方をして頬を膨らませる美津里に対して、殴り飛ばされた時に後ろの柱で勢い良くぶつけたのか、頭から血を流して抗議する竜兵。 殴られた際に舌を噛んだのか口を押さえる指の隙間から血がダクダクと流れ落ちる辺り、彼女に対して年齢の(一線を越えた)突っ込みは、彼をしても命懸けであるようだ。

 

「ともかく高校生なんぞこのナリで出来るわけねぇだろ! 引くわっ、って言うか怖いわ!」

 

「まぁ、確かにお前さんがそのまま学ラン羽織った姿はコスプレじゃすまないねぇ」

 

「だろ?」

 

「私が警官なら、先ず撃ち殺してから現状を把握したくなるくらい嫌な絵面が浮かんだよ」

 

「自分で振っておいてソコまで言う!?」

 

「とまぁ冗談はさておき、高校へ学生として入れってのは本気なんだよ」

 

「だから……、ぐっ!」

 

 

 2m近い20代半ばの男が高校生をやることの不条理さをさらに説こうとする竜兵は、不意の眩暈を覚え畳の床に手を突く。

 

「おやおや、竜兵どうしたんだね?」

 

「ぐっくくくっ、美津里っ、手前ぇ一体何盛りやがった!?」

 

「いや、さっき淹れた茶にちょっと……っと、どうやら効果が出てきたようだね?」

 

 貧血にも似た脱力感に全身を苛まれる竜兵を見る美津里の口が、ニィィッと釣りあがり笑みの形を作り出す一方、竜兵の体に変化が現れ始める。

 

 ぐき、めき、メメタァァァッ!

 

 おおよそ人の体から鳴ったら危険信号をブッチギリ突破という、なにやら生々しい音を響かせつつ彼の体が徐々に縮み始める。

 

「うおおっ、痛ぇっ! これおまっ、ちょっ! 死ぬ死ぬ死ぬっ、洒落にならんぞこれはっ!」

 

「いや~、久しぶりに作ったから人体実験もしてないんだけど上手く効いてる様だね、その『若返り薬』」

 

「いぎぎぎっ、骨がっ、肉がっ、内臓が!!」

 

「んふふふふ、一気に10年若返るんだから多少痛いのは我慢しときなよ♪ コレで薄らデカイお前さんも待望の『ショタ化』で……

 って、あれ?」

 

 何やら聞き捨てならない単語をニヤニヤと口走りつつ竜兵の変化を見守る美津里の眉間に皺が寄る。

 

「ショタなら小学生だろうがっってぐぐぐっ、……っふー~~~っ!」

 

「……あれ? 何か縮小率が中途半端な気がするんだけどねぇ?」

 

 薬の効果時間が終了したのだろう、今のちゃぶ台の前には肩で苦しげに息をする竜兵と、首をかしげて頭上に?マークを浮かべる美津里の姿。

 

 果たして結果通りに若返りと言う、未だ人類の医学力では到達し得ない神秘は成った。

 

 ……しかし

 

「何か縮み方……少なくないかい?」

 

「……っざっけんなよ? 手前ぇ10年前の俺の身長知ってるだろうが!!」

 

 美津里の目の前で苦しげに息をする竜兵の姿は確かに若返っている、具体的に言うなら幾分肌がツヤツヤに、198cmあった身長は189cmに、鍛え上げられた筋肉は微妙にスリムになったか……な? 程度に効果があった。

 

「おい、仮にも息子に得体の知れない薬を飲ませたんだ。 仕事の話の前に何か言うこと無いのかよ!」

 

 美津里の目の前で不満たらたらの表情を浮かべ、抗議の声を上げる竜兵。

 

「そうだったね、……竜兵」

 

「んだよ」

 

「お前さん……、15の頃からそんなに薄らデカかったんだね」

 

「先ず第一声がソレ!?」

 

思わず突っ込む竜兵を余所に、美津里は彼に縦横5cmくらいのジュエリーケースと思しき箱をちゃぶ台の上にコトリと置いた。 

 

「これは?」

 

「ん~、私からの入学祝いかな?ちょっと付けてみておくれよ」

 

 付けてみろということは箱の大きさからしてピアスかリングの類、彼女からのプレゼントと言う単語に過去の経験から一抹の不安を憶えつつも蓋を開ける。

 

 箱の中には薄い赤味の掛かった羽を模した金属のスタッドピアス。

 

 うほっ、いいピアス! ピアスのほうも心なし「つ・け・な・い・か?」と彼にささやいているような気がしないでもない。 

 

「付けてみて良いかな?」

 

「んふふふ、良いよ良いよ、私の手製さ。 遠慮せずに付けとくれ♪」

 

 彼は後にこう語った。

 

「後から思えば『彼女の手製』って所で一旦考えてみればよかったんだ」と。

 

 取り敢えず手に取ろうと竜兵の指が触れたその瞬間、体に電流が走ったかのような衝撃と共に、彼の頭の中に流れ込む莫大な知識の奔流。 

 

 数秒後にピアスから指を離した竜兵はは、荒い息と共にイヤな予感をヒシヒシと感じながら美津里に訊ねた。

 

「美津里姐さんや? まさか、とは思うけど、俺の入学先ってのは……」

 

「んふ♪ ご名答『IS学園』だねぇ」

 

 有り金全て詰まった財布を落とすよりもショックを受けた彼の目の前のTVには10時のワイドショー番組。 ニュースキャスターが若干焦り気味に今日のトップニュースを読み上げていた。

 

「緊急速報です! 先日に続き二人目の男子IS適合者が政府によって発表されました!」

 

 この日不思議の世界の住人が、IS学園と言うもう一つの不思議の世界に紛れ込む事になった。

 

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