―第4アリーナ―
試験会場に到着した俺はアリーナ上空の空を眺めている。 本日は晴天なり、ただ所によっては墜落したISが降るでしょうなどと益体も無いことを考えながらボケーっと指示が出るのを待っている。
むぅ、まだ待たされるのかね、煙草吸ったら拙いわなぁ……でも吸うか。 一瞬の逡巡の後胸ポケットに手を伸ばしたその時
「長谷川君、お待たせしました。 それではISのデータ取りをしますのでISを展開してください」
管制室から山田先生のアナウンスが場内に響いた。
さて、本来であれば世に出ているさまざまなISのデータと言うものはアラスカ条約の規定によりデータの開示が義務付けられているので、各機体のスペックは表向きの情報程度であればどの専門機関にも知れ渡っているのでわざわざデータを取り直す必要は無い。
もちろん専用機などという特別なISであっても各国家、各企業によってデータを収集され、事前にIS学園へ送られているのが通例である。
しかし俺の場合、ふざけた事に所属企業が「骨董品店」であり、製作者が「骨董品店の店長」である。 完全に機体性能はベールに包まれたまま、って言うか俺もまだ一度たりともISを展開なんざして無ぇけどさ。
そう言えば俺の事が公になった後、『イロイロな』ヤツラが家に押しかけて来たみたいだ。 しかし自慢じゃ無いが我が家は魔女の棲家であるからして、面倒な奴等は何をどうやっても辿り着けない様になっている。 害意悪意を持ってる奴等は……、まぁ何だ、ご愁傷様デス、骨くらいは残ってりゃ良いけどな。
ちなみにIS学園(ここ)には公共機関を乗り継いで来たわけだが、当然の事ながら道中四方八方からその筋の方々の素敵な視線を貰って辟易したもんだ。
まぁそりゃISの解析をするよりも、人間の解剖とDNAの解析の方が楽に決まってるからな、あわよくばチャッチャと攫ってバラしたい気持ちも分かるんだが、もう少し気配の消し方の上手い奴を監視に付けろよ。
もちろん気付かないフリしてスルーしたけど、中には『情熱的』なアプローチを掛けてきてくれた奴等もいたわけで、そう言う人々にはこちらも『熱烈な』歓迎をさせて貰うことになったけどな。
……本当この国ってスパイ天国だわ、良いのか公安!?
そんなこんなでIS学園としても正式に俺の機体のデータが欲しいと言ったところだろうか、入学前の事前試験となったわけである。
「おいエド……長谷川、聞いているのか。 さっさと展開しろ」
お、物思いに耽りすぎたか。 んじゃ一丁展開してみますかね、何だかんだ言って俺も男の子、ISに興味が無いって訳じゃ無ぇんだよ、むしろ興味津々だしな。
左耳のピアスに意識を集中して自身のISを装着。イメージは鞘から抜き放たれる日本刀。
「……来い、烏天狗(カラステング)!!」
―管制室―
こんにちは、山田真耶です。
本日は世界で二人目の男性IS適応者、長谷川竜兵君のデータ収集の日なんですけど、朝から織斑先生がピリピリしてて少し怖いです。
おまけにさっきは「来たか」ってつぶやいたかと思ったら、整備中の訓練機のブレードを担いで学園の外に走り出して行っちゃうし。
あわてて追いかけて行ってみれば織斑先生がうちの制服を着た男の子の首筋にブレードを突きつけて、……って、キャー!何やってるんですか織斑先生!
無事に事なきを得た男の子、彼が長谷川君なんですね。 裾を長く伸ばしてコートタイプに改造したIS学園の制服を羽織った身長は190cm前後、うわっ、足長い! モデルみたいな後姿です!
後ろ髪を三つ編みにしてるけど、あの髪の毛真っ黒でサラサラで、ううっ、仲良くなったら髪の
毛の手入れ教えてもらいたいなぁ……。
……それにしても身長のせいか一見細身に見えるけど、肩とか背中周りとかすごい筋肉! 体力有りそうだし、この学校での訓練についてこれないって事はなさそうですね。 あの身長でISを纏ったら絵になりそうですねぇ。
あ、織斑先生がブレードをどかしました。 ん? 二人は知り合いなんでしょうか、長谷川君も織斑先生もズイブンとフランクに会話してますね。 織斑先生、口調はズイブンと不機嫌そうですけど、……何かうれしそう?
どういった関係なんでしょうか?
首筋をさすりながらこっちを向いた長谷川君、……三白眼ぎみの目つきがちょっと怖そうだけど整った顔してますね格好イイかもしれません。 左目の下の泣き黒子がセクシーです……コホン。
右耳に2連、左耳に3連のピアス、一番下の羽の形をしたピアスが彼の専用機なんだそうですけど、もしかしてちょっと不良さんなのかな? ダメダメ! 印象だけで判断しちゃだめだよ私。
きっといい子!……のはず!!
「それに入学してしまえば『国際的犯罪者』だろうと3年間は手出しできなくなってしまう。 ならばこの場で首を刎ねてしまったほうが世のため人のためと思って……なぁ?」
……いい子だと良いなぁ、『国際的犯罪者』ってなんですかぁ? クスン。
でも、彼の容姿で一番印象的なのは右目に掛かるくらい長く垂らした前髪の下にある黒い革製と思しき眼帯です。 彼の資料の身体特徴の項に書いてあった右目に障害有りと言うのがアレなんですね。 ISはハイパーセンサーによって死角と言う物が発生しませんけど、先生が見てますからね、長谷川君頑張りましょう!
と、朝からの出来事を回想してると
「おいエド……長谷川、聞いているのか。 さっさと展開しろ」
織斑先生が長谷川君にISの展開を促しました。 いけないいけない、私もIS学園の教師です、しっかりお仕事がんばらなくちゃ。
長谷川君はこっちにチラッと視線を送ると、足を肩幅に開いた姿勢のまま目を閉じてつぶやきました。
「……来い、烏天狗(カラステング)!!」
―管制室・モニター前―
エドワード・ロング、いやココでは長谷川だったな。 光の粒子が収束し長谷川のISが展開を完了する。
展開速度もまずまず……フン、生意気な。
…それにしても、
「わ……ぁ」
「ほう、ソレがお前のISか。 らしいな」
二の腕の外側を覆うように展開された腕部装甲は肘から先で細く絞られ、その上を漆黒の手甲が覆う、手甲の先は鋭くとがった爪の様な指装甲。 同様に脚半で覆われた括袴(くくりばかま)のような脚部装甲、足袋のような足先にはご丁寧に一本歯の鉄下駄。
本来IS用スーツになるはずの本体部分はなぜか黒の鈴懸(すずかけ)を羽織った着物になっている。 赤と白の組み紐で出来た帯を巻いたソレは……、 それはどう見ても洒落と冗談と趣味100%で構築されたIS。
なんと言うか、訓練機ISの「打鉄」に負けず劣らずの和風IS。 ありていに言えばその外見は山伏を模した妖怪、世間一般で言うところの「天狗」だった。
数年前、とある事件で知り合ったヤツはあろうことかISも使わずに単独で空を駆け、どこからとも無く取り出す日本刀と、方術と呼ばれる特殊技能を使い素手でISを制圧していた。
その姿をどこかで見た気がしていたが、あのISを見てストンと腑に落ちる、ああ、あの姿の通り、正に『天狗』だ。 あのときの貴様を実に良く現した出で立ちだよ。
モニターにISの初期情報が表示されていく。
コードネーム: 「烏天狗(カラステング)」
コアNO: 213
所属: 「骨董・眩燈館」
製作者: 「眩燈館店主・麻倉美津里」
操縦者: 「長谷川竜兵」
状態=初期状態: 要フィッティング・パーソナライズ
総エネルギー: 200
(内訳)
稼動エネルギー: 160
シールドエネルギー: 40/40
バス・スロット: 512
イメージ・インターフェイス:停止中
収納武装: 1次移行前につき武装展開アクセスロック中
近接用ブレード×2
信州産・杉丸太×10
???
???
???
?……いや、待て。 待て待てまてマテ!
武器が近接用ブレード2本のみは分かる、私も現役時代は雪片1本だったし相当な容量の拡張領域を見れば後付武装も十分以上に収容出来るだろう。
所属が骨董品店だとか店主がIS製作者と言うのも100歩譲って納得しよう。
サブ武装の中に杉の丸太とかも……、いやココから突っ込むべきなのか?
長谷川、お前その丸太は一体何なんだ!? これは私が突っ込んだら負けとかそう言う類の物なのか!? 間違いなく突っ込んだら負けな気がするのは私だけなのだろうか?
そして何よりも目を引くのがシールドエネルギーが40と言うその表示だ。 隣を見ると山田君がぽかんとした顔で表示された機体情報を見ている。
それはそうだろう、ISの操縦者を守るシールドのエネルギーは第2・第3世代機であれば800前後、IS黎明期の第1世代機であっても500前後はある。 40と言うシールド値は言うなれば障子紙程度の障壁にすらならない。 中口径以上の弾丸やレーザー1発で敗北が確定するだろう。 ……仮にあのエネルギー総量の少なさが構造的欠陥でないとするならばだ、その圧倒的不利を覆すのに一体何があるというのだ?
まぁいいだろう、全ての疑問はこの試験中にある程度判明することだ。
「久しぶりに見せて貰うぞ長谷川竜兵、かつてスクリーミング・クロウと呼ばれたお前の実力を」
―再びアリーナ―
烏天狗を纏った俺は管制室からの指示に従い、歩行・走行・飛行を行う。 初めの歩行の時に軽く躓きかけた意外は自分でも驚くほどスムーズに行動が可能となった。 要はこのISと言う物、力とイメージのバランス取りがキモってこった。 四肢の駆動はパワーアシスト、飛行や姿勢制御をイメージで行うって訳だ。
んで繰り返すうちにAIが搭乗者の動きを記憶し、クセをパワーアシストに反映させる事によって最終的に搭乗者にとって最適の動きが最大値かつ最速で出来るようになるって寸法だ。
軽く手足を動かしてみる。 現在のトレース率70%って所か、多少腕の振りが重かったり逆に引っ張られるし、飛行時の姿勢制御もイメージより30cm前後ズレが見られる。
1次移行も終わってなけりゃ仕方ないと言う気もするけど、オートのフィッティングとパーソナライズってこんなに時間が掛かるもんなのか? かったりぃ、めんどくせぇ、と言っても今更どうなるわけでもなし……はぁ。
飛行の方は『自分で』飛ぶ事を思えば遥かにニブい。まさか本気で飛ぶわけにも行かないし、そこら辺は折り合いをつけるしかないか。 それにしても、さっきからコイツを動かしてて一つ二つ気がついたことがある。
俺の勘が正しければこの機体は相当なじゃじゃ馬って事になるが……、ちょっと試してみるか?
飛行中にハイパーセンサーで管制室の様子をチラ見する。 キーボードを叩きながらモニターを見ている山田先生の隣で千冬がこっちを見てやがる。 ん? 何か言ってるな、唇を読んでみると
「ホンキヲダスノハスコシマテ ソレトオリムラセンセイダ」
なぜに考えが読めるんだよ。
そんなこんなで基本動作のデータ取りが終了。 気になる適正値の方は『B』だった、……別にがっかりなんざしてねえぞ?
これだけ動かせれば『A+』くらいとか浮かれてなんて、……畜生。