「なんだこのISは!?」
「へっ? 織斑先生どうしちゃったんですか?」
管制室でモニターを見ながらキーボードを打ち込み続ける真耶は千冬のつぶやきの意味を判じかね訊ねた。 真耶の問いかけに、千冬は手にしていたクリップボードでデータの羅列が並ぶモニターの一点を隠し彼女に質問をする。
「長谷川がデータ収集を始めて40分が経過したな」
「ええ、そうですね」
「さて、ココで質問だ。 ヤツのISのエネルギー、どのくらい消費したと思う?」
「へ?」
突然の質問に真耶はココまで竜兵が行った行動と機動の精度を思い返し、頭の中で烏天狗のエネルギー消費量をはじき出す。
竜兵の見せた機動はお世辞にも上手とは言えないものであった。 データを見る限りでは本人の熟練度と言うよりも1次移行を果たしていない烏天狗の情報処理が彼の動きに着いて行けない所が大きいといえるのだが、元代表候補生にして国家代表を凌ぐとまで言われた真耶の目からすれば荒削りも良いところである。
要するに無駄が多い分エネルギーの消費も大きいわけで、彼女は千冬の問いに元よりエネルギーの少ない竜兵のISがエネルギー切れであると結論付ける。
「あ、エネルギーチャージの指示を出さなくちゃですね、あれ? 何でまだ……動いているの!?」
「では答えあわせと行こう」
竜兵に向かってエネルギーチャージの支持を出そうとする真耶を手で制し、千冬はモニターを隠して
いたクリップボードをどける。
「え?」
そこには試験開始時よりほんの数パーセントしか減少していない烏天狗の総エネルギー表示。
「そんな……、まさか!」
「私も驚いたがな、どうやらあのISの特性の一つらしいな」
「……エネルギー効率重視型もしくはエネルギー増幅型!? それも桁違いの高効率……ですね」
「ああそうだ、しかもこれはあの機体の特性の一つに過ぎないだろう……、おそらくな」
エネルギーが減らないのか、減っていく先から増えていくのか、おそらく前者であると確信しつつ千冬は普段の彼女が見せることは無い、イタズラが成功した子供のようにニヤリと笑ってつぶやいた。
「いずれにせよ次の模擬戦で分かるだろうな。 クッククク長谷川、模擬戦の相手は少々ハードだぞ?」
「織斑先生……、な、何か笑いが黒いですよぅ、あううぅっ」
―アリーナ―
適正値Bの報告に、非常に非っ常~に複雑な思いを抱いている俺へ、制室から指示が入る。
「長谷川、これから模擬戦だ。 お前には学園の教員と模擬戦を行ってもらう」
「いや、ちょっと待ってくれ。 この機体ってまだ1次移行してないんだぞ? 動きが鈍くって仕方ねぇ
んだから、少し待ってくれよ」
「却下だ、私がやれと言ってるんだ。 答えは「はい」か「YES」のみと知れ」
「……Ja(ヤー)」
いや、どこの独裁者だよ。 まさかこの学園の教師はこんなのばっかじゃねえだろうな!?
あまりと言えばあまりの物言いにドン引きしている俺を無視して千冬は続ける。
「ああ、それと待たせたな。 これより先お前の好きにやっていいぞ」
「むぅ?」
つまり今のセリフを要約すると……、腕が落ちていないか見せてみろって事か、そこまで言われたなら……、少しくらいは良い所を見せてやろうかね?
そんな事を考えつつ、俺は管制室の千冬に了承の意を示す。
「大いに了解だ、んで相手は誰だ? あんたが相手してくれるってかよ?」
「クックック、残念ながら今回は遠慮しておくさ。 実は熱烈な希望があってな、お前の相手はソイツに一任してある」
「ぬぅ?」
……まずい、何か嫌な予感がするっ! ココに来る前にも感じたさっきの違和感、あの千冬が俺と
の戦闘を辞してでも見たい思わせる相手がいるだと? 腕の確認以前に俺が慌てふためく様を千冬が見たかったとしたら? うっわ~ナンだろう、嫌な予感がヒシヒシとしてくるっ。
間違いない、これは模擬戦と言う名の公開処刑に他ならないんじゃないのか!?
そんな内心冷や汗ダラダラな俺の前に1騎のISが姿を現した。 機体は俺の記憶が確かならアメリカ製第2世代IS「ファルコンⅡ」
機体そのものにちょいとした逸話がある、ある意味レアなISではあるがそれ自体は取り立ててどうと言うことは無いんだが、問題はあのISの腰周り。
本来量子変換による武器の呼び出しが主流であるはずのISに、これ見よがしに巻かれた革製の
ガンホルダー。
西部劇のガンマン宜しく左右に2つぶら下げられた2丁のゴッついリボルバーは……。
あ~、やっぱり。 あの拳銃『サンダラー』じゃねえか……、いやな予感的中だ。
「よう2代目、久しぶりじゃないか。 少しの間だけど楽しんでいきな!」
ISからオープンチャンネルを使わず直に声をかけてきたのは、ボリュームのあるブロンドの髪をバレッタで後頭部に纏めたグラマラスな美女。
ああ、よく知ってるわこの女性(ヒト)。 まさかこんな所で教師やってたのかよ!
「なんでアンタがここに居るんだミシェル・マーディガン!」
「いや~千冬の勧めでさ、ちなみに君のの担任になるからヨロシクねぇ」
「なんの冗談(いやがらせ)だ千冬!!」
「担任が私と言う話もあったのだが?」
「……いえ、前言撤回させていただきます」
軽い頭痛を覚えながらも俺は視線をを目の前に浮かぶISに移した。
ファルコンⅡは高速かつ高火力をコンセプトにアメリカが開発した二世代機の先駆けのはずだったが、余りにピーキーな操作性のため機体制御がべらぼうに難しく、火器を展開してからの戦闘で相手にクラッシュする事故が相次ぎ、「この機体の真の武器は体当たりだなHAHAHA!」「バーボンガブ飲みしたあと目隠ししたままロデオした方がまだ安全だZE!」などと揶揄された挙句、開発後わずか1年でお蔵入りとなったアメリカらしい欠陥機のはず。
まだ現存してたことにも驚きだが、乗り手が存在してたんかい。
なにはともあれ、こんな馬鹿げた機体を相手にするならせめて1次移行(ファーストシフト)せにゃ
話にならねぇ。 試合開始から逃げに徹して時間を稼ぐか? あのミシェルを相手に?
彼女の名前はミシェル・マーディガン。 旧姓ミシェル・ミルストンと言い、苗字は母方の姓を名乗ってたらしいが問題は彼女の父親の方だ。 俺も小さい頃に会ったことがあるが、小柄ながら筋肉の塊に覆われた体躯に顔面イレズミのモヒカンジジイ。
自分の身長ほどあるトマホークを片手で軽々と振り回すパワフルなジジィなんだが、特筆すべきはもう1つの特技、1つの銃声で6発の弾丸を打ち出すその拳銃捌きだ。
凄腕ガンマンだったジジイの名前はボニー・ウィリアム……、つまり……。
「それじゃチョイと踊っておくれ。 行くよ竜兵(エドワード)!」
「はっ、来やがれ『ビリー・ザ・キッド・2世(セカンド)』!!」
アリーナに試合開始のブザーが鳴り響き、2機のISが空を舞った。
「あの~織斑先生?」
「ん?」
「良いんですか長谷川君の機体、1次移行してないんですけど?」
「ああ、そんなことか」
「そんな事って……」
「クックック、アイツが慌てふためく様が見れれば問題ない!」
「ガクガクブルブルっ、(今日の織斑先生、本当に黒いですよぅっ!!)」