レースから1ヶ月後、私は再びURAトレセン学園へと戻ってきました。予定が無くなったのでその分観光をしながらのイギリス旅行でした。私もトレーナー成分を思う存分チャージできたのでこれであと数ヶ月はいけます。嘘です、本当は1日も持ちません。トレーナーはそのまま海外で仕事だそうです。悲しみ。駄々をこねたかったのですが、折れてくれない気配を感じたので泣く泣く諦めました。トレーニング内容はネットの海を通じて届いていますので不備はないです。しかし、気持ちは如何ともし難いと言いますか。
こうして登校していると時差ボケはいつまで経っても慣れないものだと感じますね。海外を転々としていると時間の流れが狂いやすいのです。今も私は欠伸をしながらたずなさんが挨拶してまわっている校門を抜けて、下駄箱で靴を履き替えているところです。
「今日の授業はなんだっけ」
教科書合ってたか心配になり肩から吊り下げた鞄の中身を漁ります。ミネラルウォーターは……ある。これも忘れたら今日1日飲み水なしで過ごすハメになります。あってよかった。教科書も大丈夫そうです。万が一忘れてたら諦めて寝ましょう。
ところで──
「何か用ですか」
鞄を漁る私は先ほどからこちらに向けられる熱視線に顔を向ける。顔ちかっ!?
制服の上から白衣を着るウマ娘だ。誰だろうか。
「やーっと会えたねぇ!君のことは前からリサーチしていたんだけどねぇ……その度に研究資料やらが不審火で燃えてしまうし、君に直接接触しようとすれば何処からともなくポルターガイストだったりカフェにそれとなく妨害されたり……しかぁし!遂に私も辿り着いたわけだ!」
はっはっはと高笑いするウマ娘に私は引き気味である。テンションが、テンションが高い……!
「どなたで……?」
「おおっと、自己紹介が遅れたねぇ。アグネスタキオンだ。自慢じゃないがこの学園じゃ結構有名だと思ってたが、君は知らなかったようだね」
アグネスタキオン……聞いたことないですね。あまり学園にいないせいでしょうか。こんな濃いキャラをしたウマ娘なら私が忘れるはずもない。多分これが初対面ですね。
「そんな人が私に何の用事ですか」
テンションについていけない私はとりあえず要件を尋ねる。何か私に用があるようなので。
「そうそう、君の身体について少し研究させてもらえないかと思ってねぇ。君の事は大体調べさせてもらった──実に素晴らしい!」
身体、と。そんな形で言い寄られるとは思っても見なかった私はポカンとしてしまいます。海外でもナメられて喧嘩をふっかけてくる人はいましたが、こんな理由で来る人は初めてです。
「記録を見れば2日続けてレースに出場した事もあるようじゃないか。にも関わらず君の体に不調は一切見られなかった。脚に負担をかけた形跡もない、これはウマ娘史上でも類を見ない頑丈さだ」
そうなんです?なんかトレーナーも似たようなことを言っていた気がしますねそれ。確かに怪我の類は一度もしたことがありません。芝もダートも短距離も長距離も全て走ったことがありますが。
「そういう訳で君には私の研究に協力してもらいたい。もちろん見返りは用意すウッ──!」
言いかけていたタキオンはビシッと何もない背後から首に打撃を受けて倒れたように見えた。
「──すいません、タキオンさんが迷惑をかけました」
「うわっ!?」
気配もなく背後に居たウマ娘の声に私は飛び上がる。ヌッと影のような雰囲気のあるウマ娘は気にした様子もなく一度こちらに礼をすると、倒れたタキオンの片足を掴み床に引き摺りながら運んでいった。顔面引き摺ってるけど痛くないのかなあれ。
結局私は状況が分からず首を傾げながら教室へと向かったのであった。
ウマ娘の秘密その7
旅の途中で寝落ちしたトレーナーにいつも毛布を掛けてる。
続くのかい!続かないのかい!どっちなんだい!つーづかないっ!