わからなかったからウマ娘映画「新時代の扉」の小説版と睨めっこしながら書きました。
「位置について……よーい、どん!」
まるで運動会みたいな合図でレースは開始した。一斉にゲートから飛び出しウマ娘達は走り出す。その中でモブウマ娘は──
(出遅れた──!)
動揺が抜けないままに始まったレースに反応が一瞬遅れてしまった。時間にすれば1秒にも満たないそのロスはレースにおいて致命的。彼女はバ群において最後尾を走ることとなった。
(最悪……しかも団子だ)
モブウマ娘の眼前にあったのはウマ娘達の集団が固まって走っている光景である。こうなるとこれをすり抜け前に出る必要がある。しかしこうも密集しているとすり抜ける隙間なんてない。どうしたものか。この模擬レースは芝2000ほど、中距離だと短距離ほどではないにしろレース展開は早い。こうしている間にもゴールが近くなっていく。このままじゃ前に出られず負ける。
それはダメだ。たとえこれが模擬レースだとしても、負けだけはダメ。私の魂が叫ぶのだ。負けるな、と。
奇しくもモブウマ娘の完全包囲網となったこの形に見ている者達は皆同じように思っただろう。
──ああ、あの子は無理だろうな。
楽しみにしていたレースが始まった。スタートダッシュもバッチリ。好調で始まったレースでアタシはまるで自分の庭のように走っていた。位置としては中団。前に走る先行の子の後ろに張り付きいつでも前に出られるように脚を溜める、アタシからしたらいつも通りだ。早くその瞬間が来ないかと逸る心を抑えながらタイミングを図る。コーナーを抜けて最後の直線が見えてくる。
(ここ──!)
一気呵成。その言葉が似合うほど綺麗に先頭を走るウマ娘を抜いた──後はアタシの時間。草原を赴くままに走るが如く自分の道を征くのみ──!
「ッ!?」
その時だ。自分が走り踏み締めた芝の感触がまるで底なし沼になってしまったかのように感じた。嫌なプレッシャーを背後から感じる。
──刹那。背後で芝が爆ぜた。
「なっ……!?」
思わず振り返れば、最後尾にいたはずの子が誰も走らない大外。中団にいたウマ娘達を外から一気にまくって追い抜いていた姿があった。見開かれた瞳が煌めいて、捕食者のようにアタシを捉えて離さない。
──ドンッ!!
その子が脚を踏み込むたびに、土が抉れ芝が爆ぜていく。4バ身、3バ身とあれだけあった差が消えていく──こちらがどれだけペースを上げても変わらない。背中に、肩に、一歩一歩並びかけていく。ゴールを告げる板の横を抜けた時、ハナ差で負けたのはアタシの方だった。ゴールを駆け抜けたその子の表情は見えない、だがこちらに見せるその背中は遠くて、どこか悲しげにも見えた。
やってしまった。衝動に任せるままに走ってしまった。脳内でよぎるのはレース場で見た光景。誰もが目の前の現実に打ちのめされこちらを見るのだ。『どうせ勝てない』という諦めた、冷たい目が。
そんなのが見たくなくて、私はその場をすぐに逃げようとして背後からかかる声に足を止めた。
「すごいね君。アタシあんなふうに抜かれたのは初めてだよ」
嫌悪感なんて全くない。春風のようなカラッとした声が。
「え?」
そんなふうに声をかけられたのなんて、初めてで。
「また走ろう、どこかでリベンジしたいし。アタシはミスターシービー。君は──ってちょっとどうしたの!?」
その言葉に何故だか涙が止まらなかった。
──あっ、重り外すの忘れてた。
──え?何これ重くない?
とある二人の会話風景。続きませんよ!