頑張れ明日の私!展開はお前に任せた!
レースが終わった。それぞれ反省点を共感の人に教えてられて解散した。その中には私のことを冷たい目でみる者などいなかった。何故なのか分からなかった私はシービーに聞いてみた。
「やっと泣き止んだと思ったらそれ?面白い事聞くね」
「う、うるさいな」
赤くなった目を擦る。目元が腫れてないか心配だけどわんわん泣いたんだ、もう泣かないもんね。
「なんでそんな目で見なきゃいけないの?むしろワクワクしてこない?」
「ワクワク?」
ワクワク……私はそんなふうに思ったことないや。いや、初めの頃はあったかもしれない。いつからか、私にその感覚は無くなってしまった。勝った時はトレーナーが喜んでくれて、その日は猫とトレーナーの三人でお祝いした。あれが楽しかったのに、今私は笑えているだろうか。
「アタシはそう思うよ。だってさ、考えてみてよ。世の中にはきっと、まだ見た事ないアタシより速いウマ娘がいるかもしれない。いや、きっといる」
それは……そうかもしれない。私みたいなウマ娘も、この先現れるかもしれない。
「そう考えたらさ、ワクワクしてくるんだ。自由に走るのが好きだけど、やっぱり走るからには一番になりたいじゃない?自分より速い誰かを追い抜いてみたい、って。きっとそれは楽しいから」
追い抜く……考えたこともなかった。私にとって楽しいのはなんだろう?
「私はどうしたらいいんだろう」
「考えなくていいんじゃない?きっと君も走ってるうちにわかるから」
走った先に答えがあるのか。それすら分からないけど、私はモブウマ娘。まだモブである事から抜け出せずにいるけど、いつか私は堂々と名前を名乗れる日が来るのだろうか。いや、必ずくると信じるしかない。私が私である限り、必ず。
カツカツと靴の音を鳴らしながら歩く男がいた。上下をスーツでキメた男の顔は憂鬱だ。漏れる声には悲壮感すらあった。
「はぁ……」
それもそのはず。この男はモブを名乗るウマ娘のトレーナー。担当を置いてなぜ遙か離れた自由の大地アメリカにいるのか。その理由は自らの担当にある。彼女は強い、強過ぎた。未だ敗北の土をつける事のない彼女を世間は『怪物』と称し走ることを拒否するものまで現れた。だが彼女に責められる謂れはない。『唯一抜きん出て並ぶものなし』という言葉があるように、間違ったものではないからだ。
だからこうして世界を飛び回り、走るものを探していたのだが、どこも難色を示すばかり。その事実にトレーナーは沸々と怒りすら湧いてくるのを感じる。
「どいつもこいつも……なぜ避ける!?速いからなんだ!?自分の担当なら超えてみせるくらいの気概を持てよ!」
トレーナーとはそういうものではないのか!?担当のことを一番だと考える。一番だと思うから走るんだろう!?なぜ強いものが割を喰わなければならないのか。そんな叫びをのせた言葉は周りの通行人から白い目で見られトレーナーはここが大通りで行き交う人たちがいる公然の場であることを思い出しクールダウンする。
「はぁ……」
そうして思いはため息となって漏れるばかりなのであった。
──プルルッ
そんな時、スーツの内ポケットで携帯が震えた。取り出してみれば、相手の名前はURAトレセン学園理事長の秋川やよいであった。
「もしもし」
『慰労ッ!お疲れ様だ!』
「ああ、お疲れ様です……何用でしょうか」
もしや向こうで何か問題があったのだろうか。うちの担当が何かやらかしたのか……?あの子はのほほんとしているけど喧嘩売られると一気に苛烈になることがあるからなぁ……
思わず思考を遠くに飛ばしそうになるところを理事長の言葉が止める。
『朗報ッ!君にいい話を持ってきた!』
「いい話ですか……?」
『君が担当のために奔走していることは知っているッ。こちらとしてもそれは憂慮するべきものだ、だからこちらも考えたのだ』
歳はまだ幼なくとも学園を統括する理事長である。それが単なる思いつきではなくなんらかの確信を持って言われているのだとトレーナーは思った。
『まだ見ぬ強敵を発掘するため、近々あるレースを開催する予定だ。その名を──URAファイナルズ!』
「URA……ファイナルズ」
『今までのレース制限を撤廃し、現役であれば誰であれ参加できるレースだ!すでに海外バも参加に意欲的と聞く!そこでなら君も──』
「うちの子も、もしかしたら──!」
『同意ッ!彼女もまた走れるはずだ!……もう二度とマルゼンスキーの時のようなことにはさせてはならんのだ』
漏れた悔いるような言葉を持って、話は終わった。挨拶を済ませ電話を切ると、トレーナーは走り出す。一刻も早く担当の元に帰るために。その顔に先ほどまでの陰惨さはなく、希望を宿していた。
モブウマ娘の秘密その8
花は雛菊が好き。
続きませんよ!!!!!!