我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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24-1 天の…大魔境(アルカンレティア)

「おお……! あれが温泉の都、アルカンレティアか!」

 

馬車の窓から身を乗り出すと、そこには美しい湖畔に広がる白亜の街並みが見えた。

至る所から湯煙が立ち上り、街道沿いでは名物の温泉饅頭ならぬアルカン饅頭を売る威勢のいい声が響いている。

 

「見てくださいカズマ、あそこでエルフとドワーフが喧嘩してますよ!」

「どれだめぐみん……おおっ本当だ! あんな光景アクセルじゃ見られないぞ! ちゃんとした異世界に来たみたいだ!」

「確かに通常とは違う景色……いいですね、異世界!」

 

めぐみんは興奮した様子で目を輝かせて俺を見る。

そして、何かいいセリフを思いついたのか、一人でブツブツと言葉をつぶやき始めた。

いや、そういう意味じゃないのだが……

そう思ってめぐみんのことをジト目で見ていると、ゆんゆんがクスリと笑いながら。

 

「確かにアクセルは観光地じゃないし、こんな光景は珍しいですよね」

「観光地だとみられるのか? いや、関係ないだろ」

「いえ、関係あるんですよ。エルフはつけ耳でドワーフはつけ髭で、観光を盛り上げる喧嘩芸をするの」

「えっ、あれって本当の喧嘩じゃないのか?」

「カズマ、残念ながらゆんゆんの言う通りなのですよ」

「う、嘘だ! 嘘だと言ってくれ!」

 

夢は夢のままにさせてほしかったのに、ゆんゆんとめぐみんのせいで夢が壊れた。

せっかくの異世界情緒が、一瞬でテーマパークのキャスト的な何かって……

 

「しかしながらこの伝統芸能……久しぶりに見ますが、やはりなかなかに見ごたえがありますね」

「ねー。喧嘩するほど仲がいいってこういうことを言うのかしら……いいなぁ」

「いろいろと違いますよ。でもまあ、信頼がなければここまで息をぴたりと合わせることはできないでしょう――」

「お客さん! 営業妨害はやめてください!」

 

そんな俺の落胆を余所に、めぐみんとゆんゆんはエルフ(つけ耳)に怒られていた。

 

 

 

 

 

「カズマ、先ほどのことは謝りますから機嫌を直してください」

「別に拗ねてねえし……。ただ、サンタさんがいないと知って夢が崩壊した子供の気分だ……」

 

こんな変な異世界でもちゃんと異世界してる場所があるなんて……と、感動した俺の気持ちを返してほしい。

そんな悲しみの中、しばらく馬車に揺られているとは中央広場へと到着した。

俺たちは馬車を降りると商人のおっちゃんに挨拶をする。

 

「さてと……ありがとな、おっちゃん!」

「いえいえ、こちらこそ危ない場面を何度も救っていただき! 魔王軍の幹部を倒したパーティーが同乗してくれてたおかげです!」

 

……ほんと、うちのメンバーがすみません。

フラグを乱立させる紅魔族に、アンデッドを引き寄せる駄女神に、走り鷹鳶を引き寄せる堅物に、それをさらに悪化させるぽんこつ店主がほんっっっとうにすみませんっっ!!

罪悪感に耐え切れず視線を逸らすと、その先でゆんゆんとウォルバクさんも申し訳なさそうに視線を逸らせていた。

 

「……やはり駄目だ。命を救われたお礼をさせないなんて、商人の名が廃ります! せめてこの袋を受け取ってください!」

「いーやいやいや! 俺たちをここまで送ってくれる代わりみたいなものですからお気遣いなく! 俺たちお金には困ってないんで!」

「うむむ……そういえばお客さん方、宿泊先は決まってますか?」

「……それは決まってないですけど」

「ならちょうどよかった! 実は高級旅館のチケットが余っておりまして!」

 

そういって荷台に手を突っ込むおっちゃん。

絶対余ってるチケットなんてのは嘘だと思うんだが……

そんな俺の視線を見たおっちゃんは。

 

「本当なんですよ! 以前、そこの宿の予約を依頼されたんですがね、そのお客さんが別の場所にしたいと宿泊をキャンセルしたんですよ」

「へぇー、そんなこともあるのか。しかも高級旅館の……そんなの貰っていいのか?」

「むしろ私を助けると思って貰ってください! チケットの有効期限もありますし、売ろうとしても誰も買わないので」

「そうなのか? じゃあ……」

「ええ! 特に連れの方にアクシズ教の方がいるならこの宿が一番ですとも! ……まあ、この街の宿のほとんどに当てはまりますが、設備だけは最高ですから。設備だけは!!」

「……なんでアクシズ教が一緒だと――って早っ!?」

 

俺が止める間もなく、おっちゃんは「どうぞ観光を楽しんでくださいお客さん!」と言い残し馬車で去っていた。

……なんだか高級なチケットを押し付けられてしまったなぁ。

 

「……なぁ。原因は俺たちのせいだって、今からでも正直に話して返してこないか?」

「何を言ってるのよカズマ! 貰えるものは貰うのが冒険者の鉄則でしょ! それに、せっかくの温泉旅行だもの、楽しまなきゃ損よ! さあ、早くチェックインしましょう!」

 

罪悪感で顔を引き攣らせる俺を無視して、アクアはスキップをして宿に向かう。

……まあいいか、せっかくの厚意を無碍にするのも悪いしな。

 

 

 

 

「ほお、ここが旅館ですか」

「私が泊まるに相応しいいで立ちじゃない!」

「すごく立派なところじゃない! カズマさん、やっぱりこのチケット返してきた方がいいんじゃ――って、アクアさん! めぐみん!」

 

ゆんゆんが止める間もなく、めぐみんとアクアは旅館の中に入っていった。

それにしても本当にすごい旅館だ。

街一番と言っても過言じゃないんじゃないか?

そう思いながらアクアたちの後に続いて中に入ると、女将らしい人物が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。当旅館へようこそ。本日は宿泊ですか?」

「はい、そうです。このチケット使えますか?」

「もちろんでございます。では、まずは宿泊者名簿のご記入をお願いしますね」

 

にこやかな笑顔で用紙を差し出してきた。

俺は特に疑いもせずペンを走らせようとしたが、ふと用紙の端に違和感を覚えた。

 

「……なあ」

「どうしましたか、お客様?」

「この宿泊名簿、なんで下にカーボン紙が挟まっててんだ?」

「……当旅館ではお客様控用に――」

「二枚目にアクシズ教入信書ってのが入ってたんだが」

「…………」

「…………」

「…………」

「おい」

「あら、バレちゃいました? 嫌だわ、お客様ったら鋭いんだから。うふふ」

 

ドン引きする俺を無視して、女将は営業スマイルを崩さない。

 

「『うふふ』じゃねぇよ! 詐欺じゃねえか!」

「いえいえ、違いますよ。当宿では、アクシズ教徒のお客様に限り、宿泊料が半額になるクーポンを配布しているんです」

「いやいや、結構ですから! そもそも今宿泊券を持ってるからそういうのどうでも――」

「ならアクシズ教に入信してくれたら豪華な露天風呂を貸し切りにしてあげますから!」

 

こんのアマ、目がガンギまってやがる!

なんだこの旅館、高級じゃなかったのか!?

あまりの圧にたじろいでいる中、後ろでアクアの耳がピクリと動いた。

 

「……貸し切り? ねえ、今貸し切りって言ったかしら! ねえねえ、私アクシズ教よ! ねぇ、貸し切りにしてくれるって本当!?」

「ええ、もちろんです! お客様の髪の色、まるでアクア様のような透き通った青ですね。これは敬虔なアクシズ教に違いありません!」

「やったわよカズマ! 今日の温泉は貸し切りよ貸し切り!」

「しかも露天風呂もご用意してます」

「しかも露天ですって! 露天風呂貸し切りですって!」

 

……そういえば「設備だけは!」って言ってたな、あのおっちゃん。

今、意味がわかった。

 

 

 

 

 

宿の人に中の案内をしてもらったら、そこは素晴らしいたたずまいだった。

手入れの行き届いた庭園、夕食の時に出てくるシュワシュワと高級料亭、そしてほとんど貸し切り状態だという広い露天風呂……

なのに何故か宿泊客が少ないって言ってたが……いや、なんで誰もいないかは明白だろ。

 

そう思いながらも俺は期待に胸を膨らませる。

さっき案内された温泉というのが混浴風呂だったのだ。

大事なことだからもう一度言おう、混浴だ。

 

俺の幸運値を鑑みて、今後起こりうる展開に浮足立っていると、館内の案内が終わって俺たちは部屋に案内された。

案内された部屋に荷物を置くか置かないかのうちに、アクアがそわそわと落ち着きなく辺りを見回し始めた。

 

「なんだよアクア、旅行に来てそわそわして、お前は子供か?」

「子供じゃないわよ! というかカズマこそそわそわしてるじゃない。まったく、落ち着きのない子供と一緒にしないでくれるかしら!」

「子供じゃねえし!」「子供じゃないわよ!」

 

アクアの指摘に、なぜか横にいたゆんゆんまで顔を真っ赤にして反論してきた。

いや、ゆんゆんは反論の余地なく観光が楽しみでワクワクしてる子供だ。

俺は大人のワクワクなので子供ではない。

 

「というか長旅でへとへとだろ。なんでそんなに元気なんだよ、お前ら」

「だってみんなで旅行ですよ、旅行! 私、今夢でも見てるのかな……。友達と一緒に観光地を巡るなんて、夢にまで見た願いが叶うなんて! ね、アクアさん、そう思いますよね!?」

「ちょっと何を言ってるかわからないわ」

「アクアさん!?」

 

バッサリ切り捨てられたゆんゆんが、ショックでその場に膝をつく。

だが、アクアは構わず熱っぽく語り出した。

 

「いい? ここは水と温泉の街、アルカンレティアよ! 水の女神である私が、これ以上にテンションが上がる場所なんてこの世にあるわけないじゃない! 街の空気からして、私の魔力と共鳴してるのを感じるわ!」

「……ああ、そんなもんか。トイレでも喜んでたしな」

「水の女神だからね。トイレの女神じゃないけど水の女神だから!」

「あーはいはい」

「ちなみにそれだけじゃないわよ! ここはアクシズ教の総本山……ここで崇め奉られているご神体として、自分の愛すべき信者たちがどんな街を作っているか気になるのは当然のことでしょ?」

「……えっ? ちょ、ちょっと待て! ここがアクシズ教の……本拠地……?」

「そうよ?」

 

……今、なんて言った?

アクシズ教の、総本山……?

アクアの信者たちの総本山だって……!?

トラブルメーカーで駄女神なアクアの信者なんて嫌な予感しかしなんだが。

 

「もう待ちきれないわ! 私、今からアクシズ教の本部教会に行って――」

「おい、まさか自分が女神だとか言うんじゃないよな?」

「私もそこまで馬鹿じゃないわ。私が本物の女神アクアだと知られたら信者たちが歓喜のあまり倒れちゃうかもしれないでしょ?」

 

……それはないと思う。

どっちかっていうと女神だって信じてもらえないか、吊し上げられそうなんだが。

 

「だからあくまで凄腕のアークプリーストとして、本部教会に行ってちやほやされてくるわ!」

「まあ、それならいいんだが――あ、おい、待てって――!」

 

俺の制止も聞かず、アクアは宿を飛び出していった。

それを見たゆんゆんが後を追う。

 

「……私、なんだか心配なので一緒に行ってきますね」

「ああ、そうしてくれると助かる。俺も嫌な予感しかしない」

 

嵐のような二人が去り、静まり返ったロビー。

ウォルバクさんが「なんだか、慌ただしい子たちね……」と、困惑半分、可笑しさ半分といった様子で笑っていた。

 

 

 

 

部屋に荷物を置いて一段落ついた。

豪華な部屋の畳に腰を下ろすと、ようやく一息つけた気分だ。

 

「なあ、まだ日も高いし、夕食まで街をぶらつこうと思うんだが。みんなはどうする?」

「ならば私も行こう。アクセルの街以外はあまり知らないのでな。騎士として、この街の治安も見ておきたい」

「私は、もう少しゆっくりくつろいでるわ。ウィズもこんな状態だものね」

「そうですね。私もお姉さんと一緒にのんびりしてます。もしどこかに行くことになっても、夕食までに戻ってくればいいですよね?」

 

俺は、布団の上で「はぅ……」と寝息を立てているウィズを見た。

ウィズは、道中で受けたアクアの浄化魔法のダメージが想像以上に深刻らしく、まだ目を覚まさない。

ダクネスがドレインタッチで体力を分け与えたりもしたのだが、昨日のアクアの魔法はよほど強力だったらしい。

 

「わかった。じゃあ俺とダクネスで少し見てくる。……めぐみん、ウォルバクさん、ウィズのことを頼むな」

「ええ、任せてください! 私もお姉さんと話したいことがありますしね」

 

めぐみんとウォルバクさんに送り出されて俺たち二人はアルカンレティアの街へと繰り出した。

……豪華な宿を手に入れ、温泉もすぐそこにある。

普通なら最高に楽しい旅行のはずなのだが……アクシズ教の総本山という言葉のせいで胃が重い。

 

「なぁダクネス……俺、この街で最後まで正気でいられる自信がないんだけど」

「何を言っているカズマ。案ずるな、何があっても私がお前を守る……。……あ、見てみろカズマ! 向こうから、さらにギラついた目をした教徒たちがこちらを狙っているぞ……っ!」

「お前が一番危ない気がしてきた」

 

宿を出て数分。

俺たちは、異世界広しといえども類を見ない地獄を彷徨うこととなった。




※注意:今回の温泉旅行は原作と比較して時期が若干ずれています。
その影響でカズマたちを運んだ商人は別の商人、宿も原作とは違う宿となっております。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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