アクアとゼスタが爆裂魔法と魔王軍の関与の調査――という名目でめぐみん探しに出かけた。
取り残された俺たちといえば……
「なあゆんゆん。俺たちの宿にテレポート登録してたりなんか――」
「ないですね。まだチェックインしたばかりでアクアさんのことを追いかけちゃいましたし」
「だよなぁ……」
絶望した。
「家に帰るまでが遠足だ」なんて言葉があるが、これほどまでに精神を削られる帰り道がこの世にあるだろうか。
俺たちの足取りは重かった。
「どうしたのだ二人とも、そんなに疲れたような顔をして……よ、よければまたあのカフェでお茶でもしないか。まだここに慣れていない私だが、あそこは私が言った中でも一番の接客だ。それか疲れを癒したいなら温泉もいいかもしれないな!」
……約一名を除いて。
宿のロビーにたどり着くと、そこには少し血色の戻ったウィズの姿があった。
アクアの浄化魔法によるダメージからようやく回復したようで、いつものおっとりとした笑みを浮かべている。
「あ、お帰りなさい皆さん」
「ウィズ、元気になったみたいで何よりだ」
「おかげさまでゆっくり休めました! 皆さんは観光は楽しめ――って、どうしたんですか!? ダクネスさん以外随分くたびれた様子ですが……」
「ああ、気にしないでくれ。私にとっては素晴らしい街だったのだが……二人にとっては少しばかり刺激が強すぎたみたいだ」
ダクネスは、唾を吐かれたり罵倒されたりしたおかげで、かつてないほど肌につやと張りだ。
俺とゆんゆんが死んだ魚のような目をしてる横で、ダクネスだけがキラキラとしたオーラを放っているのが腹立たしい。
ほんと、誰のせいで刺激が強くなったと思ってるんだか。
そんな突っ込みをする気力すら湧きあがらず、俺とゆんゆんは遠い目をしていた。
そうしていると、湯気をたたせながら部屋に帰ってきためぐみんが部屋に入ってきた。
「おや、帰っていたのですね」
「そりゃこっちのセリフだ。爆裂魔法を撃ちに行ったんじゃなかったのか? というか、アクアとアクシズ教の奴らが犯人探しに爆裂魔法の方に向かってたのによく捕まらなかったな」
「私が原因だって知ってるのなら止めてくださいよ、危うくお縄でしたよ! というかアクアは一体何をしてるのですか、仮にもこの宗教のトップでしょうに……」
「トップと言えば、お前の知り合いだとかいうアクシズ教の最高司祭のゼスタっていう人もいたぞ。なんでもお前に罰として何かさせたいから爆現地に行くって」
「恐ろしい情報を聞かせないでください! せっかく温まった体が冷えてしまいますよ……。体が怠いからお姉さんに爆裂散歩の付き添いを頼みましたが、どうやらテレポートしてもらったのは正解でしたね」
めぐみんは身を震わせて、血色の良かったはずの肌をあっという間に青ざめさせていた。
こいつ、前にアルカンレティアに行ったことがあるとは言ってたが、この街の連中の恐ろしさが身に染みてやがる。
「そういえば観光は……聞くまでもありませんでしたね」
「お前……こんなひどい街なら最初からそう言ってくれよ、一回来たことあるんだったらさ」
「まあまあ、確かに住人は悪いかもしれませんが疲れた体だと温泉が一段と素晴らしく感じますから」
「確かにそうか……いや、それとこれとは話が違――」
「特にこの宿のは最高でした。まさか我が爆裂魔法により掘削された結果出来上がったゆかりのある地だとは。これも運命に導かれた結果とでもいうのでしょうか」
「お、おい待て! お前って街中で爆裂魔法ぶっ放したの……か――」
とんでもないことを言い出しためぐみんに問い詰めようとしたが、そんなことよりも大事なことに気づいた。
この宿の温泉が最高でした……めぐみんは確かにそういった。
そういえばめぐみんの髪と肌がしっとりとしている。
桃色の肌はまるで湯船に長く使っていたようで――
「そうそう、めぐみんさんの温泉すごかったですよ! 貸し切り状態で、混浴風呂が非常に広くて、最高に気持ちよかったです!」
「神は……死んだ……っ!!」
「どうしたんですか!?」
濡れた髪をタオルで拭きながら、ウィズが上気した顔で微笑む。
アンデッドのはずなのに、まるで風呂上がりのように妙に血色がいい。
貸し切り状態の混浴風呂という、男なら夢に見るシチュエーションが、俺のいない間に消費されていた。
「わァ…………ぁ……」
「泣いちゃいましたよ!? ど、どうしましょうか! よしよししたりした方が……あ、あれぇ!? 皆さん!? どうして普段通り過ごして!?」
「ウィズさん、カズマさんはたまに自分の世界に入るので気にしない方がいいですよ」
「確かにそうですが……かわいそうに。カズマもゆんゆんだけには言われたくなかったでしょうに」
「なっ、私はパーティーで一番普通よ! 自分の世界に入っていうならみんなの方が回り見えなくなることおいでしょ!?」
「すまないが、それには同意できそうにない。パーティーで一番常識人なのは私だろう」
「それだけはないですね」「それだけはないわ」
「なぁ!?」
もう少し早ければ。
あと三十分早く帰っていれば、俺はウィズと一緒にあの広大な風呂に……!
そんな後悔が頭の中を埋め尽くす。
……いや、待て。
旅行はまだ始まったばかり、まだまだチャンスはあるじゃないか。
それに今日もまだチャンスはある……ダクネスとゆんゆんはまだ風呂に入っていないじゃないか!
ウィズとめぐみんが混浴風呂が貸し切りだったと言っていたし、きっと二人は混浴風呂に入ってくるはずだ。
「神は生きてた!!」
早速タオルと浴衣の準備を――駄目だ、落ち着けサトウカズマ!
ここで事を急いではいけない。俺がそれを予想して混浴風呂に黙って入った場合、待っているのは二人による致死性の物理&魔法攻撃……特に二人が入ってるときに俺が後から乱入するのは一番しちゃいけない。この希望を希望たらしめるには、二人に俺の存在をアピールしつつ、それでも混浴に入ってもらうように誘導することだ。大丈夫だ、俺は日本男児、長風呂には耐性がある。夢がかなうなら、のぼせて意識を失おうと、それは本望だ。
「ふぅ…………よし。お前ら、とりあえず俺は疲れたし先に風呂に入ってくるから」
「泣き止んだと思ったら……忙しい人ですね。わかりました。私とウィズは先にいただいたので、ゆっくり入ってきてください」
「……俺は風呂に入ってくるからな」
「聞こえてますよカズマさん? ……私も疲れたし入っちゃおっかな。あ、あのダクネスさんも一緒に……わ、私、洗いっことかいうのを一度やってみたかったんです!」
「そうだな、私も入ってみよう。アルカンレティアの源泉かけ流しだというしな」
「じゃあ俺も風呂に入るから」
「早くいけ」
ダクネスに冷たく言い放たれた。
「単に無口な年ごろってだけだよな、ダクネスは」
一抹の寂しさと敗北感を覚えながらも、俺は脱衣所へと辿り着いた。
ここからがこの旅行の一大イベントだ。
目の前には左から男湯、混浴、女湯の順で入口がある。
俺は一秒の迷いもなく、真ん中の扉に手をかけた。
混浴と書いてあるのだ。
俺はルールに則っているだけだ。
恥じらう必要も、コソコソする必要もない。
中に入ると、衣服を入れるカゴが並んでいた。
そこには、明らかに男性のものではない布が入っている。
布が入ってる……布が入ってる!
俺のテンションは一気に最高潮に達しかけたが、必死で理性を繋ぎ止める。
落ち着け。
まだ喜ぶのは早い。
アクシズ教が経営してる宿だ、中にいるのが本当に女の子だとは限らない。
中にいるのが可憐な美少女とは限らない。もし筋肉隆々の親父でもいようものなら、俺の心は寒暖差でヒートショック起こして死ぬ。
俺は深呼吸をしながら上着から抜いていく。
しばらくすると衣擦れの音が止まり、俺の足からひたひたと濡れた床を歩く音が鳴る。
俺は意を決して、湯殿への戸に手をかけた。
極楽への入り口が開く音。
それと同時に、白く揺らめく湯煙が俺の視界を覆う。
その湯煙が腫れると、目の前には極楽が広がっていた。
……薄々、期待はしていたんだ。
宿に戻った時、めぐみんとウィズはいた。
だが、もう一人の美貌のお姉さんの姿が見えなかったことに。
「…………カ、カズマ……くん……!?」
俺の視線は、その黄金の瞳に吸い込まれた。
「奇遇ですねウォルバクさん」
「そ、そうね。まさかここにカズマくんがくるなんて……」
普段の彼女を包んでいた厚手のローブはどこにもない。
湯煙に濡れ、しっとりと輝く白い肌。
普段はフードの影に隠れがちだったその顔立ちは、露わになることでより一層、人智を超えた美しさを放っている。
そして、何よりも俺の目を釘付けにしたのは、その圧倒的に発達した大胸筋。
布で隠されてはいるが、それは普段のような分厚い布ではない。
水に濡れ、薄く、心許なくその輪郭を強調する薄布だ。
俺は手早くかけ湯で手早く体を清め湯船のへりに。
「失礼します」
「こ、混浴だし……お、お構いなく……?」
俺は、聖者のような落ち着きと、大人の余裕を演じながら告げた。
だが、視線だけは一分一秒たりとも逸らさない。
これが俺にできる最大限の礼儀だ。
俺はウォルバクさんと同じ湯船に、ゆっくりと身を沈めた。
ウォルバクさんは少し照れたように微笑みながら、お湯を掬って肩にかけた。
その動作一つとっても、まるで芸術作品のような優雅さだ。
……素晴らしい。
ローブ越しですら隠しきれなかったその圧倒的な大胸筋は、温泉用の薄い布きれ一枚では、もはや隠すことすら不可能だった。
ウォルバクさんは恥ずかしそうに、腕でその存在感を抑え込もうとしているが、肘の隙間から溢れんばかりの膨らみが、彼女の言葉の重み以上に俺の視界を支配する。
「あの、カズマくん……。そんなにまじまじと見られると、流石に恥ずかしいというか……」
「お構いなく」
「…………そ、そうよね。混浴だものね」
俺は悟りを開いた賢者のような顔で答えた。
これがもしアクアやダクネスなら、今頃罵声を浴びせてくるか、逆に嬉々として迫ってくるかの二択だろう。
奥ゆかしさも趣も何もありゃしない。
だが、ウォルバクさんは違う。
花も恥じらう乙女の反応だ。
これこそが俺の求めていたヒロインはここにいたんだ……!
そう思っていた瞬間。
ふいに放たれた言葉が、俺の胸を高鳴らせた。
「あの、カズマくん。……静かなままだと、その、気まずいというか…………よければ、その、せっかく二人きりだし……。貴方に話したいことがあるの」
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める