我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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25-1 狂気に満ちた…暴食(アデパギア)

「なあ、なんで爆裂魔法を撃ちにいかなきゃなんだよ。さっき撃ったばっかだろ」

 

昼下がりのアルカンレティア。

俺はため息をつきながらめぐみんの後ろをついていく。

 

「ちっちっち、わかっていませんねカズマは。確かに先ほど撃ったばかりなのでまだ撃てはしませんよ」

「じゃあなんで……」

「それはもちろん爆裂魔法を撃った後はお腹が減るから食べ歩きして、魔力がたまったらその足で爆裂魔法をぶっ放すためですよ。どうですか、こんな美少女と食べ歩きするなんてデートと言っても過言じゃありません。ほら、喜んでくれてもいいのですよ?」

 

にやりとして俺のことを見てくるめぐみん。

……まあ、認めざるを得ないが、確かにめぐみんはかわいい。

黙って立っていればアクセルの街でも一、二を争う美少女だろう……外見だけなら。

図太くも自分自身で美少女とか言ってるし、中身が残念なことは明らかである。

 

「……ふっ」

「何で今鼻で笑われたのですか!?」

「だって俺のこと、財布とドレインタッチ目当てで連れてきただけだろ? それで喜べとかないわー」

「なっ、心外です! 流石に自分の買い物は自分の財布を使いますよ!」

「やっぱドレインタッチ目当てじゃないか! どうせ街の外で撃つんだし、テレポート使えて強いヤツの方がよかったんんじゃないか?」

 

アルカンレティアは初心者の街アクセルとは違う。

強力なモンスターが多く、俺は役に立てそうもない。

絶対最弱職の俺以外のやつにした方がいいだろ、ゆんゆんとかウィズ、あとウォルバクさんとか。

 

「私だって本当はその方がよかったですよ。その方が効率がいいですし……でもお姉さんはカズマのせいでゆっくりお風呂に入れてなかったですし、もしカズマをこうして誘っていなかったら、あなたは今頃、ゆんゆんやダクネスのお風呂を覗きに行こうと画策していたに決まっています」

「俺のことを何だと思ってんの? 流石に女湯には入らないわ、犯罪だし」

「でも混浴にはいくのでしょう?」

「当たり前だろ」

「ほら見たことですか! そこは気を使って入らないところでしょうに……せっかく女将さんが貸し切りにしてくれてたのに混浴になったら意味ないですよ」

 

……そういえばそうだった。

アクアのおかげで混浴は俺たちの貸し切り……いや、そもそも宿泊客が俺らくらいだから、そんなことしなくても貸し切り状態なんだが。

いやでもおかしい!

混浴だぞ、男女の垣根なく入れるって書いてるのにどうして遠慮しなきゃならないんだ!

流石に素晴らしいダイナマイトボディだったら思わず視線が行くかもしれないが、基本的には真摯な俺が広い風呂を堪能しちゃいけないなんてあんまりだ!

 

「とにかく、カズマは私たちが入っていないときだったら好きに入ってくれていいので、今この時間はお姉さんたちに貸してあげてください。お願いしますから」

「……しょうがねぇなあ」

「ありがとうございます。いや、感謝を述べるのもおかしい気がしますが、まあいいでしょう。まだお昼も食べていませんし、早速食べていきましょう!」

 

めぐみんは小さくなるお腹を押さえながら、上機嫌にずいずいと歩き出した。

その後ろを歩いていると、徐々にいい匂いがしてきた。

 

「カズマカズマ」

「カズマだよ?」

「見てください、アルカンレティア名物のアルカン饅頭ですよ。カズマも食べませんか」

「……じゃあ一個買うか」

「せっかくですし箱に詰めてもらいましょう。その方がお得だそうですよ」

 

みんなへのお土産にするのだろうか。

めぐみんは財布を握りしめて店主の方へ走っていった。

 

「カズマ、サービスで二個おまけしてもらいましたよ」

「おお、それはよかったじゃない……か……?」

「――『お嬢ちゃん、小さいのに旅なんて凄いね』『家族にお土産かい? 偉いねぇ。そんな嬢ちゃんには2個サービスしたげるよ』と言われて貰いました」

「お、おう」

「サービスは嬉しいのですが、それはそれとして殴っていいでしょうか」

「……サービスしてもらったんだし許してやれ」

 

アルカン饅頭――つまるところ温泉饅頭だが、それが温泉の蒸気でふっくらと仕上げられた。

めぐみんはむすっとした表情で店主のことをにらみつけるのをやめると、俺にサービスの饅頭を渡した。

指先に伝わる熱が心地よい。

一口かじれば、中から上品な甘さの餡が顔を出し、この狂信者の街には似合わぬまっとうな美味さに、思わず唸ってしまった。

 

「おいしいなコレ! 特に皮がいい、もちもちしてる!」

「ほうれすよね――ごくん、私もこの街に行くと決まった時に、これは絶対食べようと心に決めていました。前と変わらない美味しさで安心しました。んー、素朴な甘さがいいです!」

「そうだな。……そうだけど……食いすぎじゃね?」

 

両手に2個ずつ饅頭を持ってるめぐみん。

箱買いしたのにその箱はどこにやった。

お土産じゃなかったのかよ。

 

「おい、ちゃんと夜ごはん考えて……」

「もちろんですよ。そもそもまだお昼ですし、腹1分目にも達していないので余裕です!」

「まじかこいつ。俺、結構満足なんだが……」

「……何ですか? そんなに私の方をじろじろ見て」

「いや、旨そうに食うなぁって思って」

「……もう一個食べます?」

「食べる」

 

10個はあったはずの饅頭はものの数分でどっかに消えてしまった。

しかしめぐみんの食欲は止まらない。

次から次へと、目についた店の食べ物を買っては食べている。

呆れを通り越していっそすがすがしい食べっぷりだ。

そして、それを見てるとおいしそうで、こっちまでお腹がすいてくる。

めぐみんがこんなに食べてるんだし、俺ももう少し行けるのではないだろうか――そんな錯覚を起こしてしまうほどに。

 

「うっぷ、腹いっぱい……」

「カズマ、自分で言ってたのになにしてるんですか。夕食を考えて食べてくださいよ」

「お前、すごいな。俺の何倍も食ってるのにどうして平気なんだよ。どうして俺だけ腹が出て、お前の腹はフラットなんだよ。毎度思うんだが、お前の胃袋ブラックホールなのか? それともお腹にピンクの悪魔でも飼ってるのか?」

「何を言ってるのですか。魔力を生成したりもあるでしょうが、私は成長期なので大体は身長とか胸に吸い込まれてるに決まってるじゃないですか」

「すごいな、お前」

「それほどでも!」

 

俺は知っている。

めぐみんがどれだけ食べても、その栄養が「成長」に回っている気配が微塵もないことを。

ゆんゆんと比べても、身長も胸も……。

おそらく、成長に使われるはずの全エネルギーが、あの爆裂魔法の魔力へと強制変換されているのだろう。

……もしや、こいつの体は人としての成長を止めた代わりに、最強の魔法を放つためだけに特化した形に進化したのでは?

 

「なんですか? なんでそんな悲しそうな眼をしてるのですか?」

「ううん、何でもない。何でもないんだ、本人が幸せならそれでいいんだ」

「失恋でもしたかのようなセリフですね……」

 

めぐみんが怪訝そうに眉をひそめた。

その手には平らげた蒸しプリンの容器……それはバケツだった。

最初こそ一々その食事量に反応していたが、もう俺は考えるのをやめた。

 

「ふむ、なかなかいい感じの腹になってきましたね。そろそろ本題の爆裂しにいきましょうか」

「やっとか……。なあ、そういえば最近爆裂魔法の頻度が多くないか? 一日二回も撃つなんてなかなかないだろ」

「ええまあ、昔から二回は撃てたのですがね」

「あれ、そうだっけ?」

「細かくいえば、多くて一日二回ですがね。爆裂するのに必要な魔力は1日以内で回復してたので。最近は半日もかからずに回復してます」

「……初耳なんだが」

「ええ、初めていいましたから。特に王都からアクセルの街に帰ってきたときから、さらに魔力の回復が早くなったのですが、まあ、これも日頃の精進の成果ですかね。お姉さんもこの成長は予想外だったみたいで驚いてくれましたよ! はーっはっはっは!」

 

俺の心配をよそに、本人は大好きな爆裂魔法を撃てて満足気である。

そう言えばこの数か月で大物をたくさん倒したよな。

ドラゴンから大悪魔に至るまで……それでレベルアップしたせいか?

そんなことを思いながら歩いていたのだが……余計なことを考えていたせいで、この魔境の地で油断してしまった。

 

「あっらー! もしかしてお兄さんたち観光客さんでしょ! アンタたち、これあげるから持っていきなさいな! アルカンレティア名物の石鹸よ!」

 

年齢を感じさせない、鼓膜に突き刺さるような溌剌とした声。

人当たりのいいおばちゃんの声に流されて俺たちは思わず反応してしまった――本来は無視して無言を貫き通さねばららなかったのにもかかわらず。

その人の目は……関わっちゃいけないタイプのソレだった。

 

「この石鹸、すごいのよ! 服のどんなシミでも落ちるし、香りもふんわりとしてていいの!」

「は、はあ、それはすごいですね……」

「んまー! そんなに欲しいなら、はいもう一個上げる! せっかくだし二人とも温泉で使ってみてちょうだい! アクア様の祝福で汚れと一緒に業も落ちるし、ちょっとアンデッドに集られやすくなるけど水魔法とか聖魔法と宴会芸が達者になるし、何よりこの石鹸、食べられるの! だから赤ちゃんに使っても保存食として取っておいても安心なの!」

「あの、いや……結構ですので」

 

俺たちは逃げようとした。

しかし回り込まれてしまった。

おばちゃんのフットワークは熟練の冒険者並みに鋭かった。

 

「それからこの洗剤もすごいのよ! まずは見てちょうだい! 食器の柄まできれいさっぱり落としてしまうほどの洗浄力! あ、もちろん物のたとえよ? でもそれだけすごい洗剤は他に見たことがないわ! しかもこの洗剤は洗剤で食材も贖罪も洗い流せるの! あかぎれもしないし、見てよ私の手! すごくきれいでしょ、これもこの洗剤を使ってるおかげなのよ! その証拠に、この洗剤、飲めるの! 添加物も変な化学物もを一切使ってない、安心安全な天然成分だけで作られてるから! はいもう一本あげるわ! そして今ならアクシズ教に入信すればこの素晴らしい石鹸洗剤セットをおひとり様ごとにもう一個差し上げ――」

「す、すみません、間に合ってますんで!」

 

俺たちは全力で逃げようとした。

しかし目の前のやり取りに必死で背後にいた仲間に気づかなかった。

 

「お兄さんには洗顔用石鹸を! 妹さんにはこのボディーソープもつけるわ!」

「あわ、あわわわわ……! カズマ……!」

「妹さん流石の着眼点ね! 聞いて、あの石鹸、すごく泡立ちがよくて、しかも泡がもっちり! 肌に吸い付くようななめらかさで、毛穴から余分な皮脂を洗い流してくれるの! しかもアクア様の加護による保湿効果付き! 試してみてちょうだい! ほぉら!」

「け、結構ですからぁああ――!!」

 

強引に俺の顔を洗剤で洗おうとしてくる。

俺たちは必死になって逃げた。

 

 

 

 

 

アクシズ教徒をまいて、ベンチに座り込む。

疲れた体。

ズボンのぽっけに詰め込まれた石鹸。

ねじ込まれた入信書。

俺はそれを取り出して、じっと見みつめ――

 

「あぁぁぁあぁあッッッッ!!!!」

 

石鹸を地面にたたきつけた。

 

「カズマ……落ち着いてください。その石鹸は食べられるほど安全だと彼女たちは言っていましたよ。叩きつけたらもったいないじゃないですか」

「めぐみん、おい、めぐみん戻ってこい!!」

「はっ!? わ、私は一体何を口走って――」

「良かった……さっきまでアクシズ教に毒されてたが戻ってこれて……」

「カズマ…………なんでこの街は温泉も職も素晴らしいのに、どうしてこんなに疲れるのでしょうか」

 

俺たちは特大のため息をついた。

石鹸洗剤の勧誘。

爆裂魔法を放った後よりも、精神的な疲労が甚大だ。

洗剤が飲めるなんて、そんな狂った理屈が通ってたまるか。

 

そう毒づいていると、少し離れた別のベンチに、一人の男がフラフラと座り込もうとしているのが見えた。

身なりはそれなりに整っているが、その目は完全に光を失い、虚空を見つめている。

そしてその手には――山のようなアクシズ石鹸が抱えられていた。

ブツブツと男がうわ言のように呟いてるし、やばいやつなんじゃ……

そう思っていると、その独り言が聞こえてきた。

 

「石鹸洗剤石鹸洗剤」

「飲める」

「えっ」

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤」

「飲める」

「えっ!?」

「石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤石鹸洗剤!! 飲めるかぁあああああ!!」

 

俺たちと同じく石鹸洗剤の勧誘で精神がやんでそうな男が、石鹸を地面に投げつけながら発狂していた。

あの人、俺たち以上にやられてるな……

一瞬、俺たちのことを洗脳しようとするアクシズ教の人かと思って警戒したが、俺たちと同じ境遇のようだった。

 

「カズマ、石鹸洗剤って飲め――」

「飲めるか!! めぐみん戻ってこい!!」

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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