我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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25-3 葬られた…真実(トゥルース)

「ふむ……ここの水質もですか」

「とりあえず浄化しておくわね、『ピュリフィケーション』!」

 

数軒の温泉宿を回ったが、どこへ行っても状況は同じだった。

それも、専門家が調べなければわからないような微細な変化ではない。

お湯が白濁していたり、浸かると肌がピリピリと荒れたりといった、一般客からの苦情が相次ぐレベルの明らかな異常だ。

数日前まではここまで大きな問題ではなかったというのに、一夜にしてアルカンレティアの至る所で水質汚染が同時多発的に起きている。

どう考えても自然現象とは思えない。

 

「ふむ。ここまで急速に水質問題が広がっているとは思いませんですな。以前の定期調査では、大元である泉源に異常はないとのことでしたが……」

「これはやっぱり、魔王軍の仕業に違いないわよ! 私の可愛い信者たちが守り、愛するアクシズ教の神聖な温泉を汚すなんて万死に値するわ! この私が直々に見つけ出して、綺麗さっぱり浄化してやりましょう!」

「……いずれにせよ、早急に再調査が必要ですね」

「私は温泉の水質調査と浄化を引き受けるわ。このまま放置して温泉で健康被害が出たら困っちゃうし。あと、犯人が温泉を出入りしてるかもしれないし、そういう不審者がいないかも帳簿を見せてもらって調べるわね」

「よろしくお願いいたします。では私は教団の方々に呼びかけて泉源の再調査と街の警備強化にあたりましょう」

 

そう言って、アクシズ教の最高責任者と、彼らが崇める生きたご神体は二手に分かれることにしたようだ。

その機敏さは、未だかつてないほどだった。

 

「ほら、カズマもめぐみんもそんなところで呆けてないで早く来なさいな! 時間との勝負よ!」

「……お前、普段なら厄介ごとだってわかった瞬間、誰かの後ろに隠れるか一目散に逃げようとするのに、どういう風の吹き回しだよ。変なもんでも食ったのか?」

「失礼ね! アクシズ教の、私の信者たちの危機なのよ! ご神体である私が動かないわけないでしょ! そもそもアクシズ教はやればできるのよ、馬鹿にしないでよね!」

「……普段からこう頼もしかったらいいのに」

「本当ですね」

 

俺とめぐみんは顔を見合わせ、深いため息をついた。

というか、あのプリーストがまともなことを言っているのを見ると、逆に何かとてつもない大惨事の前触れではないかと不安になる。

しかし、乗りかかった船だ。

温泉が入れないままなのは湯治に来た俺としても困る――そう思って、腹を括って付き合い始めたのだが。

 

 

 

 

「ぷはーっ! やっぱり風呂上がりのいっぱいは格別ね! 水質はイマイチだったけど」

「ですが、アクアの浄化魔法のおかげで、ただのお湯としてはなかなかいい湯加減になりましたよ」

「でしょでしょ! 温泉の効能はなくなっちゃうけど、肌荒れとか起こすよりいいわよね! さあ、体が冷えないうちに次いきましょう!」

 

行く先々、ほとんどの温泉が何らかの汚染を受けていた。

アクアはそれを見るや否や、直ちに浄化作業に取りかかる。

そこまではいい。そこまでは女神らしい働きだ。

しかし……。

 

「……なあ、もしかしなくてもお前ら温泉に入りたいだけだろ」

「そ、そんなわけないじゃない。私は温泉が汚染されてたら、身を挺して浄化しないといけないんだから!」

「私はアクアの付き添い兼、温泉の質を身を以てチェックする重要な役目を担っていますので。アクアは無意識に自分の周囲だけを浄化してしまう癖があるので、私が少し離れた場所に入って、水質が完璧に改善されたかどうかを確かめているのです」

「尤もらしいこと言って、のんびり温泉に浸かってるだけじゃねえか」

「だけじゃないわ、お湯を循環させるために、ちゃんとバタ足とかしてるわよ!」

「余計駄目じゃねえか」

 

温泉が汚染されていて肌荒れなどの健康被害が出ているというなら、率先して湯に飛び込んでいるこいつらの肌に何かしらの症状が出てもおかしくないはずだ。

しかし、目の前で湯上がりのフルーツ牛乳を腰に手を当てて飲み干しているアクアと、コーヒー牛乳をストローでちゅうちゅう吸っているめぐみんの肌はというと、信じられないくらいツヤツヤですべすべだ。それはもう温泉の効能で美しい肌をしているようにしかみえなかった。

 

「温泉のマナーも知らないのかよ。というか、浄化が目的なら、服を着たまま湯船に手だけ突っ込んで魔法を使った方が絶対時短になるだろ」

「もちろんマナーくらい知ってるわよ。でもね、それじゃだめなの。全身をドップリ温泉に入れて、私の神聖なオーラを全身から放出しつつ、体全体でお湯をかき混ぜないと浄化効率悪いのよ」

「……なあ、百歩譲ってその理屈を認めるとして、その係俺がやるから交代してくれよ。俺も温泉入りたいんだが」

「適材適所ってやつですよ。それに、カズマも言ったでしょう? レベルが低い冒険者じゃ浄化不足の場所に長く浸かったら体調崩しそうだと。それにアクアを一人にしたら何をやらかすかとも」

 

めぐみんがストローから口を離し、ビシッと俺を指差す。

確かに言った。

確かに言ったが、何も俺が帳簿を調べ上げてる間のんびり湯船につかってろとは言ってない。

アクアが温泉を浄化するまでに時間がかかるのはわかるが、だからって一緒になって長湯したあげく、フルーツ牛乳をうまそうに飲み干さなくってもいいじゃないか、俺の前で。

 

「……ちなみに、湯加減とかどうだったんだよ」

「少し熱めですごくよかったわ! 流石アクシズ教が誇る源泉掛け流しね!」

「ええ、いい感じでしたよ。まあ、最初は水質が悪いのか肌がヒリヒリしましたが、アクアの近くは割と普通のお湯ですので」

「…………やっぱ俺だけ帳簿を確認する係なのはなんか不平等だと思うんだ」

「カズマさんのカズマさんを失いたいならどうぞ?」

「右に同じく。私でヒリヒリする汚染レベルなのです、1時間も入ったらカズマのナニもかもが溶け消えますよ」

 

何それ怖い!?

というか、お前らそんな劇薬みたいな温泉に喜んで入ってて、肌質がむしろ改善されてるってどういう身体の構造してんだよ!

 

「そもそも大前提として、カズマが私たちと一緒に女湯に入れるわけないじゃないですか」

「別に女湯に入るなんて言ってない。男湯か混浴に入りた……いや待て、別に女湯でもいいな。だって男湯にはよく清掃のおばちゃんが出入りしてるし、だったら男女平等という崇高な理念の下、女湯だって調査だって言えば男が出入りしたって――」

「それ以上先のことを口にしたら法の名の下に裁かれますよ」

「ここ、マルチ商法とかが横行してる無法地帯なんだが」

「……そうしたら、裁くのは私の魔法です。混沌とした狂気の渦中、弱肉強食、力こそが正義なのは自明の理です」

 

実質的な極刑じゃないか。

しかし俺はそんな暴君には屈さない……!

どんな困難があろうとも、俺はいつか、女湯という名の神秘のエデンの園を垣間見てやるぞ――。

と、一瞬熱く燃え上がったが、冷静に考えれば、俺が一緒にいるのは色気のないロリっ子と、中身が残念すぎる駄女神。

そんなやつの裸なんぞ見たところで一銭の得にもならないか。

 

「どうしたのカズマ? 悟りを開いたような顔しちゃって。もしかして去勢の覚悟でも決まったの?」

「ちがわい! 誰が自分のナニを犠牲にしてまでお前らの体を見るか!」

「……じゃあカズマはやっぱり、一生お留守番の帳簿確認係ね。それで、何かわかったのかしら、優秀な帳簿係のカズマさん?」

「……一応はな」

 

俺はため息をつきながら、書き留めたメモを取り出した。

 

各店舗の帳簿を照らし合わせた結果、この汚染が始まった短期間に、やたらと複数の温泉宿をハシゴして出入りしている不審な人物が二人いた。

一人は「ハンス」という知らない男。

そしてもう一人の名前は……俺が知ってる名前だった。

名前だけじゃない、声も、顔も、そして体格も知っている。

外見がわかっているなら、街の人や番台に聞けばすぐに辿り着く――はずだったのだ。

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……つ、ついたぁ……っ! ここがアルカンレティアだって失念してた……!」

「ありがとうございますアクア……貴女がいなければ私たちは今頃どうなっていたか……! 本当にありがとうございますアクアぁ……!」

「私、カズマと私の信者たちの間に入ってただけなんですけど。ねえ、どうしてカズマは息を荒げてるの? どうしてめぐみんは私に抱きつくの? ねえ、ねえってば!」

 

途中の道で遭遇したアクシズ教による勧誘攻撃により、俺とめぐみんは精神力と体力の限界を迎えていた。

困惑気味のアクアを半ば盾にするようにして、俺たちは目的の巨大な銭湯の扉を転がり込むように開けた。

そこの番台の人に聞けば、俺が言う特徴に該当する人物はちょうど今、混浴の方で入浴中だそうだ。

 

「よし、よく聞けお前ら。中に、今回の一連の事件の犯人かもしれない奴がいる情報は掴んだ。俺は万が一逃げられた時のために、この出入り口を確認しておく。お前らは中に入って、標的がいるかどうか確認してこい」

「わかったわ。行きましょめぐみん!」

「ええ、行きましょう。疲れを落とすついでに……ふふふ、一般人を装い諜報活動……実に楽しくなって参りましたね!」

「なあ、一応言っておくけど、あくまで温泉を汚染してる犯人を見つけるんだからな? 温泉入り来たわけでもスパイごっこしに来たわけでもないんだからな?」

「もちろんわかってるわ!」

 

アクアはそう言うと、めぐみんと共に意気揚々と暖簾をくぐって、女湯の方へと消えていった。

……本当にわかってんのか?

 

当てにならない二人組を追いかけることすら億劫で、俺は入り口にあるベンチに座る。

どうせしばらくすれば出てくるだろう。

そう思って出入り口を監視していると。

 

「あらカズマくん?」

 

不意に、暖簾が揺れた。

出てきたのは濡れた髪をタオルで拭いながら出てきた女性。

……ウォルバクさんだ。

 

「どうしたのかしら、私のことをまじまじと見て……。そ、そんなに見られるとお姉さん困っちゃうかなーって……」

 

ウォルバクさんはほんのりと頬を染め、少し身をよじるようにして視線を逸らした。

湯上がりの上気した肌と、薄着越しにもわかる豊満なプロポーションが破壊力抜群だ。

だが、俺は冷静に推理を働かせていた。

 

「……もしかしてウォルバクさんてエッチなお姉さんなんですか?」

「いきなりどういうこと!? 流石に失礼すぎないかしらこの子!」

 

……ダイナマイトを目の前にして冷静沈着に思考できるのはごく少数だろう。

どうやら俺は、少数側じゃなかったらしい。

 

「でもいっつも混浴の方に入ってるし……もしかしなくても男の裸体をみたいとか、そういう邪な欲望を――」

「ちがっ、違うから変な誤解をするのはやめて!? なんでか知らないけど、この街の温泉って、女湯より混浴の方が無駄に広くて景色もいいのよ! だから広い方を選んでるだけなの!」

 

それ、十中八九アクシズ教の仕業だ。

裸の付き合いと称して合法的に裸体を拝むため、わざわざ混浴を方を立派に作っているに違いない。

満面の笑みで設計図にサインしているゼスタの姿が目に浮かぶ。

ゼスタさん……グッジョブ!

俺がそんな街の闇に思いを馳せていると、女湯の暖簾からめぐみんとアクアがひょっこり顔を出した。

 

「カズマ、中には誰も……って、お姉さん? 奇遇ですねこんなところで」

「あら、本当ね? 私は温泉巡りをしてたんだけど、もしかして貴女たちも?」

「まあそんなものです。ついでに温泉の調査もしてますけどね」

「……調査?」

 

ウォルバクさんの動きが、ピクリと止まった。

 

「はい実は最近、アルカンレティアの温泉が何者かによって汚染されるという悪質な事件が発生してまして。まだ人為的かも確定はしてませんが、ひとまず温泉巡りをしながら汚染水を浄化してるのですよ」

「へ、へぇ~……そ、そうなのね。それは大変だったでしょう?」

 

ウォルバクさんは、明らかにめぐみんから視線を逸らした。

その顔に張り付いた笑顔は、どこかぎこちなく、引き攣っているように見える。

 

「どうしたの? もしかして湯冷め……いや、温泉の汚染のことが心配になったのね! でも大丈夫! この女神アクア様が、片っ端から浄化魔法で全部の毒を綺麗なお湯に戻してあげてるんだから! それに、この街のアクシズ教の子たちも総出で犯人探しに動いてるみたいだしね!」

「この銭湯のお湯も、少し水質が悪くなり始めていましたので、念のためアクアに浄化してもらいましたが……。お姉さん、その、お姉さんは大丈夫ですか? 温泉巡りをしてたと聞きましたし、何か肌が荒れたとか、体調に異変とかはありませんか?」

「わ、私は大丈夫よ? 全然、平気」

「……そうでしたね。お姉さんはウィズと同等かそれ以上の実力者。愚問でしたね」

「そ、そうね。でも、これから温泉に浸かるときは十分に注意するわね。そ、それじゃあ、私は次の温泉に行こうかしら――」

 

ウォルバクさんは逃げるように言葉を切り上げると、「またね」とひらひら手を振って、足早に銭湯から出て行った。

……その足取りは、湯上がりでくつろいでいる人間にしては、妙に素早く、焦っているように感じた。

俺たちが並んでその背中を見送っていると、めぐみんが少し寂しそうに口を開いた。

 

「……どうせならお姉さんも誘えばよかったですね。一緒に入ってお話ししたかったです」

「そうね。私もそう思うわ。めぐみんはまだ子供だからお酒飲めないから飲まないでいたけど、あの人と一緒に飲み交わせば一人酒せずにすむ――どうしたのめぐみん? なんで私の足を踏んでるの? 痛いんですけど」

「イイエ、ナンデモナイデス」

 

子供扱いされて不服そうなめぐみん。

というか今回の目的は温泉の調査と浄化のはずなんじゃなかったのか。

成り行きで付き合わされているだけの俺とめぐみんはともかく、言い出しっぺでやる気満々だったはずのアクアは、本気で自分が何のためにここに来ているのか忘れているんじゃなかろうか。

 

「よし、じゃあ俺たちもウォルバクさんの後を追うぞ」

「えっ、いいんですかカズマ? いくら後を追うと言っても、混浴はともかく、女湯には絶対に入れませんよ?」

「……俺のことを何だと思ってるんだ? 泣くぞ?」

「まあまあ、いいじゃない。私もカズマの提案に賛成よ! だってお風呂上がりのシュワシュワしたエール、あのお姉さんと一緒に飲みたいし! 早く追いかけましょ――」

「お前、本気で温泉の調査をするって目的忘れてんじゃねえか!! 仲良く一緒にお風呂入って酒飲むのが目的じゃないだろ!」

「わ、忘れてないわよ! 私だって、協力者が多ければ多いほど調査の効率がいいと思っただけなんだから!」

 

そう言いながらも目を泳がせるアクア。

絶対忘れてただろ。

こいつの脳内の8割は今、冷えた酒で満たされている。

 

「はぁ……。まあ今はいいや。アクアのアホは放っておくとして、めぐみん。それよりも、今回はそういう一緒にお風呂に入るとか、そういう話じゃないんだ」

「といいますと?」

「…………俺がさっき帳簿を調べたって言っただろ。今回、汚染されてる温泉に、汚染が始まる直前、あるいは最中に頻繁に出入りしてる不審な人物が二人いたんだ。そのうちの一人が……ウォルバクさんだ」

「………………カズマ」

 

めぐみんが、ピタリと動きを止め、深く俯いた。

表情は見えないが、その小さな肩が微かに震えている。

きっと、大恩人であるウォルバクさんが魔王軍の仕業かもしれない事件の犯人だと言われ、ショックで冷静さを失いかけているのだろう。

俺はフォローを入れるために言葉を継いだ。

 

「大丈夫だ、落ち着けめぐみん。まだお前の師匠が犯人だって決まったわけじゃない。むしろ疑いを晴らすために――」

「今からカズマのカズマを爆裂させてしまってもいいでしょうか」

「……やだ、めぐみんってば大胆……! 公共の場でそんなこと言っちゃだめだろ、ダクネスじゃあるまいし」

「頬を染めないでください気色悪い! というか何をしたらなぜそんな変態的な思考回路になるのですか! 私は、あなたが恩人のお姉さんをダシにして、女湯への侵入という大罪を犯す前に、根本的な原因を絶ってもいいかと聞いたのです!」

「ひどい!!」

 

こんなに真面目に話をしてるのに……

自然と俺の目から、ポロリと滴が流れた。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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