我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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25-4 隠されし…思い出(デュオメモリー)

「カズマ、その、本当に申し訳なかったと思ってます……」

「ツーン」

「ごめんなさい、真面目に調査してくれてるのにカズマのことを変態呼ばわりしてしまって」

「ツーン」

「ほら、カズマ。めぐみんもこう言って反省してるんだし、大人の余裕で許してあげなさいな」

「……俺の心は傷ついた」

「本当に、……私にとって、お姉さんは命の恩人で……思わずカッとなってしまって。私らしくもなく」

 

いや、全然お前らしいと思うぞ。

普段から頭のおかしい爆裂魔法のことばかり考えて、ちょっとでも馬鹿にされればすぐに目を光らせて杖を突きつけてくるくせに。

だが、ここまで素直に、しかも肩を落としてシュンと謝ってくるめぐみんは珍しい。

上目遣いでチラチラとこちらの様子を窺ってくるその姿に、俺はこれ以上いじめるのも可哀想になり、溜飲を下げることにした。

 

「はぁ、しょうがねえなぁ。俺は寛大で慈悲深い大人だから、今回はこのくらいで勘弁してやる」

「よかったです、機嫌を直してくれて」

「…………ところで、その命の恩人ってのはどういうことだ?」

「そういえば、みんなにはちゃんと話していませんでしたね」

 

めぐみんは昔を懐かしむように赤く染まった空を見上げた。

 

「……あれは、まだ私が幼いとき――ねりまきと遊んでいたとき、強大な魔獣に襲われたことがあったのです。そのときに怪我をしたのですよ。意識を失い、目を覚ましたときにねりまきが泣いて無事を喜ぶほどでしたので、相当ひどい怪我をしたのだと思います。それこそ致命傷になり得るレベルの」

 

いつも中二病全開でふざけた言動ばかりのめぐみんが、珍しく静かで、どこか震えるような声で凄惨な過去を語る。

俺は思わず茶化すのをやめ、真剣な表情で彼女の言葉に耳を傾けた。

隣にいるアクアでさえ、いつになく真面目な顔をして黙り込んでいる。

 

「その絶体絶命の時に、たまたま居合わせてくれたのが、お姉さんなのです。薄れゆく意識の中でしたが、あの人が使った圧倒的な爆裂魔法が、黒い魔獣を一瞬で消し去ったのを、今でも鮮明に覚えています。あの人には、返しきれないほどの恩があるのですよ。もちろん、私に爆裂魔法の素晴らしさを教えてくれたこともそうですが」

 

めぐみんが自分の魔力も将来も全て投げ打って、あそこまで狂信的に爆裂魔法に固執する理由。

それは単なる厨二病の延長だってだけじゃなく、自身の命を救った魔法だったってのもあったのかもしれない。

 

「そうだったのか……。でも、ウォルバクさんは逆にめぐみんに助けられたって言ってたが……」

「えっ、そうなのですか?」

「ああ。まあ、めぐみんがそういう恩義を感じてるだろうってことも、あの人はある程度予想してたみたいだけどな。……なあ、本当に何か心当たりとかないのか?」

「心当たりも何も、私はなにも……というかカズマは一体いつお姉さんからそれを聞いたのですか?」

「いつって、宿から出たときだけど。爆裂魔法を撃たないと死ぬって話まで知ってるみたいだったし……」

 

めぐみんが少し考えた様子で俯く。

しばらく考え込んだ後、ふと顔を上げためぐみんの瞳には何かを悟ったような顔をしていた。

 

「カズマ、アクア。申し訳ないのですが、先に宿に戻っててくれませんか」

「何言ってるのよめぐみん、これからみんなで汚染された温泉をガンガン浄化して回るんじゃなかったの?」

「そんなことは言っていなかったような気がしますが。……少し確かめたいことができました」

「はぁ……どうせウォルバクさんのことを追いかけるんだろ?」

 

ため息交じりにそう問うと、めぐみんはこくりと頷いた。

めぐみんが何を思い出したのか、何がわかったのかまではわからない。

けれど、これがめぐみんとウォルバクさんにとって大事なことだろうってのはわかる。

 

「俺たちは別の人の調査をしておく。ほら、ウォルバクさん以外に特定できていない人がいただろ? どちらかと言えば、素性の知れないそちらの人物の方が怪しいと思うんだ」

「確かにそうね。……ねえカズマ、だったらなんで最初からその人のことを追いかけなかったのかしら」

「…………消去法は大事だからな」

「なるほどね!」

「だからめぐみんはウォルバクさんの方を頼んだ、いいな」

「ありがとうございます、カズマ……!」

 

そう言ってめぐみんは、ウォルバクさんが向かった方角へ小走りで背中を追っていった。

……空はすっかり茜色に染まり、そろそろ日が沈む、いい時間だ。

 

「よし、俺たちは帰るか」

「なんでよ! これから、その頻繁に温泉を出入りしてる人を探しに…………ねえ、カズマ、その人って誰なの?」

「一応男性客らしいんだが、それを今から調査しようにも疲れたし、そろそろ夕食の時間だ。今日は帰ってぱーっとやることにしようぜ!」

「そうね、夕食の時間なら仕方ないわよね! 腹が減っては戦はできないし! 乗ったわ!」

 

アクアも満更ではない様子で頷いた。

俺とアクアは、めぐみんの背中を見送った後、今夜の宿へと歩き出した。

 

 

 

 

「ただまー!」

「あっ、お帰りなさいアクアさん! 街の方はどうでしたか?」

「聞いてよゆんゆん! この街の温泉が片っ端から汚染されててね、これはきっと魔王軍の仕業に違いないと思って、この私、女神アクア様がアルカンレティアの温泉に片っ端から入って浄化してきたのよ!」

「……アクアさん、一緒にごめんなさいしにいきましょう」

「いや、ちょっと待ってよゆんゆん! どうして私が謝らなきゃいけないのよ! 私はただただ、純粋に善意でいいことしかしてないわよ!?」

 

宿のロビーに戻った途端に繰り広げられる、アクアとゆんゆんの騒がしいやり取り。

外で感じていた重苦しい空気が、このアホな光景のおかげで一瞬にして吹き飛んでいく。

やっぱり俺たちは、こういう締まらない日常が一番性に合っている気がする。

 

「帰ったのかカズマ。アクアが何か騒いでるが何か問題でも起こしたんじゃないだろうな……?」

「いや、大丈夫だ。それよりも今日の夕食だが……」

「聞いて驚くなよ? なんと最上級の霜降り赤がにの食べ尽くしセットだ! 貴族の家に生まれた私でさえ、ここまでの贅はなかなかないぞ!」

「おおっ!? マジで!? カニ!! もちろん酒の用意も――」

「ああ。アクセルの街から大事に持ってきたアクア特選のシュワシュワと、さっき女将さんが特別にくれた、この土地の美味い清酒もあるぞ」

「!!」

 

豪華絢爛なカニの山と、キンキンに冷えた極上の酒たちを前にして、俺のテンションは限界突破で最高潮に達した。

温泉の汚染調査?

不審者の追跡?

知るか!!

そんなのはどうだっていい!

そんな面倒くさい任務は、すでに俺の脳内から綺麗さっぱり消え去っていた。

今はただ、欲望のままに目の前のカニに食らいつき、美酒に酔いしれることだけが俺の正義だ!

 

「よしっ、お先!!」

「待て待て! まだめぐみんとウォルバク殿が来ていないではないか! 全員揃ってから――」

「あの二人は今頃夕焼けの温泉で水入らずのおしゃべりしてるはずだ。どうせめぐみんは酒なんて飲まないし、積もる話もあるだろ。あの二人のことはそっとしておいて、俺たちは俺たちで楽しくやろうぜ! これ俺のカニ!」

「ああっ、ずるいぞ! それは私が狙っていた――!」

 

俺はダクネスの制止を華麗にスルーし、真っ赤に茹で上がったカニの脚へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

夕闇が迫る温泉街。

少し奥まった場所にある、ひっそりとした露天風呂。

立ち込める湯煙の向こうに、私は一人で湯船に浸かっている、見覚えのある色の髪の女性を見つけた。

 

「お姉さん」

「……あら、めぐみん? また会うなんて奇遇……って訳じゃなさそうね。暗い顔してどうしたの? とりあえず、こっちに来て入りましょう?」

 

振り返ったお姉さんの表情は優しかったが、どことなく困惑が混じっているように見えた。

憧れの人、命の恩人との会話というのは、いつだって少しだけ緊張するものだ。

しかし、今の私の胸を占めるこの重い緊張感は、普段の浮ついた憧れとは全く違う、もっと切実で、張り詰めたものだった。

私はお姉さんの隣に腰を下ろした。

 

「それで、何か話したいことがあるのかしら?」

「……まずは、あのとき、私のことを……いえ、私と、ねりまきのことを助けてくれてありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」

「そんな……私はただ、偶然その場に居合わせただけだし……なんなら、あなたのことを完全に守れたとは――」

「ですが、あの致命傷を負った私を治してくれて、爆裂魔法を教えてくれて。……私にとっては、お姉さんは紛れもなく、一生の恩人なのですよ」

 

どれだけお姉さんが謙遜しようとも、あの時の光景は私の魂に深く焼き付いている。

圧倒的な力で魔獣を消し飛ばし、死の淵から私を引き戻してくれた、あの温かくも強大な魔力。

私にとって、お姉さんは誰が何と言おうと、世界で一番かっこよくて、絶対的なヒーローなのだ。

 

「カズマから聞きましたよ、お姉さんは私のことを恩人だと言っていたと。私にはまだ、お姉さんに恩を返したような立派な記憶はないのですがね」

「……」

 

過度な緊張で、両目が輝く。

この続きを言ったら、お姉さんはどこかへ行ってしまうのではないかと、そんな不安がよぎる。

しかし私は意を決して口を開いた。

 

「お姉さん。あなたは……人ではない存在、ですよね」

「…………何のことかしら。私は人間よ。ちょっと爆裂魔法が使えたりするだけのね」

 

お姉さんは困ったように微笑んだ。

私の言葉を聞いて、拒絶されなくてよかった……

再会したときからら、お姉さんの魔力は人とは違う、異質な力であることには気づいていた――

そのことを黙っていたら、秘密を知ってしまったかのような重圧で心が苦しかった。

しかし、話してしまった今、私の心は少し軽くなったのだ。

お姉さんが今はそう言うことにしておきたいというのであれば、私は深く追及するつもりはない。

いずれ、お姉さんが自分の口で、本当の正体を明かして歩み寄ってくれるその時までは。

 

「……そうですか。どうやら私の早とちりしてしまったようですね」

 

私が一歩引いて頭を下げると、お姉さんは安堵したように小さく息を吐いた。

夕暮れの風が吹き抜け、湯煙がゆっくりと形を変える。

ちゃぷん、と微かな湯の音だけが響き、静かなときが流れる。

……しばらくして、そんな沈黙を破ったのは、お姉さんだった。

 

「ねえ……貴方のその瞳、いつからそんなことになってたの?」

「……2年ほど前ですかね。私が紅魔の里の学園に通っていた頃、前触れなく発現しましたよ。しかし、こんなにかっこいい瞳を見て、先生も友人たちも、そして私も最初は『かっこいい!』と大いに喜んだものですがね」

「さすがは紅魔族って感じね。……めぐみん。貴女の体のことだから、わかっていると思うけれど……」

「はい、わかってます」

「ならいいわ。お風呂でその瞳を見たときに思わず心臓が止まったけれど……」

「大丈夫ですよ。この瞳はもう数年をともにする、謂わば我が半身です。扱いには慣れてきましたから」

「そう、なのね。もし何かあったらすぐに言ってちょうだい、すぐに駆けつけるから」

「ありがとうございます、やっぱりお姉さんは私の恩人ですよ」

 

私の体内に宿る魔力が異常な速度で増えてきていること。

限界に達するまでの時間が、日に日に短くなってきているということ。

私が『邪王真眼』と名付けたこの力が、私の日常を変容させていること。

 

でも、まだ大丈夫なはず……一日か、ギリギリ二日は耐えられている。

そもそも、今はお姉さんと一緒に話して興奮していたり、アルカンレティアという異常な魔境にいるせいで魔力制御が少し難しいだけだ。

アクセルの街の平穏な生活に帰ったら、ある程度は元に戻るはずなのだ。

 

「そう言えば、話は変わるのですが。お姉さんは今回の温泉の騒動について、何か知りませんか?」

「……そ、そうね。特にこれと言って、知ってることは……」

「そうですか。実はカズマが調べた限りでは、汚染された温泉に頻繁に出入りしてる人はお姉さんと、それからもう一人いるらしいのですが……。何か、温泉でよくばったり出会う怪しい人とか、いませんでしたか」

「えっと……ちょっと、よくわからないかもしれないわ」

 

お姉さんは露骨に動揺し、不自然に泳いだ目を明後日の方向へと逸らした。

最近思っていたが、この人は絶望的に嘘をつくのが下手すぎる。

この態度を見るに、たぶんお姉さんは、もう一人の怪しい男の正体を突き止めていて、監視するかのように彼を追っているのだろう。

我が師匠ながら素晴らしい慧眼を持っている……まさに端倪すべからざる人だ。

そして、これ以上私を危険な事件から遠ざけようとしているのもバレバレだ。

まったく、この人は不器用で、優しすぎますよ……。

 

「…………」

「な、なにかしら? そんなにじっと見つめて」

「いえ別に。爆裂魔法を覚えたのにお姉さんのような魔法使いにはなれなかったなと見て思っただけですよ」

「あ、あの、なんだかすごく胸に鋭い視線を感じるんだけど気のせいかなー……なんて。だ、大丈夫よ! あなたはまだ成長期だし、もう少しいっぱいお肉や野菜を食べるようにすれば、身長も、そういうところも大きくなるわよ、きっと!」

「お姉さん、そういうあからさまな嘘はやめてください。虚しさが込み上げて悲しくなります」

 

お姉さんは、本当に嘘がわかりやすい。

私のことを慰めようとしているのはわかる。

……だが今、優しい嘘は、時に胸をえぐり取るような鋭利な凶器へと変容するのだと、私はこの歳にして深く知った。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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