我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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26-4 隻眼の…残像(フラッシュバック)

紫色と緑色が混ざり合った、おぞましい粘体の巨塊。

その巨大な波が、うねりを上げながら俺たちに向かって雪崩れ込んでくる。

猛毒が入り混じった致死の悪臭が爆発的に広がり、巨塊が触れた岩盤やパイプがシュウシュウと不気味な音を立ててドロドロに溶け落ちていく。

 

「ひ、一先ず逃げるぞ!」

「駄目よ! なんとかして食い止めないとただでさえ汚染されてる源泉が取り返しのつかないことになっちゃうわ!」

 

アクアは近くの源泉に手を突っ込んで浄化の魔法を使い始めた。

熱湯で火傷しても、涙を堪えながら魔法を唱え続ける。

しかしハンスはどんどん迫ってきている。

粘性のある体はゆっくりではあるが着実に泉源の方へ浸食していた。

 

「そんなこといってる場合か! 早く逃げないと骨まで溶かされるぞ!」

「でもでも――!」

 

そんなやりとりをしていると、ハンスの体が蠢き始める。

そして、温泉の方への浸食よりも先にこちらへ自分の体の一部を飛ばしてきたのだ。

アクアが浄化魔法をかけ続けているのをうざったく思ったのだろう。

アクアはそれを見て、体が反応できずにいたが――

 

「アクアさん、カズマさん、危ない!! 『トルネード』!!」

「……っ! ありがとゆんゆん!」

「い、いえ! でも速く逃げないと、きっとまた飛んできますよ!」

 

ゆんゆんが風の上級魔法を放って毒弾を弾き飛ばしたが、敵の体積は全く変わらない。

どれだけ巨大なのか、ハンスは自分の体を切り離したにもかかわらず、痛みを感じる様子もなく次の攻撃へと準備を始めた。

 

「き、来ますよ! もう一度……『トルネード』!!」

「何をやってるのですかゆんゆん!」

「な、何って、アクアさんたちを助け……あっ、源泉の方に毒がまき散って……! ご、ごめんなさ――」

「それはどうでもいいのですよ! それよりもどうして詠唱をしなかったのですか! そこは『大気よ、風よ、荒れ狂え!』とか『我が意のままに舞い上がれっ!』とか!何か言わないと駄目でしょう!!」

「この緊急事態に何言ってるの!?」

 

めぐみんが何か言っているが、状況は最悪だ。

この様子じゃ相手の体力切れなんてものはなさそうだし、仮に体力が切れてもアルカンレティアが汚染されて、温泉どころか住むこともままならない場所になってしまうだろう。

どうする……相手は物理攻撃無効、魔法攻撃も効きにくい、触れれば即死の猛毒持ち。

アルカンレティアに猛毒をまき散らしているあいつを処理する方法は――

 

「ウィズ! さっきの魔法であのスライム全体を氷漬けにできないか!?」

「先ほどの人間サイズでしたらなんとかなりそうなのですが、流石にあの大きさになってしまったら――」

「じゃ、じゃあ他の魔法でかさを減らせば――」

「そのときに散らばっちゃう毒はどうするのよ!」

「じゃあウォルバクさん! あんたの魔法で、どうにか吹き飛ばせないか!?」

「難しいわ……。一部を削り取ることはできるでしょうけど、周囲にまき散らすことになるし――」

「どうすりゃいいんだ……あの化け物に弱点なんかあるのか!?」

「あれに弱点はないですよ。小手先の魔法や物理ではどうにもならないでしょう……普通ならですがね」

 

絶望しかけていた俺は、最後の言葉を聞いて思わずめぐみんの方を見る。

眼帯を投げ捨て、顕わになったその目は金色に、爛々と輝いていた。

 

「私の出番というわけです。これほど巨大な的、爆裂魔法の標的としては申し分ありません」

「あんた馬鹿なの!? 爆裂魔法なんか撃ち込んだらどうなるかわかってる!? 弾け飛んだ毒が、アルカンレティアの街中に降り注ぐことになるわ! 死の街に変わっちゃうわ!」

「我が爆裂魔法に不可能の二文字はありません。弾け飛んで散らばるから駄目なのでしょう? なら、話は簡単です。塵一つ、水滴一滴すら残さず、あの巨体を完全に『消滅』させればよいのでしょう?」

「め、めぐみん? 何を言っているの?」

「今日はまだ、私の代名詞である爆裂魔法を撃っていませんからね。溜まりに溜まったこの魔力を、私の全身全霊をぶちかましてあげましょう」

 

ゆんゆんの指摘を聞いてもなお、めぐみんの自信は崩れない。

むしろめぐみんは、ふっと口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「できるのかめぐみん!」

「ふっ、圧倒的な火力で一気に消し飛ばして見せましょう……と、言いたいところですが、何せあの巨体で高い魔法耐性……討伐は可能でしょうが、すべて消滅させるとなると私だけの火力では足りないかもしれません」

「やっぱできないんじゃねえか!」

「焦らないことです。私だけでは、です。ここには爆裂魔法の使い手が三人もいるのですよ」

 

俺が呆然とする中、めぐみんはその愛杖をハンスの巨体へと真っ直ぐに向けた。

……そうじゃないか。

ウィズにウォルバク、そこにめぐみんが合わされば過剰も過剰、オーバーキルで全てを残さず倒しきれる。

めぐみんの一切の揺らぎのない、紅魔族随一の天才としての絶対的な自信に満ちた眼差し。

その異常なまでの覇気に、ウォルバクさんが小さく息を呑んだ。

 

「……やれるのね?」

「お姉さん、それからウィズの協力があれば」

 

ウォルバクさんの静かな問いかけに、めぐみんは大きく頷いた。

その姿を見て、ウォルバクさんは静かに前に出た。

 

「……まったく。可愛い弟子の頼みとあらば、師匠としては断れないわね。ウィズ、ハンスには申し訳ないけれど、ここで倒しておきましょう」

「わかりました! ダクネスさん、よければ魔力の補充をお願いできませんか。先ほど魔法を放った分だけでもいいので」

「街を守るためだ、遠慮せずガンガン吸ってくれ!」

 

魔力の補充が終わると、ウィズもウォルバクも、いつもの雰囲気を完全に捨て去り、凄まじい魔力を放ちながら前に出た。

俺は、その異様な光景を見て、背筋に悪寒が走るのを感じた。

 

めぐみん――紅魔族随一の天才にして、頭のネジが吹っ飛んだ爆裂魔法使い。

ウィズ――魔王軍の幹部にして、アンデッドの最高峰リッチー。

ウォルバク――大魔法を操る、謎に包まれた凄腕の魔法使い。

そんな世界最高峰の魔法使いが三人同時に、最大火力の爆裂魔法の詠唱を開始した。

 

最高最強にして最大の魔法、爆裂魔法の使い手、我が名はめぐみん。

我に許されし一撃は同胞の愛にも似た盲目を奏で、塑性を脆性へと葬り去る。強き鼓動を享受する。

哀れな獣よ、紅き黒炎と同調し、血潮となりて償いたまえ。

穿て――

 

 

「「「『エクスプロージョン』――ッッ!!」」」

 

黄金の邪眼が共鳴した。

 

 

 

 

 

……どれくらい時間が経っただろうか。

耳鳴りが止まない中、俺は咳き込みながらゆっくりと目を開けた。

 

「ふ、ふはははは! 見ましたかカズマ! 私の、いえ、私たちの究極の爆裂魔法を!」

 

バタリと仰向けに倒れ、全身からうっすらと煙を上げながらも、めぐみんが満足げにドヤ顔で笑っている。

その隣では、アクアがぜぇぜぇと息を切らしながら立ち上がっていた。

 

「はぁ、はぁ……! や、やったわカズマ! ハンスは完全に消滅したわ! 私が浄化する手間すら残ってないくらい、綺麗さっぱり消し飛んだわよ! これで完全勝利ね!」

「……お、おお……やったな……」

 

フラフラと立ち上がった俺は、服についた土埃を払いながら周囲を見渡した。

ハンスの姿は、本当に「跡形もなく」消え失せていた。

猛毒スライムの残滓すら、ただの一滴も残っていない。

ウィズも「やりましたね……」とホッと息を吐いている。

 

だが。

俺の視界に映った光景は、完全勝利の余韻を消し飛ばすのに十分すぎるものだった。

 

源泉……いや、源泉だった場所。

俺たちの目の前には、ただただ途方もなく巨大なクレーターが広がっていた。

 

ハンスを毒ごと完全に消し飛ばすためとはいえ、異常クラスの魔法使い三人分の特大火力を一点に集中させた結果……。

アルカンレティアの命綱である源泉自体が、岩盤はおろか、山肌ごと完全に、物理的に消し飛んでいた。

 

当然、こんこんと湧き出ていたはずの温泉のお湯は、一滴たりとも残っていない。

いや、お湯どころか、源泉を汲み上げていた巨大なパイプも、魔道具も、建物も、何もかもが破壊され、ただの焦げた大地と化していた。

 

「…………やっちまった」

 

俺の口から、魂の抜けたような呟きが漏れた。

 

「えっ? どうしたのカズマ? そんな青い顔して。ハンスは倒したし、毒も消えたし、完璧じゃない!」

「馬鹿野郎……周りを見てみろ! 源泉が……アルカンレティアの温泉の源泉が、丸ごと吹き飛んで無くなってるじゃねえか!!」

「……あ」

「こ、これは私の爆裂魔法のせいではありませんよ! お姉さんとウィズの魔法が威力が強すぎたせいで……!」

「いや、どう考えてもお前の魔法が一番強力だったわ!」

 

俺の絶叫に、アクアが周囲を見回し、ようやく事態を把握してアホみたいに口を開けた。

そんな俺たちの耳に、不穏な地鳴りのような音が聞こえてきた。

 

『おい見ろ! 源泉の山が吹き飛んでるぞ!』

『お湯が! 俺たちの街の温泉が完全に枯れてる!!』

『あそこにいる連中だ! あの青髪の女と、眼帯の娘がやったんだ!!』

『許さん……! アクシズ教の資金源を完全に破壊するとは、魔王軍以上の大罪だぁぁぁっ!! 異教徒どもめ、殺せぇぇぇぇ!!』

「ひぃぃぃぃぃぃっ!! な、なんでよぉぉぉっ! 私、一生懸命街のために戦ったのにぃぃっ!」

 

見れば、吹き飛んだ山肌の向こう側から、松明や鈍器、農具を手にしたアクシズ教徒の住人たちが、怒り狂った鬼のような顔でこちらを見ていた。

真の暴徒と化した狂信者たちが、俺たちの方へ向かってきたのだ。

そんな群衆に紛れて、アクシズ教の最高責任者であるはずのゼスタが叫んでいるのが見えた。

 

「カズマ殿っ! 源泉の山を吹き飛ばすのは流石にやりすぎです! いくら私でも、こればかりは教徒たちを止められませんし説明がめんどくさいので庇えません! どうか早く、早く逃げてくださいっ!」

「お前ら、走れぇぇぇぇっ! ――って、今面倒くさいって言ったか!?」

「いやぁぁぁ! 私の子たちの街なのに! 私の可愛い信者たちなのに、なんで私が石を投げられなきゃいけないのよぉぉぉ!」

「アクア、頭を下げろ! 石鹸が飛んできてるぞ! くっ……背中へ執拗に浴びせられる石鹸の礫……なんて恐ろしい攻撃だ……たまらんっ!」

 

俺たちの湯治は、心が安まらないまま終わりを迎えるのであった。

 

 

 

 

後日

 

アルカンレティアの源泉が吹き飛び、街の主要産業である温泉が失われたことで、魔王軍の目論見は完全に成功したかに見えた。

しかし、現実はそうならなかった。

 

破壊された源泉は涸れたわけではなかった。

巨大な爆発によって岩盤が深くえぐられた結果、地殻変動が起きたことで一時的に止まっていただけに過ぎず、地下深くに眠っていた源泉は、数日後には前よりも豊富で質の良い温泉が凄まじい勢いで噴出したのである。

しかも、猛毒に冒されていた地表の部分が、異常な火力によって完全に吹き飛ばされたおかげで、汚染の拡大は防がれていたのだ。

 

結果的に、アルカンレティアの温泉街は以前にも増して大繁盛することになった。

――もちろん、カズマたちが街から追い出され、アクセルへと逃げ帰った後の話であるが。

 

アルカンレティアの奥地に残された巨大なカルデラ状のクレーターについて、街の人間は「あれは、女神の導きによりこの街へ来訪した勇者一行の魔法だ。魔王軍の幹部を討伐した勇者一行のアクシズ教の素晴らしい魔法使いが、我が街を救うために放った魔法の跡だ」と語り継いでいる。

しかし、訪れた魔法学者たちは口を揃えてこう言う。

『いくらなんでも、人間の魔法で山を一つ消し飛ばすなど物理的に不可能である。あれは自然にできたカルデラであり、またアクシズ教徒が観光客を呼ぶためにでっち上げたホラ話だろう』と。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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