我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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第六特異点
27-1 悪魔の…(スカーレット)


「待てーっ! 悪魔の使いめぇぇぇっ!!」

「我らが神聖なる温泉を、あんなド派手に吹き飛ばしやがってぇぇぇっ!!」

「絶対に許さねえ! 捕まえて熱湯コマーシャルの刑にしてやるぅぅぅっ!!」

 

後ろから、血走った目をしたアクシズ教徒の群れが怒涛の勢いで追いかけてくる。

ここは水と温泉の都、アルカンレティアの街の外れ。

源泉を丸ごと吹き飛ばした俺たちは、今まさに街の住人全権を敵に回し、命からがら逃走している最中だった。

 

「ゆんゆん、テレポートの準備を頼む!」

「ううっ……なんで私が、可愛い信者たちからあんなに石鹸を投げつけられないといけないのよ……!」

「どこかの爆裂魔法使いが加減を考えないで温泉ぶっ壊したからだろ」

 

すすり泣くアクアを見て、俺は額の汗を拭いながら大きくため息をついた。

温泉でのんびりカニを食うはずだった湯治旅行は、魔王軍幹部との死闘……というほど命がけではなかったが、とにかくトラブル三昧の末に最悪の結末を迎えた。

 

「ふーはっはっはっは! 我が爆裂魔法に、大地ごときが耐えられるはずがないのですよ! どうですかあの源泉の吹き飛び方! 我ながら芸術的な爆発でしたね!」

「なんでそんなに堂々としてるのよ! めぐみんのせいで逃げるはめになったんだけど! もしこのままアルカンレティアから指名手配されちゃったらどうする気!?」

「指名手配されるとなれば、我が名はさらに世界に轟くことでしょう。これを喜ばずしてどうしろと!」

 

ゆんゆんがめぐみんの胸ぐらを掴んで揺さぶるが、めぐみんは全く悪びれる様子もなく、むしろ胸を張ってドヤ顔を決めた。

……後でこいつは殴る。

横ではダクネスが「ふふっ……大衆から石を投げられる屈辱、たまらん……」などと呟きながら一人で悦に浸っている。

全く、どいつもこいつも協調性と常識ってもんがない。

まあでも、誰一人欠けることなく、全員無事に生きて帰れるのだから、リーダーとしては良しとするべきか。

 

そんなことを思いつつため息をついていると、俺は魔法陣から少し離れたところにいる人に視線を向けた。

今回の騒動で、俺たちを窮地から救ってくれた最大の功労者にして、最大の謎を秘めた女性――ウォルバクさんだ。

 

「ウォルバクさんも急いで魔法陣の中に! 早くしないと追いつかれますから!」

 

俺が急かすと、彼女は少しだけ困ったような、それでいて優しい微笑みを浮かべた。

 

「……先に行っててちょうだい、カズマ君」

「えっ……? 殿をする的なことですか!? まさか、『私をおいて先に行け』とか、『何ならここからまとめて魔法で吹き飛ばしてしまっても構わんのだろう?』的な物騒なことをしようとしてるんじゃ……!」

「ち、違うわ! ……心配しないで。ただ、実はこの旅行の後に、ちょっと寄らないといけない場所があってね。私もテレポートを使えるから、ここでお別れよ」

「それならよかった……。ウォルバクさん、本当に、いろいろとありがとうございました。ウォルバクさんがいなかったら、俺たち今頃あのスライムの中でドロドロに消化されてましたよ」

「いいのよ、カズマ君。めぐみんの頼みだったんだもの、見捨てるなんてしないわ。それに、少し慌ただしかったけど……ふふっ、本当に騒がしくて、楽しい温泉旅行だったもの」

 

俺が深々と頭を下げると、ウォルバクさんはふわりと笑い、チラリと俺の後ろ――騒がしくに佇むめぐみんへと視線を向けた。

めぐみんは愛杖を両手で強く握りしめたまま、何か言いたげに唇を噛んで……思わず一歩、ウォルバクさんの方へ踏み出した。

 

「あの……」

そう言って、彼女はチラリと俺の後ろ――静かに佇むめぐみんへと視線を向けた。

めぐみんは愛杖を両手で強く握りしめたまま、何か言いたげに唇を噛んで……思わず一歩踏み出した。

 

「あの……また会えますよね?」

「ええ。またすぐに会うことになるわ、めぐみん。カズマ君たちも、気をつけて帰るのよ」

「じゃ、じゃあ俺たちは先にアクセルの街に行ってますね!」

「ええ。私も、やらなければならないことを終えたら会いに行くわ」

 

ウォルバクさんがひらりと手を振っている光景が、いつもアクセルの街に変化した。

 

 

 

 

 

 

さて。

アルカンレティアでの騒動が終わってから数日が経過した。

俺は、冒険者ギルドのいつものテーブル席で、昼間からジョッキを片手に完全にだらけきっていた。

 

「ぷはぁぁぁぁっ! 昼間っから飲む冷えたシュワシュワ、最高ぉぉぉぉっ!!」

 

向かいの席では、アクアが顔を真っ赤にしてジョッキをドンッとテーブルに叩きつけていた。

周囲のテーブルでは、他の冒険者たちが昼食をとりながらワイワイと騒ぎ、ギルドの職員たちが忙しそうに立ち回っている。

平和だ……。

どこまでも平和で、堕落しきった、俺の大好きなアクセルの日常がそこにあった。

 

「やっぱりアクセルの街が一番だな……。アルカンレティアのあの狂った洗剤売りの連中を見た後だと、この街の荒くれ者たちがまるで天使に見えてくるぜ……」

「カズマ、私たちは帰ってきてからもう三日もここでダラダラしているんですが」

 

俺がつまみながらシュワシュワを飲んでいると、隣に座っていためぐみんが、呆れたようにため息をついた。

 

「そろそろクエストに行きませんか。最近はゆんゆんと一緒に、街の外の適当な岩山に爆裂魔法を撃つばかりで、どうにも張り合いがなくてつまらないのですが!」

「誰があんな死線を超えた直後に働くか。俺は今、猛烈な労働アレルギーなんだよ。それに、魔王軍の幹部を討伐したりいろいろしたおかげで、何もしなくても生きてけるだけの貯蓄が――」

「あー、それなんですけど」

 

めぐみんが、ジト目で俺を見た。

 

「アルカンレティアでの報酬は結局、ハンスを倒した功績と、私が源泉を吹き飛ばした修理費用と相殺されて、一文も手に入ってないですよ。ギルドカードの残高、確認しましたか?」

「なっ……俺たちの英雄としての報酬が……!? いや、でもあの巨大温泉施設を復興させる莫大な金を、全額自腹で払えって言われなかっただけマシだったのか……?」

「それにですね、カズマが現実逃避している間に、そこの駄女神が高級シュワシュワを浴びるように買いあさってますよ。年代物のヴィンテージボトルでしたので、かなりの金額が――ってカズマ? 聞いてますか?」

 

俺は両手で耳を強く塞ぎ、目を閉じて完全な現実逃避の体勢に入った。

聞こえない。俺には何も聞こえない。俺の資産はまだ安泰なはずだ。

 

「カズマー! 聞こえていないふりはやめてください! クエストに行きましょう! 今日の私は、レッドドラゴンでも一撃で粉砕できるほど魔力が漲っているんです!」

「……最悪、ダクネスに頼めば何とかしてくれるだろ。あいつ、大貴族のダスティネス家の令嬢なんだから、実家から仕送りとかあるだろうし」

「この男、いよいよリーダーとして落ちるところまで落ちましたね!? 仲間のスネをかじる気満々じゃないですか!」

「こうなってる原因は大体、アクアの浪費癖とお前の爆裂魔法による器物損壊のせいだからな!? ダクネスとゆんゆんを見習って、少しは日頃の行いをだな……って、あれ? ダクネス? お前さっきからクエストボードの前で何やって――」

 

俺が視線を向けると、ダクネスがギルドの壁一面に張られたクエストボードの前に立ち尽くし、一枚の羊皮紙を見つめながら肩で荒い息を吐いていた。

 

「はぁ、はぁ……『凶暴なグリフォンの群れの討伐』……空からの鋭い爪と嘴による、容赦ない連続攻撃……くっ、私のこの肉体は、果たして何秒その猛攻に耐えきれるだろうか……いや、いっそ空高く連れ去られて、そのままヒナたちの餌食として巣に……っ!」

「おい変態、ギルドの真ん中で一人で勝手に興奮するな! 周りの冒険者の反応を見ろよ、『あ、ダクネスは今日もいつも通りだな』ってもはや誰もドン引きすらしてくれなくなってるから!」

「こ、興奮してにゃい! 私はただ、騎士としてやりがいのある任務を――」

「言い訳はいいから座れ! 大体お前の攻撃は空飛ぶ相手になんか絶対当たらないだろ!」

 

俺がダクネスの首根っこを掴んで席に引き戻している間にも、横ではアクアが立ち上がり、扇子の上で水を踊らせる「花鳥風月」の宴会芸を披露し始めていた。

ギルドの酔っ払い冒険者たちから「おおーっ!」「アクアちゃん今日も冴えてるねぇ!」「こっちのテーブルにも来てくれよ!」と歓声と小銭が飛んでくる。

 

「あっ、おひねりは結構です。私は芸人じゃないので――」

「いや、もらえよ! これで今日の飲み代は稼げたはずなのに、どうしてそこで断るんだよ!」

「そりゃ女神にはプライドってもんがあるのよ。宴会芸で人々から直接金銭を要求するほど、私は落ちぶれてはないわ。神への奉仕は無償の愛でなければならないの」

「お前のその無駄なプライドのせいで、近々ガチでクエストに行かなきゃいけなくなりそうなんだけどな!」

 

というか、一番最初にギルドで冒険者登録したとき、アクアが真っ先に乞食してたの忘れたのだろうか。

横では、ゆんゆんがおずおずと「あの……そんなにお金がないなら私、一人で薬草採取のクエスト受けてきましょうか……?」と気を遣ってくれている。

本当にうちのパーティーの連中はゆんゆんの爪の垢を煎じて飲むべきだ。

 

そんなことを思いつつ、俺たちがいつものようにバカ騒ぎをしていたのだ。

この後、とんでもない騒動に巻き込まれることなど知らずに――

 

 

 

 

 

カンカンカンカンカンッ!!

 

突然、ギルド内にけたたましい鐘の音が鳴り響いた。

ただの鐘ではない。魔物の襲撃を知らせる、緊急事態を告げる警報の鐘だ。

一瞬にして、ギルド内の空気が凍りついた。

冒険者たちがジョッキを置き、一斉に武器を手に取って立ち上がる。

 

「なんだ!? 魔物の襲撃か!?」

「み、皆さん! 聞いてください、緊急事態です!!」

 

ざわめくギルド内に、受付嬢のルナさんが血相を変えて奥の部屋から飛び出してきた。

ルナさんの声は、恐怖で微かに震えていた。

そのただならぬ様子に、歴戦の冒険者たちも息を呑んで次の言葉を待つ。

 

「た、ただいま、街の監視塔から報告がありました……! 街の正門に向かって、強力な魔物が二体、接近しています!」

「二体? なんだ、たったの二体かよ。そんなの、俺たちでタコ殴りにしてやるぜ!」

「違います! ただの魔物ではありません! 向かっているのは悪魔でして……しかも、おそらく上級悪魔クラスだと思われます!」

「上級悪魔が二体同時だって……? おいおい、嘘だろ」

 

血の気の多い冒険者の一人が笑い飛ばそうとするが、引きつった笑いにしかならない。ルナさんの表情も全く晴れないままだ。

その絶望的な報告を聞いて、ギルド内の冒険者たちの背筋を嫌な汗が伝い落ちた。

俺も例外ではない。ようやく平穏なニート生活を取り戻したばかりだというのに、どうしてこうも次から次へと厄介事が舞い込んでくるのか。

 

「さらに……さらに報告によりますと、その二体の悪魔は人間の幼い女の子を、人質に取っているそうです」

「「「なんだってぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

その瞬間、ギルド内が今度は怒りの叫び声で揺れた。

ルナさんが悲痛な顔で両手を強く握りしめると、ギルド内が今度は怒りの叫び声で揺れた。

冒険者たちが一斉に武器を掲げ、怒号を上げる。

ダクネスも、大剣を構えて瞳を燃やしていた。

 

「なんという卑劣な……! 幼い少女を人質にして街に迫るなど、騎士として断じて見過ごせん! カズマ、我々も行くぞ! 私が最前線で盾となり、その悪魔どもの残虐な攻撃をこの身一つで受け止め、いたぶられ、蹂躙されることで時間を稼ぐ間に――」

「何を言っているのよダクネス。相手は悪魔なんでしょ? だったらアークプリーストである私が、ちょちょいのちょいで浄化して倒してあげるわよ。だからわざわざあなたが前に出て殴られなくても大丈夫よ!」

「……そうか」

 

アクアのド正論に、ダクネスがなぜかしょんぼりし出した。

それは騎士としての本懐を果たせなかったことによる悲しみか、それとも己の欲望を満たすチャンスを奪われただけか。

俺は前者であることを信じたい。

 

「とにかく私に任せてちょうだいな! 女の子を人質に取ったこと、あの世で後悔させてやるわ!」

「ふっ、私が出るまでもありませんでしたね。まあ、万が一がありましたら私に任せてください。爆裂魔法ですべてを灰燼に帰してあげましょう」

「おい馬鹿! 街の近くで爆裂魔法なんか撃ったら、人質ごと吹き飛ぶだろうが! お前は黙って引っ込んでろ!」

「なっ、心配無用ですよ! 私が悪魔だけをピンポイントで消し飛ばす、神がかり的なコントロールを見せてあげましょう!」

「めぐみんにそんな器用な真似ができるわけないでしょ! それに巻き込まれたら街の防壁も消し飛びます! カズマさん、私がめぐみんを押さえつけてますから、早く女の子を助けに……!」

 

ゆんゆんが必死にめぐみんの杖にしがみつくのを見届け、俺たちはギルドを飛び出した。

外に出ると、アクセルの街の上空から、バサリ、バサリという巨大な羽音が聞こえてきた。

上空を見ると、太陽を背にして、二つの巨大な影が街の広場へと降下してくるのが見えた。

 

「き、来たぞ! 街の中に降りてくる……!」

「全員、武器を構えろ! いつでもいけるように囲め!」

 

広場に集まった冒険者たちが息を呑み、震える手で腰のエモノの柄に手をかけた。

アクアやダクネスも敵を睨み付け、すぐにでも飛び出せるように構える。

 

地響きを立てて、冒険者たちの前に舞い降りた二体の悪魔。

土煙が晴れ、その姿が露わになる。

 

一体は、天井に届きそうなほど巨大な、漆黒の翼を持つ異形の悪魔。

もう一体は、長身で細身の、露出度の高いローブを纏った女の悪魔。

そして……その巨大な悪魔の頭の上に、ちょこんと跨っている、小さな影。

 

ギルド内に、唾を飲み込む音すら響きそうなほどの緊張感が張り詰める。

巨大な悪魔が、低く恐ろしい声で口を開こうとした……その時だった。

 

「とわぁっ! とーちゃく!!」

 

悪魔が口を開く前に人質が元気よく飛び降りた。

そして、そのおかっぱ頭の幼女は、頭の上でビシッとポーズを決めながら。

 

「我が名はこめっこ! 紅魔族随一の魔性の妹! でっけえゴブリンたちを使役せし者! ねえちゃんに会いに来たよ!」




※ウォルバク、自分が魔力切れに近いことを忘れている件

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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