我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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27-4 暴食の…幼女(シスター)

「ねーちゃん、腹へった。お肉食べたい」

「こめっこ、さっきダクネスたちからケーキもクッキーもたらふくもらったばかりでしょう?」

「でも凄く遠くから来たからお腹減ってる。背中とお腹がくっつきそうだよ」

「ずっと俺の頭の上に乗っかってただけだろうが。歩いてすらいねえのに、お前さんの食欲は誰に似たんだか」

 

その無邪気すぎる声の主は、ソファーの上で完全にくつろぎきっている小さな闖入者だった。

両手でお腹をさすりながら、まるで何日もご飯を食べていないかのような悲壮感を漂わせている。

そんなこめっこの言葉に呆れつつ、俺は誰とは言わずに視線を横へと流した。

ホーストも、そして他の大体の奴らも、自然と同じようにめぐみんの方をじっと見つめていた。

 

「何ですか。何で私の方をそんなじっと見ているのですか?」

「いや、年が離れてても姉妹ってやっぱり似るんだなーって。ブラックホールみたいな胃袋とか」

「誰がブラックホールですか! 私は常に淑女らしく、腹八分目を心がけていますよ!」

「嘘つけ、この前カエルの唐揚げ十人前を一人で平らげてただろ」

 

俺が事実を指摘すると、めぐみんは顔を赤くしてプイッとそっぽを向いた。

アーネスだけは「主様の健啖ぶりは大変素晴らしいことです」と一人でうんうん頷いていた。

悪魔がそんな甘やかし方をしていいのかと疑問に思っていると、めぐみんは誤魔化すようにコホンと一つ咳払いをして、立ち上がった。

 

「仕方ありませんね。私も丁度お腹がすきましたし、ギルドでご飯でも食べに行きますか」

「めぐみんお前、さっきまでギルドで山盛りご飯食ってなかっただろ」

「あれはおやつですよ。さ、行きましょうこめっこ! 稼ぎ頭の私が存分に食べさせてあげましょう!」

「やたっ! デザートは別腹、お肉は主食! 甘いものを食べた後はしょっぱいの!」

 

誰が稼ぎ頭だ、と俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。

確かにめぐみんの爆裂魔法のおかげで大物を倒し、かなりの賞金を稼げたのは事実だ。

だが、それ以上に周囲の施設を破壊して賠償金を請求されたりするトラブルメーカーだろ。

俺がジト目を向けていると、めぐみんが俺のそばに寄ってきて小声で囁いた。

 

「カズマ、すみません。私の妹がご迷惑をおかけして……後で私のへそくりから出しますから少し貸していただけないでしょうか」

「……なんでそんな妹の前でかっこつけてるんだよ。普通にすればいいだろ」

「し、しかし毎月の仕送りの際に家族へ手紙を送っているのですが、近況報告を兼ねて私の活躍を英雄伝風にアレンジして書いていまして」

「……つまり、お前がパーティーの稼ぎ頭で、大黒柱になってるって設定なのか?」

 

めぐみんが恥ずかしそうにこくりと頷いた。

姉としての威厳とこめっこの夢を崩すことはできない、ということらしいが、手紙になんてかいて送ってるんだコイツ。

俺が呆れていると、こめっこがトテトテと俺の足元にやってきてズボンを引っ張った。

 

「なぁに、ねーちゃんの男。二人でないしょばなし?」

「なっ、何を言ってるのですかこめっこ! カズマは私のパーティーメンバーで、そのような関係では……カズマも何ニヤニヤしてるのですか!」

「こめっこちゃん。お姉ちゃんの手紙に、俺のこと何かいてあったか教えてくれないか? お兄ちゃんが何でも買って食べさせてあげよう」

「わーい! お肉お肉!」

 

俺が悪い笑顔でしゃがみ込むと、こめっこは満面の笑みでバンザイをした。

 

「こめっこ!? そんなろくでもない男の言葉に惑わされないでください! カズマもまるで不審者のそれと同じでしたよ!?」

 

慌てて止めに入ろうとするめぐみんの顔が茹でダコみたいに真っ赤になっている。

それはもう、照れ隠し以外の何物でもない微笑ましい反応だった。

 

「それでこめっこ。お姉ちゃんの手紙には俺のことなんて書いてたんだい?」

「えっとね、冒険者仲間の男の人はねーちゃんのことをいつも助けてくれるって」

「お、おう、そんなこと書いてたのか。へえ……」

「それから、いつも危ないところを機転で乗り越えるすごい人って書いてあったよ」

 

予想外にまともな、というかベタ褒めの評価に、俺は思わず言葉に詰まった。

めぐみんは顔を覆って、耳まで真っ赤にしてしゃがみ込んでしまっている。

普段は憎まれ口ばかり叩いているくせに、親への手紙にはそんなことを書いていたのか。

なんだか変なことを考えていた俺が恥ずかしく思えてきた。

 

「あとね、普段は頼りないけど、いざって時はどーんって頼りになる男だって」

「……そうかそうか。しょうがねえなぁ。お兄ちゃんがこめっこに何でも食わせてやる」

「ほんと!? しゃばしゃばしたおかゆ以外でもいい!?」

「お、おう? もっと肉とかいいやつ食べさせてやるよ。ジャイアントトードの唐揚げとかおいしいぞ。食えるときに食わないとお姉ちゃんみたいに発育が――」

 

めぐみんが俺のことをそんな風に思ってくれていると思うと、にやつきが止まらない。

だが、こめっこの口から飛び出した「しゃばしゃばしたおかゆ」というワードに胸が痛む。

と、そういう思いでの発言で深い意味はなかったのだが、その直後に背後から肩を強く掴まれた。

 

「おい、その続きを詳しく聞こうじゃないか。お姉ちゃんみたいに、何ですか?」

「いや、貧乏で栄養が足りなくて発育が遅れてるんだなって。めぐみんはゆんゆんと違ってこれから成長期来るはずだから気にするなよ」

「何でそんな哀れみの視線を向けてくるのですか! 別に食べ物が不足してたとかではないですから! 確かに最近は父の産業が赤字続きですが、昔はそこまで貧乏ではなかったのですよ!」

 

疑わしい視線を向けながら、俺たちはこめっこをつれてギルドに向かったのだった。

それに、悪魔とかめぐみんの妹の件とか、諸々説明しないとだしな。

 

 

 

 

ギルドの扉を押し開けると、中は相変わらずの大盛況だった。

しかし、俺たちの後ろにいる悪魔たちの姿が見えた瞬間、ギルド内の空気がピリッと凍りついた。

冒険者たちが一斉に武器に手をかけ、受付嬢たちがカウンターの奥で悲鳴を上げそうになる。

しかし、そんな一触即発の空気を、無邪気な足音がぶち壊した。

 

「わあーっ! いっぱい冒険者がいる! すっごく広くて……食べ物のいい匂いがする! じゅるり」

「あっ、待ちなさいこめっこ!」

「おいガキんちょ、走ると転ぶぞ! それに、人にぶつかって危ねえ……って聞けよガキんちょ!」

 

元気に走り回るこめっこと、その後を追いかけるめぐみんと悪魔。

その様子を見て、冒険者たちは完全に毒気を抜かれていた。

やがて、警戒を解いたギルド内に、いつもの賑やかな喧騒と笑い声が戻ってくる。

めぐみんに代わって俺たちが説明して回っていると、いつの間にか冒険者たちは次々とこめっこの虜になっていった。

 

「へえー、このちっこいのがめぐみんの妹か! いやあ、姉ちゃんに似て元気で可愛いじゃねえか!」

「よく一人で来たねえ! お腹空いてるのか? ほら、この唐揚げ食うか?」

「食べるー! 冒険者のお兄ちゃんありがとう! みんなこの街のことを守ってるんでしょ? ねーちゃんから聞いてるよ! 頼りがいがあってすごくかっこいい人だって!」

「お、おう!? そ、そうか? がはは、もっと食え食え! こっちのポテトもやるぞ!」

 

こめっこが満面の笑みで唐揚げを受け取ると、強面のおっさん冒険者がデレデレに顔を崩した。

「俺、こんなちびっ子になつかれたの初めてだ……!」と嬉しそうに顔をにやつかせるヤツ。

「俺のことを怖がらないでかっこいいって言ってくれたぞ!」と泣いて大喜びしている輩。

その無邪気な愛らしさは、まさにアクセルの荒くれ者たちの天敵だった。

 

「すごいわね……あのこめっこちゃんが、一瞬でギルドのアイドルになっちゃったわ」

「めぐみんが妹ながら、あの恐るべき愛嬌と世渡り上手なところは末恐ろしいわね」

「しかし助かりました。皆のおかげで食費がかなり浮きそうですよ。これで私のへそくりも守られました」

「いや、あいつの胃袋どうなってんだよ。さっきから冒険者たちのツマミを片っ端から平らげてるぞ」

 

俺たちはその光景を、少し離れたテーブルから呆然と眺めていた。

受付のお姉さんたちまでもがカウンターから出てきて、特製ジュースを与えて甘やかしている。

家でお菓子をあれだけ食べたというのに、唐揚げやら何やらをもらっては食べている。

まるで限界がないようで、ピンクの悪魔を彷彿とさせる食いっぷりだ。

 

「育ち盛りで良いことではないか。さすがはめぐみんの妹と言ったところだな」

「ホントだよ。小さい頃から一緒に遊んでるあの子がもうこんなに立派になっちゃって、あまりの成長の早さに驚きだよ」

「お前ら、完全に親目線になってないか?」

 

ねりまきも目を細めて優しくこめっこを見守っている。

俺はこめっこのブラックホールのような胃袋に戦慄していたが、紅魔族と悪魔は全く動じていない。

むしろこれが平常運転だというような雰囲気を醸し出し、優雅にお茶を啜っていた。

結局その日は、ギルド中の冒険者たちから食べ物を恵んでもらい、大満足で屋敷へと帰還することになった。

 

 

 

 

 

そして、翌日の昼下がり。

 

「……というわけで、今日もタダ飯にありつけると思ってギルドに来たわけだが」

「ええ。こめっこの愛嬌があれば、今日の食費もゼロで済みそうですね」

「おいお前ら、完全に味を占めてるじゃねえか。冒険者たちも財布の紐が緩みっぱなしだぞ」

 

俺たちは味を占めて、再びギルドの定位置に陣取っていた。

今日も今日とて、こめっこの周りには大量の料理と、それを取り囲む野郎どもが集まっている。

こめっこが街を歩けば、通りすがりの屋台のおばちゃんたちまで食べ物を恵んでくれる状態だ。

だが、今日はただ料理を与えるだけでなく、おっさんたちが何やら熱く語り合っていた。

 

「こめっこちゃん! 俺は昨日、一撃でオークを3匹もなぎ倒したんだぜ! すげえだろ!」

「なんだその程度! 俺なんかこないだ、巨大なグリフォンと単独でやり合って追い払ったんだ!」

「すごい! アクセルの冒険者さんたちはみんな強いんだね!」

「へっへっへ、まあな! この街の平和は俺たちが守ってやってるようなもんよ!」

 

どうやら冒険者たちは、こめっこに見栄を張って武勇伝合戦を繰り広げているらしい。

小さな女の子に「すごい!」と目を輝かせてもらえるのが、たまらなく快感なのだろう。

次から次へと誇張された自慢話が飛び出し、ギルド内は謎のマウントの取り合いになっていた。

俺たちが呆れて見ていると、一人の冒険者が気を遣ったのか、俺たちのテーブルを指差した。

 

「いやいや、俺たちも強いが、一番すごいのはこめっこちゃんの姉ちゃんたちだよな!」

「そうそう! 魔王軍の幹部を何人も倒してるし、めぐみんの爆裂魔法は間違いなく最強だぜ!」

「あんなすげえ魔法使い、他にはいねえよな! こめっこちゃん、自慢の姉ちゃんだろ?」

「えっ? ねーちゃんが?」

 

めぐみんは「ふふん」と得意げに胸を張り、ドヤ顔でこめっこの反応を待っていた。

妹に褒め称えられ、姉としての威厳を完全に見せつける絶好のチャンスだ。

しかし、こめっこは骨付き肉をくわえたまま、不思議そうに首を傾げた。

そして、一切の悪意がない、純粋無垢なトドメの一撃を放ったのだ。

 

「でも、里の大人たちが言ってた。ねーちゃんはネタ魔法しか使えないって。何も稼げないニートだって」

 

ピタリとギルド内の喧騒が、嘘のように一瞬で静まり返った。

俺もダクネスも、めぐみんにかける言葉が見つからず、ただ冷や汗を流していた。

 

「ねーちゃんは、男をたぶらかして貢がせる魔性の女」

「違いますよ!? 普通に私の実力ですから! というかこめっこにそんなことを教えて大人は誰ですか! 言いなさい!」

「ぶっころっりー」

「あの男は本当に余計なことしかしないですね! 里に帰ったら一番に爆裂魔法を食らわせてやりましょうか!」

「め、めぐみん……その、大丈夫……?」

「ゆんゆん。私は、とても冷静ですよ。ええ、とても!」

「全然冷静じゃないわよ! 杖がミシミシ言ってるし、魔力が漏れ出てるわよ!」

 

ゆんゆんが恐る恐る声をかけるが、めぐみんは俯いたままワナワナと肩を震わせていた。

そして、限界まで達した感情を爆発させるように、ギルド中に響き渡る大声を上げた。

 

「……落ちこぼれなんかじゃありませんとも! 私は紅魔族随一の天才魔法使い、めぐみんです!」

「本当に落ち着いてよ! 落ちこぼれっていうのも、成長フラグをわざと建ててエール送ってるだけだから」

「私の胸が成長してないとでもいうのですか!」

「何でそうなるのかな!?」

 

怒りで目を爛々と輝かせ、魔力を迸らせるめぐみん。

めぐみんは立ち上がると、クエストボードへ向かって猛然とダッシュした。

 

「こめっこ! あなたが里の連中に吹き込まれた嘘っぱちを、今すぐ私の実力で訂正してあげます!」

「わっ! ねーちゃん、お肉の骨落とした! まだしゃぶれるのに!」

「カズマ、すぐに出発しますよ! 私がこの街でいかに恐れられているか、見せつけてやります!」

「はあ? 出発ってどこへだよ。今日もタダ飯食って帰るだけじゃなかったのか?」

 

俺が抗議の声を上げるのも虚しく、めぐみんは一番難易度が高そうな討伐依頼をひっぺがした。

「さあ、ホースト、アーネス! 荷物を持ってついてきなさい!」と高らかに宣言した。

 

……えっ、俺もついてく感じか?

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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