我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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28-3 樹海への…片道切符(トラップ)

アクセルの街を遠く離れた山腹で、廃教会を文字通り跡形もなく消し飛ばした俺たちは、夕暮れ時の冒険者ギルドへと帰還した。

 

「ふはははは! 見ましたかカズマ! あの見事な爆裂魔法! 天を焦がす真紅の光柱、そして山肌をも震わせる圧倒的な破壊力!」

 

俺のドレインタッチである程度魔力が回復したとはいえ、さっきまで完全に魔力切れで力尽きていたくせに、いまや絶好調なめぐみん。

ただでさえゆんゆんがいないせいで帰り路が物凄く長いのに、ずっとこの調子でやかましい。

妹に自分の渾身の魔法をほめてもらったのがよほど嬉しかったのだろうが、これからギルドで言い渡されるだろうことを考えると、背中越しでも伝わってくるめぐみんのドヤ顔が腹立たしい。

 

 

 

ギルドの重い扉を押し開けると、いつものように酒と肉の匂い、そして冒険者たちの喧騒が押し寄せてきた。

ホーストの肩車に乗ったこめっこが「ごはんだー!」と歓声を上げ、その横でアーネスは「あまり動かれると落ちてしまいますよ!」と甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

俺たちはその間に、クエストの報告と報酬を受け取るため、受付カウンターへと向かった。

カウンターの奥には、何やら難しい顔をして書類仕事に追われている受付嬢のルナさんがいた。

 

「おかえりなさい皆さん。ルーシーゴーストの討伐、お疲れ様でした」

「ルナさん、クエストの報告に来たぞ。例の廃教会のゴースト、無事に討伐してきたから」

「ふふん、私の冒険者カードを見るがいいですよ」

「……そう、ですか。ではこちらを」

 

俺が冒険者カードを提示すると、ルナさんは顔を上げ、にっこりと完璧な営業スマイルを浮かべた。

だが、その笑顔の奥にはいつもはないドス黒いオーラが渦巻いている。

ルナさんは手元の分厚い書類の束から、一枚の羊皮紙をスッと抜き出し、俺の目の前に滑らせた。

 

 

……そこにはクエスト報酬の文字はない。

わかっていたとしても、こう、くるものがあるな。

俺は賠償金の金額を確認して、涙目になりながら頭を抱えてカウンターに突っ伏した。

 

「どうしましたカズマ。もしかして私の偉大な活躍に対する報酬の金貨が重すぎて、持ってくるのに疲れてしまったのですか?」

「寝言は寝て言ってくれ!」

 

どうして危険を冒してクエストに出かけるたびに俺たちの資産は減っていくのだろうか。

そんな無意味な自問自答をしながら、俺はめぐみんにその紙を突き付けた。

めぐみんは請求書を手に取り、その文字と数字をなぞるように読んだ後……ピタッと動きを止めた。

 

「なんですか、これ。建造物損壊に対する賠償請求書……? クエストの成功報酬は……?」

「はい。めぐみんさんたちのパーティーが、討伐対象のゴーストごと、廃教会を山もろとも綺麗に消し飛ばしたということで……。今回のクエスト報酬は、この賠償金のほんの一部として相殺させていただきます。残りの金額については、当面の間、カズマさんたちのクエスト報酬から天引きという形で……」

「ま、待ってください! どうして私たちがクエストを終えて早々、まるで準備していたかのようにこの紙きれを渡すのですか!」

「それは、めぐみんさんの取柄と言ったら爆裂魔法しかないですし、めぐみんさんが討伐されたということなら地縛霊をあの廃教会ごと爆裂魔法で――」

「失礼な! 今日は一応ちゃんと説得して成仏させたのですよ!」

「えっ!?」

 

素っ頓狂な声を出すルナさんが、まるで信じられないと言わんばかりの様子で俺の方を見てきた。

うん、普通に考えたら俺も信じられない。

 

「大丈夫ですよルナさん。爆裂魔法であの教会を消滅させたのは事実ですから」

「ですよね……。めぐみんさん、嘘をついてはだめですよ。いくら常連の冒険者とはいえ、こういう契約関係の話をしているときに虚偽の申告をされては信用にかかわりますから」

「ち、違いますよ! 私はちゃんと爆裂魔法を使わずに、話し合いをもって成仏させたのですよ! 嘘じゃないですから! 信じてください! カズマもちゃんと説明してあげてください! これじゃあ私が嘘をついて見栄を張ろうとしているだけに見えるじゃないですか!」

 

多分めぐみんはオオカミ少年の話を聞いたことがないんだろう。

めぐみんが「クエストを達成したというのに、こんな仕打ちはありえませんよ!」とルナさんの胸ぐらをつかんでいると、隣のテーブルで冒険者のおっさんたちから串焼きを貰って食べていたこめっこが、もきゅもきゅと口を動かしながらこちらを振り向いた。

 

「ねーちゃん」

「こ、こめっこ……!」

 

妹の声に、めぐみんはハッとして顔を上げた。

 

「そうですよ! こめっこ、見ましたよね!? 私が幽霊を成仏させたところを。そのあとあの凄まじい魔法を放ったところを!」

「うん、お空はピカピカだったけど、おばけはその前に消えちゃってたよ?」

 

こめっこの、悪気の一切ない、透き通るような声がギルドに響いた。

 

「えっ」

「ほーら聞いたでしょう! こめっこが証言したように私は爆裂魔法を使わずに成仏させ――」

「でも、どかーんってしたとき、おばけも誰もいなかった。お肉も出ないし、敵も倒してないし……あれ、ただのきれーな花火だったね」

「こ、こめっこ? いいですか、あの魔法は紅魔族でも私しか習得していない最上位の――」

「ねーちゃんって、おっきな花火屋さんなの?」

「ぐふぅ……!」

 

めぐみんは文字通り血を吐くような悲鳴を上げ、胸を強く押さえてその場に崩れ落ちた。

完全に白目を剥いている。

HPだけでなく、MPまでマイナスに振り切っているようで――それすなわち、死を意味していた。

 

「我が、爆裂魔法が……花火……」

「カズマ! めぐみんにリザレクションが効かないの! ヒールをかけても反応してくれないの!」

「主様!? しっかりしてください主様! どうか、どうか正気を保ってください!」

「おい、このガキ……悪気がない分、タチが悪りぃぞ」

 

アクアが魔法を何度もかけ、アーネスが慌ててめぐみんを揺さぶり、ホーストが巨大な図体を丸めて同情的なため息をつく。

そんな中、こめっこは深々と頭を下げていた。

 

「うちのあねがすみません」

「なんてできた妹ちゃんなんだ! 俺たちは気にしてないから謝んなくったっていいんだぞ!」

「そうだぞ。ほれ、こめっこちゃん。こっちのから揚げも食うか? おじさんのおごりだ!」

「俺のパフェもやるぞ! 遠慮しないでいっぱい食え!」

「わーい! おじちゃんたち、ありがとう! 冒険者ってごはんいっぱいくれるんだね!」

 

こめっこの周りには次々と集まる冒険者たち。

ニコニコと満面の笑みで食べ物を受け取るこめっこに、荒くれ者の冒険者たちは「ぐふっ……」「天使か……」とデレデレに顔を崩していた。

このギルドの連中は、本当にこめっこに弱い。

いや、このギルドの連中だけじゃない。

今やこの街の皆がこめっこの魅力に取りつかれていた。

そんな平和な光景を、少し離れたカウンターの奥から、じっと見つめている人物がいた。

ルナさんの目が、獲物を見つけた鷹のように、鋭く、そして妖しく光った。

 

(……使える)

 

ルナさんの心の声が、俺にははっきりと聞こえた気がした。

……嫌な予感がする。

 

 

 

 

冒険者ギルドには、長年誰も受けたがらない、厄介なクエストが存在する。

報酬はそこそこだが、面倒くさい、汚れる、単純に危険すぎる、割に合わない……そういった理由で放置され続け、掲示板の端で埃を被っている依頼の数々。

通称『塩漬けクエスト』。

 

ルナさんは手元のバインダーに挟まれた、分厚い「塩漬けクエスト」の束をぽんと叩くと、優雅な足取りでカウンターから出てきた。

そして、冒険者たちに囲まれてパフェを頬張るこめっこの背後に、ふわりと忍び寄った。

 

「あらあら、こめっこちゃん。美味しい?」

「うん! おねーちゃんも食べる?」

「ふふっ、ありがとう。でもお姉ちゃんは大丈夫よ。一人で食べていいのよ」

「やったー! ありがと! はぐっはぐ……」

「ふふっ……ねえ、こめっこちゃん」

 

ルナさんは、食べ物を一心不乱に詰め込んでハムスターのようになっているこめっこの目線に合わせてしゃがみ込むと、周囲の冒険者たちをぐるりと見渡した。

 

「ここにいるお兄さんたちはね……泣く子も黙る、アクセルの街の凄腕冒険者なのよ」

「そうなんだ! みんなすごいね!」

「いやぁ、あっはっは! それほどでもないんだけどな! まあ、俺たちはなんていったってあの機動要塞デストロイヤーを討伐したくらいだ!」

「そうそう! 魔王軍の幹部のデュラハンが来た時も、俺が足でヤツのことを弄んでやったさ」

「すごいすごい!」

 

こめっこの尊敬のまなざしに、デレデレになった冒険者たち。

ルナさんはそれを無視して、こめっこに向かってさらに囁いた。

 

「そんなすごいお兄さんたちがね……強ーい魔物をバッタバッタと倒して、街の平和を守るかっこいいところ。……こめっこちゃん、見てみたいわよねぇ?」

ルナさんの悪魔の囁き。

こめっこの動きがピタリと止まり、その真っ直ぐな瞳が、周囲の冒険者たちに向けられた。

 

「うん、見たい!」

 

こめっこの声は、ギルドの喧騒を一瞬で打ち消すほど純粋で、そして無邪気だった。

しばらくして冒険者たちが震える口で話し出す。

 

「えっと、本当は俺の実力を見せてやりたいところだが……」

「あっ、俺はちょっと今日はお腹が痛くなる予定があるからこの辺で……」

「お兄ちゃんたち、つよいの? べてらん?」

 

そんな声をかき消すように、キラキラと輝く純度100パーセントの尊敬と期待の眼差し。

それは、見栄っ張りでプライドだけは一人前のアクセルの冒険者たちにとって、絶対に逃れられない呪いの呪縛だ。

 

「お、おう!」

「と、当然だぜ! 俺たちはベテラン中のベテランだからな!」

「こめっこちゃんの前で、無様な姿は見せられねえ! どんなクエストでも持っちまいな、ルナちゃん!」

 

逃げ場を失った冒険者たちは、顔を引きつらせながらも、己の虚栄心を満たすために声を張り上げた。

待ってました、とばかりにルナさんが立ち上がる。

 

「まあ、頼もしい! さすがはアクセルが誇る冒険者の皆様ですね! では、こちらのクエストをお願いします!」

 

ドンッ!!

ルナさんがカウンターから持ってきた、分厚い羊皮紙の束をテーブルに叩きつけた。

舞い上がる埃。黄ばんだ紙。それは間違いなく、長年放置されていた悪夢の「塩漬けクエスト」群だった。

 

「なっ……これ、鳥もちスライムの群れの掃討じゃないか! 武具がべちょべちょになるし、窒息するかもしれないから誰も受けないやつだぞ!」

「こっちはクレイジーアリゲーターの繁殖地の調査!? 死ぬ! 精神的に死ぬやつだこれ!」

「おい、俺のところには狂暴化したマンドラゴラの引き抜き作業が来てるぞ! 耳栓しても三日は耳鳴りが止まらないって噂の……!」

 

先ほどまで誇り高く胸を張っていた冒険者たちが、クエスト書の内容を見て次々と悲鳴を上げる。

ギルド内は一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

冒険者たちが青ざめた顔でルナさんを非難しようとするが。

 

「お兄ちゃんたち、がんばれー! かっこいいところ、応援してるね!」

 

こめっこが両手を振って無邪気に応援すると、冒険者たちは「お、おう……任せとけ……」と涙目で引き下がるしかなかった。

恐るべきロリっ子の支配力。そして、それを利用したルナさんの冷酷なまでの策謀。

俺は戦慄しながら、自分たちのテーブルで息を潜めていた。

目立ってはいけない。今、あのルナさんと目が合えば、間違いなく俺たちもあの地獄のデスゲームに参加させられる。

俺は気絶しているめぐみんを盾にするように身をかがめ、こっそりとギルドの出口へ向かおうとした。

 

「あら、カズマさん」

 

背後から、氷のように冷たく、甘い声がかけられた。

俺の肩がビクッと跳ねる。

振り返ると、黒いオーラを放つルナさんがいた。

 

「カズマさんたちのパーティーにも、もちろん特別なクエストをご用意していますよ? ああ、そうそう。もしこのクエストを受けていただけたら、先ほどの賠償金はギルドの方で補填させていただきますよ」

「……!」

 

つまり、このクエストを受ければさっきの請求は取り消してくれるというのだ。

なんて魅力的で悪魔的な提案なんだろうか。

俺は立ち止まって、このクエストを引き受けるかどうか考え――

 

「このクエスト、受けさせていただきましょう!」

「あっ、お前!」

「ふっふっふ、我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操りし者! 私たちに依頼するということは、それはもうとんでもないモンスターなのでしょう! 先ほどの失態は帳消しになるというのであればなおさらです! さあカズマ、こめっこにいいところを見せるためにも受けましょう!」

 

俺が答える前にめぐみんが依頼を受け取った。

さっきまで精神的ダメージで死んでたくせに、挽回の機会がやってきたとたんに調子のいいやつだ。

そう思っていると、首を傾げるこめっこが立っていた。

 

「ねーちゃんのパーティーは、もっとすごいのやるの?」

「ええ、そうよ。こめっこちゃんのお姉ちゃんは、自称『紅魔族随一の天才』なのよ」

「誰が自称ですか! 正真正銘紅魔族随一の天才なのですよ!」

「そんなこめっこちゃんのお姉さんだもの、普通のお兄さんたちが受けるようなクエストじゃ満足できないですよね?」

「ええ、ええ、その通りなのですよ! 一般冒険者がやる仕事など、私たちには役不足! 我が魔法を生かすために、魔王軍の幹部でもドラゴンでもかかってくるがいいですよ!」

「じゃあそんなめぐみんさんにはこちらのクエストを」

 

先ほどまで白目を剥いて倒れていたとは思えないほどの勢いで、高らかに宣言するめぐみん。

ルナさんから手渡されたばかりの古臭い羊皮紙。

俺は嫌な予感――これに関わると絶対にろくなことにならないという確信に近い予感に突き動かされ、めぐみんの手からその依頼書をひったくった。

 

「おい待て、めぐみん! 賠償金が帳消しになるなんて美味すぎる話があるわけないだろ!」

「カズマ失礼ですよ! 私たちのこれまでの功績を正当に評価し、挽回の機会をくれたのです! それに、ここで引いては、こめっこの中で私は一生『おっきな花火屋さん』のままなのですよ! それだけは……それだけは阻止せねばならないのです!」

 

めぐみんの目は血走っており、もはや何を言っても無駄な状態だった。

俺は深いため息をつきながら、ひったくった依頼書に目を落とした。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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