「なんですってええぇぇェェーーっ!!」
そんな絶叫が響き渡るギルド。
見ると、ギルドのカウンターで案の定揉めているアクアが受付のお姉さんの胸ぐらをつかんで、何やらいちゃもんをつけていた。
ああ……関わりたくないなぁ……
「なんで5万ぽっちなのよ! 私の捕まえたキャベツって50はいたはずよ! なのにどうしてたったこれだけなのよ!」
「そ、それが非常に申し上げにくいのですが、アクアさんの捕まえてきたのはほとんどがレタスでして、この時期のレタスは旬じゃないですし買い取り価格がキャベツの10%くらいで……」
「なんでレタスが混じってるのよぉーっ……アイタッ!?」
「おいやめろよ、ギルドのお姉さん困ってるだろ! すいませんお姉さん、コイツ引き取りますね」
どうしてアクアはいっつもこう問題を起こさないと気が済まないんだろうか。
俺は泣きじゃくるアクアの首根っこを捕まえて俺たちのテーブルへと連行する。
「あァァァんまりよォォオォーっ! 今回は何も悪いことしてないのにこんなのって、こんなのってないじゃない!」
「そう言ってもギルドの人に掴みかかるなよ。警察のお世話になるぞ」
「でもでも! 私、クエスト報酬が相当な額になると思って昨日で持ってた全部使い切っちゃったんですけど! ていうか、大金入ってくるって見込んで、ここの酒場に10万近いツケあるんですけど! このままじゃあそこにいる怖い借金取りの人たちにつれてかれちゃうんですけど! 強制地下労働施設送りになるのはいやーっ!」
半泣きのアクアが指す方を見ると、そこにはナイフを舌で舐めて血を吹き出す借金取りさんが。
何でこいつは後先考えないんだろうか……頭が痛くなってきた。
……ここで俺が代金を代わりに払えば済むことだろうが、それじゃアクアは何も学ばないだろう。
いや、むしろ俺に泣きつけばなんとかしてくれるという思考になってしまうに違いない。
だから俺は――
「じゃ、頑張って務めてきてくれ」
「いやぁああぁっ!! 見捨てないでよカズマ様ぁっ!」
「いや、10万くらいだったら10日かそこらで労働終わるだろ。お勤め行ってこい。さっき聞いたが独房飯ってのは中々馬鹿にできないらしいぜ? 金欠になったら毎度お世話になりにいくリピーターもいるらしいし」
「そこまで落ちぶれたくないんですけどっ!! お願いよ! お願いおねがい!!」
「そう言ってもなぁ、今は拠点のためにお金貯めたいし……ほら、いつまでも馬小屋はいやだって話したろ?」
俺、サトウカズマには夢がある。
マイホームを持ち、安定した不労所得で余生を大人しく優雅に過ごしたい……と。
通常の冒険者は安定を求めずあちこちを飛び回るため拠点を持たないことが多いのだそうだが、どうせこのメンバーで魔王討伐をできるだなんて無理、絶対無理。
魔王討伐なんて諦めている俺は、そういう危ないことを別の転生者に任せて隠居する予定だ。
そもそも俺なんて最弱職の冒険者だし、仲間は揃いに揃ってぽんこつもぽんこつ。
俺が唯一頼りにしているゆんゆんなら魔王討伐なんて偉業を成し遂げてくれるかもしれないが、俺たちと一緒にいる限りそんなことにはならないだろう。
むしろそれでいいとすら思っている。
みんな死なずにのほほんとささやかな日常を謳歌できればそれで。
そう思っているとアクアが泣きそうな顔ですがりつた……ゆんゆんに。
「ねえええぇお願いよゆんゆんっ! ゆんゆんしか頼れる人がいないのよーっ! お願いケチなカズマの代わりにお金貸してちょうだい! この前のキャベツでいっぱい稼げた大黒柱のゆんゆんだけしかお願いできないの!」
「わ、私だけが、頼れる……存在…………っ!! わ、わかりました! いくらですか、私、アクアさんのためなら借金肩代わりしますから!」
「そ、そこまでは求めてないっていうか、流石にそれは重いんですけど……と、とりあえず5万エリス貸してほしいなーって……ちゃ、ちゃんと返すからね?」
ゆんゆんの圧力に逆に屈したアクアがタジタジになりながらもお金を受け取るアクア。
そしてその受け取ったお金を借金取りの人へ……
お前、女神としてそれでいいのかよ。
冷ややかな視線を向けているとアクアがフラフラと俺の方にやってきて、ガシっと肩をつかんで。
「カズマ、クエストに行きましょう。今すぐに!」
「いや、でもまだ俺、キャベツの報酬もらってないんだが……」
「あのね、このままじゃあ私、いけない気がするの」
すごく深刻そうな顔だった。
と言うわけで、アクアの借金を返すべくクエストを受けようと掲示板の前に立っているのだが……
「なんでよおおぉぉおおーーっ!!」
本日二度目の絶叫が響き渡るギルド。
今回はアクアがやらかしたわけじゃなく、俺も思わず声を上げてしまった。
「何で高難易度のクエストばかりなんだ! ここは駆け出し冒険者の街じゃなかったのか!?」
いつもはカエルの討伐やゴブリンの討伐など、低難易度のクエストが多い掲示板だが、今日は様子が違う。
そこに張ってあったのは高難易度クエスト。
この街の冒険者じゃ手に負えないような依頼ばかりだ。
ましてやこのパーティーメンバー。
俺以外は全員上級職なのに、まともなヤツが一人ってどうかしてんだろ。
一人は一発屋、一人は宴会芸……って俺のパーティーはお笑い事務所か!
そんなことを考えていると受付の方からルナさんがやってきた。
「すみません、実は最近魔王の幹部が周辺に出没するという目撃情報が相次いでまして」
「魔王軍幹部!? ……って、そう言えばそんな話聞いたことあったな。だ、大丈夫なのかこの街」
「その、特にこちらの街に何かしようとしている様子はないとのことで……ですが、魔王軍幹部の強大な力のせいか弱い魔物が一斉に息を潜めてしまって、低難易度のクエストが少ないんですよ……」
もしかしてあのとき、俺が俺たちには関係ないって言ったのがフラグだったのか!?
まあ俺はキャベツ狩りの報酬でかなり稼げたし、関係ないって言ったのはあながち間違えじゃない気がするが。
そう思っているとアクアがルナさんに掴みかかり。
「なんですってっ!? せっかくクエスト受けて借金返そうとしたのにどうしてくれるのよ!!」
「私たちに言われても困ると言いますか……! そ、その、こちらにバイトの求人はありますが……」
「…………いただくわ」
そう言ってバイトの求人を読み出すアクア。
まあ、労働意欲があるってのはいいことだとは思う。
ただマイナスからのスタートだからな、褒めると増長するんで何も言わないでおこう。
そう思っているとめぐみんが。
「カズマ、カズマ!」
「カズマです」
「アクアが金欠なのでしょう? ここは何かクエストを受けようではありませんか! ちょうど新品のマナタイト製の杖の調子も確かめたいですし、このクエストなんてどうでしょう!」
「何かいいクエストあったのか?」
「マンティコアとグリフォンの討伐依頼です」
「却下だ! 誰がそんな危険なクエスト受けるか! というか危険な割にしょっぱいぞこのクエスト」
「そうですね……じゃあ別の持ってきます」
「持ってこなくていいぞー。むしろ持ってくんな」
この中にあるクエストの中で一番難易度高いくせに100万エリスいかないってどうなってんの?
キャベツの収穫の半額以下なんだが。
めぐみんが持ってきたクエストを元あった位置に戻そうとしていると今度はダクネスが。
「カズマ、カズマ!」
「カズマです」
「魔王軍幹部のせいなら仕方ない、ああ仕方ない! 仕方ないからこのブラッドファングという魔物を倒して一攫千金といこうではないか!」
「いかない。というか何も仕方なくないだろ」
「しかしアクアにはお金が必要なのだろう? 私なら大丈夫だ、今日は鎧を新調したからな、防御力には期待していてくれ! そして、あわよくば魔王軍とばったり出くわしてヒドい辱めを……どうしようカズマ!」
「はいはい、カズマです」
「楽しみで体の震えが止まらない!」
「今あわよくばとか楽しみとか言って……」
「言ってない」
想像力豊かなのか息をハアハアさせてるし、そんな説得力が皆無なんだが……
それにもしそんなことになったらいろいろと面倒くさそうだ。
高レベルのモンスターも魔王軍幹部も一生関わらないでおくに限る。
「とにかく行かないからな。そのクエストは受けないから元の場所に戻してこい」
「全力で断る! 私の夢を邪魔してくれるな、女騎士というのは仲間を守るのもそうだが、魔王やその幹部に辱められるというのも仕事の一つだ。というかむしろ女騎士を志す者は皆全てそれを本懐として就くのだ! そうに決まっている!」
「騎士が全員お前みたいなのであってたまるか! 他の真っ当な女騎士さんに謝れ! そんでそれをさっさと元の場所に……! くっ、このっ!!」
ダクネスからクエストの紙を奪おうとするが、なかなかガードが堅くて奪い取れない。
というかこの前『私は神に仕えるクルセイダーで……』みたいなこと言ってたくせに、魔王軍幹部に辱められることに興奮してんじゃねえよ!
本当はスティールで一発なんだが、もうあの惨劇は繰り返したくない。
そんな一心でダクネスとクエストの奪い合いを繰り広げているとでいると。
「あ、あのアクアさん、これはどうですか? 一緒にご飯を食べたりお話しするだけって書いてありますよ! 時給で1万エリスって書いてありますよ!」
「なるほど、中々いいお仕事じゃない! 報酬も独り占めできるし丁度一日で全額借金を払えそうね! 私これにしようかし……あっ、あああああああっっ!! 何するのよカズマ!!」
俺はダクネスのクエストを奪い取るのより先にアクアの持ってる紙を奪い取り、真っ二つに引きちぎった。
「誰だこんな変なクエスト張っつけたヤツは! 出てこいゴルァ!! うちの純粋なボッチとアホが危うく引っかかりかけたぞ!」
「純粋なボッチってどういう意味!? 喧嘩売ってるんですか!? 紅魔族は売られた喧嘩は買うんですよ!!」
「誰とは言ってないのに自覚あるじゃないですか。そんなことより、人を疑うことを知らない我が純粋なボッチ同胞をどういう目に遭わそうとしてたのか、今なら爆裂魔法はなしで勘弁してあげますから名乗り出るがいいです!」
俺とめぐみんは立ち上がった。
純粋なアホとボッチをよくない道へと誘おうとしていた悪を滅ぼすため。
しかしそれの何が気に入らなかったのか、ゆんゆんは目を真っ赤に輝かせながらめぐみんに掴みかかった。
「うわああぁぁああっ!!」
「ちょ、掴みかからないでください! 私はただあなたを害そうとした主犯を捕まえようと思って……! 図星を突かれたからと言って怒りに身を委ねないでください! 紅魔族たるもの、常に冷静な思考を持ち合わせなくては!」
「めぐみんだって貧乳とか言ったら怒るくせnイタイッ!? ごめ、ごめんってめぐみん! もう言わないから髪を引っ張らないで! 髪の毛は反則だからぁ!」
今日も仲良く喧嘩している二人。
そしていつも通り負かされてしまったゆんゆんは涙目である。
それを尻目に見ながら、俺は油断したダクネスからクエストの紙を奪い取った。
「あああっ! 私のクエストがぁ……」
「まだ受注してないから誰のでもないわ! いいか、俺たち駆け出し冒険者は大人しく街の中で静かーに過ごしてた方が良いに決まってる。死んだら元も子もないしな」
「私、蘇生魔法つk――」
「余計な口出しするな。黙ってバイトしろ!」
「なんでよおおぉぉおォーっ!!」
そーゆーわけで。
借金を何とかしようと土木工事のバイト募集や内職道具販売店を巡る、アクアのゼロエリスから始めるバイト生活が始まろうとしていた。
ちなみに俺はキャベツ狩りで100万ちょい稼いだからな。
魔王軍幹部がどっかいくまでは適当に遊ぶことにした。
ストーリー進行の早さどうですか?
-
もっとはやく(伏線など要所に絞って書く)
-
ちょいはやく(アニメ各話ごとに~1万字)
-
今で丁度いい(アニメ各話ごとに2万字)
-
もっと深掘り(アニメ各話ごとに2万字~)