我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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29-2 氷の魔女の…昏き過去(メルヒェン)

こめっこが帰ったと思ったら、ウォルバクさんと再会した。

興奮冷めやらぬ間に、アクアは唐突に走り出す。

 

「待っていなさい悪しきアンデッド! 今すぐ浄化してあげるわぁぁぁぁっ!」

「あ、コラ待てアクア! お前、ちゃんと説明聞いてなかったんだろうが!」

 

猛ダッシュで裏路地へと駆け出していくアクアに俺は必死に声を張り上げた。

たしかに、ハンスとのやりとりでウィズは魔王軍の幹部だと暴露した。

けど、ウィズは泣きながら俺たちに『自分は魔王軍には敵対しない代わりに、魔王城の維持結界の仕事以外は一切しない。戦いに無関係の民間人を巻き込むようなことは絶対にしない』って説明していたはずだ。

だからこそ、俺たちも(アクアが忘れていたのをいいことに)ウィズの正体を黙認し、今まで通りに接してきたのに。

 

「アイツ、どうして普段は家でぐーたらしてるくせにこんなに足速いんだ!」

「カズマ、急ぎましょう! アクアを野放しにしたら、ウィズが消滅させられてしまいます!」

「ああくそっ! 今日はこれから家でゆっくりする予定だったってのに……! 行くぞお前ら!」

 

俺はアクアが走っていった方向、ウィズの店に向かって全力で走り出す。

そのあとに続いて三人も急いでついてくるが、ウォルバクさんだけは愛想笑いを浮かべて走るそぶりを見せなかった。

 

「……どうやら私はお邪魔みたいね? 別の用事もあるし、私はここで失礼させてもらおうかし――」

「何を言っているのですかお姉さん! あなたの友人がピンチなのですよ!」

「ぴ、ピンチって、大げさじゃない?」

「大げさなことありませんよ! アクアはアクシズ教徒だと知っているでしょう! この調子だと狂犬と化したアクアがあっという間にウィズのことを浄化してしまいますよ! それを止めるために、人数は多いに越したことはないのです!」

「で、でも、ウィズもそれなりの実力者ではあるし……って、ちょちょっとめぐみん!? 手を、手を離して……! ひ、引っ張らないでぇ!?」

 

だが、そんなウォルバクの右手を両手でガッチリと握り、有無を言わさず走り出すめぐみん。

年上のお姉さんが、小柄な紅魔族の少女にズルズルと強制連行されていく。

道行く人々が俺たちの方を振り返る――主にお姉さんのたぷんたぷんと揺れる双丘に対しての視線がうるさいが、今は構っている余裕はなかった。

 

 

 

 

あいつのことだから道に迷って少しくらい遅れるんじゃないかと期待したが現実は非常だ。

俺たちがウィズ魔道具店に辿り着いた時、威勢のいい声が聞こえてきたのだ。

 

「リッチー!! 女神アクアが直々に天罰を下しに来たわよ! さあさあ! アクセルとこの世界の平和のため、神妙に成仏しなさ――」

 

しかし、その台詞は不自然に途切れた。

急いで店に飛び込むと、店内の光景を見て言葉を失った。

 

「い、いらっしゃいませぇ……。カズマさんたちも……今日は、ずいぶんと賑やかですねぇ……」

 

薄暗い魔道具店のカウンターの奥。

そこにいたのは、笑顔を浮かべるウィズ……ではあったのだが、体が透けていたのだ。

 

「ま、まさかドア開けた瞬間に魔法使ったのか!? 流石に問答無用で除霊するなんて思ってなかった……」

「ち、違うの、カズマと一緒にしないで頂戴な! 私は何もやってない……ちょっとあんた、大丈夫なの!?」

 

そういうアクアは、殴り込みに来たはずだが、持っていた杖を放り出し慌てた様子でカウンターに身を乗り出した。

どうやら本当にウィズに手は出していないらしい。

というか、普段からアンデッドを目の敵にしているが、流石に長らく一緒にいるウィズがここまでボロボロだと心配の方が勝るらしい。

 

「仮にもアンデッドの王なのよ! 息してるだけで周囲の生命力を吸い取るようなリッチーが、なんでそんな消えかけのロウソクみたいな状態になってるのよ!?」

「酷いですアクア様……、私、そんなことしませんよぉ……」

「何があったのよ、ハッキリ言いなさい!」

「す、すみません……。実は、知り合いのバニルさんがお店に来まして……」

「バニル……?」

 

聞き慣れない名前に首を傾げるアクア。

だが俺とめぐみん、それからウォルバクはというとデジャブを感じていた。

そして、その先の言葉を聞くまでもなく、何があったのか見当がついた。

 

「あー、なるほど。完全に理解したわ。つまり、また変なガラクタ集めてきてお仕置きされたんだろ」

「が、ガラクタじゃないです! 画期的な魔道具を大量に仕入れたんですよ! ――素晴らしい魔道具なのにどうして数時間に及ぶお説教と、破壊光線をされなくちゃいけないんですか……」

「……なんだ、そういうことだったか」

「もう、心配しましたよ……」

 

その話を聞いて、先ほどまで心配と緊張が入り混じっていたダクネスとゆんゆんの表情は安堵に代わる。

だが、それぶち壊すように、状況を飲み込めていないアクアが再び声を上げた。

 

「ちょっと待って! ウィズの知り合いかもしれないけど、ウィズをこんな風にできるのは私くらいよ! そのバニルってやつももしかしなくても魔王軍なんんじゃないの! そんな危険分子、アクセルの街に置いておけないわ! やっぱり私が今ここで浄化――いたい!」

「はぁ、お前は何でもかんでも暴力で解決しようとするなよ」

「カズマには言われたくないわ! 相手は魔王軍のアンデッドよ!」

「そういって、本当はウィズがそんなことするような奴じゃないってのはわかってるだろ」

「それは……そうだけど……」

 

さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、アクアは肩をすぼめながら視線を逸らす。

よくウィズの店に押し掛けてはお茶して帰ってくるアクアに限って、ウィズのことを心から嫌いだなんて思ってはいないはずだが、女神としての本能ゆえか、それを認めたくないのだろう。

 

「おいウィズ。アクアが暴れる前にハッキリさせとこう。なんでウィズみたいな優しいやつがわざわざリッチーになって、魔王軍の幹部になんてなったのか。……話せるか?」

「別に魔王軍に入るためにリッチーになったとかではないですよ。ただ、私がアンデッドになったのは……昔、一緒に冒険をしていた大切な仲間を救うためだったと言いますか……」

「救うため?」

 

いつもはぽんこつで赤字ばかり出しているこの店主から、シリアスな過去が語られるとは想像もしていなかった。

俺だけでなく、さっきまで騒いでいたアクアや他の面々も、水を打ったように静かにウィズの次の言葉を待っている。

半透明の体を少し縮こまらせながら、彼女はかつての悲壮な出来事をゆっくりと口にした。

 

「実はベルディアさんに、仲間の一人が死の呪いをかけられてしまって。アクア様がいれば解呪してくれたのでしょうけど、あいにく王都の凄腕のプリーストであっても死の呪いは強力すぎて解けず……呪いを解くには、術者を倒すか、説得して解かせるかしかなかったんです。だから私自身がアンデッドの王になって、魔王城に殴り込みをかけたんです」

「な、殴り込み!?」

「あ、あの時はベルディアさんに解呪してもらうために本当に必死で、若気の至りといいますか……ベルディアさんをボコボコにして解呪を要求しまして――」

 

ベルディアといえばあのセクハラデュラハンだが、やはり実力は魔王軍幹部として一級だったことを思い出す。

そんなベルディアが、ウィズにボコボコにされたという衝撃の事実に、俺たちは揃って唖然とするしかなかった。

それだけ当時の彼女が仲間のために必死だったということなのだろう。

 

「それで……呪いを解除することを対価として、魔王さんから直接、幹部にスカウトされたんです。でも、私は人間を傷つけたくなかったので、『魔王軍は戦えない者、戦わない者は絶対に襲わない』という不戦条約を交わして……。今はただ、魔王城の結界の維持だけを仕事として請け負っている状態なんです」

「……わかったわ。その半透明の哀れな姿に免じて今日のところは見逃しといてあげる」

「ありがとうございますアクア様」

「勘違いしないでよね。これからもあんたが不審な行動しないか監視しにこの店に来てあげるわ。少しでも不審なことしたらすぐにでも浄化してあげるんだからね」

 

……ほとんどツンデレじゃねぇか。

床に落ちていた女神の杖を拾い上げ、パパンッとスカートの埃を払うアクア。

一件落着だ……と、思ったが。

 

「どうしたんですか?」

「いんや、何でもない。ちょっと違和感が引っかかったっていうかな」

「アクアさんは意外とアンデッドにも優しいとか?」

「いや、それじゃないんだが」

 

俺は、店の隅っこで気まずそうにしているウォルバクへと視線を向けた。

確か、俺たちがアルカンレティアに出発する前、ウォルバクとこの店を訪れたときにウィズは言っていた。

ウォルバクさんとは、昔同じ職場で知り合ったと。

 

ウィズの昔の職場。

俺はてっきり冒険者としての職場……つまりパーティーが同じだったと思ってたが、そうじゃなかったとしたら?

 

ウォルバクさんの強さはこの前のハンス戦で分かったが、それこそ爆裂魔法を使えるような魔法使いなんて世界中を見ても数えるほどだろう。

言い換えれば、こんな燃費の悪いネタ魔法を覚える余力があるのは、ウィズを筆頭とした魔王軍幹部級の実力者と言ってもいい。

めぐみんみたいなレアケースはともかく。

 

つまり、ウォルバクさんもウィズとタメを張るレベルだし、魔王軍幹部級の実力者。

いや、むしろウォルバクさんまで幹部なんじゃないだろうかとまで思いつつある。

思い返せば思い返すほど、ウィズとの会話も、ハンスとの会話も、どこか挙動不審だったように感じる。

俺がジッと怪訝な視線をウォルバクさんを見つめると。

 

「……私のことじっと見て、どうかしたのかしらカズマくん? 私の顔に、何かついてる?」

「……いや、何でもないです。ただ、ウォルバクさんもこんなことに付き合わせて悪かったなって」

「いいのよ……。ウィズも誤解が解けて、本当に良かったわ」

 

藪蛇だな。

俺はこれからゆっくり平和な日常を過ごせればそれでいい。

余計なことを聞けば、どんな大事に巻き込まれるかわかったもんじゃない。

ウォルバクもそうだが、バニルってやつもウィズにお仕置きできるくらいだし幹部の可能性は十分にある。

だが、仮に幹部だとしたところで、俺たちと一緒にハンスの討伐をしてくれたし、ウィズと同じような立場だろう。

俺は心の平穏のため、そう思い込むことにした。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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