我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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29-3 混沌なる…日常(オーディナリー デイズ)

ウィズの店での騒動が一段落し、俺たちは屋敷へと向かって歩いていた。

その道中、隣を歩くウォルバクさんに向かってめぐみんが。

 

「ところでお姉さんはいつまでアクセルの街に滞在するのですか?」

「えっと、実は未定なのよね。強いて言えば目的を果たすまで……かしら」

 

……熱い視線を感じる。

なぜかウォルバクさんの意味深な視線がチラリと俺の方へと向けられた。

……なんだろう、このやたらと熱を帯びた視線は。

なんですかウォルバクさん、もしかして俺に気があったりします?

背筋に妙な汗が伝うのを感じた。

 

「目的……。一体何をするのですか? もしよければお手伝いしますよ。どうせカズマとアクアは冒険に出たがらないでしょうから」

「おい、勝手に決めつけんな。俺らはインドアな趣味してるだけだ。なあアクア」

「ヒキニートなカズマはともかく、私はギルドに行くわよ」

「ヒキニート言うな。というかお前はシュワシュワ飲むためにギルドに行くだけだろ」

 

めぐみんはため息をつき、呆れたような視線を俺たちに向けた。

そして、そんな俺たちの反論を完全にスルーするかの如く、めぐみんは再びウォルバクさんへと顔を向ける。

 

「と言うわけですので、当分は暇そうです」

「えっと、アクセルの街をめぐるだけだから大丈夫よ。観光が趣味というか……そんなところよ」

「そう言えば前回アクセルの街に来てくれた時は、なんやかんやあってアルカンレティアの観光になってしまいましたからね」

 

アルカンレティアでは魔王軍幹部との死闘があったわけだが、あれは観光扱いしていいのか。

顎に手を当てて納得しているめぐみんだが、ちっとも心安まらなかった俺は訝しんだ。

 

「ところでお姉さんは先ほどアクセルの街に着いたばかりでしょう? 宿はまだとってませんよね?」

「ええ、まあ、適当なところに泊まろうと思ってはいたけれど……」

「それなら、ぜひ私たちの家に泊まりませんか?」

「えっ? い、いえ、流石にそれは……。宿なら自分で取れるし、それにあなたたちに迷惑じゃ……」

 

突然の申し出に、目を瞬かせて遠慮するウォルバクさん。

いくら師弟関係だとは言え、ついさっき再会したばかりでいきなり転がり込むのは抵抗があるだろうし常識的な大人なら当然の反応だ。

だが、お泊りという言葉に反応しないのなら、それはゆんゆんじゃない。

 

「お、お友達が……お友達がお家にお泊まりに来てくれるなんて……っ!」

「ちょ、ちょっとゆんゆん!? 泣くほどのことですか!?」

「だ、だってめぐみん……! わ、私、もう死ぬのかしら……ううん、死んでもいいわ……」

「…………アクア。もしゆんゆんが喜びのあまり死んでしまったらリザレクションをお願いします。この不名誉な死に顔を末代まで語り継いでやりましょう」

「合点招致よ!」

 

流石にここまで感動するとは予想外だ。

隣を見ると、ゆんゆんが大粒の涙をボロボロとこぼしながら、両手で口元を覆っていた。

その瞳は、まるで生涯の夢が叶ったかのような感動に打ち震えている。

……何だかアルカンレティアに行くときにも同じようなことがあったような気がする。

 

「私、今すぐ帰ってお客さん用のベッドのシーツ洗ってきます! 晩ご飯も豪華にしないと……! お泊り会……ふふ、お泊り会……!」

「……完全に自分の世界に入ってしまったな。随分と幸せそうだが、もしも断られたら……」

「そのときはアクアの出番ですね」

「一応言っておくとリザレクションは本人の意思で拒否されたら生き返らないんですけど」

「「……」」

 

ダクネスとめぐみんが固まった。

いや、流石にお泊り断られたくらいじゃ死なないだろ。

…………死なないよな? 不安になってきたんだが。

 

「さあお姉さん。申し訳ないですが、こうなってしまったらもう逃げられませんよ。我らが拠点へご案内します」

「で、でも、カ、カズマくん……? その、迷惑じゃ――」

「気にしないでください。むしろあの男のことですから喜んでますよ」

「お、おい! どうして喜ぶと思ったのか聞こうじゃないか!」

「違うんですか?」

 

俺は視線をそらした。

弁明するとすれば、これはゆんゆんが寂しさと恥ずかしさで死なないようにするための、致し方のない措置なんだ。

俺がウォルバクさんというお姉さん的な癒しを求めてるわけじゃなく。

有無を言わさず連行されるウォルバクさんが、助けを求めるように俺へと視線を送ってくるが、俺は視線をそらせたままだった。

 

「でも、そんな……悪いわよ……」

「まあ、宿代が浮くと思って、しばらくのんびりしていくといい。なあカズマ」

「そ、そうだな! ま、俺はどっちでもいいんだけどなっ!」

「ほら、カズマとダクネスの許可も下りましたし、誰も迷惑じゃないと言ってるのです。さあさあ! 遠慮なさらず!」

 

ウォルバクさんの腕を嬉々として引くめぐみん。

……結局めぐみんもゆんゆんのことが言えないレベルには喜んでるじゃないか。

 

こうして、なし崩し的にしばらくの間、ウォルバクさんは俺たちの屋敷に泊まることになったのだが……。

 

 

 

とある朝方。

屋敷の玄関先から、朝っぱらから元気すぎる声が響き渡っていた。

眠い目をこすりながら二階の窓から覗き込むと、めぐみんとゆんゆんがウォルバクさんを両脇からガッチリと固め、日課の爆裂散歩へと引きずり出しているところだった。

 

「さあ、お姉さん! 今日も元気に爆裂魔法を撃ちに行きますよ! ゆんゆんも準備はいいですか!」

「う、うん! お友達と一緒に魔法の練習……うふふふ……張り切ってお弁当も作っちゃったし、みんなで食べましょ!」

「ねえ、今日も行くの? いや、あなたが爆裂魔法を撃たなきゃいけない状態なのは知ってるし、私は構わないのだけれど……毎日爆裂魔法を使わないといけないことを不便に感じてたり、それからご近所さんに迷惑じゃないの?」

「毎日でも使いたいので得しかありませんね。それに迷惑に関しては安心してください。既にこの街の住人は我が爆裂魔法など心地のよい春風程度にしか思っていませんから」

「いや、流石にうるさいとは思ってるわよ。ただ、いくら苦情を入れても改善されないから諦めただけで……」

「とにもかくにも、我が爆裂道の行く手を阻むものはいません!」

「そ、そうなのね……」

 

爆裂魔法なんて消費魔力がデカすぎて普段は一日一発しか撃てない代物なのに、最近のめぐみんはウォルバクさんが一緒にいてくれるのが余程嬉しいのか、常にテンションが高く魔力も満ち溢れているらしい。

しかも最近は朝だけでなく夕方にも連行している気がするが、ウォルバクさんの疲労が限界突破しないか少し心配だ。

 

 

 

また、とある昼間。

リビングのソファーでくつろいでいると、アクアがテーブルをバンバンと叩きながらウォルバクさんに絡んでいた。

 

「聞いてんのぉ? だいたいね、エリスは慈愛の女神だとか豊穣の女神だとか言ってるけど、私が炊き出しに顔を出すと、私にだけご飯くれないの。慈愛と豊穣を司るなら、同じ女神のよしみで少しくらい分けてくれてもいいじゃない!」

「で、でも貴女は配給をもらうほど、その……生活に困ってるわけでもないでしょう? 立派なお屋敷にも住んでいるし……」

「困ってるわよ! 夜に酒場でシュワシュワ飲んでる間に、いつの間にかお金とかお財布が手元からなくなるの。そうしたら私は朝、何を食べればいいっていうのよ! 警察に盗まれたって泣きついても、鼻で笑ったり面倒くさがったりして全然取り合ってくれないのよ!」

「ええぇ……それただの酔っ払いの紛失じゃ……で、でも貴女はアクシズ教だし、エリス教の炊き出しに並ぶのは少し違うんじゃ……」

「エリスは私の可愛い後輩よ! 困ってる先輩がいたら全力で助けるのが筋ってもんでしょ! 大体ね、そんな可哀想でひもじい思いをしている私に、恵みの一つもくれないなんて絶対におかしいのよ! アンタもそう思うわよね!」

 

思わないだろ。

お前が毎晩バカみたいにシュワシュワ代に全財産を突っ込んで、自業自得だ。

ウォルバクさんも当然俺と同じように呆れただろうが、大人な対応で、引きつった愛想笑いを浮かべながら頷いていた。

 

「え、ええ、まあ、でも確かに国教になってるくらいの大きな宗教なら、マイナーな宗教の信者にも少しくらい分け隔てなく施しをくれても……」

「貴女、意外と話がわかるじゃない! そうよそうよ! 国からの支援金だってエリス教ばっかり優遇されてて、うちの教会なんていつもお布施がカツカツなんだから! もっとアクシズ教を敬いなさいっての!」

「わ、わかるわ……。信者の数が多いからって政治の場にまで幅きかせて、マイナーな教派の私たちは一体どうやって布教活動すればいいっていうの……」

 

……わかっちゃうのか。

完全にアクアの理不尽な愚痴に同調してしまっているあたり、意外とウォルバクさんも宗教関係で苦労しているらしい。

アクアの金欠は完全に本人の自業自得だが、レジーナ教のルーシーも必死だったし、マイナーな宗教はそれぞれ大変らしい。

結局この不毛な愚痴大会は、めぐみんたちが爆裂散歩から帰ってきてウォルバクさんを連れ出すまで延々と続いた。

 

 

 

そして、深夜のリビング。

夜中にトイレに起きたついでにふとリビングを覗き込むと、そこには地獄のような光景が広がっていた。

テーブルの上には、空になった高級なシュワシュワのボトルが何本もだらしなく転がっている。

中には一滴も入っていないはずなのに、部屋中にはむせ返るほどの強いアルコール臭が充満しており、俺は思わず顔をしかめて鼻をつまんだ。

 

「酒臭っ……一体何本飲んだんだよ」

 

夜の会合に集まったのは3名。

相変わらずくだを巻きながらエリス教への恨み辛みを延々と語り続けている、顔を真っ赤にしたアクア。

そして驚くべきことに、グラスを片手に完全に出来上がった様子で、ノリノリでその愚痴大会に参加しているウォルバクさん。

さらには、なぜか素面の状態でこの酒飲みの輪に捕まってしまったらしいダクネスだ。

 

「そうよ! 大体、豊穣とか慈愛とか言ってるけど、本当はただの幸運の女神よあの子! なのに、胸にパッドを入れて上げ底して、ないものをあるように見せちゃって! 女神なら女神らしく、堂々とありのままの自分を晒すべきなのよ!」

「貴女、なかなかいいこと言うわね……! 私の方も、司ってるものが世間的に悪いイメージを持たれやすいものなせいで、人間の信者は全然集まらないけれど、さすがに信者に嘘はつかないわ!」

 

……細々活動しているマイナー宗教というのは、俺の知らないところで想像を絶する苦労を抱えているのだろうか。

ウォルバクさんの瞳の奥には、本物の悲哀が宿っていた。

 

「昔は天界でやんちゃしてたのに、今や清楚キャラを気取っちゃって! 仕事をほっぽり出して下界に遊びに行っちゃうし! 優秀な先輩である私の手厚いサポートがなきゃ、あの子どうなってたことか!」

「わ、私の目の前で適当な作り話をするなぁ! エリス様はパッドなど入れていないし、そんな不真面目なことはしない! エリス様はいつだって平等で、全ての民に慈悲深い女神だ! いい加減な作り話でエリス様を貶めるのはやめろ!」

「うるさいわねダクネス! あなたも融通の利かないエリス教なんかやめて、アクシズ教になればわかるわ! エリスは信者が多すぎて一人当たりの加護が薄いけど、私のところに来れば、女神直々の手厚い加護を保証してあげるわよ!」

「そうよ。もしよかったら、私の方の教派に来ないかしら。今なら少しのお布施で強力な怠惰の加護を――」

「そんな怠け者になりそうな加護などいるか!」

「ち、違うの! これは名前はそうなってるけど、怠惰っていうのは――」

「そもそも私の信仰は加護の力で揺らぐものでは……!!」

 

隣では、涙目でエリス様を擁護するダクネスがアクアと口論になり、そのうちなんだかよくわからない方向へと興奮し始めている。

 

「…………」

 

俺はそんな地獄のようなカオスな光景を止める気にもなれず、少し離れたソファーで寝転がりながら、備蓄庫から持ってきたポテチを齧って眺めることにした。

パリッと静かな部屋に咀嚼音が響く。

それでも白熱する宗教論争に夢中な三人は、誰一人として俺のことなど気にしていない。

 

 

 

そんな日々が数日続いた、ある日の昼下がり。

珍しくめぐみんとゆんゆん、それにアクアやダクネスたちが連れ立って街へ買い物に出かけ、屋敷の中は静まり返っていた。

広いリビングには、ソファーでダラダラと横になってくつろぐ俺と、向かいの席で優雅に紅茶を飲んで一息ついているウォルバクさんの二人だけになっていた。

 

「……ねえ、カズマくん」

「ん? なんすか?」

「カズマくんたちは……冒険には行かないの?」

 

不意に、ウォルバクさんがカチャリとティーカップをソーサーに置き、俺の顔をジッと探るような真剣な視線を向けてきた。

いつもの酔っ払った姿や、爆裂散歩に付き合わされている時の疲れた顔とは違う、どこか鋭い眼差しだ。

 

「前も言っただろ、俺は弱いから危険なことはしたくないし、冒険に行かなくてもいいくらいにはもう十分に稼いだんです。たまーにめぐみんの爆裂散歩に付き添ったり、街の近くで軽く弱い魔物を倒すくらいが、俺の性に合っててちょうどいいんだよ」

「……いざというときに、あんなに息の合った連携ができているのは、いいパーティーの証拠よ。強大なグリフォンたちを無傷で討伐したって、街の冒険者たちが噂しているのを何度も聞いたわ。それに、魔王軍の幹部を倒しているという揺るぎない実績もあるのに、自分のことを弱いというのは、謙虚というより少し傲慢な気もするわ」

「俺の貧弱なステータスとか、普段カエル相手に泣き叫びながら逃げ回って戦ってる無様な姿、一度でも見たことあって言ってます? 本当に弱いんですよ俺」

「ええ、あなたたちなら、もっと強敵相手でも十分に活躍できるはずよ。あなたたちは、こんな田舎街じゃなく、王都のような大きな街でこそ活躍すべき実力があるわ。それなのに、どうして初心者の街にとどまり続けているのか、私には疑問でならないの」

 

確かに攻撃のゆんゆんもいるし、回復サポートのアクア、鉄壁のダクネス、司令塔の俺、そして必殺技のめぐみん……

そう言えば盤石に聞こえる、全員が頭のおかしな欠陥を抱えてることを除けば。

最初こそ魔王討伐を夢見てたが、現実はそんなに甘くない。

俺は大きな欠伸を一つしながら。

 

「俺たち、アクセルの街の近くにいるただのカエル相手でも、毎回誰か食べられて死にかけてるんだぞ?」

「か、カエルに、食べられたの? 冗談よね……?」

 

ウォルバクさんが目を丸くして固まるのを横目に、俺は再びソファーにゴロリと寝転がり、ポテチの袋に手を突っ込んだ。

危険な冒険なんて真っ平ごめんだ。

安全な後方で、美味しいものを食べて、暖かいベッドで寝る。

異世界に来てなんだが、これでいいのだ。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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