我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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「あっ! カズマさん!! それに皆さん!!」

 

ギルドに足を踏み入れた俺たちを見るなり、ものすごい勢いで駆け寄ってきたのは、受付嬢のルナさんだ。

普段は落ち着いているが、今は胸を揺らしながら血相を変えて飛んでくる。

その様子が、クリアになった俺の目にやけにはっきりと映った。

 

「無事だったんですね! 湖の方面から、とんでもない爆裂魔法の音が聞こえてきたものですから……! もしかして、封印されていたヒュドラが目覚めてしまったのでは、何かとんでもない異常事態が発生したのではと、ギルド中が騒ぎになっていたんです!」

 

ルナさんが息巻いて言う通り、ギルド内にいた他の冒険者たちも、心配そうに、あるいは興味津々にこちらを見つめている。

実際、異常事態どころの騒ぎではなかった。あのまま放っておけば、アクセルの街まで被害が及んでいたかもしれない。

 

「ああ……まあ、色々あったんだけどな。最終的に、めぐみんの爆裂魔法で全部吹っ飛ばして終わったよ。ヒュドラの本体は跡形も残ってない」

「め、めぐみんさんの爆裂魔法で……!? あのクーロンズヒュドラをですか!? す、素晴らしいです! やはりカズマさんたちに任せて正解でした! なんせ王都の部隊に支援要請すると依頼料が大変になりませんから」

「……もしかしてめぐみんの爆裂魔法で討伐してくれるのを期待して部隊に編成してなかったのか? 最悪俺たちがなんとかしなくても大丈夫だって言ってたが……」

「……ま、いいじゃないですか! 街のギルド運営の危機を救った英雄の帰還ですよ! ギルドを代表して感謝いたします!」

「おい!!」

 

ルナさんはパァッと顔を輝かせ深々と頭を下げた。

俺の突っ込みをかき消すように、ギルド内からも「おおっ!」というどよめきと拍手が湧き起こる。

怒るに怒れない状況で、俺は愛想笑いを浮かべることしかできなかった。

 

ひどく気まずかったのだ。

 

確かに最終的に倒したのは俺たちのパーティーの功績だ。

ダクネスは身を挺してヒュドラを引きつけ、アクアは泣き喚きながらも完璧なサポートをこなし、ゆんゆんは魔力が尽きるまで首を斬り落とし続け、最後にめぐみんがとどめの爆裂魔法。

みんな、自分の役割をまっとうし、死に物狂いで戦った。

 

なのに、俺だけだ。

俺だけが、ただぼんやりとウォルバクさんと一緒に静観していただけなのだ。

一応、最初に適当な指示を出したような気もするが、戦闘に参加したうちに入るのか怪しいレベルだ。

 

普段の俺なら、ここで胸を張ってふんぞり返り、「いやー、俺の完璧な指揮と作戦のおかげであのヒュドラも手も足も出なかったぜ! ま、黄金竜を討伐した俺たちにかかれば、あんなぱちもんのドラゴンなんて楽勝楽勝!」くらいに調子に乗った発言をしていただろう。

しかし、今回ばかりはそんな気にはなれなかった。

頭がクリアになった今だからこそ、自分がどれだけ役立たずだったかが痛いほど分かる。リーダー失格もいいところだ。

こんな俺だって、猛烈に反省する時くらいあるのだ。

 

「いや……今回は、俺は何もしてない。みんなが命懸けで頑張って、最後にめぐみんが爆裂魔法でとどめを刺したんだ。俺の指示なんてあってないようなもんだったし、今回に限っては俺は大したことしなかった」

 

俺はポリポリと頬を掻きながら仲間の功績を口にした。

仲間を立ててやるくらいしか今の俺にはできない。

そんな俺の言葉を聞いてルナさんは目を丸くして俺の顔をまじまじと見つめた。

 

「……そ、そんな……カズマさんが、謙虚なんて……!」

「いや、謙虚とかじゃなくて……いや、聞きようによってはそう聞こえなくも――」

「だ、大丈夫ですか!? も、もしかして、またクエスト中に死んで変なところに行っちゃったり、頭を強く打ったり……まさか、道端に落ちていた悪いものでも食べましたか!?」

「お前の中で俺は拾い食いする犬か何かなのか!? 俺の評価どうなってんだ!!」

 

勘違いして俺の謙虚さに感心するかと思いきや、ルナさんの目はまるで、未知の未確認生物でも発見したかのような、ぎょっとした目だった。

普段なら掴みかかって大騒ぎするところだが……今回ばかりは拳を振り上げる気にもなれなかった。

それほどまでに、アクアより足手まといになっていた事実が心にきてるのだ。

 

「はぁ……まあ、色々あったんだよ。疲れたから、とりあえずクエストの完了手続きしてくれ。ほら、お前らもルナさんに……」

 

ため息をつきながらそう言うと、俺は後ろを振り返った。

仲間を立ててやったんだから、あいつらのドヤ顔でも拝んでやろうと思ったのだ。

 

「って、あれ?」

 

俺のすぐ後ろにいたのは、ボロボロの鎧を引きずっているダクネスと魔力切れ寸前のゆんゆんの二人だけだった。

他の人はとあたりを見渡すと――

 

「ぷはぁーっ! やっぱり死線を潜り抜けた後のシュワシュワは最高ね! すんませーん! こっちにもう一杯! ツマミはカエル肉の唐揚げでよろしくね!」

 

少し離れたテーブル席では、仕事終わりのサラリーマンがごとく、アクアがすでにジョッキを片手に酒盛りを始めていた。

あの野郎、一人で打ち上げを始めやがって、何て自由勝手な奴なんだ。

 

「いや、アクアはいいとして……おい、めぐみんは? あと、ウォルバクさんも見当たらないけど」

 

俺はダクネスとゆんゆんに尋ねた。

いつもなら、爆裂魔法を撃ち終えためぐみんを俺が背負って帰ってくるのがお約束だ。

だが、帰りの道中、俺が背負っていた記憶がない。

というか、帰りの記憶すら少し曖昧だ。

 

「一体どこをほっつき歩いてんだあいつら。ヒュドラの鱗でも拾って換金しに行ったのか?」

「……カズマ、何を言っているのだ? めぐみんならウォルバクに背負われて、街に入る手前で途中で別れたではないか」

 

ダクネスが、不思議そうな顔で俺を見た。

 

「別れた? そうだっけ?」

「そうですよ。めぐみんが『少しお姉さんと話があるので、後から帰ります』って言って別れたんですよ。カズマさん、うんうんって頷いてたじゃないですか」

 

ゆんゆんが言うには、俺はそれに同意したらしい。

そんな記憶、一片たりともないのだが。

 

「俺が頷いてた? マジで?」

「ええ、とてもぼんやりとした顔でしたけど、もしかして疲れてるんじゃないですか?」

「そうか……? そう、かもな」

 

ゆんゆんの言葉に、俺は思わず俯いた。

どんだけポンコツになってたんだ俺は。

 

……そもそも。

一体俺はいつからぼんやりしてたのか。

ここ最近の記憶を辿ろうとしても中々鮮明には思い出せない。

最後にはっきり覚えてる記憶だと、ウォルバクさんが俺の部屋に何か告白をしに来たような。

だが、それ以上先の記憶はぼんやりとしている。

そんな頭の膜が取れたのは、街に入る直前だったのかもしれない。

 

「でも、よかったわ!」

 

ゆんゆんが、突然嬉しそうにパチンと手を合わせた。

 

「きっとカズマさん、最近ずっと家の中に引きこもりっぱなしだったから、少しボケちゃってたのよ。でも今はいつも通りのカズマさんに戻ってるみたいだし、やっぱり無理矢理にでもみんなで外に出かけて、定期的にクエストを受けるのは大事よね!」

「…………」

 

俺のことを老人か何かのように扱うその言葉に、少しだけイラッとしたが、反論はできなかった。

確かに、あのまま引きこもり続けていたら、俺の精神は完全に怠惰に支配されて、本当にボケていたかもしれない。

少しくらい外に出た方がいい、というゆんゆんの言葉は真理だった。

 

「まあ、そうだな……」

 

俺は苦笑交じりに呟き、ルナさんにクエスト完了の印を押してもらった。

 

 

 

それから数時間後。

ギルドの酒場は、ヒュドラ討伐の報せを受けてちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

俺たちもその中心のテーブルを陣取り、宴会を開く流れになったのだ。

 

「ひっく……今日の私、浄化のキレが最高に冴え渡ってたわよねぇ! やっぱり、ヒュドラみたいな不浄な存在を前にすると、女神としての本能が目覚めちゃうってわけ!」

「だ、だからってクルセイダーである私の役割まで奪うのはいただけないな! なぜ全部の首がお前を狙いに行ったのだ! 私の『デコイ』は完璧だったはずなのに、あのヒュドラ、私の肉が堅いからか!? 私より普段ぐーたらして柔らかそうなお前の柔らかそうな肉体を選んだというのか……くっ、なんてマニアックなモンスターだ!」

「ちょっとダクネス! アンタそれセクハラよ! 女神に向かって柔らかそうとか言わないで! それに女神は太らないんですから」

「二人とも酔いすぎですよ。それに、アクアさんはいつも通り考えなしで浄化しちゃって敵を引きつけてたんですよ。ダクネスさんもちゃんと活躍してたじゃないですか! ……それに比べて私なんか……」

「ゆんゆんの魔法だって、とどめこそ刺せなかったけど、手数で言えばめぐみん以上にダメージを与えていたんじゃないかしら!」

「だ、だとしても……最後はめぐみんの爆裂魔法で全部持ってかれちゃったし、勝負の内容的にはめぐみんの勝ち……うぅ、悔しい……酒、飲まずにはいられない!」

「あ、おい! ゆんゆんはまだ14だろう! めぐみんより体の成長が早いからといってまだ酒に強いわけじゃないから一気に飲むのは――!!」

 

ジョッキを片手に、仲間たちが思い思いに今日の戦いを振り返っている。

他のテーブルの冒険者たちも混ざってきて、「今日はカズマが一番役立たずだったな!」「おいおい、こいつらのことだぜ? カズマがいなきゃ普段はてんで駄目なんだ。たまたまに違いないぜ!」なんてからかってくる声も聞こえた。

 

いつも通りの騒がしい宴会。

いつも通りのバカ騒ぎ。

だが――やけに静かに感じる。

 

そこには、一番喧嘩っ早くて騒がしい輩の中心にいるはずの魔法使いの姿がなかった。

そして、ミステリアスな色気を放つウォルバクさんの姿も。

 

「……俺、ちょっと疲れたみたいだし先に帰るわ」

 

俺は手元の酒を飲み干すと、少し早めに宴会を切り上げることにした。

アクアとダクネスは「えー、まだ飲むわよー!」と騒いでいたが、ゆんゆんが俺の頭痛を理由にでっち上げて、なだめてくれた。

俺は夜道を一人歩き、屋敷に帰還する。

リビングの明かりは消えており、シンと静まり返っていた。

めぐみんとウォルバクさんが帰ってきている気配はない。

 

「……どこ行ってんだよ、あいつら」

 

暗い廊下でポツリと呟いた言葉は、誰に届くこともなく消えた。

風呂に入り、ベッドに潜り込む。

体の疲労は限界に達していたはずなのに、なぜか脳が覚醒していて、なかなか寝付けなかった。

結局、浅い眠りを繰り返したまま、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

――気づけば、翌朝になっていた。

いや、朝というにはまだ早く、窓の外は薄暗く、日が昇っていない時間帯だ。

何故か心が落ち着かず、パッチリと目が覚めてしまったのだ。

帰りの遅い仲間のせいか。

……別に心配してるわけじゃないんだが、何というか落ち着かない。

 

冷たい床を歩いてリビングへと向かう。

途中ダクネスの寝息やアクアの寝言が聞こえてくるが、まだあいつは帰ってないのか?

 

そう思いながらギィと扉を開けると少しご飯の匂い。

薄暗いリビングの、いつも俺が座っているソファに、小さな背中がぽつんと座っているのが見えた。

 

「……なんだ、いたのか」

 

安堵の息が、自然と口からこぼれた。

その背中は、間違いなくめぐみんだった。

ローブも着替えず、昨日の戦闘のままの格好で、じっと前を見つめている。

 

「……ずいぶんと早いですね」

「なんか覚めちまってな。そういうめぐみんこそ」

「私は、何というか寝付けなくて」

「何だ、夜遊びの朝帰りか? 昨日はどこ行ってたんだよ。お前がいなかったおかげで、昨日の宴会、イマイチ盛り上がらなかったんだぞ」

 

俺は少し軽口を叩きながら、めぐみんに声をかけた。

いつもなら、「ふっふっふ、私という主役いないと宴会も盛り上がりませんか!」とドヤ顔で振り返るはずだが――

俺の声にピクリと肩を揺らしためぐみんは、ゆっくりと、本当にゆっくりとこちらを振り返った。

その左手は、眼帯を強く押さえつけるように顔を覆っている。

 

「……そんなことより、今何時だと思っているんですか」

 

返ってきたのは、普段の張りのある声ではなく、少し低く、静かな声色だった。

 

「何時って、まだ日も出てないが……」

「騒がしくするのは御法度ですよ。しかしいつもであればこの時間はダクネスは鍛錬をし始めるのですが……」

「あいつ、不器用なりに剣の練習して――」

「いえ、ほとんど筋トレですよ。後は走り込みくらいですね」

「…………」

「まったく、どれだけ深酒したのですか。ダクネスを待とうと思っていたのに起きてこないので、私一人の朝食になってしまいましたよ。あまりがあるのですがせっかくですし、悪くならないうちに食べてください、カズマ」

「……お前が起きるのが早いだけだろ。何作ったんだ?」

「目玉焼きと腸詰めを焼きました。パンがあったので」

 

平然とした様子を取り繕っているが、その声には明らかな疲労感と、どこか空虚な響きが混ざっていた。

それにしてもいつも爆食しているめぐみんに限って余してるなんて。

わざと残しておいてくれてたんだろうなと思いながら、めぐみんの背後を通り過ぎてキッチンへと向かおうとした。

その時、ようやく窓の外から朝日がわずかに漏れ出し、リビングを薄っすらと照らした。

 

すれ違いざまに、横目で彼女の顔を見る。

隙間から覗く瞳。

それは、昇り始めた僅かばかりの朝日を反射した、吸い込まれそうな深い深い赤だった。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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