我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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めぐみんがおかしい。

 

ただでさえ元気がなかったというのに、爆裂魔法も撃たない。

そして、あの日以来、めぐみんはほとんど自室に閉じこもっている。

 

食事の時以外はほとんど姿を見かけず、たまにリビングへ降りてくるのを見て声をかけても生気のない返事が返ってくるばかり。

あるいは聞こえていないかのように無視されることも多々あった。

明らかに俺たちを避けていた。

 

あの、アクセル一やかましいアークウィザードが完全に牙を抜かれたように静まり返っている。

その異常な光景に、屋敷の空気は日を追うごとに重苦しくなっていった。

アクセル一やかましいアークプリーストでさえ、リビングのソファに深く腰掛け高級なシュワシュワのボトルを虚しく眺めながら不安そうに唇を尖らせている。

 

「……もしかしなくても世界の終わりか何かの前触れじゃないかしら。エリスがまた何か天界の書類をうっかりシュレッダーにかけちゃって、因果が捻じ曲がってるとしか思えないわ」

「お前じゃないしエリス様がそんなうっかりするわけないだろ」

「じょ、冗談よ? 暗い空気に耐えかねて場の空気を和ませようとしただけで……というか、私のことをそんなうっかりさんだと思っているのなら今ここで試しましょうか!」

 

アクアは拳をならそうとして立ち上がるが、結局ため息をついて元の態勢に戻ってボトルを眺めている。

いつもならシュワシュワがあればそれだけで大喜びして酒盛りを始めるはずの駄女神が、今ではすっかりつまらなそうな顔をしていた。

そんなアクアを見たダクネスは大剣を磨く手を止め、ため息をついた。

 

「しかし……あのめぐみんが、もう二週間も爆裂魔法を撃ってないとは、本当にどうしてしまったのだろうか。これほどの長期間爆裂魔法のばの字もしないなど……」

「き、きっと、紅魔族としてカッコいい設定が一つ消えるのが死活問題なだけ、ですよ……」

 

ダイニングテーブルの端で、ゆんゆんは顔を伏せった。

……めぐみんはそんなことでここまで塞ぎ込むようなヤツじゃない。

いや、数日……数週間は落ち込むかもしれないが、それでも爆裂魔法から離れるなんてことはあり得ないはずだ。

それは、昔からの付き合いであるゆんゆんが一番わかってるはずだ。

 

「あの邪眼が制御されて、瞳の色が元の紅魔族と同じ真紅に戻ったのが、そんなにショックだったのだろうか……」

「紅魔族にとって、あの眼帯とか魔眼っていうのは、何よりも変えがたいアイデンティティだから……うん、きっと、そうですよ」

「ダクネスもゆんゆんも名推理ね、私も今そう思ったところよ! でもちょっとそれにしては落ち込みすぎよね」

「…………紅魔族は、そういうものですから」

 

ゆんゆんの声は微かに震えていた。

きっと今まで見てきためぐみんとあまりにもかけ離れすぎていて、心の整理がつかないのだろう……

親密であればあるほどなおさらだ。

 

結局、みんなでどれだけ話し合ってみたところで核心的な理由はわからずじまい。

めぐみんがこうなってしまった明確な理由はわからずじまいだ。

 

 

……しかし。

 

 

俺だけは、胸の奥に冷たい塊のような心当たりを抱えていた。

 

確証はなく、ゆんゆんたちの手前では口に出すことはできなかったが……

めぐみんの様子が完全におかしくなったのは、ウォルバクさんが何の一言も、さよならの挨拶すら残さずにこの屋敷からいなくなった時からだ。

そして――俺はテーブルの上に広げられた朝刊に目を落とした。

 

『王都の最前線砦、陥落の危機――魔王軍幹部である邪神が猛威を振るう』

 

そこにあるのは、連日躍っている、同じような見出し。

魔王軍幹部、かつ、邪神と言えば、俺の思う心当たりは一人しかいない。

――ウォルバクさんだ。

 

めぐみんがこうなってしまった時期と、この最前線での魔王軍の暴動の記事が連日出回るようになった時期は一致している。

めぐみんとウォルバクさんとの間に何かあったのだろう……何を話したのか、何をされたのかまではわからないが。

ただ、ウォルバクさんがこの家を出ていく直前、最後まで一緒にいたのはめぐみんだ。

これは俺の想像に過ぎないが……めぐみんはウォルバクさんの正体を知っているんだと思う。

 

何にせよ、めぐみんの劇的な変化の原因にウォルバクさんが絡んでいることはほとんど確信している。

 

……めぐみんにとってウォルバクさんは、幼い頃に爆裂魔法を教えてくれた恩人だ。

その彼女が、人類の敵として王都を蹂躙している。

めぐみんの邪眼が制御できるようになったこととの関連はわからないが、少なくとも、恩人が人類の敵だったら、今のめぐみんの変貌っぷりは理解できる。

 

「……あー、クソッ。考えててもラチがあかねえな」

「カズマ? どこに行くのだ?」

 

椅子を乱暴に引いて立ち上がる俺に、ダクネスが怪訝そうな声を出す。

俺はそれを無視して、俺は真っ直ぐにめぐみんの部屋へと向かった。

 

もう我慢の限界だった。

 

心配なのは当然だが、何より、あの自信過剰で生意気なめぐみんが、ずっとこんな風に縮こまっている様子を見ているだけで、胸の奥がめちゃくちゃにむしゃくしゃする。

あいつは、毎日近所迷惑な爆裂魔法をぶっ放して、迷惑かけるくらいがちょうどいいんだ。

めぐみんの部屋の前に立ち、ノックもそこそこに扉を開け放つ。

 

「おい、めぐみん。ちょっと話を――」

 

薄暗い部屋の中、ベッドの上で膝を抱えて丸まっていた小さな影が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

眼帯のない、しかし光の消えた真紅の瞳が、酷く冷ややかに俺を捉える。

 

「……勝手に入ってこないでください、カズマ。私は今、一人にしてくださいと言ったはずです。用がないなら、すぐに出ていってくださ――」

「『スティール』」

「なっ、何してるんですかこの男は!! まさか、部屋に押しかけた理由は、私を襲うためですか!? ゆ、ゆんゆん! くせ者ですよ! 助け――」

「なんだ、叫ぶくらいの元気あるじゃんか」

「パンツとられたら元気なくても叫びますよ!! パンツ返してください!!」

「すまんすまん。でもしょうがないだろ? 何だかずっとしおらしくて物憂げな態度にイラついたんだよ」

「何がしょうがないですか!!」

 

めぐみんは俺の手のひらからパンツをふんだくると。

 

「まったく、幻滅しましたよカズマには」

「ふん、普段からパンツ脱がせ魔のカズマさんとか言われてるんだ、こんなことくらいで幻滅されてもらっちゃ困る!」

「なんで偉そうなんですか……」

 

パンツを履いている様子を眺めていると、めぐみんにジト目で蔑まれるが、俺としては何となくうれしかった。

こうして軽口たたき合ってるいつもの空気が戻ったような気がして……決して、ダクネス的な意味で喜んでいたわけじゃない。

 

「……なあ、めぐみん」

「何ですかクズマ。さっさと変態は私の部屋から出て行ってほしいのですが」

「……ほんとは遠回しに聞こうと思ってたんだが、上手い言葉が見つからないから単刀直入に聞くぞ。なあ、ウォルバクさんと何があった」

「……っ。な、何も……」

「いや、何もないわけないだろ。最近の新聞にもウォルバクさんが載ってるし、そのことで落ち込んでるのか?」

 

その言葉を聞いて、めぐみんはびくりと顔をあげる。

 

「カズマは……お姉さんの正体に気づいていたのですか?」

「まあな」

「一体いつから……」

「アルカンレティアの時から疑ってはいたが、まあ、確信したのはつい最近だな。多分ほかの奴らは気づいてないと思うが……」

「そう、ですか……」

 

蚊の鳴くような声でそう呟くと、めぐみんはベッドから這い出る。

そして、ものの数秒で杖を装備し、ローブを羽織ると、俺の腕を驚くほどの力で掴んだ。

 

「お、おい! 何だよ急に!」

「ちょっと来てください」

 

その手は、凍りつくように冷たく、そして目に見えて小刻みに震えていた。

めぐみんに腕を引かれるがまま、俺たちは屋敷を抜け出し、アクセルの街の外へと向かった。

 

その間、俺たちは言葉を交わさなかった。

 

夕暮れ時の、人気のない小高い丘。

いつもなら、めぐみんが意気揚々と杖を構え、世界の中心で愛を叫ぶが如き大音響を響かせる定位置だ。

赤黒く染まる空の下、めぐみんは俺に背を向けたまま、ぽつりと口を開いた。

 

「私……上級魔法を覚えようと思うんです」

「…………は?」

 

耳を疑った。一瞬、風の音で聞き間違えたのかと思った。

あの爆裂魔法の狂信者が、他の魔法を覚える?

そんなの、太陽が西から昇るよりも信じられない言葉だった。

 

「ちょ、何言ってんだよお前。そもそも脈絡がないぞ!? 頭のネジが本格的に消し飛んだか!?」

「ネジは飛んでいません。至って正気です」

「大体、爆裂魔法以外は魔法に非ず、とかのたまわって今まで爆裂魔法以外を習得しないでいたのはどこのどいつだ」

「あ、あれは確かに爆裂魔法を愛してこその発言でしたが……でも、あのときの私は日に一度の爆裂魔法を、上級魔法に換算すると百発を超える魔力量を排出しないといけませんでしたので」

 

……つまり、今は魔力が制御できるようになったから、上級魔法を覚え――いや、言ってることが矛盾してないか?

上級魔法を使っても余る魔力量なんだから、それだったらクエストでは上級魔法で、帰ったら爆裂すればよかっただけだろ?

めぐみんの言ってることがわからず、彼女の方に振り返ったが、その視線は俺の顔ではなく、完全に地面へと落ちていた。

 

「今まで貯めていたスキルポイントがあります。それを使えば、すぐにでも上級魔法のいくつかを取得できます」

「えっ、マジでどういうことだ……!? お前、スキルポイントは全部爆裂魔法関連のスキルにつぎ込んでたんじゃ……。それに、爆裂魔法一筋とかいってなかったか!?」

「ええ、まあ……でも、爆裂魔法はもう十分です。これからは、紅魔族随一の上級魔法の使い手、めぐみんと名乗ることにしますよ。ふっ、汎用性の高い私を見て、ゆんゆんが悔しがる姿が今から目に浮かびますね……!」

 

ふんぞり返り、いつものように強気なセリフを口にする。

だが、その声は今にも泣き出しそうなほどに掠れており、マントに隠された体は、さっきよりも激しく、カタカタと震えていた。

その様子は、強がっているというより、自分自身の魂を無理やり削り取って、嘘の仮面を貼り付けているようにしか見えなかった。

 

めぐみんは震える手で、懐から一枚のカードを取り出し、俺へと突き出してきた。

それは、彼女のこれまでの冒険の軌跡が刻まれた、冒険者カードだった。

 

「カズマ……やっぱり嘘です。本当は爆裂魔法を捨てたくなんかありません」

「だろうな。でもじゃあなんで……」

「わからないのです。私はどうすればいいのか。

 

 

……カズマ、私は、どうすればいいんですか」

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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