さて、王都の最前線へ行く……と言っても準備が必要だ。
何せ新聞の記事を見る限り、高レベルの冒険者でさえ手も足も出ない状況だって話だ。
というわけで俺はとある店に訪れた。
「ウィズー、いるかー?」
「あっ、カズマさん! いらいっしゃいませ、本日はどうされましたか? お茶淹れてきますね」
訪れたのはウィズ魔道具店。
ウィズはそそくさとカウンターの奥へ行こうとするが、今日はお茶を飲みに来たわけじゃない。
俺は腕を伸ばしてウィズを引き留めた。
「今日はお茶はいいよ。世間話しに来たわけじゃないしな」
「そうなんですか? とすると一体何のご用で……?」
「何のご用って、魔道具店に来てやることと言ったら買い物しかなくないか?」
「ええーっ、本当ですか!? ありがとうございます! いつも皆さん休憩や世間話のために寄ってくれますが何も買わずに帰ってしまわれるので、最近は砂糖水だけの生活だったんですよ……」
この哀れな店主、自分が何屋を営んでいるのか忘れてしまうほどに客足がなかったらしい。
どこか申し訳なく思って、冷やかし客の一人である俺は視線をそらした。
いや、ほんとごめん……
まあ、こんなことになってるのはウィズの類い希なる商才のなさのせいなのだが。
「って、砂糖水? そういやウィズとかのアンデッドって食事する必要があるのか?」
「いえ、必須ではないのですが、食事から魔力を得ることはできますから。それと、私の場合は人間だった頃の名残で何も食べないとお腹が減っちゃうんですよ。カズマさんのおかげで久しぶりに固形物を摂取できそうです!」
「そ、そっか……。じゃあ俺はちょっと商品を見させてもらうから……」
「はい、どうぞごゆっくり!」
俺は苦笑いをしながら商品棚を見る。
この店にあるのは「もの凄い効果があるがえげつないほど高い商品」か「効果は何にせよ、副作用のせいで台無しになってるガラクタ」の二種類が大体を占めている。
特に初心者の街であるこの地において、ウィズの店の商品は使えたとしても手が届かないものばかりだ。
唯一売れているのは中級冒険者向けのポーションくらいのものだが、それも初心者の街周辺のクエストでは使う機会は滅多にないのでほとんど売れていない。
見れば見るほど美人店主の(人じゃないが)だけが魅力の店だ。
――金のある上級冒険者や激闘へ向けて準備する奴を除けば。
「あった」
「何があったのよ?」
「これだよ、爆発するポーションシリーズ……ってアクア!?」
さらりと入ってきたのはアクアだった。
俺一人だけで来たのにどうしてこいつがいるんだよ。
「どうしているのって顔してるわね」
「……俺の考えが筒抜けなのが癪に障るのは置いといて。ほんとにどうしているんだよ。まさかストーカー……」
「ちっがうわよ! ゆんゆんじゃないんだし、変な勘違いはやめてよね!」
まさかポーションを水に変えるような駄女神と鉢合わせるとは、何たる災害に出くわしてしまったんだ。
そう思ってうなだれると、アクアの手にある卵が目に入る。
「って、何だ? お前がその大事な卵を抱えてウィズの店に来るなんて」
「うっ、その、やっぱり道中とか戦場に連れて行くのは危険だしこの子には早いかなって……」
「へぇー……」
「何よその顔は! 他のチンピラに託したら食べられそうだなんて思ってないわよ! ウィズなら私の神聖な魔力を注ぎ込んだ卵に手出しできないし、もし手を出したとしてもその時はゼル帝が覚醒して神聖な魔力でアンデッドをメッタメメタァにするんだから!」
アンデッドだからって預けるのに反対してたくせに、何だかんだ信用しているんだな。
口では嫌いといいつつ……いいかめぐみん、これがツンデレってやつだ。
「なんか今、すごく不快だったんですけど。……まあ、そんなことよりカズマはそれを買うの?」
「うん? ああ、そうだ。……触るんじゃないぞ」
「何でよ、一本くらいいいでしょ!」
「衝撃を与えると爆発するぞ」
「…………私、ウィズのところにゼル帝を預けていいのか迷い始めたんですけど。カズマさん、そういう危険物は全部買っちゃいなさいな」
「嫌だよ。お前のことだ、不注意で転んだり瓶を落として大惨事になることは目に見えてるし、浄化されたらたまったもんじゃない。これ一本でいくらすると思ってんだ」
「いいじゃない! ウィズってば意外とおっちょこちょいなんだから、こんな危ないのは処理するに限るわ!」
「あーーっっ!? おまっ、何しとんじゃぁあーーっ!?」
アクアが手に持って浄化し始めたのを見て、俺の声が店中に響いた。
いくらお金持ちになったとはいえ、元は一般庶民の生まれ。
貴族のダクネスや元から金遣いの荒いアクアはさておき、俺の金銭感覚はまだ狂っていないのだ。
なお、その日の夜アクアは高級シュワシュワを没収され涙目になったそうな。
その日の昼間。
俺は家の庭で精密作業をしていた。
手にはスポイト、手汗握り慎重にポーションの中身を特別な土にしみこませる作業を行っていたのだ。
「カズマさんカズマさん」
「カズマだよ?」
「それは何を作ってるんですか?」
「ダイナマイト」
「だいなまいと……?」
ゆんゆんはアホっぽく俺の言葉を復唱した。
この世界ではダイナマイトなんて発明されていないはずだし、ゆんゆんがアホなわけじゃない。
だが……
「つまり、少しの衝撃で爆発するポーションを爆発しないように改造し――」
「ばっばばば、爆発するポーションだったんですかソレ!? 裏庭で変なことしてると思ったら何危ないことしてるんですか!」
「こらっ、騒ぐなよっ! 爆発したらどうしてくれるんだ!」
「ご、ごめんなさい……でも、そんな危ないもの使って一体何を企んでるんですか?」
企んでるとは失礼な。
さっきウィズのところで買ってきた爆発するポーション。
これは衝撃を加える以外にも、火種でも爆発する。
つまり、ダイナマイトの原料であるニトロのようなものだと見当をつけ、擬似的なダイナマイトとして使えないか実験してるのだ。
「こうすると衝撃で爆発しなくなって、導火線で火をつけると爆発する……はず」
「それ、ものすごい発明じゃないですか! 今まで取り扱いに不便だったものが使いやすくなって! モンスター相手だけじゃなく、土木工事に必要な爆発魔法の代わりにも使えるし……」
「これから王都の最前線に行くんだ。こういう準備をしておけば安心だろ?」
そう言って俺はようやく完成したダイナマイトの試作品をゆんゆんに投げた。
この特殊な土に含ませれば衝撃で爆発することがないのは検証済みだが、ゆんゆんはもの凄い勢いで逃げていった。
地面に落ちたそれはもちろん不発。
「す、すごい、本当に爆発しないなんて……」
「だろ? これからこれの威力とか、そもそも爆発するのか確かめに行くんだが、ゆんゆんもついてくるか? 試しに使ってみろよ」
「えっ、いいの?」
万が一モンスターに襲われたときとかの護衛と、帰りテレポートで楽するためだったが、ゆんゆんは目を輝かせていた。
となれば早速こいつを試そうと、俺も自作の秘密兵器の実験に、少し浮ついた心で立ち上がった。
まさか余計なやつがついてくるとも知らず。
「ばっくれーつばっくれーつらーんらーんらーん! ばっくれーつばっくれーつらーんらーんらーん! ばっくれーつばっくれーつらーんらーんらーん!」
気分よさげに爆裂散歩の歌を口ずさんでいるのは爆裂魔。
俺が誘ったのはゆんゆんだけだったのだが。
「ごめんなさいカズマさん。でも今日はめぐみんがまだ爆裂魔法撃ってなかったので、ついでに済ませちゃおっかなって」
「それはいいが、どうしてめぐみんはこんなに上機嫌なんだ?」
ウォルバクさんや魔眼といっためぐみんの悩みの種は未だ解消していない……
最近は調子を取り戻してきたとはいえ、表情の節々に憂いが見え隠れするようだったのだが。
今はというと、俺たちより十歩は前へ、軽やかな足取りからは全くもって憂いの欠片さえも見えなかった。
何故だろうと疑問に思っていると――
「まさかゆんゆんとカズマが爆裂魔法を習得したいとは! いい心がけです、ええ、とてもとても良い心がけです! 私も最近は邪眼なしで爆裂魔法の研鑽を改めてしていますから、ふふふ、まさに爆裂魔法のなんたるかを教えるには絶好の機会というものです!」
「……」
俺、一言も爆裂魔法を覚えたいだなんて言ったことないんだが。
ゆんゆんの方を見ると、俺から視線をそらせた。
こいつが犯人か。
「訳を聞こうじゃないか」
「えっと、たまにはめぐみんを驚かせたいなーって思って……それで、私たちがその爆弾で爆裂魔法を使ったように見せて、驚かせようかなって、思い、ました……。すみません、調子に乗りました」
「調子に乗ったっていうより乗らせたって感じだけどな」
「まさかこんなに嬉しそうにするとは思わなくって、ちょっと罪悪感が……。で、でもやってみたいんですよ! 『これは上級魔法ではない、初級魔法だ!』ってかっこよく決めてみたかったんです!」
「何を二人でこそこそ喋ってるのですか! 早くしないと置いて行ってしまいますよ!」
……かくして、俺はゆんゆんに巻き込まれる形で、終始めぐみんに爆裂魔法の何たるかを説かれながら目的地へと向かうのだった。
「『エクスプロージョン』――ッ!!」
数日ぶりの爆裂魔法を見た。
閃光が解き放たれると、爆裂魔法の轟音が鳴り響く。
それと同時くらいに風が熱を運んでくる。
「どうでしたか! これが爆裂魔法です! 申し分のない威力に熱風、そして身を芯から震わせる振動! 84点!」
「74かな。威力落ちたんじゃない?」
「甘い、67点。威力もそうだが熱風も、というか全体的に物足りない」
「くっ、厳しい判定ですが流石は爆裂ソムリエ……雑念が交じってることを見抜かれましたか。その称号は伊達ではないですね」
正直、邪王真眼が使えない今でも、魔王軍幹部であろうともそれを食らえば一溜まりもないだろう。
……だが、以前の魔法になれている俺たちからすると、やっぱり一発が軽いし、範囲と威力の制御も甘いように感じる。
一気にスキルポイントを消費したせいもあるのだろうが、なにより邪王真眼を使えないのが大きいか。
だがそれでも、完全に威力が損なわれた様子がない。
むしろ、日々の研鑽で今のステータスに技術が追いついてきたのだろうか、その威力は目にするたびに増していた。
「毎日精進あるのみですか……。二人も私のような爆裂魔法を目指して、今のうちにイメージトレーニングをしておくといいですよ。今はスキルポイントが足りないので習得できないのでしょうが、いつか習得したときに――」
「『ティンダー』」
めぐみんの声にかぶせるようにして、ゆんゆんが魔法を唱えた。
導火線へと着火すると、じりじりと炎がダイナマイト本体へと近づいていく。
しかしそんな状態になってるとは知らないめぐみんは、起き上がれないまま必死に死角にいるゆんゆんの方へ首をひねる。
「今、初級魔法のティンダーを使いましたか!? 大事なスキルポイントをみすみすドブに捨てるようなことを!」
「おい、そう言うと俺もスキルポイントをドブに捨てたみたいに聞こえるんだが」
「カズマは初級魔法を変な使い方するので例外です。誰も目くらましに初級魔法を使いませんから」
「変とかいうなよ」
だが確かに目くらまし専用の魔法とかあったりするもんな。
なんなら光の中級魔法を使うだけでムス○大佐のようになるんだ、一時的な目くらましよりよほど効果的だろう。
と、ゆんゆんがいつの間にか初級魔法を覚えていたことに驚いていると。
「めぐみん、見てなさい! いくわよ……エクスプロージョン!」
「!?」
ゆんゆんが点火したダイナマイトを放り投げると、見事に破裂し、放った先にあった岩にひびを入れた。
爆発音とともに軽い振動が空気を伝ってくる。
発破工事に使えるほどの威力もない、爆裂魔法と比較できないような代物だが、それでも威力は上級魔法相当のものなんじゃなかろうか。
俺が金にものをいわせて作ったダイナマイト(仮)のできはまずまずといったところで、ひとまず満足だ。
「めぐみん……これは爆裂魔法じゃないわ。……初級魔法よ! ……す、すごい! まさか本当にできるなんて! カズマさん、私感無量です!」
「おう、それはよかった」
「あ……ああ…………」
赤く染めてたゆんゆんが嬉しそうに興奮している。
その傍らで、めぐみんは呆然としながら小さく震え、小さな声を上げ、やがて大きく震えだした。
「我が名はゆんゆん! 紅魔族随一のアークウィザードにして、爆裂魔法を操りし」
「ああああああああああーっ!!」
「ちょ、めぐみん!」
「何ですか! 何なんですか! あなたが爆裂魔法を覚えてみたいなんていったから意気揚々と説明までしていたのに! しかもあんなものは! あんなものは爆裂魔法じゃありません! 威力にしたってせいぜい炸裂魔法程度のもの! あんなものは断じて認めませんから!」
「ご、ごめん! ごめんってめぐみん! あれはカズマさんが爆発するポーションから作ったマジックアイテムだから……」
「だからなんだというのですか! あんなもの! この私がいるのですからこんなもの必要ありません! 今後あれを見つけたら捨てますからね! あんなものは邪道です! 認めませんよあんな紛い物は!」
さっきまで爆裂魔法撃ってダウンしてたのにゆんゆんに掴みかかって、めぐみんは元気だな……
そう思いながら俺はこっそり『ティンダー』を唱え、導火線へと火をつける。
そしてゆんゆんを真似て放り投げると――
「エクスプロージョン!」
「!?」
せっかく作ったのに使わないのはもったいない。
俺の手持ちのダイナマイト3つを一気に投げると、ゆんゆんより激しく炸裂し岩を砕いた。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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