王都へ出発する日の朝。
屋敷の玄関に集まり、ゆんゆんが王都に行くためにテレポートの準備を街の外でしている。
そんな様子を見ている俺たちだったが……
めぐみんが、頬をパンパンに膨らませて露骨にぶすくれている。
原因は明白。
先日、俺が作ったダイナマイトもどきのせいだ。
爆裂魔法一本に人生を懸けているめぐみんにとって、誰でも手軽に高火力の爆発を起こせる魔道具の存在は、自分のアイデンティティ的に心底気に入らなかったのだろう。
加えて、俺とゆんゆんはふざけすぎた。
「なー、いい加減機嫌直してくれよ。俺らが悪かったって。それに、あんな魔道具よりめぐみんの爆裂魔法の方がすごいだろ?」
「……別に、怒ってなどいませんよ。それに、カズマの作ったあの紛い物が本物の爆裂魔法に勝るわけないのは至極当然なのです。それより、あの不愉快な魔道具は、すべて処分してくれたのでしょうね?」
そっぽを向いためぐみん。
めぐみんがじろりと赤い瞳で俺を睨みつけた。
「あ、ああ。もちろんだ。あんなもん、昨日のうちにウィズの店に渡した。なあ、ゆんゆん!」
「そ、そうね! 超火力が必要ならめぐみんがいればいいし、旅の途中で試作品が暴発したら危ないもんね!」
「……ふーん。ちゃんと処分してくれたのなら、この寛大な私が許してあげないこともないです」
めぐみんに睨まれ、俺とゆんゆんは明後日の方向へ視線を逸らした。
「……カズマ、目が泳いでいますよ」
「な、なんだよ! 最前線に行くんだぞ!? 一本くらい小さいの持って行っても許されるだろ!」
「やっぱり嘘でしたね! さあ、一本どころかもう何本かまだ隠し持っているのでしょう! 早く出しなさい!!」
「うおっ!? や、やめろーっ、俺の体をまさぐるなぁあ! 痴女認定するぞ!!」
めぐみんが猛然と俺に飛びかかり、首元に抱きつくような体勢で俺の懐や荷物袋に手を突っ込んできた。
俺が必死に抵抗するのも虚しく、めぐみんは器用に俺のポッケから、三本のダイナマイトもどきを引っ張り出した。
「やっぱり一本どころじゃなく持っていたじゃないですか! この嘘つき! 爆裂魔法への冒涜です!!」
「おいこら、返せ! お前がどうしても魔法を撃てない時の保険だろうが!」
「ええい、やめないか二人とも! 朝からみっともないぞ! どうしても揉み合いたいなら、私を間に挟んでだな……」
ダクネスが顔を赤らめながら仲裁に入ろうとしてきた。
一方でアクアは玄関の柱に寄りかかり、「相変わらず朝から元気ねー、私は眠いのに」と興味なさげに欠伸をしている。
「こんなもの、こうしてやるのです!!」
めぐみんは奪い取ったダイナマイトを高く掲げると、なんとそのまま遠方に投げ、魔力を練り上げ始めた。
「ちょっ、お前正気か!? 街のすぐ近くで何する気だ!」
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして、爆裂魔法を操りし者! 紛い物よ、真なる爆炎を刮目せよ! 穿て! 『エクスプロージョン』!!」
「アホかお前えええええええええ!!」
めぐみんが空に向けて放った爆裂魔法は、ダイナマイトもどきの爆発成分を巻き込み、かつてないほどの規格外の威力を発揮した。
空が割れるような爆音と、アクセルの街の窓ガラスという窓ガラスを震わせる凄まじい衝撃波。
あまりの威力に、俺たちは玄関先で全員まとめて吹き飛ばされ、地面に転がった。
「げほっ、ごほっ……! お前、やりすぎだろ……!」
「ふぅ……」
魔力を使い果たして地面に倒れ伏しためぐみんだったが、その表情は実に晴れやかだった。
「……スカッとしました。まったく後悔はしていません」
「しろよ! 街のみんなの迷惑になるだろ!」
「しかし、あの魔道具……触媒として活用するならば、我が爆裂魔法の威力をさらに引き上げる有用性については一考の余地はありますね。……ふふっ。ああいう邪道な魔道具は嫌いですが、私の魔法の威力を底上げするためというのなら、たまになら使ってあげてもいいですよ。作成の許可を与えましょう」
「あー…………アリガトウゴザイマス、メグミン様」
「ふっふっふ、わかればいいのです」
何故か上から目線で許可を出すめぐみん。
色々と言いたいことはあったが、これ以上機嫌を損ねて出発が遅れるのも面倒だし、それにごねられることなくダイナマイトを量産できるならそれに越したことはない。
何ならゆんゆんの巨大なリュックにはダイナマイトを入れてもらっているはずなので、戦地に行けばそれなりに有効活用できるだろう。
俺はため息をつき、おずおずと控えめに立っていたゆんゆんに視線を向けた。
「……はぁ。それじゃあ気を取り直して。ゆんゆん、頼む」
「は、はいっ! それじゃあみんな、私にしっかり掴まっててくださいね! ……『テレポート』!」
ゆんゆんの呪文と共に視界が歪み、俺たちはアクセルの街を後にした。
転移の浮遊感が収まり、目を開けると、そこは巨大な城壁の目の前だった。
王都の正門前である。
「よし、とりあえず王都には着いたな。最前線の砦へ行くルートを確認するために、まずはあの守衛に地図をもらおう」
俺は門を警備していた厳つい顔の守衛に声をかけた。
「すいません、最前線の砦へ向かう周辺の地図を譲ってもらえませんか?」
守衛は俺の姿を上から下までジロジロと値踏みするように見つめると、鼻で笑って手を振った。
「地図か? やめとけやめとけ、お前さんみたいな貧弱そうなヒョロガキが行く場所じゃねえよ。今の最前線がどれだけ地獄か分かってんのか? 腕に自信があるのは結構なこったが、見殺しにはできねえ。おとなしく田舎に帰りな」
ヒョロガキって言われるのも仕方がない。
一時期は王都で生活していたが期間は短いし、実際に俺自体は弱いのは否定できない。
だからといって引き下がる訳ではない。
ここは数多の大物賞金首と渡り合ってきた俺たちの実力を見せつけて度肝を抜いてやろう。
……図星でムカついて、むきになったからってわけじゃないぞ?
俺は後ろで欠伸をしている連中を指差した。
「いや、俺たち一応これでも上級パーティーなんだ。ほら、そこの青い髪のは一応アークプリーストで、蘇生魔法すら使える凄腕だ。そしてそこの金髪のはクルセイダー。しかもダスティネス家のご令嬢だ。さらに赤いのは二人とも紅魔族のアークウィザードだ。俺たち、これまで何度も魔王軍の幹部や大物賞金首を相手取ってきた実績があるんだぜ。んで、俺はそのパーティーのリーダーだ」
「な、なんだと!? アークプリーストにクルセイダー、アークウィザードが二人もいるパーティーだと!? しかもダスティネス様がいるパーティー!? き、聞いたことがある……エルロードに潜んでいた魔王軍幹部を捕縛した凄腕の冒険者パーティーがいると! 確かにそれほどの高位職業が揃っているなら、魔王軍幹部相手にも引けを取らないだろう! ……して、そこの偉大なるパーティーを率いるお前さんは、一体どんな上級職なんだ? さぞかし高名なソードマスターか何かか?」
「…………。あの、地図もらえます?」
「いや、だからお前さんの職業は……」
「とにかく地図。最前線への最短ルートが載ってるやつ、早くよこせください!」
「おい無視すんな! お前絶対一番下っ端の荷物持ちだろ!」
「違いますー! リーダーなんですー!」
痛いところを突いてくる守衛の質問を完全無視の鉄壁スルーでやり過ごし、俺は強引に地図をもぎ取った。
最弱職の冒険者だなんだと馬鹿にされるのはアクセルの街だけで十分だ。
無事地図を入手した俺たちは王都の門を出た。
そして、荒野の街道を歩くこと数時間。
「ねえカズマぁ、お腹空いたわー。もう歩けない、おんぶしてー」
「誰がおぶるか! むしろ俺のことおんぶしろよ、ステータス最弱なんだから!」
「二人とも全然元気ではないか。もう少し我慢しろ、まだ半日も経っていない」
半日もたってるんだわ!
そうダクネスに突っ込みたいが、すっかり疲れてそんな声すら上げるのが億劫だ。
しかしそんな俺たちを差し置いて元気な魔法使いが二人。
「めぐみんめぐみん! あそこのお花綺麗ね! 王都の近くって珍しい植物がたくさんって素敵!」
「あれはサンマの蕾ですね。あれに近づくと下手すれば刺されますし、農家の高レベル冒険者が仕掛けた魔物用トラップが飛んできますよ。それよりあちらを見てください! モンスター同士が縄張り争いをしてるところに漁夫の利で――」
ゆんゆんとめぐみんは遠足気分か……。
って、今なんか理解に苦しむ言葉が聞こえてきた気がするんだが。
そんな相変わらず緊張感のない会話を繰り広げながら進んでいたのだが……
「ひっひっひ……運のない奴らめ! こんな最前線に近い街道を、女子供とヒョロガキだけで歩いているとはな!」
突如として前方の岩陰から、柄の悪い男たちがぞろぞろと姿を現し、十数人が下卑た笑いを浮かべながら俺たちを囲い込んだ。
……山賊だ。
「カズマさん、山賊です! ど、ど、どうしましょう!? まさか本当に会えるなんて……! 言葉も通じるし、もしかしたら説得したらお友達になってくれ――」
「何言ってんだコイツは……?」
ゆんゆんは杖を構えて後ずさりながらも、友情に飢えていた。
「カズマ! すごいですよ! まさかカモねぎよりレアなモンスターである山賊に出会えるとは!」
「な、なんて?」
「ですから希少モンスター山賊ですよ! 討伐すると通常より多くの経験値を得られるどころか、たまに財宝を隠し持っているのです! しかも懸賞金がかけられていればさらに……! ここで見逃す手はありませんよ」
「やめて差し上げろよ、さすがに犯罪者だとしてもモンスター扱いするのは」
めぐみんは杖を突き出しながらノリノリで詠唱を始めるほどにお金に目がくらんでいた。
「カズマ。確かに山賊はモンスター扱いよ。彼らは魔王軍という強大な敵と戦う必要があるのにわざわざ山賊に身を落として街の外で暮らしてるの。犯罪か何かやらかして追放されたんでしょうね。ある程度実力があるはずなのにわざわざいつ来るかわからない冒険者たちをひっそりと待ち伏せる……労力の割に実りもなければ苦しい生活を強いられる世知辛いモンスターよ」
「アクアのいうとおり、山賊は駆逐すべき悪党だ。自衛ができない小さな村落を襲い、女子供を嬲るような下劣な奴らだ。ダスティネスの家名にかけて、討伐するのが使命だ。まずはお前から血祭りにあげてやる」
アクアは杖を、ダクネスは重厚な大剣を引き抜く。
今回に限って意外にこの二人はまともに見える。
特にダクネスは、今だけはかっこいい立派な聖騎士にみえる……と、思っていたのだが。
「しかしまさかのシチュエーションだ……! まさかこんな人通りの少ない街道で、無法な男たちに囲まれてしまうとは……! さあ、好きにするがいい! 身ぐるみを剥がし、手足を縛り、酷い目にあわせた上で奴隷として売り払うつもりだろう!? あるいは、この頑丈な肉体が悲鳴を上げるまで、昼夜問わず弄ぶ気か!? 言っておくが、私は絶対に屈しないぞ……くっ、殺せーっ!!」
うん、やっぱりダクネスはぶれないな。
尋常ではない狂気的な眼光と、ねっとりとした欲望の籠もった咆哮に、威勢の良かった山賊たちが一斉に青ざめて後ずさった。
「お頭、あいつらは魔法使いか何かで? ひ弱ならすぐに俺らが……」
「い、いや、違う……な、なんだあいつは……? 目がマジだぞ……! しかもダスティネスとか言ってなかったか……!」
「しかも『くっ、殺せ』とか言いながら、なんかすごく期待した目でこっちを見てハアハア言ってるぞ!?」
「もうダメだ…おしまいだぁ…!」
「殺される…皆…殺される…! 奴は伝説の王家の懐刀とも言われる貴族なんだっ…! か、勝てるわけがない! 逃げるんだぁ!」
「ああっ、待て! どこへ行くんだ!? 私はまだ指一本も触れられていないぞっ! ちょっとくらい乱暴にしてみろ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく山賊たちを、ダクネスが悔しそうに追いかけていた。
しかし盗賊の逃げ足は生存に特化したゴキブリ並みに速く、思い鎧を着けたダクネスの魔の手から逃れた。
ダクネスが深く落ち込んでいる中、俺は突っ込みたい欲に駆られていた。
しかしそんな俺を遮るかのようにめぐみんが目を赤く輝かせて――
「逃げ切れるといいですね――」
「ふおぉっ!?」
デデーン☆
この始末☆ はてさてこのさきどうなりますことやら
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める