1ヶ月ぶりに書きましたら、話の展開とか文章の書き方忘れて難産でした……
まずは冷静に状況を整理しよう――
一つ、ここは混浴温泉である――したがって、男女が素っ裸で同じ空間にいるというこの状況に何ら法的な問題も倫理的な不都合も存在しない。
二つ、目の前にいるのは、あまりにも見知った顔の魔王軍幹部――めぐみんがずっと探していた因縁の相手であり、めぐみんに会わせるためにも拘束するために身体的接触を図らわざるを得ない。
そう、俺はこれから知り合いのお姉さん(裸)を組み伏せようとしているが、あくまで正当防衛やら現行犯逮捕のためであり、一切邪な想いは一つもないのだ。
「魔王軍の幹部、確保ォォオオオオーー!!」
「きゃぁああーー!?」
鮮やかな赤髪を揺らし、豊満すぎる邪な巨乳を湯船に浮かべていたお姉さんに向けて、裸一貫で俺は厭わず湯船に飛び込んだ。
その豊満なボディを思う存分堪能――もとい、魔王軍幹部であるウォルバクを捕縛するべく!
「オラぁ! こんなところで無防備に出歩いたが運の尽き! 観念しやがれ邪神め!」
「な、何でカズマくんがここに!? ま、待って! 話せばわか――」
「問答無用! 覚悟しろーッ!」
目を白黒させてパニックに陥っているウォルバクさん。
俺でさえ、まさかこんなところで遭遇するなどとは夢にも思っていなかったのに、ましてやウォルバクさんはなおさらだろう。
あまりの勢いに恐怖したのか、逃避しようとウォルバクさんは湯船から勢いよく立ち上がっ――
――たぷん――
――その瞬間、圧倒的な重量感と柔らかさを誇る二つの宝玉が、大きく揺れ動く。
俺の視線はそのまま釘づけになってしまった。
くっ! なんてことだ――!
まさか男の本能を逆手にとるだなんて……
俺は、魔王軍幹部の策略によりその場に立ち止まって前かがみにならざるを得なかった。
「流石は魔王軍幹部……最初に魅惑の不可視魔法を使うなんて卑怯な手を……!」
「何もしてないのだけれど!? というか、いきなり大声で叫んで突撃してきたのはあなたじゃないの!?」
ウォルバクさんはあられもない姿のまま、必死に胸元を手で隠しながら叫んだ。
あくまで自分は専守防衛であると謳うつもりらしい。
俺は湯気越しにウォルバクさんの全身を凝視――もとい、鋭い眼光で睨み付けた。
「だってお前魔王軍幹部なんだろ!? しかもウィズと違って、現在進行形で前線の戦いに参加してるし!! というわけで正義の名のもと、大人しく捕まりやがれ!! なに、俺とウォルバクさんとの仲だ、悪いようにはしないって……!!」
「そうだけど! そうなんだけど! それでも、今にも『ぐへへ』とかいう笑い方しそうなカズマくんの厭らしい目を見ていると全然釈然としないわ!」
「い、厭らしくないし!! 俺としては、新聞記事に大々的に取り上げられてる魔王軍幹部が、こんな温泉でのんびり湯に浸かってる方が釈然としないんだが!?」
本当にどうして戦いの前線から離れた温泉にいるんだよ……しかも魔王軍幹部が一人で冒険者用の宿に。
俺が訝しんでいると、ウォルバクさんは一転して気まずそうに視線を泳がせた。
そしてぼそりと愚痴をつぶやくように。
「……これでも色々と忙しいのよ。たまの息抜きくらいさせてほしいわ」
……アクアにウザ絡みされたときより疲れてるじゃないですか。
ふと空を見上げたウォルバクさんの顔にはかなり疲労が滲んでおり、その頬は湯のせいで赤く染まっている。
その口調も態度も、以前俺たちの拠点で一緒に過ごしていた時の親しみやすいお姉さんのままだ。
王都の最前線で猛威を振るい、人類を脅かしていると報じられている巨悪……のはずなんだが、目の前のウォルバクさんとを結び付けられない。
俺はため息を吐き出して、そのままゆっくりと温泉の中に腰を下ろした。
立ち尽くしていたウォルバクさんも、俺の様子を見て警戒を緩め、そっと肩まで湯に沈める。
「なあ、何でこんなことしてるんだよ」
「……魔王軍の幹部だからよ」
「魔王軍幹部はみんな温泉に浸かりたいのか? 温泉を汚染しようとしてたハンスと言い、ウィズの裸を覗こうとして頭を潜めてたベルディアといい」
「ち、ちが! 私はどうして最前線で戦ってるのかって聞かれてるのかと思って――!」
「わかってる、さすがに冗談だ」
「……っ! まったく、あなたは大物というか、なんとというか……とにかく、魔王軍の幹部をからかうものじゃないわ」
湯に顔を沈めながらこちらを睨み付ける魔王軍幹部だが――
ヒロイン枠としてうちのパーティーにいてほしいという感想しか出てこなかった。
でも、ウォルバクさんは冒険者と敵対する魔王軍幹部なんだよなぁ……
「幹部だとしても、ウィズみたいなヤツだっているだろ? 優しくて人間の味方ポジな感じの。ウォルバクさんも同じようなもんだと思ってたんだが……」
「ウィズは元々魔王軍と敵対関係だったから。穏便派の彼女と私ははあくまで別物よ」
「なあ、何か言えない事情でもあるんなら――」
「それは、答えられない質問ね」
ウォルバクさんはこれ以上は話すまいと、静かに顔を背けた。
俺たちの元から去っていった時も、黙って何も話さなかったし、別れの挨拶さえしなかった……
やっぱりのっぴきならない事情があるんだろう。
できれば力になりたいんだが、ウォルバクさんの横顔を見ると、そこには立ち入れない壁があった。
「でも、私はできればあなた達とは戦いたくないと思っているわ……」
ぽつりと漏らされた呟き。
ならどうして……と出かけた言葉を噤んで、俺は湯船の中で膝を抱えた。
「俺たちだって、ウォルバクさんと敵対するのは不本意なんだが」
「さっきあんな恐ろしい剣幕で襲い掛かってきたのに?」
「あれは別にウォルバクさんを捕まえようとしただけで、本当に命がけで戦いたいわけじゃ……」
「ふふ、冗談よ。でも最初は貴方が急に現れたことに驚いたし、本気で攻めてきたのかと思って焦ったわ。でも、すぐにいつものカズマくんだって気づいたけれど」
呆れ混じりに、どこか愛おしそうにくすくすと笑うウォルバクさん。
俺としては「いつものカズマくん」という言葉について、どこをどう見てそう思ったのか問い詰めたいところだったが、自分の首を絞めてしまいそうだったのでやめておいた。
湯殿に響いていたくすくすという反響が静まると、風呂場の中にはどこか切なく、寂しい雰囲気が漂い始める。
その沈黙に耐えかねて、俺は口を開いた。
「俺だって、流石に驚いたぞ。まさかこんな場所でばったり遭遇するなんて思わないだろ?」
「そうね。会えて嬉しい反面、本当にまさかだったわ……。そもそも貴方達がこんなところまでやって来るだなんて思ってもみなかったから」
「そりゃ、知り合いの綺麗なお姉さんが旅先で変なことしてるって聞いたら確認しに行くだろ。まさか心配すらされない程度の関係だったと思ってる鈍感系ヒロインなのか?」
「えっと、鈍感系ヒロインが何のことだかよくわからないのだけれど……だとしても、よ。あの子の眼のこともあるし、カズマくんにも色々と迷惑をかけてしまったから……」
「なるほどな……」
――やっぱり、めぐみんの邪眼が使えなくなったのはウォルバクさんの仕業だったんだな。
めぐみんの口からは直接聞けていなかったが確信に変わった。
元々めぐみんの邪眼は、定期的に魔力を放出しないと死んでしまう呪いのような代物だったし、最初にめぐみんの邪眼がどうにかなったと聞いた時には思わず喜んだ。
……が、如何せん、当のめぐみんがあんなに落ち込んでしまっては世話がない。
「……っていうか、迷惑って? 俺としてはウォルバクさんに迷惑をかけられた覚えなんてないんだが……」
「迷惑、というか……以前に私があなたにかけた加護よ。本当はパーティのリーダーであるあなたの気力を削いで、戦いから遠ざける算段だったのだけれど……それが結果的に、クーロンズヒュドラの討伐であなたを死なせてしまって……本当にごめんなさい」
「あ……」
「カズマくんを怠惰にしても駄目だったから、彼女に宿っていた力を奪ったの……これ以上あの子を戦いに巻き込みたくなくて、魔法を撃つ動機を消したかったのだけれど……これも失敗したみた――」
「あぁ……あああああああっっ!! 思い出した!! あれ、お前の仕業かああっ!!」
「カ、カズマくん……?」
ウォルバクさんに順を追って説明され、俺は今までずっと忘れていた――いや、脳内に靄がかかったように不自然に思い出せなくなっていた部分が一気にクリアになった。
あの時の、急にやる気がなくなってニート生活に逆戻りしていた時期のことをはっきりと鮮明に思い出した!
いや、確かに薄らとウォルバクさんが何かしたのは覚えてたし、そのことについていつか問い詰めようと思ってはいたのだが、原因がハッキリしたことで猛烈な怒りがふつふつとこみ上げてきた。
けしからん邪神に一言物申してやる!
俺はバシャリと激しい飛沫を上げて湯船から立ち上がった。
「きゃあ!? カ、カズマくん!? カズマくん立たないで!? 見えてる! 色々見えちゃってるから!!」
「んなことどうでもいいわ! お前のその妙な加護のせいで俺が一度死んだり、街で変な悪評が広まったりしたんだぞ! どう責任取るつもりだ!」
「ほ、本当にごめんなさい! ……って、悪評は元からだったと思うし、それは私関係ないんじゃないかしら!? ほ、ほら、私も悪かったけど悪評に関しては――あっ、ちょっと!? 目をそらさないで! あなた、ちゃんとこっち見なさいよ!」
いいや、全部……は言い過ぎにしても……多分、8割方、いや、半分かそれくらいはウォルバクさんのせいだと思う、ぞ?
だって、引きニートのカズマさんだとか、脛齧りのカズマさんだとか、巨乳派のカズマさんだとか、何よりウォルバクさんに厭らしいことしてるだとか噂立ってたし!
本来なら胸の一括揉みくらいセクハラをしてやらなければ気が済まない!
が、多少俺のせいもあるかもだし、両手で固く目を覆いながら真っ赤になって恥ずかしがるウォルバクさんの姿を見ているうちに、妙な達成感が湧いてきて怒りも収まってきた。
というか、普段はあんなに清純で淑やかな人の重厚な双丘をどうにかしようとしたら、どうにかする前に俺の理性の方がどうにかなってしまいそうだ。
「まあ……あれは事故みたいなもんだし、噂のことも渋々許してやってもいい」
「噂は関係ないのに、腑に落ちないのだけれど。……でも、許してもらえてよかったわ。ずっと胸に蟠りがあったのよ」
ほっと胸を撫でおろし、ウォルバクさんは少しだけ表情をほころばせた。
その和やかな横顔を見て、俺は思わず本音を口にしていた。
「なあ……許す代わりにと言ったらなんだけどさ。魔王軍なんてやめて、俺たちと一緒に帰らないか?」
「それは……無理よ。魔王軍をやめたり、人類側に寝返ったりすることはできないわ」
俺の唐突な提案を聞いて、ウォルバクさんは一瞬だけ嬉しそうに目を細めた。
だがすぐに、切なげで寂しそうな笑みを浮かべてその提案を拒絶した。
「そりゃ、そのまま普通に人間に捕まれば即処刑コースだろうけどさ。でも俺が上に言えば……これでも数々の魔王軍幹部を討伐してきたカズマさんだぜ? 実は俺たちの極秘スパイだったって俺が証言すれば何とかなるだろうし、最悪、角とか魔王軍っぽい部分を隠してくれれば俺たちの屋敷で匿うからさ……な、一回ちゃんと話し合わないか?」
「……随分と魅力的な提案ね」
「だろ? じゃあ――」
「でも、それはできない相談ね。貴方達と敵対したくない以上に……私は、魔王軍幹部として戦わなきゃならない理由があるの」
どうしてそこまで頑なになるんだ。
勢い余って立ち上がった俺を見つめるウォルバクさんの瞳は、どこまでも優しく、どこか諦めに満ちていた。
そして、幼子を諭すかのように静かな歩調でこちらへと歩み寄ってくる。
触れられるかと思った瞬間、彼女は俺の横をすんなりと通り抜け、背後へと抜けていった。
「久しぶりに楽しかったわ。魔王軍も人類も関係なく、ただの知り合いとして話せて」
「待ってくれ! めぐみんが……! めぐみんが、アンタと話したがって……」
「……あの子と話すことは、もう何もないわ。……ごめんなさいね。ここに長く留まったら居心地がよすぎて、本当の仕事を忘れてしまいそうになるの」
ひたひたと濡れた足音を響かせ、湯滴を滴らせながら、ウォルバクさんは脱衣所へ続く浴場の扉へ手をかけた。
俺はウォルバクさんの方へ振り返り、声を張り上げたが、それでも彼女が止まる気配はなかった。
「待て! 待たないと俺のスティールが炸裂することになる!! タオルしかない今、もしスティールを使ったら――」
「混浴なのに今更じゃない? ……ここであなたと事を構える気はないけれど……戦場ではそうはいかないわ。だから、あなたたちはこれ以上先に来ちゃだめよ」
それまでの温もりを消し去り、冷たく言い放つウォルバクさん。
背中を向けて脱衣所へと向かう彼女を、俺は慌てて追いかけようと一歩踏み出し――
「『スリープ』」
「まっ……待っ…………」
「ごめんなさいね。私は……卑怯な魔王軍幹部なの。お願いだから、これ以上は来ないで――」
抗いがたい強烈な眠気が脳を支配する。
崩れ落ちる視界の端で、切なさそうに微笑むウォルバクさんの姿が滲んでいく。
彼女の声の終わりを聞き届けることもできず、俺の意識は深い微睡の底へと溶けていった。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める