父さん、母さん、お元気ですか?
あなたの息子、佐藤和真は――
「魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取ったサトウカズマさんのパーティーには、その素晴らしい功績を称えて……ここに金三億エリスを与えます!」
――胃に穴が開きそうです。
本当は今な予定じゃなかったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
それは昨日のお昼頃……いや、一週間前に遡る。
「爆ぜろリアル、弾けろシナプス! バニッシュメント・『エクスプロージョン』――ッッ!!」
爆裂魔法を放っためぐみんは満足げな表情で地面に倒れた。
俺は目の前で立ち上がる爆炎の規模、音圧と爆風、そのすべてを見て。
「今日のはいい感じだな。爆裂の衝撃波がズンと骨身に浸透するかの如く響き、それでいて肌を撫でるかのように空気の振動が遅れてくる……ナイス爆裂!」
「しかも爆裂の威力も城を覆い尽くすかどうかのギリギリを狙って……今日はあの城も見張り塔みたいなところが消し飛んでるわ! ナイス爆裂!」
「ナイス爆裂! やはり爆裂道は一日にしてならず、毎日行うべきものですね……」
「……君たち、いつもこんなことしてるのかい?」
俺たちの日課を見て勝手についてきたミツルギがそんなことを言う。
きっと今の今まで俺たちのことを素晴らしいヒーローか何かだと勘違いしてただろうが、俺たちの普段の様子を見せつければきっとそのフィルターもとれるはず。
そう思って俺はニヤリと笑い。
「そう、これが俺たちだ。特にやることがないから毎日毎日バイトするわけでもなくこうやって時間を潰しに――」
「なんて素晴らしいんだ!」
「――は?」
……きっと聞き間違ったのだろう。
この爆裂散歩を見て第一の感想が「素晴らしい」なわけない。
きっと疲れてるんだ、帰ったら寝よう。
そう思っているとミツルギが続けて。
「今まで僕は強固な要塞を破壊することができるほどの破壊力を秘めた魔法を見たことがない! この威力は三人で毎日魔法の研究をして、それの研鑽あってのことだろう。君がフリーなら僕のパーティーに入ってほしいくらいだね」
「ええ、そうでしょう、そうでしょうとも! 私は凄いのですよ!」
ミツルギに煽てられて嬉しそうな様子のめぐみん。
うん、聞き間違えたわけじゃなかった…………ってことは盛大に失敗したかもしれない。
本当はミツルギの曇りガラスを晴らそうとしてたのに、むしろ曇った眼が節穴になってしまった気がする。
「しかもあれは魔王軍幹部が住まうという建物じゃないか! なるほど、街の冒険者から聞いたが、これが、罠が設置されているだろうあの城の中に入らずにむしろこちらにおびき寄せる作戦か……!」
「あ、いや、確かにめぐみんはそんなこと言ってたけど、罠が設置されてるとかそう言う設定は後付けの嘘だし、そもそも最初からそんなこと考えな――」
「やはりアクア様が選んだ人選……その目に狂いはなかった!」
いや、狂ってると思う、特にお前の目が。
いくら違うって言っても「謙遜することはない」なんて笑ってスルーするし……いっそのことメガネをプレゼントした方がいい気がしてきた。
「よし、では僕もこれから毎日ついて行こうと思う。すでに優秀なアークウィザードがいるみたいだけどね、前衛がいた方が安全だろう?」
「ウン、ヨロシク」
俺の表情筋が機能を停止した。
街に戻ってきて、めぐみんは爆裂魔法の反動で動けないのでゆんゆんが宿に連れ帰った。
ギルドに到着すると、ミツルギはドラゴンの討伐に行くとかなんとか言って爽やかに去って行った。
またすぐ戻ってくると言っていたので、このまま休養とか急用で別の街に行っても構わないと言って送り出した。
できれば構わないというか、別の街に行ってほしいんだが……まあ、絶対そんなことにはならないので。
「アクア、ダクネス、ただまー」
「ああ、ギルドに戻ってたのか。爆裂魔法の音が聞こえてきたが、本当に撃ち込んできたのだな……。私としては魔王軍幹部の激しいプレイに興味があるが、まさかあれだけ魔王軍幹部を敵にするのは現実的じゃない的な話をしていたのに……」
「仕方なかったんだよ、俺たちがやってることのありのままを見せれば幻滅してくれる希望に賭けるしかなかったんだ」
まあ、賭けに負けたからこんなことになってしまったのだが。
そもそも、ミツルギが一緒に魔王軍幹部と戦いたいって言ったのが始まりだ。
俺は戦いたくないし、というか一番やる気あったアクアも腰が引けてきたとか言うし、なんとかして戦わずに済ませたかったのだが……
人の話を聞かないで有名なミルルギさんには一切話が通じず、明日には出発するということになってしまった。
流石ミツラギさんは人の話を聞かない。
そう思っているとアクアがキョロキョロと辺りを見渡しながら。
「カズマさんおかりー。そういえば結局あのマツラギって人はどこ行ったの? もしかしてどこか別の場所に……!」
「いや、一狩りしたら戻ってくるらしい。そう言えばさっき話してるうちにまたお前の評価が凄いことになってたぞ? 馬小屋で寝泊まりしてるのも自然と一体になるための儀式ってことになってるし、宴会芸スキルも味方の士気を上げるために……って」
「どうしよう! ねえどうしようカズマさん! これって私のせいなの!? 私がちょっとだけ誇張して話しただけでまさかあんなことになるなんて思わないじゃない! 馬小屋で一生暮らさなくちゃならないなんて嫌なんですけど!!」
「……ドンマイ!」
「あっきらめないで! 諦めないでよカズマさん! というか魔王軍幹部討伐なんて無理なんですけど! 何とかしてあのマツラ……サクラギ……と、とにかく魔剣の人を止めてちょうだい!」
流石カブラギを異世界転生させた女神、右から左に聞き流したのか、それとも三歩歩いたせいで記憶に残っていないのか、ムツルギの名前ごと俺が話した内容をすっかり忘れてやがる。
俺はため息をつきながら駄女神に。
「いや、言っただろ。多分どうあがいても止められない。ばっくれようとしても、アクアがいる限りマツラギは諦めない」
「じゃあどうすんのよぉ! このままじゃ私たち魔王軍幹部を討伐しなきゃいけないじゃない! 私、まだ女神生を謳歌してたいんですけど!」
「はぁ……だから昨日馬小屋で作戦立てたのを聞かせただろ?」
アクアはまだピンと来てないようだが、そう、俺は昨日馬小屋で今後どう動けばいいか案を考えたのだ。
ただしどう足掻いてもミレレギは諦めないのでどうしようかと思って……
俺は一つの良案を思いついたのだ。
――近距離タイプの魔王軍幹部が怖いなら遠距離で戦えばいいじゃない、と。
いや、本当は戦いたくない。
レベル一桁の俺たちが魔王軍幹部討伐なんて無理ゲーにも程がある。
本当は今日の爆裂散歩を見て幻滅してもらう作戦が成功すればよかったんだが、まあ成功しないことはわかってたので同時並行の別作戦を立案したのだ。
俺たちがするのは爆裂魔法を遠距離から撃つことだけ。
そうすればベルディアにダメージが蓄積されるだろうし、もしかしたらそのまま討伐できるかもしれない。
なんならベルディアがボロボロになりながら城から出てきたらそれこそ大チャンス。
その時はきっとそのときは俺たちが真正面から戦わなくても魔剣の勇者様がなんとかしてくれるはずだ!
レベル高いし、ワンチャン勝てそうだし。
つまりはミルツギに全投げ、全任せ作戦である。
「まあ言っちゃえば、遠距離でチクチク攻撃しとけば俺たちは怪我しないって寸法よ」
「なるほど、あの魔剣の人がいれば私たちの代わりに勝手に戦ってくれるから逆に安心ってことね! 人を利用するなんて、カズマさんも悪いわねぇ」
「いやいや、人を誑かして狂信者にするお前ほどじゃあないよ」
「作戦が作戦として成立してるからいいものの…………どっちもどっちな気がするのは私だけだろうか」
ダクネスが何か言ってるが、悪いのは話を聞かないミツリギだ。
まあそんなわけで。
今日からまた俺たちの爆裂散歩が再開されることとなった。
このすば
そんな感じで約一週間が経過した頃。
俺たちは今日も今日とて爆裂しようと砦に向かおうとしていたのだが。
『緊急、緊急! アクセルの街にいる冒険者各員は至急武装を整えて正門の前に集まってください! 特にサトウカズマさんのパーティーは至急、正門の前に!』
そんな激しい警報音が鳴り響く。
正直言って想定通りだし、幾度となくシミュレーションしてきたのだが緊張でわずかに身が強ばる。
そんな中、俺たちは走り出した。
急いで駆けつけると、
「もうダメだ……おしまいだぁ……」
「やめろ! 逃げるんだぁ、勝てるわけがないよぉ」
「これからが本当の地獄だ……」
という冒険者の声が耳に入ってくる。
「おいおい、今回もデュラハンだろ? 前回は撃退できたのにどうしてそんな弱気になってるんだ?」
「カズマか……実はさっきまでこの街の切り札であるミツルギさんが戦って……」
おお、まさかもう戦っていたなんて!
話は聞かないヤツだが、中々どうしてやるじゃないか!
そう思っていたのだが、周囲の冒険者の顔は芳しくない。
「なあ、魔剣の人が戦ってくれてるんだったらベルディアと互角に張り合えてるんじゃないのか?」
「……それがミツルギさん、油断したんだか相手が悪かったんだか、剣を交えた衝撃で街の外壁にぶつかって気絶しちまったんだ! ああ、もうあいつに対抗できるヤツなんていやしない、おしまいだぁ……!」
えっ、マジ?
ミツルギがもう戦えない?
どうしよう、元々ミツルギ頼りの作戦だったのにすでにその計画が終わったんだが?
…………いや、待て。
「……まだだ。まだ、ミツルギさんは終わっちゃいない!!」
「か、カズマ? 一体何を言って……ミツルギさんはもう倒れて動けないんだ!」
「いいや、死んでないなら大丈夫だ。そうだろ、アクア!」
「もちろんよ! というか死んだとしても私の復活魔法で生き返らせるわ!」
「よし、じゃあ俺が話して時間を稼いでおくから! お前は魔剣の勇者を回復させてもう一度戦わせてやれ!」
「ええ、任せてちょうだい! 魔剣の人にはまだ頑張ってもらわないと……じゃないと私たちが戦わなきゃいけなくなるわ!」
わかってるじゃないかアクア……!
さすが、付き合いが長いだけあるぜ。
周囲から「もう十分頑張った人を無理矢理立たせるなんて……!」とか「うわぁ……同じ仲間だと思われたくないのだが……」とか「爆裂魔法を使える今、私は向かうところなし敵なしです!」などとドン引きの声が聞こえてくるが、こうでもしないとアクセルの街が地図から消滅することになる。
そんな事情を考えないヤツの意見は無視だ無視。
俺は急いで冒険者の集団をかき分けて前に出て行く。
集団から抜けると、俺の目の先にはベルディアがアンデッドの群れを従えていた。
装備はボロボロだがその威圧感は尋常ではなく、周囲にはドス黒いオーラが漂っており、ベルディアは俺を見つけると体を小刻みに震わせ、今まで抑えていた怒りを爆発させるように叫んだ。
「お、おおおお、俺の城に、爆裂魔法を撃ち込むなといったのに毎日毎日毎日毎日撃ち込む、あ、頭のおかしい碌でなしどもがかああぁぁァァ!!!!」
大層お怒りの魔王軍幹部様だが、俺は臆さない。
何故なら俺がするのはただの舌戦であり、ただの時間稼ぎであり、俺は戦う必要がない。
いくら怒鳴って恐怖心を与えようとしたところで俺に実害を与えられやしないのだから。
だから俺は……
「何でお前さっきから被害者ぶってんだよ!」
「ファ……ッ!? い、いや、だってお前のところの紅魔族のが爆裂魔法を俺のところに撃ち込みに――」
「さっきから少しうるさいぞ! 周りの迷惑とか考えられないかな!」
「い、いや、それはむしろこっちのセリf――」
「いやさ、勘違いしてほしくないんだが、お前が爆裂魔法で迷惑してるってことくらい俺にだってわかる……けどな、お前らがこの街の近くで屯してる方が周りに迷惑がかかってるってことくらい自分の頭で考えられないのかな? もしかしてアンデッドだから? 脳みそまで腐ってるせいでこんな簡単なことすら考えられなくなったのか?」
「く、腐って……!? お、おい! 流石にライン越えじゃ――」
一度話し始めた俺の口はもう止まらない。
ベルディアの言葉を遮って今までの鬱憤を吐き連ねる。
「正直言って、お前が爆裂魔法を撃ち込むなって理由はわかるが、それを言うんだったらその前にこっちにも配慮するべきなんじゃないですかね! するなって言うなって言ってるんじゃなくて、自分がそう言うこと文句言いたいのはわかるが、だったらまずは自分から周りに気を配らないことには何も始まらないんじゃないですかね! それをしないって、少し配慮に欠けるんじゃないか? ってか、これくらいのこといちいち俺の口から言わなくてもある程度の年齢まで生きてきたなら普通分かるし察せるだろ! なのにぃ? それを理解する努力すらしないって……人としてどうなわけ? アンデッド歴何年ですかぁ?」
「あの、その、この度は誠に申し訳ござ――」
謝罪しようと関係ない。
俺はあくまで時間稼ぎ担当、これから起き上がってくる勇者に託すまで止まらない。
「ああ、謝るな。確かに俺にだってこれくらいのこと軽く許せるくらいの器はある。でもそうやってお前らに非があるのに俺や周りに甘えるのってお前らが自分に甘いってのもあるし、俺たち、延いてはアクセルの街という存在そのものを軽視してるからこそできることだよな? 今回の所業を許すと俺たちの傷つけられた心、稼げたはずの報酬、権利はどうなる! こっちはお前のせいでモンスターの討伐クエスト請けられないんだが! これって、俺たちの権利の侵害だよな!?」
「……そ、その…………俺が、お金払いま――」
「どうやって? お前らって魔王軍に所属してる言わば無法者ってことだよな? エリスとか持ってるわけないのにまさか魔族が使ってる通貨で支払おうっていってるわけじゃないよな? もちろん財宝とか一体どれだけの値段になるか不確定なやつはだめだ。そうなるとやっぱり払えないんじゃあないか? うん、どうなんだ? 払えないよなあ!!」
「か、勘弁してくださ……って、何で俺が謝る流れになってるんだ!?」
ちっ、あと少しで頭が地面につきそうだったのに……
思わず舌打ちが出てしまった。
と、一瞬言葉の隙を見つけてベルディアが話の主導権を取り戻して。
「おい、貴様ら! いつまでも見逃してもらえると思うなよ……俺がその気になればここにいる冒険者を切り捨てて街の住民を皆殺しにすることもできるのだ!」
「でもそれを今できないってことはつまりそういうことだよな? 恐怖心を揺さぶって話を自分の有利な方に持って行こうとするその精神性、本当に生前が騎士だったか疑――」
「もうその手には乗らないぞ! お前とは話してるだけ時間の無駄だ!」
俺の長話に付き合うとどうなるか身をもって体験したベルディアは俺を無視してめぐみんを指す。
もう少し何とかして時間を稼ぐべきか……
そう考えたときだった。
俺の口角がわずかに上がる。
しかしそのことにベルディアは気づかないようで、怒りで声を震わせながら。
「今回この俺自らここに足を運んだ理由はそこの頭のおかしい紅魔の娘に己がしでかしたことの大きさを理解させるためだ! 今ここでお前を殺してしまうことも考えたがその様子を見て気が変わった……代わりにお前の仲間の命を頂くとしよう! そしてお前はその罪の意識に押しつぶさ――」
「『ターンアンデッド』――ッ!!」
「ひやああ、ああっ、目がっ、目がああああ!?!? あっづーッ!?!?」
デュラハンの人がかっこよく決めようとしている最中に魔法がぶち込まれた。
その立ち上がる光の柱によってアンデッドナイトが消滅していく。
俺はその魔法を放った女神の方を見た。
「カズマさん、間に合ったかしら?」
「おう、タイミングは……まあ、空気は読めてないけどナイスだ!
もしかしたらアンデッドナイトが消滅したしベルディアも……
そう思っていたのだが、ベルディアはアクアの魔法でプスプスと黒い煙を上げながらよろよろと立ち上がろうとしていた。
そんな状況に冒険者たちが一瞬響めくが、それは徐々に沸き立つ別の声で打ち消された。
「おい、ミツルギさんが復活したぞ!」
「何だって! やっぱりたった一撃でやられるわけないと思ってたんだ!」
「おい、ミツルギさんのお通りだ! 道を空けろ、空けろ!」
モーゼの奇跡のように人混みが割れてできた道からツカツカと足音が聞こえる。
ようやく我らが希望の星(笑)である勇者がやってきたようだ。
「遅れてすまなかったね、みんな。先ほどは足をかけられ、そのまま蹴飛ばされてしまったが……この御剣響夜、もう不覚はとらない!」
「いや、足をかけたって言うか、貴様が勝手に小石につまず――」
「いざ尋常に勝負!!」
……お前、小石に躓いたのか。
ストーリー進行の早さどうですか?
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もっとはやく(伏線など要所に絞って書く)
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ちょいはやく(アニメ各話ごとに~1万字)
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今で丁度いい(アニメ各話ごとに2万字)
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もっと深掘り(アニメ各話ごとに2万字~)