「……家がほしい!!」
ダストとパーティーを交換してから早数日。
いつものようにギルドで暴食のめぐみんを見やりながら朝食を食べ終え、今日の予定を決めようと皆がテーブル席に着いたとき、俺は第一声、心から叫んだ。
そんな唐突な叫びに、皆はポカーンと間抜けな顔をしていた。
「いいか、皆には言ってなかったが俺には夢がある。マイホームを持ち、安定した不労所得で余生を大人しく優雅に過ごしたいという夢が!」
「労働をなめ腐っているその精神……クズさに磨きがかかってきたな。私好みだ」
「ダクネスは黙ってろ、なんかそう言われると俺が間違ってるように聞こえて嫌だから!」
「まあまあ、ダクネスがおかしいだけだから気にしなくて大丈夫よカズマ。私もカズマと同意見だしね。今朝なんて馬小屋で凍え死にそうになったし、これは早急に解決すべき問題よ。あと不労所得なんてあればあるだけいいものよ、不労所得バンザイ!」
なんかアクアに肯定されると俺の夢が間違ってる気がするんだが……気のせいだと思いたい。
でもまあ、実際アクアの言うとおり、俺たち二人は馬小屋生活真っ最中であるが、季節は冬である……そろそろ気温がさらに下がり、馬小屋で凍死したミイラが発見される可能性を否定できない状況なのだ。
今朝だって睫が凍ってたし、本当にそろそろマシな住処がマジでほしい。
「つまりカズマはパーティの拠点がほしいのだな? ならば私が場所を探してみよう」
「えっ、いいのか? というかできるのか?」
「ああ、もちろん。実は知り合いに不動産屋を営んでいる者がいてな、きっとパーティーの拠点にしたいと言えば探してくれるだろう」
「はいダウト、クリス以外に友達らしい友達がいないお前がそんな伝手あるわけないだろ」
「カズマ!?」
「ダクネスさん安心してください、私もお友達は少ない方ですから! そ、それに少なくとも私たち、と、友達ですし……」
「ゆんゆんに慰められた!? き、貴様らは私を何だと思ってるんだ! クリス以外にも友人と呼べる友人はい…………なかったかもしれない……」
「私たち、きっと本質的には陰を宿した同族なんですよ、そうに違いありません! ぼっち仲間として仲良くしましょうね」
「いや、結構知り合いはいるしボッチではないのだが! ……ゆんゆんじゃあるまいし」
「えっ、突然の裏切り!?」
まさかバッサリ切り捨てられるとは思っていなかったのだろう、ゆんゆんは目を大きく見開いていた。
まあ、ただダクネスはクールぶって愛想がないだけだし、ぼっちを極めしゆんゆんより交友関係がありそうって言えばありそうか……?
いや、なんかどっちもどっちな気がしてきたわ。
「確かに私も冒険者仲間の範疇を超えた友人は数えるほどだが、ゆんゆんに比べれば……」
「喧嘩売ってるんですかダクネスさん!?」
「いやしかし、ゆんゆんはめぐみんがいなければ大体一人だし……」
「こ、紅魔の里に戻れば話す人くらいいますから! というか皆さん、私のことをボッチとか言いますけど、私はダクネスさんより友達多いはずですよ!」
「「「「えっ」」」」
全員の声がハモった。
というかギルド全体の声がハモった。
「なんでみんなそんなあり得ないものを見聞きした時に浮かべる驚愕の表情を!? 紅魔族は売られた喧嘩は買う種族よ!」
「いや、拗らせボッチが大口叩いたなー、と……。ダストを友達カウントしてるんだったらやめた方がいいぞ」
「そんなことしませんよ!」
「カズマ!? ゆんゆん!? そりゃないぜ!?」
外野が騒いでいるが話が進まないので無視を決め込む。
「というかカズマさんは私のこと何だと思ってるんですか!? いますよ、たくさんいますよお友達も知り合いも! めぐみんが変なこというだけでいますから! 知り合いの数も含めたら十……いや百人は!」
「いえ、多く見積もっても片手で収まりますよ、この子の交友関係は」
「こうやってめぐみんが変なこと言うから! 友達は、ほら、ふにふらさんとどどんこさんとねりま――」
「その二人は友人じゃなくてただの金づるでしょう。私の知る限り、あなたの友人は一人くらいなものです」
「流石にもっといるはずよ! いるはず……よね? なんか不安になってきたんだけど……ね、ねえめぐみん? めぐみん? なんで私から目を背けるの? す、少なくともめぐみんは私と友達だから、私のお友達って二人はいるはずよね!?」
「私はライバル判定なので違います」
「何でみんな裏切るのよぉおおお!!」
ゆんゆんは目に涙を浮かべてギルドの外に走り去っていった。
5分後。
すっかり賑やかさを取り戻したギルドの扉が開く。
……めぐみんとゆんゆんだ。
「私だってそうですし、友達がいないことは決して悪いことじゃないんです。もう一度いいます、悪いことじゃないんです。だから友達が少ないということは悪いことじゃないんですよ?」
「だからもう別に気にしてないってばめぐみん! というか、いい加減それ言うのやめてほしいんだけど。まるで私が友達がたった1人しかいないみたいじゃない」
「私、嘘はつけない性分なもので」
「あの、本当に私が友達1人しかいないみたいに言うのやめて!?」
ゆんゆんがギルドを出て行った後、めぐみんが後を追いかけてしっかり連れ帰っているあたり、めぐみんは普通にゆんゆんの友達なんじゃないかとひっそり思った。
あと、俺たちパーティーメンバーもゆんゆんとは仲間っていうか、友達だと思っているんだが。
まあ、めぐみんがいる前で言ったら引っぱたかれそうなので言わないでおこう。
「それで、話を元に戻すんだが……」
「何の話でしたか、確か馬小屋生活から脱却したいみたいな話だった気がしましたが……」
「大体あってる。それでさ、ほら、一応俺たちってこれでも冒険者だろ? 冒険者ってのは各地を転々と渡り歩くもんだって聞いてたから、反対意見があるんだったら今のうちにと思って」
「なるほど……まあ、私はいいと思いますよ? 宿代が浮くのは非常に助かりますし、爆裂魔法を撃てれば何でもいいのでパーティーの拠点を持つことに反対意見はありません」
「いや、拠点って話はしてないんだが……まあ、それはそれでアリか」
5人で生活するとなると維持費が大変そうだ……
まあ、もしパーティーの拠点にするんだったらみんなで出し合えばいいか。
とりあえず俺たちが馬小屋生活から脱却できれば何でもいい。
「しっかりとした拠点を持つのは、それこそ高難易度のクエストを朝飯前と言ってのける冒険者とかごく一握りだ。まさか私たちもそのメンバーの一員になれると考えると少々感慨深いな……」
「み、みんなのお家!? 夢の共同生活!? 一日中みんなと一緒で、クエストから帰ってきたら汚れた体を洗いっこして、夜になったら誰かのお部屋にお邪魔して一緒に寝て……えへへへ、夢みたい……!」
みんな賛成してくれるようだ。
どうやら決まりだな。
「ダクネス、俺が後でチェックするから用意できるだけお願いしてもいいか? できるだけ安いやつで」
「ああ、了解した」
「…………なあ、本当に任せてもいいのか?」
「ま、まだ私の交友関係を疑ってるのか!?」
「いや、まあそれもあるが、お前って、ほら、金銭感覚がたまにおかしいだろ? キャベツの報酬全額を成金鎧にする程度には」
「な、成金鎧とか言うんじゃない! それに、この鎧はアダマンタイトという世界一堅い鉱石を用いた希少なオーダーメイドで、確かに値は張るが実用性を重視してだな!」
「実用性を重視してるやつはそんなデザインにしません!!」
前々から思っていたんだ。
ダクネスの鎧は少々鎧としての性能に欠けていると。
だって普通フルアーマーの鎧を着るだろうに……
肩や小手、胸部はしっかりそのアダマンタイトを使った装甲がご立派なことだが、兜の一つもないのはどういうことだよ、腹部に至ってはただの布って本当にどういうことだよ、盾くらい持てよ!
「とにかく、お前に関してはいろいろと金銭感覚やらが信用ならない! 最悪ぼったくられたりして借金を追加してきそうだからな、もし不動産見にいくとしたら俺もついて行くからな」
「そ、そうしたら私たちも行っていいですか? せっかくですしみんなで決めた方が楽しいかなーって」
「ほほう、そうしましたら皆で行きましょうか。パーティーの拠点であるならかっこいい建物がいいですからね。この前までベルディアが住んでいた廃城のようにかっこいい物件を選んであげましょう!」
「じゃあ私は女神である私にぴったりな高貴な佇まいの家を探すわ! 希望としては地下室があってそこでシュワシュワを寝かしておけるような造りだといいわ! あと、大きな中庭に噴水があるとさらにいいわね。そこでドラゴンを育てて、大きくなったら私たちのことを運んでどこまでもひとっ飛びしてもらうのよ!」
「おおっ、なかなかいいアイディアではないですか!」
「でしょ! めぐみんわかってるわね!」
よし、後半の二人はついて来んな。
このすば
そんなこんなで俺たちはダクネスの知り合いだという不動産屋の元へ足を運んだ。
本当にダクネスにこんな知り合いがいるとは驚きだ。
さて、そんな不動産屋から“今話題の物件”という見出しのパンフレットをいくつかもらい、机の上に広げてみんなで見ているのだが……
「将来魔王を倒す私が属するパーティなのですから当然立派な豪邸がいいのです! この家なんてどうでしょうか、広大な土地に古城のような出で立ち! 百億エリスとちょっぴり高いですが私はこの物件にぞっこんです!もはや運命によって惹かれ合ってるとしかおm――」
「そんな運命はありません! ローン組んだとしても高すぎ、却下!」
見ているのだが……
「私はめぐみんみたいに大きなお家じゃなくても……あっ! このこぢんまりとした家とかどうかしら、丁度五人は入れるしめぐみんの実家みたいでいいんじゃn……」
「五人は入れるって五畳位の部屋以外に部屋ないし、なんならトイレすらないし、隙間風入ってきそうなボロ小屋……ってめぐみんの実家?」
「きっきき気のせいですよカズマ! そんなことよりこちらの物件はどうですか、街一番の大きさだそうですよ! 王族や大貴族でないと購入できないレベルで高そうですが魔王軍の幹部を討伐した私たちには関係ありません! 値段は気にせず即購入しましょう!」
「さっきの百億が霞むレベルでエグい値段してるだろ! おらっ、その手で隠してる値段部分を見せろ! でなきゃ、お前の実家がどんだけ貧乏だったか白状させることになる!」
と、そんな感じで見ていたのだが……
「高すぎる! 何だよ、好みの家を見つけたと思ったら三億エリス超えてたり曰く付きだったり……何でパンフレットの中に出てくるんだよドクロマーク、コワすぎる!」
そう、碌な物件がなかったのだ。
不動産屋さんが言うには、何でもアクセルの街は他の土地に比べてモンスターの強さが弱く、そのモンスターも出現頻度が少ないので需要が高いらしい。
ついでにアレクセイ・バーネス・アルダープとかいう領主が税金とかを違法レベルで釣り上げてることも原因の一つらしい。
ほとんど領主のせいじゃねえか!
というかこの貴族、確か『5億にするえ~』っつった貴族だろ!
よし決めた、何か臭そうな名前の領主は後で引っぱたくとしよう。
心の中でそんなことを思うも、結局現状を変えるなんてことはできず、どの物件もあまりよくない。
パンフレットを見ながら唸っていると、アクアが目を輝かせながら話しかけてきた。
……なんか悪い予感がする。
「カ~ズ~マ~さんっ! このお屋敷みたいなのなんてどう? 値段もかなり安いしいいと思うの!」
「……一応見ておくか」
渋々見ると、アクアの指の先には豪邸の写真があった。
値段のところを見ると確かに安い。
どれくらい安かったかというといきなりテレビショッピングの人が出てきて
「その商品お高いんでしょう?」
「奥様方、安心してください! 今回の商品お値段なんと10億エリスのところ今だけ、今だけですよ! どどどんと値引き! 1億エリス、1億エリスの提供となっております!」
「9割引きなんて安すぎるわ!今すぐ買わなくちゃ!」
「急がないで奥さん! 実は今日だけですよ……なななんと! 1億エリスのところをアークプリーストがいるパーティに限り何と無料で提供します!」
「何ですって! 早くアークプリーストをパーティに入れないと!」
※なお、商品には限りがあり、期間限定品です。お早めにお求めください
といった具合の内容が書かれていた。
……なんか見覚えがあるぞ。
具体的には冒険者仲間を募集するときにアクアが書いた募集書みたいな……
「……いや落書きすんなよ! お前、いくらほしいからってこれは無理あるからな!?」
「違うの! 確かにちょこちょこっと目立つように書いたけど、この物件はアークプリーストがいれば0エリスって書いてあったの!」
「嘘こけお前! まだ詐欺師の方がまともなこと書くわ! 大体何で10億が無料になるんだよ! また事故物件か! この落書きがドクロマークかき消してるだけでまた事故物件なのか!?」
文字をすかしながらじーっくり読んでみると……
“この物件は共同墓地のすぐそばにあり、死者の霊が夜な夜な呻き声を上げたり襲ってきたりします。またその屋敷の前の住人であった貴族がとある少女を幽閉してその少女は出してもらえず恨みを募らせながら息を引き取っていったとか噂されています。そんなわけででっけー屋敷を買い取ったものの買い手もつかず毎年毎年維持費でお金が飛んでいきます。私をたすけると思って買ってください。この屋敷のせいで呪いだの何だのと噂されて客がどんどん減っていくんです。ホント、買い取ってください、お願いします!”
と、書かれていた。
「……」
「え、えーっと、カズマさん? 一応私ってアークプリーストでしょ? そんな私がパパッと除霊して屋敷を手入れしてあげれば住めると思うんですけど……いかが、でしょうか……」
正直、アクアの説明を聞く限り悪くはない物件に思えてきた。
そんな俺はそっと手元に置いてあったパンフレットを持ち上げ……
「フンヌンンッッ!」
勢いよく破いた。
「ああああっ!? なんで破っちゃったの!? これがないと私たちの屋敷が買えないんですけど!」
「……なんかパンフレットの内容にムカついて。まあ、場所は覚えたし、屋敷自体はいい感じだったから見に行ってみるか」
閑話
「なあアクア、お前、歩きながら何やってんの?」
「ちょっと話しかけないで。今集中してカズマが破いたこのパンフレット、何とか米粒で直してるから」
アクアがなんかアホなことを言っている。
いや、米粒をペタペタと紙に貼り付けて、何熱心に頑張ってるのかと思えば。
普通に考えて難しすぎというか無理だろ……
「直ったわ!」
「はぁ? そんな米粒で直るわけなぁああああっ!?!? 何これスゴい!?」
「でしょでしょ!」
アクアの掲げたパンフレットに思わず目を見開く。
触るとちょっとベタベタしてる以外完璧に元通りなんだが!?
……やっぱりこいつは冒険者より別の仕事の方が向いてるわ。
そう思いながら俺はもう一度むかつくパンフレットを破り捨てた。
アクアは泣くが、俺は反省も後悔もしていない。
俺の中に残っているのはイライラを発散した際に生じる爽快感だけだった。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める