俺たちと不動産屋は現在、屋敷に行く前に挨拶をする大家の元へ足を運んでいた。
「いやぁ、助かりましたよダクネスさん! あと数日遅ければウィズさんのところに行ってお金を払って除霊してもらうと思っておりましたし、いろいろな意味でナイスタイミングでしたね!」
「まさに大家さんの言うとおりですな。それにしてもまさかお嬢様がアークプリーストのお仲間と、しかもちょうどこの時期に物件を探しているとは」
「コ、コラ、お嬢様とは誰のことを言っている! 今はダクネスと呼んでくれと……!」
ダクネスが小声で不動産屋に耳打ちをした。
正直、ダクネスの言葉は丸気声なんだが……お嬢、お嬢様ねぇ……
不動産屋とは小さい頃からの知り合いだと言っていたが、ダクネスってもしかしなくてもいい家の出なのか?
……いや、ないな。
いい家からこんな変態が生まれてくるわけない。
そんなことを思っているとダクネスはコホンと咳払いをして。
「そんなことよりだ。あのパンフレットを見る限りこの屋敷は貴族の別荘だったそうじゃないか。それに、祓っても祓っても幽霊が復活するとは……一体どういうことなのだ? それにウィズのところに行くとは一体……」
「私も専門家じゃないので詳しいことはわかりかねますが、その屋敷で息を引き取った霊の怨念が強力で、いつまでたっても成仏しないのだろうと……。そこで、ウィズさんに相談しに行こうと……彼女はかつては有名な冒険者パーティーの魔法使いでしたので、困りごとがあればこの商店街の人たちは彼女の元へ相談しにいくのですよ」
どうやらウィズは魔法の腕に関して信頼と実績があるらしい。
この屋敷の件が片付いたら顔出しに行ってみるとするか。
ちょうどレベルも上がってスキルポイントも貯まってきたし、なんかいい感じのスキル教えてもらえないか頼みにいこう。
……そう言えば、ウィズは年齢と見た目に違和感をもたれてる様子もないが、リッチーになったのはずいぶん最近の話なんだろうか。
この前出会ったときに話を聞いた限りではひっそりとお店を経営してるといっていたし、リッチーだとばれないようにこっそりとしていると思っていたが、ずいぶんこの街に馴染んでるように……
よくよく考えてみたらリッチーが街にめちゃくちゃ溶け込んでいるという恐ろしい事実だろコレ。
いや、ウィズに関しては善良なリッチーだし溶け込んでてもかまわないんだけど、こんな様子だと街中の至る所に人間だと偽って潜入しているモンスターが蔓延っているんじゃなかろうか。
……うん、考えないことにしよう。
そんなことを思いながら俺はパンフレットを木っ端みじんにした影響で俺の服をティッシュ代わりにしているアクアの子守に勤し――
「ずびー! ふぅ、すっきりし」
「おまっ、人の服で鼻かんでんじゃねえ!」
大家さんから屋敷の鍵をもらった俺たちは、今まで馬小屋に置いていた荷物を背負って、その屋敷の門の前に立った。
「でっけー……。やっぱ写真と実物は違うな」
「まあそうだな。うん、貧乏な貴族が持っている屋敷よりは立派な屋敷ではないか」
「確かにあの古城よりグレードは落ちますが低レベルの私たちにしてはなかなかではないですか!」
ダクネスたちが屋敷を見て感想を話し合っているが……にしてもでっけえ屋敷だ。
これを無料で貰えるとは……もしかして今までなりを潜めていた俺の幸運値の高さのおかげか?
ありがとう俺の幸運値!
と、俺は思わず心の中でガッツポーズを決めていたのだが、対してゆんゆんが不安げな顔をしていた。
「で、でも、この屋敷って幽霊が出るんでしょ? 実体のないモンスターには通常の魔法が効かないのでちょっと怖いかも……」
「安心してくださいよゆんゆん。我が爆裂魔法はそんじょそこらの魔法ではないのです。それこそ非実体のモンスターにもダメージを与えられます。大船に乗った気分でいてくれてもいいのですよ」
「だから怖いんだけど。めぐみんが爆裂しそうで……」
「ゆんゆん! 私のことをなんだと思って――!」
めぐみんは否定しようとしているがゆんゆんの言葉を聞いた俺にはわかる。
コイツはやるときにはやる女だ。
やらないって口先だけで言っているが、コイツにはやらないと言っても絶対やるという、どこか確信めいた嫌な信頼がある。
「よし、ゆんゆんをめぐみん監視係に任命する。俺たちの安住の地が吹き飛ばされないよう、除霊が終わるまでゆんゆんにめぐみんのことを監視してくれ。我が家の運命はゆんゆんに委ねられた」
「カ、カズマ!?」
「で、できるだけ全力は尽くしますが……アクアさん、お願いです。この家の運命はアクアさんの除霊の腕にかかってます! でないと今夜にもボンッって屋敷ごと幽霊を消し飛ばしかねません! この家の行く末はアクアさんの腕にかかっています!」
「ゆんゆん!?」
「もちろん、安心してこの私に任せなさいな! めぐみんを爆裂犯にはさせないわ!」
「アクアまで!? さすがに私だってそれくらいの我慢はできますから!」
絶対無理だ。
幽霊にびびったらその衝撃で爆裂するに決まってる。
正直俺は避難していたいが、問題児はめぐみんだけじゃない。
「それじゃあ私が今日中にちょちょいと屋敷中を見て片っ端から除霊するわ! 久しぶりに腕が鳴るわね! 最近はアンデッドに出くわしてないからここら辺で女神としての威厳を――」
「なあアクア」
「うん? どうしたのカズマさん?」
「今日ってさ、これからお前一人で除霊する訳じゃん? 一人で任せてもいいものかと……」
俺の言葉にきょとんとするアクア。
そんなに俺の言葉が意外だったのだろうか、しばらくフリーズして……。
「カズマさんは戦力外じゃない、それなのに一緒にいたいってこと?」
「一緒にいたいっていうか、心配っていうか……」
「もしかしてカズマってば幽霊が怖いの? 確かに私のそばならどんなアンデッドでも一瞬で浄化するし、それこそリッチーでもなんでも撃退してみせるから私の近くが安全地帯なのはわかるけイタイッ!? 何で殴ったの!?」
「いや、何かムカついて」
というか俺がアクアと一緒にいた方がいいかなと思った理由は別に幽霊が怖いとかそういう理由じゃない。
もちろんアクアが一人でこの広い屋敷を除霊するのが大変そうだから手伝ってやろうという気持ちはなくもないが、できればめんどくさいし部屋に入ってゴロゴロしたい。
なんなら俺はアクアのいうとおり戦力外なので、そんな手伝いたいという善人思考で一緒にいたい訳じゃない。
ではなぜ一緒にいたいのか。
「俺はただお前がトラブル起こさないか心配してるだけだ。というわけでダクネスをアクア監視係に任命する。除霊に付き合うのめんどいしな。しっかりアクアがサボったり余計なことしないように目を離すんじゃないぞ」
「はぁぁああっ!? ちょっとツンデレもいい加減にしなさいよね! そりゃ私が魅力に溢れてて恋しちゃう気持ちはわかるけど、だからって照れ隠しに叩いたりトラブルメーカー呼ばわりするのはどうかと思うの!」
「ツンデレじゃねーし! ただ、俺が言ったって戦力外だっていったのはどこのどいつだよ! お前が元気だとその有り余った元気でトラブル起こさないか気が気じゃないんだわ!」
そう、アクアがこう調子に乗って元気なときは大体問題が起こるときだ。
ジャイアントトードの時もそうだし、つい先日のパーティーメンバーを交換した時だってそうだ。
こいつがこの屋敷を除霊しないことには俺たちの安息の日々は訪れないことはわかっているのだが……
めぐみんと同様に監視をつけた方がいいんじゃないかと思ったのだ。
「どうしてカズマはツンデレなのかしら! 今どき流行らないわよ、カズマもゆんゆんみたいにちゃんと私のことを信用して任せなさいよ!」
「いやまあ、何にせよアクアに任せないといけないってことはわかってるんだが……やっぱ心配だわ」
「私、死者の魂を導く麗しき女神にしてアークプリーストなのよ!? 朝までに全部除霊してやるんだから! たまには私のことを信用して任せなさいな!」
「……わかったよ。確かにお前、アークプリーストとしての腕は確かだもんな」
この頭が残念なアークプリースト、一応は水を司る女神だし、能力だけは本物だ。
ウィズとの戦いでターンアンデッドが効いたし腕前に関しては大丈夫なはず。
普段は女神のかけらも見せない駄女神だがこんな時くらい頼りにさせてもらおう。
「とにかく、一応聖騎士らしいダクネスなら一応戦力になるだろ。万が一があってからじゃ遅い。二人で除霊してこい、めぐみんが爆発する前に」
「あ、あの、私はちゃんと聖騎士なのだが……」
「信仰魔法の一つも使えないやつがちゃんとした聖騎士とか自称すんな、女神エリスに叱られろ!」
このすば!!
お昼を食べ終わった後。
俺は自分の部屋を決めて、その部屋に荷物を持ち込む。
風呂敷から取り出した衣類などの荷物の片付けがあらかた終わると、俺は自分の部屋でダラダラし始める。
何をするでもなく部屋のベッドに身を投げると僅かに反発して跳ね、その後沈み込む体。
天井を眺めて「知らない天井だ……」と意味もなく呟いてみたり、足をばたつかせてみたり、しばらく寝心地を確認するようにゴロゴロして、うつ伏せになる。
「さらば馬小屋生活、こんにちはまともな生活! ……今日からここが俺の寝床、か」
久しぶりのまともな寝具。
俺は思わず枕に顔を押し付けて声を抑える。
しばらく感極まり、湿っぽい枕から顔を上げると改めて実感が沸いてきて、今度は無意識に頬が上がってしまう。
表情を元に戻すため、頬に手を当ててグリグリと動かして筋肉をほぐす。
それほどまでにこの屋敷は俺にとっては最高だった。
一人一人の部屋がかなり広く、台所と清潔そうなトイレ、暖炉があるリビング。
特に大きな風呂付きなのがかなり嬉しい。
なんせ今までは公衆浴場ばかりで、俺の中に通っている日本人の血は一人でゆったり入れる風呂を欲していた。
そして極めつきは俺が選んだ二階の一番大きな部屋。
俺が最初に選んだ部屋にもかかわらず所有権を主張してくるアクアとめぐみんを正々堂々とじゃんけんで負かし手に入れた、俺の、俺だけのプライベート空間!
でも本当にうれしくてうれしくて、しばらくベッドの上にいたのだが――
「……ちょっと暇になってきたな」
さすがにテレビや携帯電話の一つもない部屋。
何もすることがなくぼーっと天井を見るのにも飽きてきた。
手持ち無沙汰になった俺はベッドから体を起こして、今度はこの屋敷の探索がてらアクアがちゃんと仕事しているのかを監視しに廊下に出たのだが……
「あら? あなたはここの屋敷に閉じ込められてた娘? 悪霊じゃなかったのね。なるほどなるほど、あなたはアンナ・フィランテ・エステロイドっていうのね。私の名前はアクアよ。水色の髪が女神様みたいで綺麗って? あなた、人を見る目があるわね! そう、私こそあの水を司る女神、アクアその人よ! ……ね、ねえ、なんで呆れたような顔するの? 私、ホントに女神だから! ねえ、信じてよォ!!」
俺は何も見ないふりをして自分の部屋に戻った。
虚空に向かって一生話しかけているアクアに狂気を感じたわけじゃない。
ただ、頭のおかしいアークプリーストがまた頭のおかしいことをしているのを見て、厄介ごとに巻き込まれる前に身を隠しただけだ。
というかアクアの独り言の内容を聞く限り、そのナニカに女神って信じてもらえてなかったんだが。
……もしかしてアクアの中に潜む無意識が自分を駄女神だと認めつつあるのだろうか。
イマジナリーフレンドにさえ女神って信じてもらえない残念なアクアには今晩にでもいい酒を用意して慰めてやろう。
そう思いつつ俺はアクアが俺の部屋の近くから去るのを待った。
しばらくして、アクアは別の部屋の除霊にいくことにしたのか俺の部屋の近くから離れる。
俺はその隙を突いてリビングへ降りた。
そこに到着すると、めぐみんとゆんゆんが暖炉に薪をくべながらマシュマロを焼いていた。
「……普通そう言うのって外でするもんじゃないのか?」
「ああ、カズマですか。外は寒いですし家の中でやった方が暖かいですよ。それに、そろそろおやつの時間ですし」
「カズマさんも食べますか? 中にチョコを入れたやつがちょうど焼き上がったのであげますね」
「……ありがとう」
風情も何もあったもんじゃないな……
そんなことを思いながら俺はゆんゆんから自然な流れで差し出されたマシュマロの串を受け取る。
それを口に運び咀嚼すると柔らかいマシュマロの間からトロリと中からチョコレートが溢れてきた。
風情を無視してるくせになにげにうまいマシュマロに納得いかず微妙な表情を浮かべていると。
「ところでカズマはどうして降りてきたのです? 今日は私から所有権をかっさらった部屋で一日中ダラダラしてると意気込んでいたではないですか」
「暇になったからこの辺を散歩しようと思ってな。てか人聞き悪いこというなよ、お前が俺が選んだ部屋がいいって言って強奪しようとしたから、公平にじゃんけんで決めただけだろ」
「公平なものですか、カズマは自分の幸運値が規格外であることを自覚してください! この前のトランプだって……」
この前のトランプって……
まさか湖の浄化クエストに行ったときの話か!?
「そんな昔の話もってくるなよ、あれは時効だろ時効! 俺はこれからウィズのところに遊びに行くんだ、お前の変な話に付き合ってる暇はない!」
「今先程暇になったから散歩にと言っていたばかりでしょうに、それがどうして急にウィズのところへ行くことになったんですか!」
「スキル教わりにいくんだよ。明日にでも行こうと思ってたが変更だ、今そういう予定にした」
「あっ、逃げる気ですか!?」
「違う!」
もともと俺はウィズのところに行く予定だったのだ。
本当は今日じゃなくて明日の予定だったが、まあ、予定に多少の誤差はつきものだ。
別にめぐみんから逃げたわけじゃない。
「カズマがそう言うのであれば、私はこれから魔道具を見に行く予定にしましたので一緒に行きましょうか」
「後出しはずるだぞ! 一緒についてくんな!」
「じゃんけんじゃないですのでズルじゃないです。ほら、そうと決まれば早く参りましょうか! その道中でも店内でも、どこでも勝負の公平性について話せますね!」
「そんなこといって本当は武力で制圧して俺の部屋を乗っ取る気だろ! させない、そんなことはさせないぞ!」
きっとめぐみんのことだ、じゃんけんが不正行為だといちゃもんつけて俺の部屋を奪い取る気に決まってる!
運も実力のうちって言うし、これは俺の実力で手に入れた報酬なんだ!
今までの頑張りの報酬みたいなもんなんだ!
「めぐみんは魔道具店の住所知らないだろ! 潜伏スキル使って逃げ切ってやる!」
「ああっ、卑怯ですよこの男! まさかスキルまで使うだなんて!」
「戦いに卑怯も何もあるか! 俺の部屋と場所交換してほしかったら捕まえてみろよ!」
そう言って俺は窓から体を投げ出した。
次回はウィズにスキルを教えてもらう回になりますかね。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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