めぐみんになんて言葉をかけるか考えているうちにいつの間にか西日は消え、夜の帳が降りてきた。
そして、気がつけばすでに俺たちが立っていたのは屋敷の前。
アクアの元気な声が鳴り響いており、その度に浄化魔法が放たれているせいかチカチカと窓からの光が眩しい。
そんな屋敷の扉をめぐみんが躊躇無く開け、中に入っていく。
「お前、一応この屋敷って今のところお化け出るのに躊躇も何もないんだな」
「アクアがいるので大丈夫でしょう。私はお化けごときでキャーと叫ぶか弱い乙女じゃななないのですよ」
「……お前、今まで自分が足を踏み入れた場所がお化け屋敷だって忘れてただろ。そんで今更気づいて怖じ気づいたんだろ」
「はぁああ!? 誰が怖じ気づいたというのですか!? この私がお怖じ気づくわけなないでしょうに! ですがこの屋敷を爆裂魔法で吹き飛ばしてしまうのは不本意ですしぃ? ですのでやはり私は外で待つことに……待つ、こと、に……ッ!!」
めぐみんが屋敷の外に出ようとドアノブを捻るが、どういうわけか鍵もかかっていないのに開けられず、ドアを破壊する勢いで引っ張るがそれでも駄目で……
「閉じ込められたっぽいな」
「ですねー」
「いや、どうしてカズマとゆんゆんはそんなに落ち着いてられるのですか! 閉じ込められたんですよ! このままだと害意ある霊魂に干渉され、我が肉体の主導権を奪われ、最悪この世が滅びることに……!」
「いや、どうしてお前が操られると世界が崩壊すんだよ」
「崩壊するのはこのお家だけでしょーってね。それに、ドレインタッチを覚えたカズマさんがいるんだもの、出てきても大丈夫……なはず」
いや、そこは断言しろよゆんゆん。
あと、この家が爆散したらで非常に困るし、そういうフラグになるようなことは言わないでほしい。
現に、日が静まって空気が冷えてきて大分雰囲気ある中、めぐみんはもう限界みたいで爆裂魔法の詠唱始めてるし――
「って、詠唱してる!? おい止めろっ! やめないととんでもない目に遭わすからな!」
「ふっ、私に部屋を譲ることになったカズマにこの私を止められようか! 今からこの屋敷の霊に肉体を乗っ取られる前に爆裂して、世界に平和をもたら――」
「『ドレインタッチ』!」
「ぬおぅわぁあああぁぁあぁあぁぁ…………!? 我が力が、魔力が抜けていくぅ……」
なるほど、こりゃ対めぐみんスキルとしてかなり使い勝手がいい。
めぐみんに対してはこれからスティールじゃなくてこっちを使ってい――
「イタァッ!? ちょ、俺の手が握りつぶされる!?」
「ふっふっふ、先ほど私の力でやられたのを忘れたみたいですね! レベル差の暴力を思い知らせてあげましょう!」
「ひぎゃぁああ!? 今変な音なった! 人間の体からなっちゃいけない音なった! てか、大体めぐみんが幽霊にビビって爆裂魔法使おうとしぬぐおわぁあっ!?」
「誰がビビってましたか! あれは紅魔族直伝のジョークです。……本当に爆裂魔法を撃つわけないでしょうに」
そう言ってめぐみんが俺の手を離した。
……最初に手をつかんで攻撃してたのって俺の方だったはずなのに、どうしてめぐみんの方に主導権持って行かれたのだろうか。
俺は、ジンジンする手のひらを壁につけて冷やしながら。
「とりあえず、これで爆裂魔法は撃てなくなっただろ。はぁ、こんなことになるんだったら爆裂魔法撃たせておくんだった」
「人が折角いろいろと我慢して屋敷に戻ったのにその言い草はないんじゃないでしょうか!?」
「いろいろ、ねぇ……」
「なんですか、私が何も我慢できてないという視線を送るのであれば私にも考えがありますよ! 爆裂魔法を抜きにしても私の身体能力はカズマを優に超えているのですから!」
「めぐみん落ち着いて! カズマさんがいれば、もし幽霊に襲いかかられてもドレインタッチでなんとかやっつけられるはずだし、三人でまとまって行動した方がいいと思うの! だからカズマさんは生かしておかないと!」
「……命拾いしましたね。この話はアクアと合流してからにしましょうか」
そう言ってアクアを探そうとズンズン前に進み出すめぐみん。
今、俺が動けなくなったら幽霊への対抗手段をなくして死なば諸共だということを理解したのだろう。
幽霊が出たら俺とゆんゆんだけ潜伏スキルで隠れて、めぐみんにはどっちが命拾いしたのかわからせてやる。
そう思っているとめぐみんが「早くついてきてください」と振り向いたのだが……
「……あ、あの、カズマ」
「なんだよ。そんな急に顔を青くして……俺らがついてこなくて怖くなったか? それとももしかして緊急事態か?」
「えと、確かにその通り緊急事態なのですが……」
「めぐみん、トイレはあっちの方よ」
「馬鹿なこと言わないでくださいゆんゆん! 紅魔族はトイレなんか行きませんから! 少なくとも私はいきません」
「ええっ、そうなの!?」
ツラツラと嘘を吐き続けるめぐみん。
コイツがトイレに行くところを見たらトイレの前に張り込んで、出てきた瞬間に全力でいじり散らかしてやろうと心に決めた。
「というか、緊急事態なんだろ? 変な意地張ってないでさっさとトイレ行けよ……もしかしてうんk――」
「乙女の前でその言葉は禁句で………………あ、あの、カズマ」
「漏れたか」
「……」
俺の言葉に何も反応せずに黙りこくるめぐみん。
えっ、まさか本当に漏らしたか……?
めぐみんの膀胱が耐えられずにエクスプロージョンしちまったのか!?
そうなるとこちらとしてはかなり気まずい状況なんだがどうするべきだ!?
と、想定される状況の中で最も悪い状況に慌てふためいていると、めぐみんは静かに後ろを指さす。
後ろと言えば玄関。
ついさっき俺たちが入ってきた場所だ。
そんな場所に静かに佇むフランス人形が2体、こちらを見つめていた。
「えっ、あんな人形あったか……?」
思わずそんな言葉をつぶやいて二人を見たが、両者とも首を横にブルブルと振っている。
そりゃそうだ、俺たちが通ってきた道だもの、あったんだったら秒で気づかないとおかしいのに……
思わず背筋がブルリと震える。
「か、カズマさん」
「はいカズマです」
「あの人形にドレインタッチして来てくれませんかね。私たちは何があっても大丈夫なようにここから見てますから」
「いや、何か起こったら俺を見捨てて逃げる算段だろ!」
「か、勘違いしないでください! カズマさんは機転とスキルの豊富さがありますし、お荷物二人を抱えずに一人でいた方が幽霊相手に立ち回りやすいと思って……! ねえめぐみん!」
「ええ、そうですとも! 私なんてすでにカズマに魔力を吸い取られてしまったせいで爆裂魔法を撃てない身。私の、いえ、私たちの思いはすでにカズマに託された! というわけで私たちがいると足手まといですので託されたカズマは頑張ってください! 私たちはここにいますから!」
「いーやいやいや、それはおかしいって! 俺だけ危険にさらされるのはおかしいから! ほんと、一緒にいてください心細いんでお願いします! というかゆんゆんはさっき一緒に行動しましょうねって言っただろ!」
「撤回します! 私たちは何かあってもいいようにアクアさんに助けを求めにいくのでカズマさんはそれまでの時間稼ぎをお願いし……ます…………」
途端に尻すぼみになっていくゆんゆんに、俺は不審に思い、その顔を見ると真っ青になっていた。
そのそばにいためぐみんも同様で、とある一点を凝視していた。
コロン……
そんな音が俺の耳に入ってくる。
それとほとんど同時に俺の足下に何かがぶつかる感触。
暗い中、一点を見つめていた赤い瞳は俺の足下に集中する。
俺は嫌な予感がしつつもその足の方を見ると……
そこには案の定と言うべきか、予想外というべきか。
人形の首がもげて転がっており、その首を探している人形が俺の足首にしがみついていた。
「……ワタシノクビ、ワタシノ……アッタ…………ワタシノクビィィッ!!」
「ひぎゃぁああああぁああ!?!?」
俺は戦った。
「俺は一人なのに人形は二体もいるの卑怯だろ!」とか「首をボーリングみたいに投げてくるなァッ!?」とか、それはそれは喉が掠れるほどの悲鳴を上げながらも不気味な人形と戦ったんだ。
そんな中、二人はと言えば俺を囮にして逃げ出した。
有言実行の鬼! 悪魔! 人でなし! 生還したら覚えてろよ!
と、そんなことを普段の俺だったら思っていただろうが、目の前の敵のせいでそんなことを思う余裕はなかった。
しばらくして、俺は辛くもこの戦いに勝利した。
ドレインタッチで人形に触れてやると、数秒でくたりと動くことをやめる人形。
息を切らしながら地べたにへばっていると、めぐみんたちが逃げていった方からドタバタと足音が聞こえてきた。
逃げやがっためぐみんとゆんゆんが戻ってきたのだ。
俺はアクアが来るという安心感と紅魔の二人娘をとっちめてやろうという気持ちから気を抜いていたのだが……
二人の必死な形相と、その後ろに引き連れてきた大群を見て絶望した。
そう、二人は結局アクアには会えず、反対方向から幽霊人形に追いかけられて戻ってきたのだ。
ゆんゆんの言っていたとおり、幽霊相手に攻撃が通用するのは俺だけで、二人は俺の背後に隠れたのだが、俺は力が入らず何もできない状況。
俺の顔面に次々と人形がくっついて窒息させてくるというホラーに俺は一心不乱にドレインタッチをした。
吸っても吸っても迫り来る人形。
アクアが来るまでこの無間地獄は続いたのだった。
さて、幽霊騒動が終焉を迎え、その日のうちに俺たちはギルドにやってきた。
一応アンデッド討伐のエキスパートであるアクアに報告をお願いしたのだが、ほかのヤツらも夕食を食べるために一緒についてきた。
もちろん俺も。
そういうわけで暴食のめぐみんは今日も今日とて大罪の限りを尽くしていた。
ちょっとくらい俺を見捨てようとしたことを反省してほしいが、そんなことを気にする様子はなく盛大に食らいつく。
そして、普段の俺なら一言もの申してやるところなのだが、今日に限ってはそんな余裕はなかった。
なぜなら……
「ひぐっ……くずっ……ありがどぉ……アグア……ほんどにありがどぉ……!」
「よーしよし。カズマさんはめぐみんとゆんゆんを守ってくれた立派な男の子よ。怖かったわね。それでも我慢して二人のことを守ってあげたのね。えらいえらい」
俺は泣いていた。
本当は家に引きこもりたかったが、さすがにあのトラウマ屋敷に一人取り残されるのは恐ろしすぎて、アクアに慰められながらここまでやってきたのだ。
今日だけはアクアの言葉が身にしみる。
客観的に見たら美少女に膝枕をされながら頭をなでられているのだが、全くといっていいほど邪な感情が生まれない。
ただそこにあるのは安らぎ、母親に抱きついた子供が抱く暖かさ。
まさかアクアの存在がこんなに大きかったなんて思いもしなかった。
袖をぬらしながら受付のお姉さんのところに足を運ぶと。
「えーっと、た、大変だったみたいですね……?」
「まあね。でも今回の事件に関してはこのアクア様のおかげで解決したも同然よ! 最初に聞いてた話だと、除霊してもできないとか言っててどんな強敵が来るものかと思ってたけど、蓋を開けてみれば供養されず成仏できなかった魂の野良幽霊のたまり場になってたのよ」
「原因はまだ調査中でしたが、まさかあの屋敷がそんなことになっていただなんて……」
「まあ、あの屋敷に住んでる地縛霊の子は浄化してないけど、悪意ある霊は全部浄化しちゃったし、もう安全よ!」
「そうでしたか。あの屋敷には随分悪評が立っていましたが、アークプリーストの方がそう言うのでしたら間違いないでしょう。では少々お待ちくださいね、報酬をお持ちしますので」
そう言ってギルドのお姉さんは報酬を準備するためにカウンターの奥に消えていった。
アクアが太鼓判を押した屋敷だが、どうにも野良幽霊は毎日この屋敷にやってくる。
そのせいで俺は暗い場所と一人でいることがどうも苦手になってしまい、一週間ほどはアクアの部屋にちょくちょく遊びに行ったり、ゆんゆんと寝落ちするまで遊びまくったりしたのだが、それでも幽霊はどこからかやってくるようで。
アクア曰く「現世を彷徨うアンデッドは本能的に女神の神聖なオーラに寄ってくるものなの」とのこと。
それじゃあ困るのでアクアに家から出て行くように言ったら泣きつかれたので、別の原因がないか探すことになったのだが――
「なあアクア」
「……ごめんなさい。私が原因でした」
「大家さんのところに謝りに行くぞ」
「はい……」
調査の結果だけいうと、アクアが共同墓地に結界を張ったせいで行き場所をなくした幽霊があの屋敷に集まっていたのだ。
ギルドから貰った報酬は借金返済にまわしてしまったので今更返却するなんてできず、せめてもの罪滅ぼしで大家さんとのころへ頭を下げにいくことにした。
幸いにも、大家さんの寛大な心のおかげで今回の件についてはお咎めなしということになった。
加えて、街のことを守ってくれる冒険者に貢献するのは街の住人の義務だと、屋敷の悪評が消えるまでは住んでほしいと言われた。
一つだけ特殊な条件はあったが。
そんなわけで今日から正式にこの屋敷は俺たちの拠点になったのだが……
「そこで! 我が必殺の爆裂魔法で邪悪なる粘液の権化を消し飛ばし、余波で気絶したものどもは食らいつくしてやったのです!」
「おいめぐみん、いくら大家さんに冒険の話をお願いされたからって、そろそろいいだろ。サボってないで墓掃除一緒に頼むぞ」
「別にサボっているわけじゃ……まあ、いいでしょう。この話の続きはまた後ほどしてあげますからね」
そう言ってめぐみんはジャイアントトードの戦いを語るのをやめて墓掃除に参加する。
大家さんが提示した条件、それはこの屋敷で死んだという少女が好きだったという冒険話をしてやることだ。
まあ、ここまで大げさに長々と語ってやる必要性はない気がするが。
墓掃除を終えると、苔に覆われて見えなかった文字がくっきりと見える。
墓石にはアンナ=フィランテ=エステロイドと刻み込まれていた。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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