我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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サキュバス回は伏線も何もないので投稿すべきか迷ってたのですが、せっかく書いたので供養させてください……


8-1 魅惑の…囁き(ウィスパーヴォイス)

「カズマとは決着をつけなきゃならないみたいね」

 

寝間着姿ながら任侠とは真反対の凶悪な笑みを浮かべつつ指関節をならすアクア。

それに加えてめぐみんやダクネス、ゆんゆんまで俺の前に立ちはだかっていた。

 

対して俺は、腰に布を一枚しか巻いておらず、無防備な姿。

後ろには守るべき存在が一人。

 

孤独な戦いだ。

仲間に理解されず、敵対の意思はなく……

それでもなお、強固な信念のために対立せざるを得なかった。

男には、負けるとわかっていても戦わなければいけないときがある。

 

 

 

 

時は遡ること半日前。

屋敷を手に入れ、一番懸念されていた冬越しという案件が解決された。

ようやく健康で文化的な最低限度の生活ができるようになった訳だが、俺たちの借金返済はまだまだこれから。

仕方ないので今日も今日とて手頃なクエスト……は冬にあるはずもなく、内職を探しにギルドへ出向いた。

寒さで手がかじかみ思うように進まないが仕方ないだろう。

そんな思いとともにギルドに向かっていたのだが、その道中で挙動不審な人物を見つけた。

目を凝らしてみると見覚えのある顔だ。

 

「おっすダスト! 今日はラフな格好だが一体何やって――」

「か、カズマか! お、驚かすんじゃねえよ! 今日は4人は……一緒じゃないのか?」

「アイツらには内職を頑張ってもらってるところだ」

「そ、そうか。ならよかったんだが……」

 

背中をビクリと震わせたのはダスト。

声をかけただけなのにこんなに驚くなんて怪しい、実に怪しい。

アクアたちのことを警戒してたしこの前のパーティー交換がトラウマなのだろうか。

それとも金がなさ過ぎて食い逃げでもする気だろうか。

前に「詰め所は無料で飯と寝床を提供してくれる優秀な宿だ」と豪語してたし、十分ありえる。

 

「金がないんだったら一緒にクエストでも行くか? 今日はあいつらもいないしキースあたりでも誘ってさ」

「いや、金がないって決めつけんじゃねえよ! 俺だって年がら年中金がないわけじゃ――」

「なんだ、てっきりこんなところで意味なくうろうろしてるから軽犯罪働くか店に迷惑かけるかして詰め所に泊まる算段なのかと」

「ばかっ、そういう気分の時もたまにはあるが、それだと店に迷惑かかるだろうが!!」

 

たまにあるじゃんか。

なんでそんなやつに怒鳴られないといけないんだ!?

そう思っているとダストが。

 

「いいかカズマ。店に迷惑を掛けると出禁くらうし飯代払わなきゃならねえ。食い逃げは最終手段だ。一番いいのは詰め所の堅物にセクハラしてやることだ」

「……まさか実践済みか!?」

「おうよ! 窃盗とか食い逃げより時短だし、借金も増えねえし、なにより心も腹も満たされるしで一石二鳥どころじゃねえぜ! カズマは借金とかいろいろと大変そうだからな、この情報はタダでいいぜ」

「ええー……」

「なんだ、その微妙そうな顔はよ。この情報は有料級だぞ。タダで教えてやったことにもっとありがたがってくれてもいいんだぜ?」

 

いい情報だろといわんばかりのドヤ顔で持論を繰り出すダスト。

欲望に忠実という点ではある意味男として尊敬もんだが、堂々と迷惑行為を実践してることを自慢されても……

そう思っているとダストが頭をかきながら。

 

「とにかく、今のところそういうことをする気はねえよ」

「そうか…………じゃあ何でこんなところでうろうろしてたんだよ」

 

そう言うとダストはまたもやソワソワし出す。

やはり不審だ、思わず警察に通報しようと思うほどには。

ダストは周囲をしきりに見渡して、人目がないことを確認する。

そして、生唾をゴクリと飲み込み、意を決した様子で俺に耳打ちをした。

 

「カズマ。俺はお前なら信用できる。今から言うことはこの街の男性冒険者にとっては共通の秘密であり、絶対漏らしちゃいけない話だ。約束してくれ、自分の仲間だろうと何だろうと、女性冒険者には漏らさないって」

「わ、わかった……」

 

重苦しい雰囲気に俺は若干気圧されながらも頷く。

ダストは建物の影に俺を連れ込み、さらに小さな声で話し出した。

 

「……実はこのあたりにサキュバスが経営している店があるらしい」

「サ、サキュ……ッ!?」

「しぃーッ! 声が大きいぞ! 女冒険者に聞かれたらイチモツがちょん切られると思え」

「ヒェッ!? で、でもサキュバスって……あのモンスターのだろ? ど、どうしてこんな街の中に……」

「いいか、この街の男どもはサキュバスと共生してるんだ」

 

きょ、共生……!?

サキュバスと言えば男のせいを吸い取って干からびさせることで有名なモンスターだ。

よくある創作物ではエッチなことをしてくれる男のためにあるモンスターだが、この世界は違う。

いつぞや見たモンスター図鑑には言葉巧みに男を誑かし、すべてを貢がせる恐怖のモンスターだと書かれていた。

命どころじゃない、人間としての尊厳の全てを搾り取るのだ。

そんな恐怖の存在がどうしてこんな初心者の街に……

そう思いながらダストの方を見ると、どうにも真剣な顔をして俺の方に顔を向けていた。

 

「……カズマもこの街に住んで長いだろうが、風俗を見たことがないだろ。この国は風俗を違法扱いにしてるんだ」

「確かに言われてみればそういう店は見当たらなかったが……どうしてそんな惨い政策を!? 男にとっちゃ地獄じゃないか!」

「……ここは魔王軍との戦いがあるせいで若者の死亡率が高い国だ。産めよ殖やせよって状況で風俗があったら家に帰ってもみんなが賢者タイムだろ?」

 

……一応の論理は通っている。

男の性欲をなくせば子供は生まれない、その原因を排除するということは子供が増えるのだろう。

だがそれでも解せない。

 

「そんな、性欲を発散できなくなっちまったら性犯罪が横行するじゃねえか!」

「ああ。実際、そういうサービスがない街ではそういう事件が多発してるって聞く。だが、確かに子供の数が増えてるのも事実……魔王との戦いで手一杯な国は今の政策をやめるにやめれないだろうな」

「くそっ! じゃあ一体どうすれば!」

 

国が背負ってる人類の未来という重み。

政策をやめれば人類の未来が絶たれる可能性がある一方、その裏で横行している犯罪行為の数々。

俺の力があれば、魔王を討伐できるだけの力があれば今すぐにでも犯罪を減らすことができるのに、どうして魔王討伐を目的に異世界転生した俺は無力なんだ!

 

弱ければ搾取されるだけの立場でしかない。

俺は自分の非力さを嘆くことしかできない……

強くならねば……!

そう決意の炎を滾らせていたのだが。

 

「兄弟、お前の考えていることはわかるぜ。悔しいよな……」

「ダ、ダスト……!」

「だが、一つ思い出してくれ。この街の性犯罪の発生件数の少なさを。この街の未婚女性の多さを。そして、この街には誰がいるかを」

「……ッ!!」

「この街のサキュバスは俺たちが寝ている間に性欲をちょっぴり吸い取って、その見返りとしていい夢を見せてくれる。この言葉の意味……わかるな?」

 

ああ、そうか。

この街だけは平和なんだ。

てっきり初心者の街で、強いモンスターがいないおかげで皆の心が穏やかなのだと思っていた。

だが、それだけじゃなかった!

この街には寝れない夜から救済してくれる存在がいるんだ!

 

「行こうか、兄弟。この街の犯罪をなくすために」

「ああ! いざ行か――」

「どこにいくんですか?」

「「どわぁああぁあああっ!?!?」

 

俺たちの背後から聞こえてくる声に思わず心臓が飛び跳ねた。

 

 

 

 

 

俺は元高校生、佐藤和真。

悪友のダストがとある店の前をうろちょろしている不審な現場を目撃した。

話を聞いて感動し、もはや店に夢中となっていた俺は、背後から近づいてくる仲間に気づかなかった。

 

「ゆ、ゆんゆんじゃないか! 驚かすなよ!」

「いや、私はただダストさんといるのを見かけたので声をかけただけなんですが!?」

「どうしたんだよ、カズマに内職するように言われてたんじゃなかったのか?」

「いえ、丁度私の担当分が終わったので気分転換に散歩しようかと思ったら、ちょうどカズマさんが玄関から出ようとしてるのが見えて、それでどこ行くのかなーって思ってこっそり後をつけてたんです」

「これだからストーカー気質の屈折魔法持ちの冒険者は……」

「わ、私はストーカーじゃあ――ッ! そもそも私その魔法使えないですし!」

 

ゆんゆんが何か慌てた様子で言い訳をしている間、ダストが俺の方を睨んだ。

が、俺としてもこの状況は想定外。

思わず口から飛び出しかけた心臓がバクバクと五月蠅くなっている程度には。

 

だが、ここで戸惑っている暇はない。

俺たちにはこの最悪な状況を切り抜け、俺たちは世界平和を実現する。

何が何でも責務を全うせねばならないのだから。

 

俺とダストはこの間わずか1秒足らず。

視線で意思疎通を完了させ、ゆんゆんをどうにかして撤退に追い込むことを目標に動き始めた。

 

「なあゆんゆん、さっきだが内職が終わったって言ってたよな」

「ええ、まあ……」

「お願いがあるんだが、ゆんゆんは屋敷に戻ってほかの終わってない連中の世話をしてくれないか? 丁度俺は新しい内職をもらいにギルドに行こうとしてたんだ」

「な、なら私も一緒に――」

「いいや、それじゃあ作業効率がよくないだろ? 役割分担といこうじゃないか。内職リーダーに任命するからゆんゆんは戻ってみんなの指導をしててくれないか?」

「で、でも、もうすでにみんなも終わってまして……」

「オ、オワッテル……? ダクネスとかは膨大な量あった気がするんだが?」

「それが、アクアさんがちょちょいのちょいよと言って目にもとまらぬ早業を見せてくれまして」

 

俺の口撃をひらりと交わしてクロスカウンターを決めたゆんゆん。

屋敷に戻るように誘導できればこちらの勝ちだったのだが、俺は一発KOされてしまった。

 

「え? ど、どうしてカズマさん倒れて……!?」

「ダスト……俺じゃ止められなかった。後は……頼んだ……っ」

「きょ、兄弟っ! くそっ、敵はとってやるからな!」

「敵って何ですか!? もしかして私が何かやっちゃったんですか!?」

 

ゆんゆんっていうか、どちらかっていうとあの駄女神がまたやらかしたんだわ。

どうしてアイツは戦闘以外の才能に溢れてるんだよ……

この前アクアの冒険者カードを見たとき、レベルを上げてもステータスがカンストしてるため知力と幸運値が上がらないという事実に涙したが、ほんと、どうしてそれ以外の部分は高性能なのか。

 

ゆんゆんを帰らせることに失敗して絶望していると、俺の肩にポンッと手が置かれる。

その腕をたどると、そこには決意を秘めた男の顔があった。

ダスト……お前ってやつは、やっぱりいざって時には頼りになる男だよ。

 

「ゆんゆん、聞いてほしい。カズマは今、大きい方を我慢している状態だ。限界ギリギリでな」

「えっ、そうなんですか!? だ、大丈夫!? こ、このあたりでトイレを貸してくれそうなところは……」

「ここは路地裏だ。残念なことに店の一つもありゃしねえ」

「そ、そんな……!」

「だがゆんゆん、一つだけ希望はある。店を探すんだ! 俺はあっちを見てくる。ゆんゆんは向こうを!」

「で、でも、そうなるとカズマさんは一人でいることに……」

「じゃあ俺がカズマを見ておく! ゆんゆんは急いで探してくれ!」

「わ、わかりました!」

 

ゆんゆんは慌てた様子で駆けていった。

その様子を見届けたダストは俺に向かってドヤる。

ちょっと俺の名誉が傷ついたような気がしなくもないが、そんなことよりもこれからサキュバスのサービスを受けられることに感謝だ!

ゆんゆんの背中が見えなくなったのを見計らって。

 

「よし、いくぞカズマ」

「ああ。今度こそエデンの園へ……!」

 

俺たちは夢に向かって歩み始めた。




次回、ポチョムキン4世が登場

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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