我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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8-2 禁断の…紅き果実(ショソン・オ・ポム)

ゆんゆんを追い払った俺たちは若干の緊張を滲ませながら例の店へ向かう。

きっと俺一人ではこういった店には入れなかっただろう。

だが、俺の隣には頼もしい仲間がいる。

 

「カズマ、あそこだ……」

「あ、あれが……」

「ああ、俺たちが追い求めていた桃源郷だ」

 

裏路地に入って少ししたところにある小さな店。

そこは一見すると何の変哲もない飲食店に見える。

しかし、その実態はサキュバスが経営しているいい夢を見せて性欲を発散させてくれるサービス店だ。

一体店内はどのようなことになっているのかと心臓を高鳴らせながら中に一歩足を踏み入れようとドアを開け……

 

「あっ、カズマさ――」

 

俺は静かにドアを閉めた。

この店は男性冒険者のみが知る店……知り合いの紅魔族がいた気がするがこんなところにいるはずがない。

 

「なあダスト。本当にこの店が例の店か?」

「ああ、間違いない、早く中に入ろうぜ! じゃないと興奮しすぎて心臓が爆発しちまう!」

 

ダストがこんなに自信満々なんだ、ここで間違いないはずだ。

ということはさっき俺が見かけた人物はきっと似てるだけで人違いのはず……

俺はそう思いもう一度ドアを半分まで開けたのだが、やはりそこにいるのは見覚えのある少女――ゆんゆんその人である。

 

ついこの間もウィズの店でめぐみんが待ち構えていたときもあったが、それはゆんゆんがたまたま魔道具店の常連だったせいだ。

しかし今回はサキュバスの店、女性が知るわけないのにゆんゆんがいるというのはあり得ない……

 

……きっと内職のしすぎで疲れてるんだ。

万全じゃない状態でサキュバスのサービスを受けるなんて難しいだろうし、別の日に改めるしかない。

そう思って俺は流れのままに潜伏スキルを発動させようとして――

店の中から出てきたゆんゆんに肩をつかまれた。

 

「ちょっと、今何でドア閉めたんですか!? しかも二回!!」

「い、いや、なんとなく……?」

「お手洗い我慢してるって聞いてたのに意外と余裕そうじゃないですか!? あっ、というか聞いてください! 朗報ですよ! なんとこのお店のトイレを使ってもいいって! さあカズマ、急いでください!」

 

どこか嬉しそうに俺のことを店に引っ張るゆんゆん。

だがしかし俺の心はそこにあらず。

何故ならゆんゆんがこの店にいるということは、男性冒険者たちの暗黙の掟が破られたことを意味するのだから。

純粋なゆんゆんは何もまだ気づいていないようだが、奥の方から圧を感じる。

それはこの店を利用している客のギロリと鋭い眼光。

 

「……」

「あ、あれ? カズマさん? ダストさん? どうしてそんな天を仰ぐような仕草をして……」

「ゆんゆん……もう、いろいろと終わったんだよ」

「手遅れなんだ。それ以上のことは何も聞かないでくれ」

「あっ、もしかして漏れっ………………その、ご愁傷様です……」

 

俺たちの哀愁漂う背中。

何を勘違いしたのか、ゆんゆんの目は公衆の面前でう○こをかました哀れな成人男性を見る目に変わる。

ドン引きと憐れみの境界で揺れるゆんゆんの精神。

虫を潰したような苦々しい表情をなんとか隠そうとぎこちなく頬をヒクつかす。

俺に手を差し伸べることを躊躇して中途半端な位置で止まっていた。

 

いや、別にうん○を漏らしたわけじゃないんだけどな?

ただ、この店の中には悉く男性冒険者しかいない訳で……

ゆんゆんを連れてこようとした訳じゃないのだが、俺たちに駆け寄ってくるゆんゆんを見て、男性冒険者が何を思ったのか、想像に難くない。

……もしかしなくても男性冒険者に村八分されるかもしれない。

そんな最悪な想定が頭を駆け巡る中、俺たちの方に優しげで魅惑的な声がかけられる。

 

「あの、つまりはお手洗いのご利用はされないということでよろしかったですか、お客様?」

「ア、ハイ…………」

「どうされましたかお客様、緊張なさってますがこのお店はただの飲食店ですよ? あなた方をとって喰らおうだなんて人は誰一人もいませんのでご安心を。ですよね?」

 

人間離れした色っぽさを持つお姉さんがそう言うと、奥の方で睨みをきかせていた男性冒険者たちの視線は消え去る。

代わりに何やらひたすら紙に何かを書いている様子だった。

 

なんとか助かったのだろうか……?

魅了の魔法を使ったわけでもなさそうなのに一糸乱れぬ統率に不気味さを感じながらも、俺とダストはほっと安堵の声を漏らす。

そう思っていると女性の店員が「ひとまず空いてるお席へどうぞお座りください」と俺たちのことを席へと案内した。

 

「お客様は当店のご利用は初めてですか?」

「は、はい、初めてで…………あ、あの!」

「はい、何でしょうかお客様」

「さっきまで慌ててたせいでいろいろと気づかなかったんですけど、なんか、このお店の店員さんが、その、結構扇情的な制服で働いているなー……なんて」

 

ゆんゆんがこの店の禁忌に触れた瞬間、店内の時間が凍結した。

男性冒険者の手の動き、呼吸、そのすべてが凍てついたのだ。

恐ろしさで冷や汗を垂らしている中、コツコツというヒールの音がその凍った時を打ち破った。

音の方に視線だけを動かすとそこにはこの店で一番妖艶で蠱惑な店員が立っていた。

 

「お客様、当店は心地よい睡眠を提供するというコンセプトです」

「こ、コンセプト……?」

「はい、コンセプトです。よくあるでしょう、接客態度が悪いカフェ、メイドが接客してくれる喫茶店、猫や犬といった動物がいるアニマルセラピー施設……そういうことです、お客様」

「な、なるほど……? つ、つまりそういう服装なのは――」

「はい。コンセプトです」

「みんな食べ物を頼んでないのも……」

「ええ、コンセプトです」

「じゃ、じゃあ、ちょっと妙な魔力を感じるのも……」

「コンセプトです」

「…………そ、そっかぁ、コンセプトかぁ」

「はい、コンセプトです」

 

この店員さん、終始にっこりと笑顔でゆんゆんの質問をコンセプトで貫き通したぞ。

窮地に平常心を保っていられる精神……何回も対応してきたベテランに違いない。

俺は心の中で女神のような存在に手を合わせた……まあ女神じゃなくて悪魔なんだが。

 

「お客様、そういうわけですので何かお召し上がりになりますか? もちろんそういうコンセプトですのでご注文するかどうかはご自由に。こちら、メニュー表です」

「あ、ありがとうございます……えっと、じゃあオススメは……」

「当店のオススメはこちら、アップルパイとホットミルクになっております。寝付きがよくなると評判ですよ」

「じゃ、じゃあそれを……三つお願いします」

「アップルパイとホットミルクのセットを三つですね。承りました、少々お待ちください」

 

そう言ってお姉さんは奥の方に消えていった。

 

 

ゆんゆんの爆弾発言からしばらくたって、俺たちはようやく平常心を取り戻してきた。

そのとき、俺とダストはとあることに気づく。

この店、魅惑的な体をしたお姉さんがウロウロしているじゃあないか!

そのことに気づいた瞬間、さっきまでドキドキしていた心臓が別の意味でドキドキし出す。

と、その時だった。

 

「わぁ……おいしそう……!」

「お客様、ご注文のセット、大変お待たせいたしました」

「ああ、いえ、ありがとうございます!」

「アップルパイは、お皿に添えてあるミルクアイスと食べると暖かさと冷たさが調和するので、共に食べるのがオススメですよ」

「それは……かなりおいしそうですね! 試してみます!」

「では、最後にアンケート用紙の方を。よろしければ必要事項をご記入の上、会計の際に渡していただけると幸いです。ご不明な点があれば店員の方にお申し付けください。それでは、ごゆっくり」

 

そう言ってお姉さんはアンケート用紙を渡して仕事に戻っていった。

目の前に置かれているうまそうなセットメニュー。

ゆんゆんはその料理に目を輝かせていた。

 

「いい香り……! ダストさんダストさん!」

「おう、ダスト様だぜ」

「アイスクリームが溶け始めてるので早く食べましょうよ、絶対こんなのおいしいですよ! 反則過ぎ……!」

「おいおい、食べたい気持ちはわかるがちょっとはしゃぎすぎだぜ」

「だ、だって、こんな、めぐみんとかねりまきとはするけど、まさか男の子と喫茶店に行くだなんて思ってもみなくて……! こ、これって、ほ、本当にお友達みたい……!」

「お、おう、そうか……。とりあえず食えよ」

「うん! じゃあいただきます!」

 

訂正、ゆんゆんは食べ物だけじゃなく俺たちと来れたのがうれしいらしい。

ダストはちょっと引き気味だが、俺にとってはこれくらいのことは日常茶飯事だ。

アイスとアップルパイを「ン~~っ! これ凄くおいしいですっ!」と幸せそうに頬張るゆんゆん。

俺はゆんゆんをマネして口の中にフォークを入れつつ、今後友達として皆でいろんな体験をさせてやろうと心に決め――。

 

「何これうんっま!?」

 

 

 

 

ホットミルクを喉に流し込んでほっと一息つく三人。

こんなにうまいもの久しぶりに食った……

……この店の利用客はどうしてこんなうまいものがあるのに何も注文することもなく帰るのか。

もしこの味を知らずに店に通ってるんだったら人生かなり損してる。

そう思いながら、俺はアンケート用紙のことを思い出してその紙に目を通す。

 

「えっと、見たい夢について……自分の状態、性別、外見…………っ!?」

「みんなに誕生日を祝ってもらって幸せな状態、でいいのかなぁ……? カズマさん、どう思います? ……アレ、カズマさん? もしかしてミルクのせいでお腹が痛く」

「なってないわ! いや、誕生日くらいみんなで祝ってやるからもっと空を飛びたいとか、そういう願望にしろよ!」

「ええっ!? い、いいんですか!? 私、誕生日を祝ってもらえる……!」

 

めちゃくちゃ悲しいことを言い出すゆんゆん。

しかし、そんなことは今はどうでもいい。

俺はアンケート項目を見た瞬間、この店が何の店かを思い出して思わず息をのんだ。

公衆の場で盛大に粗相したことになりかけたり、男性のナニをちょん切られかける思いをしたり、そんな末に提供されたデザートセットが美味すぎたり、いろいろとあって忘れていたがここはサキュバスの経営店。

そう、ここはいい夢を見せてくれるサキュバスの店!

ダストもそのことに気づいたのだろう、呼吸は妙に荒々しくなっていた。

俺たちのそんな様子を見たゆんゆんは心配そうに。

 

「あの、二人とも大丈夫? なんか体調悪そうだけど……やっぱり第二波が来たんじゃ――」

「そんなこと言うんじゃない、はしたない! ほんと、そういうんじゃないからどうぞお構いなく!」

「いや、待てカズマ。俺は少し行ってくる。一緒に行かないか」

 

そう言って俺のことをつれションに誘うダスト。

別に俺はでるもんもないし行かなくてもいいやと思って断ろうとしたのだが……

ダストの表情は真剣そのもの。

俺は瞬時に男の友情でどういう意図か理解した。

ゆんゆんがいる状況じゃまともにアンケート用紙に記入できない。

だからトイレを借りるふりをして離席することで、店員さんに手取り足取りレクチャーを受けながらじっくり内容を考えようじゃないか……

つまりそういうことだろう。

まったく、さすがはダスト、抜かりがない頼りになる男だぜ……!

 

「わかった、一緒に行こうぜ」

「つーわけだ。ゆんゆんはちょっと待っててくれよな」

「あ、はい。ごゆっくりどうぞ」

 

よしっ、ゆんゆんに違和感を抱かせることなく現場から離脱することに成功した。

俺たちの心臓はボルテージを上げていく。

そのたびに熱くなる息。

このお店がそういう雰囲気にさせてくるのだから仕方がない。

俺たちはトイレの位置を聞きに行くふりをしてアンケートの書き方を習いにお姉さんのところへ足を運び、アンケート用紙という名の最重要目標を達成しに行くのだった。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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