「ごちそうさまでした! おいしかったです!」
「それはそれは。ありがとうございます」
丁寧な接客とおいしい甘味に大満足なゆんゆんは肌艶をまして店を出た。
さながら、俺のことを追いかけただけだったのにこんなにもおいしいお店を知ることができるとは思ってもみず得した気分といったようだ。
しかし俺たちは違う。
あくまでこれは前菜。
メインディッシュはこの後に控えているのだ。
「お姉さん、この後の手はずは……」
「はい、アンケートの通りにでよろしいですね?」
「よろしくお願いします」
「俺の方もよろしく頼むぜ」
「ええ、もちろんでございます。それと、先ほども注意事項を申し上げましたが、お酒はほどほどになさってくださいね」
「ああ、もちろん! 台無しにしないようにしっかり禁酒するぜ!」
「そうですか。では、またのご来店をお待ちしております」
そう言ってお辞儀をする店員にそう言って店を出る俺たち三人。
路地裏から出ると日常の騒がしさを取り戻した街。
先ほどまでの体験は夢だったんじゃないかと錯覚してしまうが、確かにあれは現実だった。
「そう言えばダストさんはいつの間にさっきの店員さんと仲良くなったんです? お酒の量まで注意されてましたし……」
「お子ちゃまにはわからないだろうが、俺は大人の女性には結構モテるんだぜ? 今までに一体何人のマダムに声をかけられてきたことか」
いや、今までのダストの噂を知ってて寄ってくるのは金をだまし取ろうとしてるような連中だろうに。
しかもさっき店員のお姉さんにナンパしたが相手にされなかっただろ。
堂々と自慢げに話すダストに一種の哀れみを覚える……。
「まあ、ダストの言ってることに対しての真偽はともかく、あそこは一応睡眠がコンセプトの店だからな。深酒は睡眠に悪影響だから、酒飲みの顔をしてるダストに注意しただけだろ」
「なるほど~、それなら納得です」
「納得すんな! てか、ゆんゆんは俺たちが奢ったんだから感謝の一つや二つ態度で示せよ!」
ゆんゆんの目がジト目になる。
いや、サービスの内容の説明を邪魔されちゃ困るし、夢を見るには追加で5千エリスの支払いが必要だからな、俺とダストが半々で出したんだが……。
変に疑われると嫌だからと奢ったのに、ダストの日頃の行いが悪いせいで逆に不審がられるはめになるとは思わなんだ。
「ま、まさか奢るって言葉とは無縁なダストさんが奢ってくれた理由って……」
「変な勘違いすんじゃねえよ、俺は子供には興味ねえ!」
「そ、それなら…………いや、なんかそれはそれで釈然としないんだけど」
ゆんゆんはセクハラの対象外宣言をされ安堵の表情を浮かべるも、子供扱いされたことが気に入らなかったのだろうか、微妙な表情になっていた。
その後ダストと別れ、ギルドに寄って内職をもらう。
アクアは本気を出せば爆速で内職できる子だと判明したため、ギルドの人には「今までの倍ください」とお願いしたのだが……。
「量、多すぎないか、コレ……」
「ですよね。二倍を想定してたんですけど十倍近くあるような……。あの、私も手伝いますよ」
「うん、よろしく頼むわ」
何をとち狂ったのか、いや、俺があやふやな言い方をしたのが悪かったのだろうが、どうやったら一人で持って帰れるのだろうという量を準備されてしまった。
……これはアクアに全力で頑張ってもらうしかないな。
きっとシュワシュワでもご馳走してやればやる気出してくれるだろ。
そんなことを思いながら俺はゆんゆんと共にギルドで貰った大量の花びらを背負った。
大量の荷物を背負い込む二人組。
俺たちは街の人の視線を独占しながらもなんとか帰路につく。
次期に見えてくる我が家を目指して、なぜか覚える気恥ずかしさを胸に、ただひたすらに歩く。
とりあえず次からは欲張らずに通常量をもらうことに仕様と心に決めた。
しばらくすると大通りを抜けると人の視線も次第になくなり、気がつけば我が家が見えてきた。
そして、到着したと同時に俺は重かった袋を玄関に下ろし、玄関を開けた。
「ただまー。内職持ってきたから中に運ぶの手伝って――」
「先手必勝悪霊退散『セイクリッド・エクソシズム』ッ!」
「うぁぁぁあーーーっ!! がぁぁっ!! ああっ…………目がっ……目がぁぁぁぁあっ!!」
「カ、カズマさぁぁああん!?」
突如として現れた眩しい光。
俺の名前を叫ぶゆんゆん。
かろうじてゆんゆん俺の後ろにいたからよかったものの、俺の目は発光女神に目を焼かれ、床をのたうち回り悶え苦しむことになった。
しかし俺をこんな目に遭わせた元凶たるアクアはあっけらかんに。
「あら、カズマにゆんゆんじゃない。おかりー。大声出しちゃって、大げさねぇ」
「おかりー、じゃねえよ! 何だ今の魔法!」
「今のは退悪魔法よ。魔法自体は人間には無害なはずよ」
「そういうことをいってるんじゃないわ! あんな太陽拳みたいな魔法繰り出して、俺のこと失明させる気か!?」
「あの魔法の光は神聖で慈愛に溢れた光なんですー! それに、なんとなくカズマさんの帰りが遅いなーって思ってたらちょっと悪魔臭がしたんだもの。招かざる客が来たのかと思って、初手安定の不意打ち高火力魔法ブッパしただけよ!」
思わずギクリと体がはねる。
悪魔の香りがどんな匂いなのかはわからないが、アクアの鋭い嗅覚がサキュバスの香りを検知したのかと思わず額から冷や汗が流れた。
「な、何おかしなこと言ってるんだよ……。悪魔臭だなんて、そんな……そんな俺のことが心配だったのかよ」
「まあね。もうギルドに内職取りに行くって言ってから一時間以上時間が経ってるのよ。変な匂いもするしゆんゆんも帰ってこないし、そりゃ心配もするわよ。まあでも、無事帰って来たし安心したわ」
あ、あれ……?
何この純粋に心配してたって感じの言い方……調子狂うなぁ。
普通こういうときって俺のことを「プークスクス、そんなわけないでしょー! まったく、カズマさんってば自意識過剰なんじゃない?」とか言うだろ。
大体そうやって馬鹿にするくせに、なんで今日に限ってこういう感じなんだよ。
なんだか隠れてサキュバスサービスの店に行ってきたことに罪悪感を覚えるんだが。
「心配をかけちゃってみたいで、その、ごめんなさい……」
「ううん、いいのよゆんゆん。どうせカズマさんが迷子してただけでしょ? 道ばたで泣いているところをゆんゆんが見つけてくれてよかったわ」
「いや、泣いてないわ! てか俺が迷子だった前提で話を進めんなよ! 大体、自分の住んでる街で迷子になるわけないだろ!」
「カズマ。こんなに遅かったのに意地張らなくてもいいじゃない。私だってたまに迷うんだからカズマさんならなおさらよ」
「なおさらって何だよ!」
訂正、アクアはやっぱアクアだった。
俺のことを一体何だと思ってるんだと思って思わず拳を握りしめる。
しかし、よくよくアクアの顔を見てみると、その顔は未だに心配している。
これは……子供を見守る母親のような顔だ。
俺のことを馬鹿にしてるのかと思ったが、しっかり心から俺のことを案じているらしいことを理解した。
馬鹿にしてるんだったら殴りつけてやろうかと思ったが、本当に俺のことをどう思っているんだと怒るに怒れな――
「って、今お前『たまに迷う』って言ったか」
「ええ、言ったけど……それがどうかしたの?」
「お前、外でよく彷徨ってるの見かけるけどアレ絶賛迷子中だったのか。ってことは一体どれだけ迷子になってんだよ……」
「もう数えるのはやめたわ」
「プロだ……」
俺がそう言うとなぜか照れた様子で頭をかくアクア。
それを見て突っ込む気が起きないほど呆れていた時だった。
俺の後ろ――玄関の方から「ごめんください」と男性の声が聞こえてきた。
きっと郵便か宅配の人だろう。
「はーい、ちょっと待っててくださいーい! じゃあ俺がちょっと行ってくるから。アクアはこの荷物運んでおいてくれ」
「えー。でもめんどくさ――」
「シュワシュワ買ってきたぞ」
「あいあいさー! ほら、ゆんゆんも一緒に運んでちょうだいな。そしてさっさと仕事を終わらせてシュワシュワパーティーよ!」
「ぱ、パーティー……! 疲れたけどもう一頑張りますか!」
そう言って重労働者ゆんゆんは魅惑の言葉につられて腰を上げる。
過労で倒れないか心配に思いながらも、俺は玄関に向かう。
やはりそこにいたのは配達員の人で、どこか高級そうな木箱を持っていた。
「サトウカズマさんのお宅ですね? こちらにお荷物受け取りのサインを」
俺は重さのある木箱を抱えて皆のいるリビングへ向かう。
その中に入ると、めぐみんとダクネスがチェスで遊んでいるのと、内職用具をすべて中に入れ終えたアクアとゆんゆんが白湯を啜っていた。
「またお茶に指突っ込んで浄化したのか」
「ちっちっち、わかってないわねカズマ。今日はしっかり反省して最初から茶葉を入れずに白湯よ」
「いや、反省を生かすんだったら指を突っ込まないように注意しろよ」
まあ、茶葉を無駄にしなかっただけいいのかもしれないが……
ゆんゆんが「アクアさんが淹れてくれた白湯おいしいです、浄化した水を使ってるせいかまろやかです!」と幸せそうに啜っているので何でもいいか。
と、そんなやりとりをしていると、チェス盤と真剣ににらめっこしていためぐみんとダクネスが俺が帰ってきたことに気づいた。
「おかえり。いつの間に帰ってきてたのだ?」
「いや、ゆんゆんと一緒に帰ってたぞ」
「そうだったか……? しかしゆんゆんと一緒に部屋に入ってこなかったではないか」
「宅配物を受け取ってちょっと遅れただけだろ。それに気づいてないとか、どれだけチェスに集中してたんだよ」
「宅配……? ああ、きっと私の実家からだ。引越祝いに何か寄越すといっていたからな。今はチェスの次の手を考えるのに忙しいからそこらに置いておいてくれ」
「りょうかーい」
俺は箱の中身は何だろなと気になりながらも適当なところに置く。
そして、そのまま今夜のために……まあ、直接肉体接触をするわけじゃないのはわかっているが、一応最低限のマナーとして湯浴みでもしておこうと風呂を沸かしに部屋を出ようとした。
「あ、カズマ、ちょっと待ってください」
「うん? どうしためぐみん。飲み物とかお菓子がほしいんだったら自分で取りに行けよ」
「誰がそんなこと思ってませんよ! そうではなくてですね、今カズマが置いた宅配物から生の食べ物の気配を感じるので廊下かどこか冷えた場所に移しておいてください」
「……生の食べ物の気配って何だよ」
「紅魔族は魔力の気配に敏感なのです。そんな訳で、箱の中に生命を感じ取ったのですよ」
「へぇー」
「そして、我が邪王真眼はその力をさらにもう一つ上のステージへと昇華させる……見えますよ、その箱の中からは
めぐみんは眼帯に隠されたカラコンを解放して箱の中身をまじまじと見てくる。
なんだろう、さっきサキュバスの店でゆんゆんが変な魔力を感じ取ってたのは紅魔族の特性ってやつだったのかと納得しかけてたのに急に説得力がなくなったんだが。
邪眼設定語り出したせいで、何というか、アクアが幽霊が見えるって言ったときのような胡散臭さと似たようなものを感じる……
「これはエビ……いや、カニ……甲殻類の気配がします。どうですかダクネス、当たりですか!」
「確かに食べ物だとは思うが、カニだったかどうかまでは……」
「では詳細は後で現物を確認ですかね。しかし食べ物だということは当たっていたでしょう! どうですか、これが邪王真眼の力……!」
「食べ物の気配とか生物特有の魔力とかは意味わからんが凄いな」
正直、めぐみんが食欲だけで食べ物が入っていると嗅ぎ取ったような気もするが、そんなことを考えているとは知らないめぐみんは得意げにポージングをしていた。
仕方なしと、めぐみんに言われたとおり荷物を廊下の方に運び出そうと箱を持ち上げようとしたのだが……
その時、めぐみんの声が俺を引き留める。
「……あれ? なんかカズマの魔力ちょっと変わりました?」
「うん? 変わったって何が?」
「何というか、僅かに変な魔力が漂っていると言いますか……」
「い、いや? 心当たりは……さっきアクアに変な魔法を照射されたくらいか」
「ああ、そう言われればアクアっぽい感じがします」
「じゃあ俺はちょっと風呂沸かしに行ってくるわ」
「珍しい時間に沸かしますね」
「たまには早めに入りたい気分の時もあるさ。じゃ、そういうことで」
そう言って額からじわりと冷や汗を垂らしながら俺は部屋を足早に出る。
そして、何かしらの食べ物が入っているだろう箱を、この部屋の入り口の近くに置いて、俺は思わず息を吐き出した。
た、耐えた……っ!
サキュバスサービスの店に行ったことがばれたのかと思ってとっさの言い訳だったが、それが功を奏したな。
きっとここが最大の山場だっただろう。
それを乗り切った俺に怖いものなんてない……
そう思ってお風呂を沸かし始めるのだった。
しかし、俺はまだ知らない。
難関は序章に過ぎないということを。
次話投稿日なのですが、私用が入ったせいで書く時間が足りず遅れそうです。
申し訳ないのですが来週の土曜日にずれると思われるのでよろしくお願いいたします。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める