俺が日課の墓掃除をしていると背後から無言の圧力を感じる。
昨日、俺はサキュバスに魔法をかけられてたということになっており、俺がサキュバスを守って逃がしてやったという奇行に関して問題になることはなかったのだが……。
「なあ、いい加減口利いてくれよ」
「…………本当に、昨日の夜の記憶はないんだな? お前はあの時、サキュバスに操られてて何も覚えていないのだな?」
「まったくな。大体、俺はちゃんと明りもつけてたし鍵も閉めてたんだが? 目を覚まして事の顛末を聞いたときには、それこそお前が勝手に鍵をこじ開けて俺の裸を除こうと侵入してきたのかと思ったぞ」
「ばっ、馬鹿なことをいうな! 私がそんなハレンチなことをするわけ……ッ!」
そう言ってダクネスは顔を赤らめ視線をそらす。
本当に、細心の注意を払ってたのにどうしてこんなことになったのやら……
俺はラッキースケベが嫌いだ。
どうせその後全力で平手打ちの刑に処され、噂は広がり社会的に抹殺され……
幸福だった瞬間は一瞬で気まずさと絶望しか残らないのだから。
いたずら好きのアクアか誰かアホンダラな愉快犯がやったに違いない。
今度ちらっと鎌をかけてやって、ボロリと白状したらそのままバックドロップに持ち込んでやる。
感謝の気持ちは……ないといったら嘘にはなるが。
「……本当に。本当に昨日は何も見てないのだな」
「そうだって。きっとまともな状態の俺だったらおまえが風呂に張ってきた瞬間に痴女が乱入してきたと思って悲鳴を上げるはずだからな」
「そ、そうなの――いや、普通なら女性の方が悲鳴を上げるのでは!?」
「何言ってんだよ。俺は別に見たっていってもないのに勝手に裸を見せつけられたんだ。猥褻行為をされたら男である俺は叫んで助けを求めるに決まってる」
「そ、そういうものなのだろうか……? な、なあ、昨日のカズマも強引で、物を知らない私に好き勝手吹き込んでいたが、本当は風呂場での出来事を覚えてるんじゃ……!」
「覚えてない覚えてない、そういうもんだから。お前は本当に……世間知らずのお嬢様じゃあるまいし被害者男性が加害者扱いされないためにもこういう場合は必要な措置をするもんだぞ。わかったらいい加減機嫌直せって」
「べ、別に機嫌を悪くしたわけではないのだが……その、今回は事故みたいなものだし、お前が覚えていないというのなら私も忘れるとしようか」
そう言いながらダクネスは墓掃除を手伝い始める。
昨日は散々な目に遭って、しかもサービスを受けられずに残念だったが、まあ、何がともあれサキュバスの女の子も逃げることができたみたいだし一件落着か。
そう、街中に轟いた、すべてをぶち壊すアナウンスさえ流れてこなければ。
『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーがアクセルの街に接近中です! 冒険者の皆さんは装備を調えて冒険者ギルドへ! そして、街の住人の皆さんは直ちに避難してくださいっ!!』
「嫌、みんなと一緒に住んでた思い出の屋敷がなくなっちゃうなんて! ああ、エリス様アクア様! 私にできることなら入信でも何でもしますからなんとかしてくださいお願いします!!」
「無理よ、入信はしてほしいけど流石に私にそんな言われたって叶えてあげられないんですけど……」
「アクアさんには言ってないので構わないでください! 私は最後まで祈って……それでも駄目だったら悪魔を召喚してでもデストロイヤーの進行を食い止めて……」
「いやぁああっああ! 私女神なんですけどぉ! だからお願いだから悪魔はダメぇ! ゆんゆん闇落ちしないでぇ!」
墓からダクネスと共に家に戻ると、底はすでに阿鼻叫喚と化していた。
切羽詰まった表情で床に何かしらの魔法陣を描き始めているゆんゆんと、それを必死に止めようとしているアクア。
そいで何故かその様子を優雅に茶をたしなみながら観覧しているめぐみん。
阿鼻叫喚というか混沌だった。
「お、おい、お前ら、一体何だってんだ!」
「カ、カズマ! どうしよ! ねえ、どうしよう機動要塞デストロイヤーよカズマさん!」
「な、なあ、そのデストロイヤーって何なんだよ? 俺何も知らないから教えてほしいんだが――」
「ああああっ! もう駄目よお終いよぉ! デストロイヤーになんて勝てるわけがないのぉ!」
パニックになっているのか、アクアが俺の肩を揺さぶりながら絶叫をする。
正直、俺としてはそこまで事態の重大さがわからないが、アクアのこの慌てっぷり……
自分のアイデンティティーである女神を否定されたのにそのことを追求しないあたり、余程のことだろう。
「ほら、アクアが錯乱してますから、あまり迷惑をかけてはいけませんよゆんゆん。この家を手放すことになるのは残念ですが、命の方が大事でしょう」
「で、でもぉ思い出のお家が……」
「でもではありません。大体数日も住んでないでしょうに思い出も何もありませんよ」
「めぐみんの薄情者ぉ! この屋敷はみんなが力を合わせて除霊したりクエストを受けたりお風呂に入ったり……!」
「ああっもう騒がしい子ですね! どうしても足掻くというのならテレポートでも覚えなさい! カズマのドレインタッチと私の魔力、ゆんゆんの魔力制御次第では家ごとテレポートできるかもですよ!」
「私、あとレベル一つ上げれば上級魔法覚えられるんだけど……で、でもこの家を守るためだったら、私……!」
「ちなみに、あくまで理論上可能じゃないかってだけで、私から魔力を取り込んだら制御するどころか体が耐えきれずボンッですけどね」
「め、めぐみん!? 期待させておいてそれはさすがにないんじゃない!?」
「今できることを考えなさいと言っているのです。テレポートを覚えれば逃げ遅れてもなんとかなりますし、覚えて損はないですよ」
そう言って場違い感を極めためぐみんがティーカップを置いた。
カチャリと鳴る陶器の音、ため息をつきながら視線を下に向け、達観した様子のめぐみん。
「とにかく、デストロイヤーが近づいてますから今更慌てても仕方がありません。冷静に避難をするのです。最悪アクセルが更地になっても紅魔の里に行けば私かゆんゆんの実家でしばらく……」
「いや、アナウンスでギルドに集まれって言われてただろ。行かなくてもいいのか?」
「……まさかデストロイヤーと戦う気ですか!? ダクネス、そこでデストロイヤーの恐怖で自棄になってるカズマを捕まえておいてください! 正気を失った人間が何をしでかすか!」
「わ、わかった! カズマ、一度落ち着こう、深呼吸だ。デストロイヤーに立ち向かってくれる気持ちは嬉しいが、勇気と無謀をはき違えるな。命を放り出しては駄目だ」
「どうして俺のことを羽交い締めにすんだよ!? てか、さっきから言ってるデストロイヤーとかなんとかって何だよ!」
「まさかあのデストロイヤーを知らないのですか!?」
「うん、知らないんですけど……えっ、みんな知ってんの?」
ダクネスを見るとこくりと頷く。
どうやらデストロイヤーはこの異世界の常識らしい。
ダクネスが俺を拘束する力を緩め、めぐみんは先ほどとはまた別の呆れたようなため息をする。
「いいですかカズマ。今この街には、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる、最悪の賞金首、機動要塞デストロイヤーが迫ってきています。ワシャワシャしている妙に男子に人気のあるアレです」
なるほど、わからん。
とりあえずアクシズ教徒ってのは異常なほど強い集団ってのはわかったが。
けど、その機動要塞ってのは結局なんなんだ?
名前からしてデカそうだが、めぐみんの説明だけじゃいまいちピンとこない。
「えっと、それはめぐみんの爆裂魔法でどうにかならないのか? 魔王軍の幹部なんてボス級の相手も一撃で倒したし、デストロイヤーも同じように……」
「無理です」
「……あの威力で無理なのか?」
「デストロイヤーには強力な結界が張られています。それを破壊しようと幾人も挑戦をしていましたが太古のロストテクノロジーだそうでして、破壊するのなら力業で突破する以外に選択肢はないのですが、おそらく私の爆裂魔法でも流石に1発目は無効化してしまうでしょう。2発目、3発目を当てればあるいは……いえ、流石に楽観しすぎですね」
何者なんだよデストロイヤー!?
魔王軍の幹部を一撃で……はないか。
今までちまちま一日一爆裂してきたおかげでダメージが蓄積してただろうし。
でも、仮に万全の状態で挑まれても、瀕死にさせることはできたはずだ。
なのに無効化して、その上街を更地に変えるとか……
「というわけで、カズマも早く荷造りをしてください。私は終わらせましたので」
「いや、妙にくつろいでるなーって思ってたら! てか荷物少なっ!?」
「身軽な方が逃げやすいですしね。最後の見納めでしょうし、私はゆっくりしてますから、逃げ出す準備ができたら教えてくださいね」
そう言ってめぐみんはティーカップに口をつける。
……デストロイヤーだかなんだか知らないが、俺にはせっかく手に入れた念願のマイホームがある。
サキュバスサービスだってまだ受けられてないのに……こんな未練残ってる状態で終わらせてたまるか!
「おいめぐみん! この街がどうなったっていいのか! 俺たちが冒険じゃない奴らを助けないでどうするってんだ!」
「お、おお……カズマからまさかそのような言葉が出てくるとは……! ならば私もカズマと一緒に冒険者ギルドにいこう。できることをやる、めぐみんが言っていたとおりにな」
「わ、私もいきます! 一人で考えてても解決できるか難しそうですし……私、この街のことが好きですから!」
ダクネスとゆんゆんが俺の言葉に賛同して立ち上がる。
正直二人の純粋な理由に俺は今にも膝から崩れ落ちそうなんだが。
俺の動機なんてサキュバスサービスだからな、邪な気持ちしかなかったのに純粋にこの街のためを思って動こうとしている二人がまぶしすぎて直視できない。
「ダクネスが言ったような意味で言ったわけではないのですが……皆が行くのであれば私も行きますよ。何かができるとは思いませんが直前まで考えてみます」
「いいぞみんな! 俺たちの街を、屋敷を、たった一日で破壊されてたまるかってんだ! 俺は戦うからな!」
そう言って俺たちは立ち上がった。
この街がなくなったら一体どこでサキュバスサービスを受ければいいんだと、この街の男であれば誰しもが立ち上がる。
きっと冒険者ギルドには心強い同士が大勢いるだろう。
恐れることは何もない、今はただ街中が結託して戦うときだ!
「ねえカズマ、今ふと思いついたんだけど、もしかしたらなんだけどこのままこの街がなくなっちゃったら私たちの借金もなくなるんじゃ……」
「………………お、俺は戦うからな!!」
「今、少し考え――」
「てないッ! さあお前ら! ギルドに行くぞ!!」
「おっ、来たかカズマ! お前なら来るって信じてたぜ!」
「ダストこそ!」
ギルドに到着すると普段の軽装とは違い重装備のダストがいた。
あたりを見ると、重装備で身を固めた男性冒険者が多い……しかも俺の知り合いばかり。
やはりアクセルの街の男性冒険者はこの街が好きなんだな。
流石の結束力……!
そう思いながらギルド全体を見渡していると、遠くの方から魔剣の勇者様が……。
「アクア様! それにカズマくん! やはり君たちも来ると思っていたよ!」
「……なんでお前がここにいるんだよ」
「なんでって……それはもちろんこの地にアクア様がいるから、未だ修行中の身ではあるが、それでもなんとか手助けにならないかと思ってね。前回の魔王軍の幹部との一戦のように無様はさらさないよ」
「アッ、ハイ……」
予想外の厄介な人物の登場。
どうにかして逃げようと思っていると、ギルドの中心の方から声が聞こえてくる。
冒険者ギルドの職員さんが今回の緊急クエストについての説明を行うようだ。
ナイスタイミングとばかりに俺はその説明に飛びついた。
「お集まりの皆さん、本日は緊急の呼び出しに応えてくださりありがとうございます! 正直ここまで集まるとは思っていませんでしたが……人数は多ければ多いほど助かります! 只今より対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストの説明を行います! このクエストは職業やレベルは参加に関係ありません。もしも討伐が不可能と判断された場合にはこの街を捨てて全員で逃げることになります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、どうかよろしくお願い致します!」
ギルドが騒がしい中、職員さんは声を張り上げた。
空間全体に張り詰める緊張の空気を感じ取り、俺の額から汗がにじみ出た。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める