我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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9-4 灼熱の…太陽の石(コロナタイト)

俺たちは止まらない。

何があろうと、どれだけ汗をかこうと、疲労が体を蝕もうと――俺たちは止まらないのだ。

我らが愛しの街、アクセルを脅かす存在を除かねばと体力の限りを尽くして機動要塞の中を駆け回る。

あの街には、我らの酒場があり、宿があり、居心地のいい生活があり、さらにはサキュバスのお姉さんたちがいるんだ。

それをぶっ壊そうなんてやつは、例え誰であろうとこの手で潰す。

それが例え――「ゴーレム」だろうと。

 

俺に立ちはだかったが運の尽きよ。

魔王軍幹部を討伐したのにジャイアントトードにすら遅れをとることで有名な我らがパーティーのリーダーをしている俺がだ、そんな俺でもゴーレムなんて一撃で仕留められる。

それは、何かのゲームで機械系の敵に使うと即死攻撃と化す技だったが、この世界でも……!!

 

「食らいやがれ! 『スティール』――ッッ!!」

 

そう、盗む系のスキルを使えば機械から部品を奪う。

俺の突き出した手には見事巨大なゴーレムの頭が乗っており、頭部を失ったゴーレムは途端に機能を停止した。

計画通り……ッ!! と思った次の瞬間だった。

 

「おおおわぁぁああぎゃぁあああっ!? う、腕がああっ!」

「か、カズマさぁああん!?」

 

どや顔で夜○月の台詞を言おうとしてた俺の腕はゴーレムの頭の下敷きとなった。

俺はもはや完全に地面に押しつぶされたただの足手まとい。

ゆんゆんや周りの冒険者たちが駆け寄ってくれて、どうにかゴーレムの頭をどかしてくれたが、俺の腕はすでに―― 

 

「やめろ、俺の腕の骨がミシミシいってる! 折れたわ……絶対骨折れたわ。これ、絶対いつもの音じゃなかったわ……」

「な、泣かないでカズマさん! ほら、そんなに腫れてないですし、大丈夫ですよ! ほら、きっとあの扉の奥に研究の責任者がいるはずですから、あと少しだけ頑張りましょ? ね?」

 

おい、なんだこの空気。

俺の手をやさしく握りしめながら、不安げに微笑むゆんゆん……

その姿はまるで、痛みに泣き出した子供を宥める母親のようだ。

 

いやいや、やめてくれ、周りに見られてるんだって!

そう思って視線を泳がせた先――苦笑いを浮かべるミツルギと目が合った。

 

ああああもう、なんかもう、帰りたい……!

 

 

 

このすば!

 

 

 

「開いたぞーっ!」

 

鈍い音を立てて扉がこじ開けられると、俺たちは一斉に突入した。

この瞬間、俺たちの胸に恐れなど微塵もない――そう、俺たちは使命感に駆られていた。

大切なサキュバスサービスの未来を、男の夢を守らんがために突き進むのみだ。

鳴り響く警報を気にもとめずひたすらに突き進む、そんな俺たちに恐れなど微塵もなかった。

 

隊列もクソもない。

パーティーの編成? クリアリング?

そんな繊細な言葉は俺たちの辞典に載っていない。

目に入ったものが敵か否かなんて確認すらしない。

反射で処理、反射で粉砕。

誰もが己の反射神経と欲望に忠実に、前へと突き進む。

 

普段は足並みすら揃わないくせに、こういう時だけ息ぴったりに連携する。

そんな不思議な連中――

ここにいるのは、ただ夢を見たいという一心で立ち上がった猛者ども。

 

……約二名を除いて。

 

そんな狂気と言ってもいい修羅のごとき大行進の末、俺たちは機動要塞の最深部へと辿り着いた。

だが、俺たちはそこに待ち構えていた存在に度肝を抜かれることとなる。

 

「……なんだよ、これ……」

 

さっきまでのテンションはどこへやら。

部屋の中央に鎮座する“それ”に、空気が凍りつく。

静まり返った部屋の中で、誰かのかすかな呟きがこだました。

 

そこにいたのは、一体の白骨化した人骨だった。

玉座のような椅子に腰かけるような形で朽ちたその姿――おそらく、機動要塞デストロイヤーを作り上げ、乗っ取った研究者の末路だろう。

 

「こんな……ひとりぼっちで死んでたなんて……寂しかったよね……」

「破壊の限りを尽くしたことは勇者として許せないが……どうか安らかに眠ってほしい」

 

普通は自分の街を脅かそうとしていた存在に怒りを覚えるべきなのだろうが。

ゆんゆんは目に涙を浮かべ、ミツルギは静かに手を合わせる。

俺も、怒りよりも何かこう、言い表せない寂しさのようなものを感じていた。

 

どこか寂しげに玉座のような椅子に腰かけている白い骨。

それを見てなんともいえないような気分になる。

いたたまれなくなった視線をふいと横にずらすと……テーブルの上に一冊の古びた本を見つけた。

 

 

……この研究者の手記、か?

せめてこの人がどんな人生を歩み、どうしてこんなことになったのか。

少しでも知ってやれたら、弔いになるかもしれない。

そんな気持ちで俺はそっと手を伸ばし、本を手に取った。

ページをめくった瞬間、目に飛び込んできたのは――

 

「えっ……!?」

「どうかしましたか?」

 

そう言ってゆんゆんが本をのぞきこむ。

 

「いや、この本の文字……」

「この人の手記ですか? ああ、でも文字が古代語で読めないんですね。……読めたらこの人が何を思ってこんなことをしたのか知って慰められたのに……残念で――」

「い、いや、これ読めないのか? なあミツルギ、これさ……」

「これは……日本語、だね?」

「えっ、もしかして二人はこの古代文字読めるんですか!? 失われた文字……里のみんなも読めないのに読めるなんて!」

「まあね。でも、そんな大層なものじゃないというか……」

「うん、読めるというか何というか……」

 

これ、俺たちの母国語なんですが。

そう口に出しかけて、俺とミツルギは互いに顔を見合わせ、そこで言葉を飲み込んだ。

今、正直に「転生者だ」と暴露しても混乱を招くだけだ。

それに――なぜ日本語が“古代語”扱いされてるんだ……

どう考えてもおかしい。

 

この世界にはあの駄女神のせいで結構な数の転生者が流れ着いているはずだ。

誰か一人くらい日記とか教科書とか残しててもおかしくないだろ。

それなのに、どうして日本語が失われた言語になっているのか。

 

まあ、きっと転生者たちはこの世界の文字になれすぎてるせいで日本語を使う機会もないのだろう。

俺も書くなら異世界文字でサインするし、日記なんて書かないし。

 

そう思っている間にもゆんゆんの好奇心と尊敬の念は高まるばかりで、キラキラと赤く輝いている瞳がまぶしい。

その視線に背中を押されるように、俺はミツルギにうながされ、静かに読み上げを始めた。

 

 

『○月×日。国のお偉いさんが無茶言い出した。……伝説の超レア鉱石、コロナタイトでも持ってこいって言ったら、マジで持ってきやがった。やべえよどうしよう。……頼む、動いてくれ! ……もうどうにでもなれって研究所の酒かっくらった。コロナタイトに根性焼きした。……現在、絶賛暴走中。国滅んだ、やべぇ、え、やっべーーー!! でもスカッとしたからよし。……決めた。もうこの機動要塞から降りない。てか降りられねぇし、止まらねぇし。これ作ったやつ絶対バカだろ……あっ、俺だったわ。責任者、俺でした』

 

 

「……終わり」

 

俺は読み終えた手記を静かに閉じ、長い溜め息を吐いた。

そして次の瞬間、俺を含めた冒険者たち(二名を除く)が一斉に叫んだ。

 

「「「なめんなーーっ!!」」」

 

 

 

 

 

ここは機動要塞の中枢部。

俺とゆんゆんはこの機体の自爆を阻止するため、コロナタイトと呼ばれる動力源を停止しに来たのだが──そこにあったのは、赤く灼けた光を放つ鉱石。

それが、分厚い鉄格子の奥に鎮座していた。

 

「これが……コロナタイトってやつか」

「ここからでもわかる熱気……きっとそうです。太陽の力を秘めている灼熱の鉱石と言われてますから」

「ふむ。格子がなかったら僕の出番はなかったけど……まあ、予定通り、僕からいこうか」

 

ここに来るまでに立てた作戦。

それはゆんゆんの氷結魔法でコロナタイトを冷却してデストロイヤーのエネルギー供給を絶つというものだ。

 

ミツルギは魔剣グラムを抜き、鉄格子に向けて一閃。

魔剣グラムとやらは大変素晴らしい転生特典なのだろう、いともたやすく鉄を切り裂いてしまった。

カラン、と金属音が響く。

俺はそれを聞きながら思う……俺の特典があんな変な駄女神じゃなかったら、ああいうカッコいいアイテムがもらえたのかもしれないな、と。

俺もあんなへんちくりんの駄女神じゃなくてそういうカッコいい特典がほしかった……

そんなことを考えているうちに、ゆんゆんがコロナタイトにそっと手をかざし、魔法を詠唱した。

 

「『フリーズガスト』――ッ!」

 

氷の魔法が放たれる。

中級魔法だが、魔力を上乗せして撃ったそれの威力は明らかに上級魔法クラスだった。

魔法を放ち終えたゆんゆんは、冷却されたコロナタイトを土台から持ち上げ、そっと床に置く。

すると──

 

けたたましく鳴っていた警報音が、ピタリと止まった。

 

……やった。

これで、この機動要塞の自爆は阻止できた。

心の中で密かに安堵し、思わず息を吐く俺だったが──その瞬間、異変が起きた。

 

「……おい、なんか赤くなってきてないか、アレ」

「っ、コロナタイトが元に戻ってる!? さっきまで黒く冷えてたのに……!」

 

きっとこれがこの機体すべてのエネルギーを担っていたのだろう。

安堵もつかの間、床に置かれたコロナタイトを見ると黒く冷やされた色だったが、ゆんゆんが手放した瞬間に先ほどまでの赤い輝きを取り戻していた。

しかもどんどんとさっきより赤く。

 

「げぇっ、床が融けだしてる!? 土台から下ろしたせいで放熱できなくなったのか!?」

「そんな……さっきの魔法、最大出力でやったのに……! あと少しでコロナタイトが爆発しそうな色してきてるんですが!?」

 

ゆんゆんの声に焦りが混じる。

確かに今のあの輝きはマズい感じがする。

赤を通り越して白くなってきて……あと一分も猶予がないような激しい熱を感じる。

俺がどうしようかと思考を巡らせているとミツルギが。

 

「残りの魔力で、もう一度冷やせば間に合うかもしれない! コロナタイトを刻んでやれば、冷却もしやすくなるはずだ。それに、さっきのは中級魔法だったね? 上級魔法を使えば──」

「無理です! 上級魔法は覚えてないんです! スキルポイント的にはもう少しで覚えられるんですけど、魔力の残りもギリギリで……それに剣を当てた衝撃で爆発したら……!」

 

確かにミツルギの言う通りもう少し冷却したらとも思ったがゆんゆんの叫びにも一理ある。

さっきより熱く輝いてるコロナタイト……まさに焼け石に水になりそうだ。

俺が考えてもいい案は思い浮かばないし、ミツルギの案が一番いいと思ったんだが……

 

「じゃあほかに方法は! ゆんゆんさん、さっきの戦闘でレベルでレベルが上がってスキルポイントがあったりは……」

「そ、そんな都合よくレベルが上がるなんて……なんて……? な、なっ!?」

「ど、どうした? なんで固まって──」

「……30ポイント……スキルポイント、30……! たまってる! 私のカード、30になってます!」

「ってことはつまり……!」

「はいっ! 私、上級魔法覚えられるんですよカズマさん! ミツルギさん、教えてくれてありがとうございます!」

「いや、僕は何もしてないよ。全部君の努力の成果さ」

「ありがどうございまずぅぅぅぅ……! やったぁぁぁああ!!」

 

涙を流しながら俺の目の前に冒険者カードを突き出してくるゆんゆん。

そのカードを見ると、ゆんゆんのレベルは14、スキルポイントは30。

そしてスキル一覧の上級魔法の項目は習得可能の表示になっていた。

 

まさに夢にまで見た瞬間。

嬉しさが爆発したゆんゆんは、コロナタイトの危機も忘れて俺とミツルギに思いっきり抱きついてきた。

……まあ、無理もない。

ずっと目指してたんだからな、上級魔法。

 

だが俺はゆんゆんとミツルギのように純粋に喜ぶことができなかった。

俺はゆんゆんのカードを見たとき不幸か幸運か──ある「別のスキル」に気づいてしまった。

 

それは上級魔法ではない。

今のこの状況を――爆発寸前のこの地獄から、脱するための魔法。

 

――テレポートだ。




補足<ゆんゆんのレベルとスキルポイント>
爆焔時代(卒業前):「養殖ではモンスターを倒せていない」「あと3ポイントで魔法を習得できる」という描写があるので、ポイントが変動していなければレベル1で27ポイント保有している。

爆焔時代(卒業後):レベルはいくらか上がっていると思われるが不明。中級魔法(必要ポイント数10)を習得したので17ポイントになった。

そして現在:スキルアップポーションを使用していないとすれば残り13ポイント集める(=14レベルになる)と30ポイントとなり、上級魔法(必要ポイント数30)を習得できる。

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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