我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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第三特異点
10-1 率爾な…上限解放(シンドローム)


機動要塞デストロイヤー。

誰がその名をつけたのかは知らない。

だが、そのふざけたネーミングに似つかわしくないほど、世界各国の人々に恐れられてきた凶悪な賞金首だった。

だが先日、その名を轟かせた要塞は――そう、『俺の』素晴らしい作戦と冷静沈着な指揮のもと、無事に、完全に、討伐されたのである。

 

激戦の幕が閉じ、かつてない緊張に包まれていたアクセルの街には、ようやく日常が戻ってきた。

だが……俺たちの心には、未だ拭いきれない影が残っていた。

 

「ゆんゆん、体調は少しは戻ってきたかしらね」

「めぐみんがつきっきりで看病してるんだ。きっと大丈夫だろ」

 

そんな会話を交わしながら、俺とアクアは静かに屋敷の一室――ゆんゆんの部屋へ向かう。

あの日以来、彼女の体調は思わしくない。

回復の兆しはあるものの、決して楽観できる状態ではなかった。

 

「ゆんゆん、入るぞ」

 

俺たちは扉を軽くノックし、ゆんゆんの声を聞いてからそっと扉を開ける。

部屋の中には、白いシーツの上で上体を起こしたゆんゆんの姿があった。

昨日よりは血の気が戻ったように見えるが、それでもまだ顔色は青白い。

そして、その傍ら――椅子にもたれ、ぐっすりと眠っているめぐみんの姿があった。

 

ゆんゆんは、静かにその寝顔を見つめながら、彼女の髪を優しく撫でていた。

そして、人差し指を唇に当てて、そっと囁く。

 

「……さっきまで、起きてたんですけどね」

「まったく……病人に気を遣わせてどうするんだよ。体調は……ちょっとはマシになったか?」

「ええ、毎日ありがとうございます、カズマさん。おかげさまで」

「うーん、たしかに昨日よりは良さそうだけど……まだ無理は禁物よ? 顔色だってまだ悪いし、動くにしても軽い散歩くらいにしなさいね?」

「運動したいのはやまやまですけど……まあ、動こうとしてもこんな状態じゃベッドから出ることもできないんですけどね」

 

苦笑まじりにそう答えながらも、ゆんゆんは再びめぐみんの方に目を向ける。

彼女の目の下にはうっすらとクマが浮かんでおり、それが何より、どれだけ気を張っていたかを物語っていた。

 

「……デストロイヤーの件の後、全然目を覚まさないから心配したが、よくなってきてるみたいで一安心だな」

「私の回復魔法でも全然改善しなかったのよ? もしかして病気じゃないかと思って焦ったけど、元気になってよかったわ。これもめぐみんのおかげで原因が魔力が上がりすぎだってわかったんだから、後でありがとうって言ってあげてね?」

「な、なんかさっきもお礼言ったんですけど、こう、改めていうのは少し気恥ずかしい…………今言っておくね、ありがと、めぐみん」

 

ゆんゆんはぽつりと呟き、照れたように頬をかく。

――そう、デストロイヤーとの決戦の後、ゆんゆんは一向に目を覚まさなかった。

宴会ムードのギルドとは裏腹に、俺たちの屋敷にはどんよりとした空気が漂っていた。

 

いくら寝かせても、声をかけても、起きる気配はない。

アクアが回復魔法を試しても効果はなく、表面的には無傷なのに、どんどん顔色は悪くなっていく。

「どうなってるんだ……?」と俺たちが頭を抱えていたとき――

 

めぐみんが「この症状に少し見覚えがある……と言いますか、心当たりが」と、俺にドレインタッチをするように求めてきたのだ。

最初は驚いた。

体調が悪い相手に魔力を吸い取るなんて逆効果じゃないのか?

だが、めぐみんは静かに首を振って「淀んだ魔力が、体の中に溜まりすぎている」のだと言い、アクアも「確かにめぐみんの言うとおり魔力が多いかも」と同意する。

 

恐る恐るドレインタッチを発動した俺は、そこで初めて“異常”を感じた。

引いても引いても底の見えない魔力。

尽きることなく湧き出るそれを吸い上げるごとに、むしろ俺の方が気分が悪くなる。

それほどの濃さだった。

めぐみんやアクア、ダクネスにまで手伝ってもらって過剰な魔力を受け取ってもらい……その甲斐あってかゆんゆんは目を覚ました。

それが、数日前のことだった。

 

「本当に、めぐみんが気づいてくれなかったらボンってなってたかもしれなかったし……」

「なにそれこわっ! い、今はもう大丈夫なんだろうな? ……屋敷ごと爆破とかマジでシャレになんないんだが!?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと、毎日カズマさんに抜いてもらってますし。最近は……なんだか、魔力量の上限が上がってきてる気もするんです」

「……そ、そうか……?」

 

素直に喜ぶべきなのか、心配するべきなのか……正直、よくわからなかった。

そもそも、なぜゆんゆんの魔力がそんなにも溜まりやすいのか。

そして、なぜ上限が伸びているように感じるのか。

まだ、わからないことばかりだ。

 

だが、本人はどこか嬉しそうで、笑みさえ浮かべている。

それが、何より安心材料になった。

 

「じゃ、今日もやるか……ちょっと背中触るぞ」

「はい、お願いします」

 

俺はゆんゆんの背に手を当てて、慎重に魔力を吸い上げていく。

この作業にも、だいぶ慣れてきた。

最初は間違って魔力以外に体力も吸わないようにと気を張っていたが、今では触ること自体に妙に緊張できるほどには。

 

そんな中、ふと俯いた俺の視界に入ったのは、眠っているめぐみんの後頭部。

その耳は、うっすらと赤く染まっていた。

 

 

 

 

翌日。

今日は俺一人でゆんゆんの部屋に。

なんか昨日の様子を見て安心したせいか、心はわずかばかり軽やかだ。

今日もめぐみんが眠りこけてたら今日も今日とてめぐみんの話題を出して褒めちぎり、褒め殺しにする算段まで立てている。

しかし俺たちが部屋を開けると、残念なことにめぐみんの姿はない。

代わりに――

 

「……なあ、ゆんゆん」

「あ、カズマさん! 待ってましたよ、今日もドレインタッチお願いしま――」

「その……何というか……年頃の女の子が、上着をはだけさせた状態で、ベッドの上で待ってるってのは……どうなの?」

「言い方! カズマさんその言い方かなり際どいです!」

「いや、でも実際にそうだろ」

 

目の前のゆんゆんは、ベッドに腰を掛け、いつでも背中を差し出せるように上着を脱ぎかけていた。

肩が少し見えていて、露出面積は決して多くない。

だがそれが逆に妙に生々しく、年頃の男子代表の俺としては視界に入るたびに理性が削れていく思いだ。

 

――いかん、これ以上見たらアウトだ。

そう思って俺は視線をそらす。

 

いや、昨日もそうだったけどさ。

確かに魔力を効率よく吸い取るには、心臓に近くて皮膚が薄いところが良いってのはわかる。

でもさ、それを理解した上でも、だ。

思春期の男子が女の子の背中を素手で触れる状況って、普通はもっと段階を踏むものなんじゃないのか!?

 

ってちがう!!

 

何をおかしなことを考えているんだ落ち着けサトウカズマ、相手は病人だ!

これがうれしい展開じゃないといえばそれは嘘になるが、なんか、こう……俺のことをもう異性と認識してるんだったらこんな行動には出ないんじゃないかって!

いや、でも待てよ。

ここは異世界だ、なにがおこるかわからない。

仮に、ゆんゆんが俺に魅力を感じてるんだったら、誘惑してそのまま落とせばいいという考えもあるんじゃなかろうか!

 

元気そうな様子に多少安心したこともあるのか、あられもないゆんゆんの姿を見て、俺は盛大に混乱していた。

 

「いいかゆんゆん。物事には段階ってもんがある。いくら俺が魅力的な男だからってこういうことはしちゃ駄目なんだ。わかってくれるな」

「何を言ってるんですか!? ち、違いますよ!? これにはちゃんと理由があるんですからね!? 決してやましい意図なんて……!」

「いや、でも、普通こういう治療って、医者が『診察するから脱いでください』って言うもんだろ? 診察始まる前に服脱いで待ってるとか、もうただの露出狂だろ!?」

「ろ、露出狂!? 私はただ、効率を考えて先に準備しておこうってだけで……それに今日はギルドで報酬の受け取りがあるって聞いてたから、カズマさんの手を煩わせないようにって……!」

「あれ、聞いてたのか?」

 

俺の言葉に頷くゆんゆん。

まあ……ゆんゆんがそんなつもりじゃないのは、わかってたさ。

心配かけたくない、迷惑かけたくない――その気遣いが空回りして、ちょっとややこしい方向に行っちゃってるだけなんだろう。

 

「気遣いはありがたいが……大体な、そんなちゃんと服着ないと風邪引くだろ」

「ご、ごめんなさい」

「じゃあ、やるか。ドレインタッチ」

「……お願いします」

「…………終わったら報酬もらいがてら散歩にでも行くか」

「は、はい!」

 

うれしそうな声で応えるゆんゆんの背中に、俺はそっと手を伸ばした。

その指先から、また少しずつ魔力が流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

数時間後、俺たちはゆんゆんを連れてギルドにやってきた。

正直、ギルドまで歩いただけで息が上がってるし、まだまだ本調子とはいかなそうだが、本人は久しぶりに外の空気を吸えて満足げだ。

 

「あんまり無理すると体に障る。いつにも増してにぎやかだし、人混みがうるさければ……」

「ダクネスさん、ありがとうございます。もし具合悪くなりそうだったら言いますから……って、ほら、ダクネスさんの名前が呼ばれましたよ」

「ああ、そのようだ。では報酬を受け取ってくる」

 

そう言ってダクネスは俺たちから離れてギルドのカウンターへ。

めぐみんやアクア、ゆんゆんまでもが呼ばれて、まだかまだかと俺は呼ばれる番を待つ。

帰ってきた皆の手にはずっしりと重い金貨の山。

それもそのはず、デストロイヤーは、王国が長年手を焼いていた厄災級の賞金首だ。

それを撃退したのだ、報酬も期待できる。

俺はいてもたってもいられなくなり、受付嬢が俺を呼ぶのはまだかまだかと近くをうろうろして――

 

「サトウさん、現在混み合ってる状況でそこで動き回られると非常に迷惑ですので向こうの方でお待ちくださいね?」

「…………はい」

 

別に泣いてねぇし。

ちょっといい気分の時に注意されたからって、街を救った英雄様になんて仕打ちだとか思ってねぇし。

そんなことを思いながら指先をツンツンするぼっち遊びをしていると、ついに俺の名前が呼ばれた。

 

「それでは、サトウカズマさん一行に、機動要塞デストロイヤー討伐の報酬――」

 

いよいよ俺も億万長者の仲間入りか……!

そう思っていたのがフラグだったのか。

ギィィィ……と、ギルドの扉がきしむような音を立てて開かれ、ギルド内のざわめきがぴたりと止まった。

 

「――王国検察局より、検察官セナ、参上しました」

 

現れたのは、背筋を伸ばした真面目そうな女性。

なるほど、今回討伐した賞金首は魔王の幹部どころじゃない。

各地を脅かしていた大物だ。

ギルドだけではなく国からも報酬をもらえたり……

なんなら騎士にスカウトしに来たりだとか!

そんな俺の考えとは裏腹に、黒髪の女性は敵を見るような厳しい目つきで。

 

「サトウカズマ。貴様には内乱罪および外患誘致罪の容疑が掛けられている! 自分とともに来てもらおうか!」

 

 

……は?

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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