我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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10-3 獄中の…検察官(インヴェスティゲーター)

「今日から裁判の間まで、ここが貴様の寝床だ。入れ」

「あの、マジでここに入るんですか? 照明もないし……うぉわ!?」

「詳しい話は明日聞く。それまでの間はここでゆっくり過ごすといい」

「ほ、本当にここで間違いないんですかね!? 俺って一応この街を救った英雄的な存在のはずなのにこんな仕打ちってアリかよ!? おい! 話聞けって!」

 

程なくしてぶち込まれた俺。

鉄格子の中は薄暗く、真冬の空気が出入りし放題で……もちろん暖房もない。

さっきまでゆんゆんとそういう感じの雰囲気になりかけたり、これから借金を全部完済して新たな異世界生活が始まったり、そういう展開を予想してたのにどうしてこんなことになってんの?

独房の片隅で俺は足を抱えてうずくまる。

シャレになってない状況に、薄い牢屋の中というのも相まって、不安で押しつぶされる。

 

「日本に……帰りたい…………」

 

灰色の世界の中で故郷を思い出すと自然と頬に水滴が伝う。

日本で平和に過ごしてたら惰眠をむさぼりゲームやアニメに精を出す日々を送れていただろうに……

父さん、母さん、今やあなたの息子はテロリストです。

俺はどうすればいいでしょうか……

絶望でお先真っ暗な中、破滅の未来を想像して打ちひしがれていると、この牢屋の方に足音が近づいてくる。

もしかして、さっきの検察官が「街を救ったことを鑑みて、今回は無罪放免になった」って伝えに来た……

 

「ようカズマ、遊びに来たぞおうわぁ!? ……っ!! おい、いってぇじゃねえか!」

「何が『遊びに来た』だ! また食い逃げしやがって、お前は一体何回やれば気が済むんだ!」

「いいじゃねえか、こんな平和な街だ、お前さんたちも暇してんだろ。俺が仕事作ってやってんだ、感謝してほしいくらいだぜ!」

「誰がするか、街の治安を乱す無法者め! 黙って反省しろ!」

「ったく、無銭飲食ぐらいで反省できっかよ。なあ?」

 

牢に入ってきたのは、この街でチンピラ冒険者をしている男、ダスト。

ダストは俺の方を見ながらそんなことを言ったが、そんなくだらない話を俺に振ってきたことを十分に反省してほしい。

ちょっと無罪放免の可能性があるんじゃないかと期待して顔を上げたのに、余計な労力を使っちまった……

 

「おいおい、無視はないだろ。一応俺はここじゃあ有名な常連客なんだぜ? 先輩には敬意を表してもいいだろ」

「余計尊敬したくなくなったんだが。……えっ、何お前、わざわざ軽犯罪犯して俺のことからかいに来たのか?」

「ったく、そんなんじゃねえよ。俺はただデストロイヤーの報酬が期待より少なくてな。借金取りに追われてるもんで避難先にここを選んだだけのことよ」

 

あまりにすがすがしいクズっぷりに一周回って尊敬の念が出てきたわ。

この調子じゃあ俺以上にリーンたちは苦労してることだろう。

ダストという名に恥じないダメ人間っぷりを見せつけるチンピラの姿を見て、俺は何故だか元気が出た。

 

「ところでカズマはテロリスト扱いされてここにいるんだったよな」

「一応な。……思い出したら何か胃が痛くなってきたんだが」

「痛がってるところ悪いんだが、避難ついでに伝言も預かってるぜ」

「伝言?」

「ちゃんとした紅魔族の方からな。まったく、俺が食事代を拒否って騒いでたところに『これから牢屋行くんですよね? ですよね! やっぱりダストさんはダストさんですね!』つってタイミングよく来てな。人が牢屋に突っ込まれることを知るやいなや喜びやがって……」

 

ゆんゆんのことだろうか。

あの子がそんな畜生な精神をしていたとは考えにくいが……伝言、か。

 

「それで、伝言ってのは?」

「ああ、なんか夜中に迎えに行くから準備しておけってな」

「に、逃げるってことか!」

「しぃーっ! 声がでけえよ! ……テロリストが今更罪を重ねたって誤差みたいなもんだ」

「いや、もうすでに死刑が確定してるみたいな言い方よせよ! 別に意図的じゃないし、誰も怪我してないし、多くの人命を救うためにはやむを得なかったっていう希望はあるから! だから黙って優しい顔するのはやめろよ!」

「……ほら、俺の布団も貸してやるから。今日はいろいろあって疲れてるだろうし、ひとまずゆっくり休めよ、な?」

 

そう言ってダストは俺に毛布を投げ渡してきた。

……なんだろう。

紅魔族ってのはかなり頭がいい種族だっては聞いてるし、ゆんゆんなら脱獄じゃなく正規の手段で俺のことを牢屋体してくれるんじゃないかと淡い期待がある……が、今の話を聞いた限りいい予感がしない。

何よりダストらしからぬ優しい目つきに気遣い……悪い予感しかしなかった。

 

 

 

 

俺はダストに言われるがまま昼間から晩飯の時間になるまで横になった。

ダストに起こしてもらって用意されていた夜飯を食べていると、気づけば月明かりが鉄柵ごしに射している。

外は静まりかえった冬の夜。

俺は昼寝したせいで寝付けないものの、毛布をかぶって寒さをしのぐ。

 

「……馬小屋より牢屋の方が衣食住が充実してるってどういうことだよ」

 

自由に外に出られないこと以外はすべてにおいて牢屋の方が勝っている。

無料だし、飯は出てくるし、トイレもあれば馬の糞も転がってない、人として最低限の暮らしが用意されていた。

この快適さを知ってしまったらダストみたいに堕落し……

 

って、あっぶな!?

今、俺は何を考えた!?

馬小屋生活は確かにつらかったが、社会的信用を失ってもいいと思うほど落ちぶれてないはずだ!

有罪判決がちらついて自暴自棄になってるだけだ、落ち着け、俺!

 

と、悪魔のささやきに打ち勝った瞬間だった。

遠くから聞こえてくる爆発音が牢屋の中に届く。

それと共に小さなささやき声が聞こえてきた。

 

「カズマ! ねえ、カズマ!」

 

格子がついた窓から射す月光に陰がかかった。

呼ばれるがままにその方を見ると、その陰は見知った人の形をしていた。

俺は周囲を確認し、すでに寝てしまったダスト以外に誰も人がいないことを確認して――

 

「アクア! 爆裂魔法撃って騒ぎ起こすっては聞いてないぞ!」

「ゆんゆんが伝えたって言ってたけど聞いてなかったの?」

「迎えに来るっては聞いてたけど! でもそれがどうして今の爆裂魔法だよ!」

「今、めぐみんが爆裂魔法撃ってくれたおかげで警備が薄手になってるでしょ。ダクネスがめぐみんのことを背負って逃げてるはずだから私たちはその間に――」

「脱獄ってか、全然聞いてないんだが! 正当な手続きを踏んで出られるんじゃなかったのかよ!」

「カズマってば脱獄以外に牢屋から出る手段があると思ってたの? テロリストなのよ? 正規の手続きで釈放なんて無理なことくらいわかってたでしょ?」

「そんなこと言ったって、逃げてもいいのか? 逃げたらそれこそ状況がより悪くなったり……」

「何言ってるの、国家転覆罪ってのは最悪死刑らしいわよ! ダクネスの話によると今回は王族まで来るらしいわ。身元のしれないカズマなんて、国の面子を立たせるために権力で事実をねじ曲げてでも殺されちゃうかもしれないわよ!」

 

なんとか大陸中を蹂躙していた機動要塞を討伐したこととか、街を救ったとかで厳戒されないかと思っていたが、権力でねじ曲げるなんてさすがは文明レベルが中世の異世界だ。

人の命がまるでゴミの様。

 

「……脱出はわかったが、どうやってここから出るんだ? 窓の格子でも切るのか?」

「いいえ、流石にそれをするには時間がかかりすぎるから。今回はこれを使うのよ」

 

アクアは自信ありげに笑うと、格子の隙間から何かを投げて落としてきた。

小さな金属音を立てて落ちてきたのは一本の針金。

 

「なんだコレ」

「見てわからない? 針金よ、針金」

「されはわかるが…………まさか、お前!?」

「あっ、気づいちゃった? カズマはその針金で涼夜の鍵を漫画とかみたいにちょちょいと開けて、その後潜伏スキルを使って脱出するのよ!」

「……」

「私は警察署の前で支援魔法の準備して待ってるから、屋敷に戻ったら夜逃げの準備よ!」

「…………」

「どうしたのカズマ、黙りこくっちゃって……もしかしてうまくいくか心配? 安心してちょうだいな、私たちのパーティーのブレインことめぐみんとゆんゆんもかっこいいって言って賛成してたし間違いない作戦よ! じゃあ待ってるからね!」

「………………」

 

アクアはそう言い残すとその場から去って行った。

俺は針金を拾い上げて牢屋の鍵を見る。

八桁の数字を合わせると開く、ダイヤル式の鍵を。

 

「そーい! …………寝るか」

 

そもそもピッキングで鍵を開けるやり方なんて知るわけもないしな。

俺は針金を投げ証拠隠滅。

布団に包まった。

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「起きろ! さあ、今から取り調べを始める。一緒に来てもらおうか」

「なんだよ、こんな朝早く……」

「もう昼前だ! 貴様は日頃どんな生活をしているのだ!」

 

毛布に包まっていると牢屋の中に押し入ってきたセナに叩き起こされた。

普段の生活はさておいて、昨日に関しては昼寝をしすぎたせいで夜眠くなかったんだよ。

俺は目をこすりながら横でまだ寝ているダストのことを憎々しげに見ながら牢屋から出る。

そしてそのまま署内の職員の目にさらされながら、俺は取り調べ室の中に誘導された。

 

「さて、まずはそこの椅子に座れ。貴様の言い分を聞いてやる。ここでの会話は証拠として残すからな、よく考えて発言するように」

 

セナの威圧的な言葉にびくびくしながらも部屋の中に入ると、そこには中央に机が一つと椅子が二つ、入り口付近には記録者用の机と椅子……

刑事ドラマに出てくる取り調べ室さながらだ。

俺が椅子に座ると、セナも向かいの席に腰掛けて、手に持っていた小さなベルのような物を机に置いた。

 

「これは嘘を看破する魔道具だ。発言に嘘が含まれていれば音が鳴る。その事を頭に入れておくといい。……では話を聞こうか」

 

異世界にも嘘発見器あるのかよ……

別に嘘をつくようなこともないが、何となく威圧感のある空間と相まって喉がゴクリと鳴る。

重々しい空気の中、セナは酷薄そうな顔で事情聴取を開始した。

 

「サトウカズマ。年齢は16歳で、職業は冒険者。相違ないな」

「はい……」

「ふむ……ではまず、出身地と冒険者になる前は何をしていたのかを聞こうか」

 

セナは調子を確かめるように視線をベルに落としながら当たり障りのない質問を始めた。

……つもりなのだろうが、俺からしたらいきなりハードルの高い質問だ。

出身地とか過去の経歴なんて、異世界から来ましたとか言えばいいのか。

俺は嘘を言わないように注意しながら……

 

「出身地は日本です。そこで学生をしていました」

 

チリーン。

そんな音と共に後ろから聞こえてくるペンの走る音。

 

「出身地と経歴詐称か」

「いや、待って! 待ってくれ! 別に嘘はついてなーー」

 

チリーン。

本当に待ってくれ、俺は何も嘘はついてないぞ!

だって出身地は日本だし、学生を…………学生……を……

 

「出身地は日本です。毎日家に引きこもって自堕落な生活を送っていました」

 

俺がもう一度答えると、ベルの音は鳴らない。

 

「どうして学生などと見栄を張った」

「見栄を張った訳じゃ……うぅっ……もういいです」

 

ちくしょう、この魔道具嫌いだ!

俺、本当に学生してたんだが!

不登校してただけで中退はしてないし、一応職業は学生でいいはずなんだ!

けど、もう一度登校しようっていう気もなければ、親のすねをかじる怠惰な生活が馴染んで……

堂々と俺は学生だと言えない俺が心の片隅にいただけなのに……

俺がセナから顔を背け涙を隠していると。

 

「ニホンという場所は聞いたことがないが、まあ、今はおいておこう。では次に、お前が冒険者になった理由を聞こうか」

「……魔王に苦しめられている人々を助け――」

 

チリーン。

 

「――冒険者ってなんかかっこよさそうだし、楽して大金稼いで美少女にちやほやされたいなと思いました」

「よ、よし。では次だ。この国やエルロードに対して不満はなかったか? 魔王軍の幹部を討伐した際に負った借金のことを色々なところで愚痴っていたと聞いたが」

「一応、デュラハン討伐で高額な賞金をもらったし、街の修繕費との咲引きで借金になったわけで。街を守るためとは言え、その街を壊してしまっては意味がないと納得して――」

 

チリーン。

 

「――正直、そんな感じの言い訳で憤る仲間を説得はしましたが、本音を言えば街を救った英雄にこの仕打ちかよ。ぶっ殺してやりたい。そう思いました」

「そ、そうか……」

 

俺が口を開くたびにチリンチリンとうるさい魔道具。

若干引きながら気まずそうに視線をそらすセナ。

 

「あの、いっその事ストレートに聞いてくれませんかね? 国とか人を害そうとして今回の事件を起こしたのか、みたいな。俺がコロナタイトをテレポートするように指示したのは、何かに攻撃しようとしてわけじゃないんですよ。このままじゃ街がデストロイヤーの爆発に巻き込まれると思って、それを防ぐためにはそれしか方法が思いつかなかっただけで……ただ、街を救うために。本当ですよ?」

 

アクセルの街には俺たちの屋敷が、サキュバスサービス店が、お世話になった人たちがいる。

邪な心なんて一切ない、アクセルの街を救うためだったと胸を張って言える。

そんな俺の言葉を聞きながら、セナはじっとベルを見た。

鳴らないベルを見て、セナは深いため息をついた。

 

「……自分が間違っていたようです。あなたに関しては悪い噂しか聞かなかったもので……失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした……」

 

態度が急変し丁寧な口調になったセナが深々と頭を下げてきた。

おそらくは今までの厳しい口調は犯罪者用で、普段のものではなかったのだろう。

纏う雰囲気も物腰柔らかというか、威圧感がない。

ここで俺は今までの鬱憤を晴らすべく。

 

「まったく、噂を鵜呑みにして人を疑うだなんて」

「す、すみません……」

「大体、俺の功績知ってます? 魔王軍の幹部ベルディアを討伐したことに始まり、今回は機動要塞デストロイヤーですよ! 今まで誰も討伐できずにいた脅威を、この、俺が、討伐したんですよ! そんな俺に適当な根拠で感謝の言葉もなく責め立てて!」

「すす、すみません、自分もこれが仕事なもので……。もちろんサトウさんの実績は知っていましたが、しかし……」

「しかし? しかしなんだ!?」

「サトウさんは外患誘致の罪に問われているので……」

 

その言葉を聞いて、俺は思い出した。

……いや、思い出してしまったと言えばいいのだろうか。

 

「あ、あのぉ、セナさん?」

「は、はい?」

「もしかしなくても、今の俺の状況って無罪放免なったり……」

「それはありえません。害意があろうとなかろうと今回の件は外交問題になってますので、明日は王都に向けて護送です」

「あの、もしかしなくても死刑……とかありえちゃったりします?」

「…………何とも言えません。こちらとしましては取り調べで得られた情報を元に、適切な刑罰になるよう働きかけますが……」

「じ、住民を守るために行われた行動ってことでなんとかなりませんかね?」

「………………」

 

黙んないで!?

不安になるんで黙んないでいただけますでしょうか!?

せめて「頑張ります」の一言くらい言ってくれよ!

あれだぞ、品行方正で信頼できる検察官が駄目なら、アクアとかいう頭のおかしいヤツの作戦に乗るしかなくなるんだぞ!

無罪放免とまでは言わない、減刑を! 減刑を求む!

もう借金地獄でもいいから、無期懲役とか死刑とかはやめてほしい!

 

「と、とりあえず、今日の事情聴取はここまでにしましょうか」

「セ、セナさん? どうして俺から視線そらすんです? 目を見ましょう? 人と会話するときは目を見ましょうよ」

「い、一応念のためにもう一度聞きますが、あなたは魔王軍の関係者だったり、テロリストだったりではないんですよね? エルロードとベルゼルグ間での戦争を誘発させようとしたとか、誰かを死傷させようとしたわけではないんですよね?」

「もちろん! だからお願い、お願いだから視線をそらせないで!?」

「ど、努力します……」

 

俺が死刑にならないように本当に努力しろください!?

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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