セナが俺のことを擁護……とまではいかないが、テロリストとかいうのは冤罪だと証言してくれた。
しかし、だがしかし……
「続いて、被告人と弁護人は検察官の証拠について異議等あれば――」
「「「ありません」」」
「えっ、ちょっ!?」
「――あぁ、そうですか……では判決を言い渡します」
「いや待って! 俺は異議じゃないけど言いたいことあるから、コイツらに!」
やっぱりゆんゆんだ、ゆんゆんを呼んでくれ!
何の弁護もしてくれなさそうな三人を見て、心の中で絶叫する。
裁判長はそれを見て「裁判に関係のない発言は慎むように」と注意し、そのまま――
「今回の検察官の証拠について、嘘を感知する魔道具は鳴りませんでした。さらには本行為はアクセルの街を救うための手段であり、政府の迅速な対応によって国家単位での混乱は発生しておらず、人的被害も確認されていない。つまり、被告人は魔王軍などと内通して外患誘致を働いたり、国家転覆を目論んでコロナタイトをテレポートをしたとは極めて考えにくい。よって。被告人サトウカズマ。あなたへ国家転覆罪の適用は不適当であるとし、器物破損の損害賠償のみとする」
……は?
え?
俺、死刑じゃないの?
え、いやマジで?
賠償だけってことは、お勤めもしなくていいってことだよな?
「カズマ、よかった……無事に終わって、本当によかった……!」
「ふっ。だから言ったでしょう? カズマは何も悪くないと」
「まあ、死刑になったらリザレクションで生き返らせようと思ってたけど、死なずにすんでよかったわね!」
一部俺の命をなんとも思ってない発言があった気がするが、皆の言葉を反芻していくうちに、俺の内側でじわじわと現実味が帯びてくる。
徐々に手足に体温が戻っていく感覚……その実感を握りしめていたのだが……
空気を切り裂くように、静かながらも圧のある声が響いた。
「裁判長。判決に異議を申し立てたい。発言してもよろしいですね」
「いや、しかしもう既に判決をしてしまったので――」
「発言……してもよろしいですね?」
「は、はい……」
そう発言を飛ばしてきたのは告発人の席に座っている隣国の宰相。
目鼻立ちは普通なのにもかかわらず、どこかその瞳には圧を感じる。
有無を言わせない様子で静かに立ち上がり、騒がしかった俺の方を一睨みする。
「お、おい、判決はもう出ただろ!」
「被告人。貴方はこの事態を少々軽く考えすぎではありませんか?」
「……どういうことだ」
「エルロード……私たちの国は平和を維持するためにこのベルゼルグ王国に対して対魔王軍の費用として財政支援を行っておりました。しかしながら今回の事態を私たちは重く受け止めています。今まで守ってもらっていた味方が唐突に牙を剥いたのではないかとね」
「だからさっき言っただろ! 俺は別にエルロードに被害をだそうとしたわけじゃ――!」
「ええ、ええ。それはわかっています。しかしわかるでしょう? 信頼関係に大きな亀裂をもたらしたのであれば、それを修繕するのに大きなきっかけがほしいと。人間でもそうなのですから、国家間であったらなおさら、目に見える形での誠意が必要なのです。例えば……罪人の首を差し出すなど」
その鋭く貫く視線……思わず全身が凍りついたような感覚に襲われた。
そのひどく冷徹な瞳を見て俺はぞっとした。
俺はあくまで道具だと言わんばかりの大層くだらないものを見る目だ。
俺は思わずめぐみんたち……ではなくさっき俺の味方いてくれた王女様の方を見る。
しかしそこには曇った顔をして手を膝の上でぎゅっと握りしめているか弱い少女しかいなかった。
「まあ、別に私としてはそれでも誠意など必要ないと思っているのですがね。経済支援を手っ取り早く打ち切れるので」
「……っ! そ、それはどういうことですか、宰相殿!」
「姫君の側近たる貴女がわからないことはないでしょう? 信用ならざる国に貨幣を流せるほどの懐は持ち合わせていませんので」
「し、しかしっ! 支援を打ち切られたら前線の維持が難しくなり、エルロードにも被害がでる可能性も――」
「ええ、崩れるかもしれません。が、その時はまた別の策を講じます。今はただ――ベルゼルグ王国が、信頼回復のために何を差し出すつもりなのか、出さないつもりなのか。それを問うているのです」
──ああ、そうか。
この人は、ただの被害者だ。
魔王軍の脅威からも遠く、戦争の現場を知らない。
だからこそ、俺を一人処分して済むならそれでいい、と本気で思っている。
……ちくしょう、死刑免れたと思ったのに、まだ終わってなかったのかよ。
本当に、事態を軽く考えすぎてたのかもしれな――
「異議あり!!」
俺の心臓が小刻みに早く動き、立ってられなくなりそうになったとき、そんな声が聞こえた。
自信ありげなその声はアクアの声だ。
まさかコイツがこんな時に切り札的な存在になるだなんて……!
「アクア、言ってやれ! 誠意を見せろだのケジメをつけるために指詰めろとかヤクザみたいなこと言いやがるやつに死刑はやり過ぎだって言ってやれ!」
「何言ってるの。言いたかったから言っただけで異議はないわよ。カズマさんのやらかし的には死刑でも当然じゃ――」
「その弁護人は退廷させるように!」
「すいません! ほんとうにすみません! ウチの弁護人が本当にすいませんっ!」
「ああああああっ! 痛い痛いっ! 異議はないけど言いたいことはちゃんとあるのに!」
俺はアクアのこめかみをわし掴んで締め上げながら謝り倒し――
「えっ、言いたいこと? ……ろくでもないことなんじゃないだろうな」
「うぅ……ろくでもないって何決めつけてるのよ! 私、なんとなくおじさんが気になるんですけど! さっきから邪な気配を感じるというかなんというか――」
アクアがそう言った瞬間、検察官や裁判長が血相を変えて凄まじく素早く魔道具を見る。
やはり鳴らない魔道具、聖職者であるアクアの言葉……
「邪な気配……。神聖な裁判で、ラグクラフト宰相が不正をしている、と」
「まあ、不正というか、変な感じがしただけだけれど……」
「――ど、どうして魔道具が鳴らないのだ!! ラグクラフト宰相、説明を求める!」
声を荒げたのは王女様の付き人。
正直、ウチのプリーストのアホな部分が露呈したみたいでなんか恥ずかしいが、アクアのおかげで状況が一変した。
「い、言いがかりだ! 私は不正などしていない!」
「確かに悪魔臭くもないし、アンデッドの気配もしないんだけどなんというか……ねえおじさん、友達に悪魔の知り合いはいないかしら? それとも、野良アンデッドを飼ってるとか……」
「だ、誰が野良アンデッドをペットにするか! コ、コホン。大体、貴女こそそんなことを言って不正をしているのではないですか? 共同墓地に巨大な結界を張り、アクセルの街に悪霊騒ぎを引き起こしたと聞いていますが」
アクアが視線をそらせた。
それを見逃さなかったラグクラフトはここぞとばかりに裁判長へ訴えかける。
「見ましたか! 今、私が不正を引き起こしたと問いかけたら目をそらしたのを! 私は不正などしておりません! むしろ弁護人が何かをしたのではないでしょうか!」
「ふっ。ずいぶんと苦しいわけですね、ラグクラフト宰相。その件と今回の件は関係ないでしょう。いい加減、カズマのことを陥れようとしたことを認め――」
「巷で頭のおかしい爆裂魔法使いなどと揶揄されている環境破壊活動家に物申されたくはありません」
「な、なにおう!?」
「そもそも連日の夜中の爆裂騒動……アクセルの街で爆裂魔法を扱えるのは貴女ともう一人程度だと聞きますし、貴女の仕業の可能性もあるのではないですか?」
「ど、どこの誰が私にそんな不名誉な通り名をつけたのか聞かせてもらおうじゃないか! そもそも、我は爆裂魔法を一日一回は撃たないと死ぬ邪神の呪いに掛かってますので、先日はお騒がせしたとは思っていますが仕方なかったのです………………あっ、ちなみに今日、というか昨日はまだ爆裂魔法を使っていないのでそろそろヤバいです」
「け、警備兵はその魔法使いを王都の外に!」
「お、おいっ! 何をするか! 私は何もしていないのですが! は、離してください! まだ異議ありと言っていないのですよ! せめてあのアクアのかっこいい台詞を今言わせ――本当に今回に関しては何もしていないのにぃぃ…………!!」
またしても鳴らない魔道具を見て、裁判長は慌てた様子で兵士に指示を飛ばす。
本当に今回に関しては見せ場なく役目も果たさずに法廷の外へと連れ出されてしまった。
頼もしいって思ってたのに…………本当に何しに来たんだアイツ。
めぐみんの断末魔を聞きながら扉が閉じるのを見ていると。
「わ、わかったでしょう。あのような野蛮な冒険者が在籍しているパーティーの言葉よりも私の言葉を信じるべきだと。被告人を助けるために何か弁護人が不正をしようとしていた可能性があると」
「いいえ、それは違うわね」
アクアの発言にもうたくさんだと視線をそらすラグクラフト宰相。
しかしアクアはしっかりとまっすぐとした目つきで。
「確かに、めぐみんはあのアンデッドを討伐したときに街まで破壊しちゃって、カズマは多額の修繕費を事あるごとにグチってたけど、それでも私のこの目は、そこの魔道具なんかより精度が高いわよ! この世界に1千万人の信者を持つ、アクシズ教のご神体にして水の女神である私、女神アクアが断言するわ。あなたは確実に絶対邪な何かを隠してるわね!」
法廷に響き渡るアクアの言葉。
こんな法廷で自分が女神だとばらしてもよかったのだろうか。
そんなことを考えているうちに反響が静まる。
そして、裁判長が。
「どうやら魔道具が故障しているようですね。別の魔道具を持ってき――」
「な、なんでよぉ! どうして私の言葉が信じられないの! 私、神様なんですけど! もしかして裁判長でありながら権力者に味方して……ッ!?」
「いえ、普通に貴女が女神だとか…………フッ」
「わああああああああっ!! かじゅまぁ!! あの人が! あの人が私のこと――」
「ブフッ」
「わああああああああああああっ!!」
もう、笑うしかない。
女神を自称したところで信じるやつなんていないってことは理解してただろうに何でこいつはこんなにアホなんだ。
乾いた笑いしか出ない俺はアクアに肩を揺さぶられながら現実逃避をする。
しかしラグクラフトはそんな俺たちにかまうことなく。
「裁判長。弁護人には魔道具を壊す動機があり、現に魔道具が壊れている……疑わしきは罰せずとは言いますが、それで済ませていいのでしょうか。嘘を隠蔽するために魔道具に細工をしたと考えるのが自然に感じるのですがね」
「ま、待ってくれ! 私の仲間がそんなことをするとは到底……そもそもアクアにそんなことができる頭があるとは思えない!」
「ダクネス待って!? それだと擁護してくれてるんだかバカにしてるんだかわからないんですけど!」
アクアとダクネスの会話なんて一つも耳に届いていないのか、裁判長は眉間にしわを寄せる。
…………まずいんじゃないか。
今のところ俺が国家転覆を目論んだという証拠は何一つない。
けれど、もはや俺の善意悪意関係ない。
経済的な支援が打ち切られる、人類間での戦争を誘発する事件、裁判で使用されている魔道具の破壊。
一部心当たりがないのもあるが、それらを引き起こしたのが俺やアクアだと思われている状況……
「加えて、爆裂魔法による都市部の破壊活動や国家間の信頼関係を損なわせた重大な行為……。これを、悪意がなかったの一言で片付けてよいものでしょうか」
「…………」
険しい表情をした裁判長が無言になる。
まずい。異常にまずい……!
ここで裁判長の考えを崩さないと、マズいことになる気がしてならない!
「ちょ、ちょっと待てよ! 確かに俺はコロナタイトをテレポートしたけど、他のことは俺は関係ないだろ! 大体この魔道具だって、俺は壊そうなんて思ってないぞ! アクアがやったんだろ! それに俺は関わってない!」
「被告人、どうか静粛に」
「か、カズマ? それ、本気で言ってたりする? 流石の私でも魔道具を壊すなんて野蛮な方法はとらないんですけど……ていうかもしカズマさんが死んじゃっても私がいれば蘇生できるのよ? 私まで捕まったら生き返れないんですけど」
「静しゅ――」
「アクア、俺たちは仲間だろ? ……仲間ってのは、苦楽をともにするもんだと思うんだ。逝くときは一緒――」
「いぃやぁあああ!! 一応言っておくと、カズマが死んだら天国かどこかに行くことになるけど、私が死んだら存在ごと消滅なんですけど! 死なば諸共は遠慮したいんですけど! 死ぬなら一人で犠牲になって!」
「あの静かにし――」
「お前ふざけんなよっ!? どうして俺が死刑だって決めつけんだ! あと、さっきから人の命を何だと思ってんだ!」
「二人ともこんなところで喧嘩するのはよせ! 私がなんとかして……」
「お前は裁判中に何も発言してねえだろ! そういうこと言う前にしっかりやることやってから言ってくれ!」
「なぁ……っ!?」
「静粛にしろっつってんだろうが!」
アクアが俺のことを見捨てて自分だけ逃げようとしたのでそれに噛みついていると裁判長がとうとうキレた。
警備兵がアクアを、俺から切り離すように、法廷から引っ張り出て行く。
頼もしいって思ったのはやっぱり幻想だったな…………本当に何しに来たんだアイツ。
アクアの断末魔は扉が閉じると聞こえなくなる。
頼れる仲間なんて俺には元からいなかったんだ……
次々に連れ去られていく弁護人たちを見て絶望していると、裁判長は大きく息をついて、俺の方を見てきた。
「被告人。あなたの悪意に関する証拠は不十分ではありますが、自分を女神と自称したり、爆破予告をしたり……告発人の発言を重く考え、今回の裁判において国家転覆罪を適用します。また、テロリストの可能性がないと断言することはできず、悪意がなかったとしても国家間の関係を揺るがしたのは事実であり、その罪は計り知れない。よって被告人には死刑を――」
――その時だった。
「裁判長。それからラグクラフト宰相。待っていただけないだろうか」
そう言ったのは金髪を翻し、凛と立つダクネス。
彼女の背筋はこれまで見たことのないほどにまっすぐで、威厳が漂っていた。
胸元から紋章がついたペンダントを出すと、それを裁判長らの方へ見せる。
俺はそれが一体何なのかはわからなかったが、王女とその付き人は驚きで言葉を失っていた。
ラグクラフト宰相もそのペンダントを見るなり大きく目を見開き、裁判長は勢いよく立ち上がる。
「そ、それは……! あなたは……」
「ダスティネス家の……。そうですか、貴方が王家の懐刀と言われている貴族のご令嬢だったとは」
「この男のことは私が保証する。だからどうか、この裁判を預からせてはもらえないだろうか」
「…………罪に罰を与えない、と。それが、ベルゼルグ王国の誠意……そう受け取ってもいいのですね」
「そうは言っていない。今回の裁判では証拠が足りず、適正な判断をくだせないと言っているのだ。無かったことにしろとはいっていない」
「しかし、根拠や証拠であれば先ほど提示したとおりで、これ以上証拠が必要であるとも思えません。ただの時間稼ぎにしか見えないのですがね。ベルゼルグ王国は国家転覆罪は無罪にする風習でもあるのでしたら驚きですな」
ダクネスは厳しい顔で黙ってしまう。
俺だって何も反論を思いつかない。
どうすればいいんだと頭を抱えていると――ダクネスが何かを決意したように顔を上げた。
「……もし。もしもだ。……私がこの男の罪を被ると言ったら……カズマのことは釈放してくれないだろうか」
一瞬、ダクネスが何を言っているのか理解できなかった。
罪を被る……俺の……?
俺は突拍子もないこと過ぎて俺の頭が止まったが、ラグクラフトは顎に手を当てながら。
「それは……貴女が首謀者であると、そう言いたいのですか?」
「このパーティーの中で身分が一番高いのは私だ。全責任は私が取る」
「ダ、ダスティネス殿! いけません! 国の貴族である貴女が!」
アイリス王女の付き人が立ち上がり声を荒らげるも、ダクネスはラグクラフトをしっかりとまっすぐに見つめるのみ。
普段の俺だったら「なんだ、またいつものドMか」って反応してただろうに、普段のダクネスとかけ離れすぎていて気持ち悪くなるほどの真剣な表情……
俺は口をパクパクと動かすばかりで何もできなかった。
頭の中にはダクネスが貴族だったという情報と、ダクネスが俺を庇ってくれていること、そしてダクネスがパーティーから離れて行ってしまうんじゃないかというざわめきがうるさい。
何もできずに、俺はただダクネスの背中を見ていると――
「──ちょっと待ったァァ!!」
それは、禿げ上がった頭から油汗をかき、肩がゼーゼーと浮き沈みするように息を荒げている背が高い男だった。
すみません、7/6と7/12は投稿できなそうです……。7/13をお待ちください
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
-
第6章(現在の章)
-
第7章
-
第8章
-
リメイクしてテンポよく進める