我は邪王真眼の使い手、めぐみん!   作:桃玉

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お待たせしました……!


11-1 終焉の…法廷(エクスキューション)

「──ちょっと待ったァァ!!」

 

法廷の空気を切り裂くような男の怒声に、全員が思わず振り向いた。

バタン、と大きく扉が開け放たれ、そこに立っていたのは背が高く、禿げた額から汗を滴らせた一人の中年男性だった。

 

「この裁判を終わらせに来た!!」

 

『ドンッ!!』と激しく開かれた法廷の扉。

「……誰だ、あのオッサン?」

そう俺が思わず呟くと、目を見開いていたダクネスがはっと我に返り、低く声を漏らす。

 

「アルダープ殿……!」

「な……っ! まさか!? どうしてここに……!」

 

王女様の付き人クレアも、ダクネスの隣で目を見開き、裁判長も呆気に取られた様子でその男を見ていた。

……いや、ちょっと待てよ。

なんかすごい空気になってるけど、誰?

本当に誰!?

いや、なんかどっかで聞いたことがあるようなないような気がしなくもないけども、誰だっけ!?

俺が知らない重要人物が突然現れたみたいな感じなんですけど……

 

「アクア、なんかダクネスの知り合いみたいだが、あのオッサンのこと知ってるか?」

「さあ? 私が知るわけないでしょ? 誰よ、あの小太りの成金っぽいおじさん……」

「だよなぁ、知ってた」

「それにしても息が荒いわね……。なんか……見た目がちょっとギトギトしてるし、頭丸めてるけど神官ではなさそうよ? でもどこかで聞いたことのある名前なのよね……」

 

アクアが俺の隣で首をかしげながら答える。

俺もどっかで本当に聞いたことがあると思うんだが、どうにも思い出せない。

まるで記憶にもやがかかってるような…………何かその名前にいやな思い出でもあったか?

俺が眉を顰めていると、ラグクラフト宰相も俺と同じく眉を顰め、その男の登場を警戒していた。

 

「なんの真似だ。これは王国の公式裁判だぞ。部外者が勝手に口を挟んでいい場所では――」

「黙れい、愛しのララティーナを死刑に処そうとした非道人が!」

 

ラグクラフトの言葉を一蹴したその男は、前を塞ぐように並んでいた兵士たちを手でどかしながら、ずんずんと進んでくる。

そして、その目はまっすぐに――ダクネスを見つめていた。

 

「ダスティネス様……貴公がこんな場所にいると聞いて、居ても立ってもいられずに飛んできましたぞ!」

「え、えぇ……?」

 

全く収まる気配がないどころか、どんどん荒くなっていく息と熱烈な視線……

ダクネスは未だ状況が飲み込めていないようで困惑した声だった。

一同が静まり返る中、アルダープは恍惚とした表情を浮かべ、どこか情熱的なポーズで腕を広げて。

 

「何も言わずともわかるぞ。きっと貴殿は、無実の下賤な男を庇おうとしているのだろう。しかし、貴族の誇りを背負う貴公が罪人の肩代わりなど……見ていられん!」

「えっと……ちょっと待て。なんで話の流れがそうなるんだ?」

 

俺が苦情を言うと、アルダープはこちらを一瞥し、ふんっと鼻で笑った。

さっきまで裁判長の宣告に心が折れそうだったが、ここに来て味方が現れたのかもしれない、という希望が差し込んだ気がしていたのに、その希望はあっさりと砕かれる。

 

「……え、じゃあ、おっさん……俺を助けに来たんじゃ――」

「貴様のような平民の小僧に誰が興味あるか。黙って死んでおけ」

「いやいやいや! ここまで来てそれ!? 本当に? 助けに来たわけじゃなかったのかよ!?」

「当然だろう。誰が貴様のために動くものか。いいか、ワシはダスティネス様のために来ただけだ」

 

なんだこの展開……完全に味方が来たと思ってたのに、上げて落とすなよ!

助けに来たかと思いきや、こっちは一瞥して鼻で笑われて終わり。

希望を見た瞬間にそれが希望ではなかったと気づく、この上ない徒労感。

味方じゃなかったのかよ、このオッサン…………ってか待てよ、なんか思い出してきたぞ……!

 

「あっ、あああああっ!! おま、お前っ! もしかしなくても俺に『5億にするえ~』っつって借金押しつけてきたクソ貴族だろ!」

「裁判長! この男、このワシに向かってクソ貴族と言ったぞ! 死刑だ、死刑にしろ!」

「権力の横暴には屈さないぞ俺は! 大体そんなこと言っていいのかよ! 俺ってお前の領地を救った英雄なんだぞ!? もう少し寛大な心で俺のことを見逃して、ついでに救ってください領主様ぁ!」

 

後ろに控えている青髪が「カズマさんってば、早々に権力に媚び売ってるんですけどー! ぷーくすくす! 手のひら返し激しすぎて手首粉砕骨折してないか心配だからヒールかけてあげましょうか」とか喧しいので頭突きで黙らせる。

だってしょうがないだろ、ただでさえ俺に死刑を所望するラグクラフトがいるのに、そこにアルダープが援軍として参戦したら手がつけられない!

しかしアルダープはそんな俺の叫びを一切気に留めることなく、まっすぐに壇上へと歩みを進めた。

 

「さて、この小僧はおいておくとして、だ」

「おい、話は終わってな――」

「聞かせていただきましたぞ、ラグクラフト殿。聞けばエルロード王国は支援を打ち切るおつもりとか。……ふむ、なかなかに聞き捨てならぬ話ですな」

 

俺を無視して得意げに髭を撫でるアルダープ。

それに対して訝しげな顔でラグクラフトは。

 

「……聞き捨てならないのであれば何なのです。信用ならない国に支援する気など――」

「全くもってくだらん!」

「……今、なんと」

「くだらないと言ったのだ、ラグクラフト殿。信用がないのなら作ればいいだろう。なぁ、この場はワシの顔を立ててもらおうか」

「何を、言って……」

 

ラグクラフトはアルダープの言葉の意図を掴みきれないようで、探り探り口を開く。

かくいう俺もあのおっさんの傲慢な言葉の意味を理解できないでいた。

だってあのおっさんって辺境の領主で、他国の宰相相手にあんなこと言ったって――

そう思っていたときだった。

 

「ラグクラフト宰相。アイリス様が『この国が成り立ったばかりの頃、王族がよく行っていたモンスターの退治を以て、我が国との関係を戻してはいただけないか』と仰せだ」

「し、しかしですね――」

「おおっ、それは素晴らしい! ならば話は簡単ですな。この男に国家の信頼を取り戻すだけの英雄的な活躍をさせれば、信頼は回復ですな!」

 

……英雄的な……行動……?

俺がぽかんとしている間に、法廷の主導権は完全に、アルダープという胡散臭いオッサンの手に移っていた――

裁判長とラグクラフト宰相が顔を見合わせる。

 

「ラグクラフト殿、何か強力な魔物はおりませんか。エルロード王国の兵でさえも手出しできぬ、脅威はありませぬか」

「……であれば、エルロード王国の金鉱山を占拠しているドラゴン。あれはかの国の喉元に刺さった棘のような存在です。あれを倒すことができればエルロード王国の経済はさらに……ええ、どれほどの信頼と恩義が生まれることか! …………如何しますか?」

 

ドラゴン――

それはこの世界の人間はおろか、存在するはずのない地球ですらその名を知らないものはいない、最強であり、最高であり、最恐の存在。

それを討伐したものは英雄と呼ばれ、望むがままの報酬を得られる至高のモンスターだ。

そんなモンスターの討伐……?

誰が……?

そんな俺が全く理解できない中、裁判長が静かに宣言する。

 

「よろしいでしょう。今回の事件においては、ベルゼルグ王国の関係者が引き起こした損害を鑑み、被害相当額の賠償を要求します。また、条件付きで王国の協力体制を継続することとします。条件は──被告人のドラゴン討伐クエストの成功」

 

裁判長がそう宣言し、アルダープはどこからも異論が飛んでこないことを確認するとニヤリと笑う。

その目がまるで、すべて思い通りに進んでいると言わんばかりで──

しかしその笑みを見た俺は、なぜか胸の奥がじんわり温かくなっていき……

 

「よっしゃああああああああ! 助かったああああああ!」

 

完全な勝利ではないが、死刑は免れた。

俺は全力でこぶしを突き上げる。

死刑回避! 異世界裁判、完ッ!! 俺の勝ち!!

 

「ふはははは、見たかアクア! この俺の人望をッ! 貴族すら動かすカリスマ力をッ!」

「いやいやいやいや、ちょっと待って、カズマ。あの人、絶対なんか変だから! 具体的には悪魔的な邪な力を感じたというか――」

「聞こえない聞こえない聞こえなーい!」

 

俺は耳を塞いでセルフノイズキャンセル機能を発動させた。

それにしてもあのオッサン……口では俺を罵ってたけど実は裏で全部手を回してくれてたとか、そういうやつなのか?

はは、まったく……今の時代、ツンデレって流行らないんだぜ?

 

「よし、やってやろう……ドラゴン退治なんて、死刑に比べたら! アクア! ダクネス! やってやろうじゃねえか!」

「カズマ、それ無理じゃない?」

「うるさいよアクア」

「カズマは貧弱だし無理だな」

「うるさいよダクネス」

「ねえねえ、さっきあのおじさんから邪な軽輩を感じたんですけど。やっぱり異議ありって言って判決待ってもらった方が――」

「うるさいって言ってんだろおおぉぉっ! 今すげー感動してるところなんだよッ!」

 

アクアの肩を抱いて口元をぴったり押さえる俺。

さっきからちょっと空気読まなすぎる。

せっかくいい話になってるのに台無しだろ!

 

 

俺は俺はちらりと、アルダープを見る。

 

彼は静かに、堂々と、後ろで立っていた。

まるでこの結末が当然であるかのような、風格ある立ち振る舞い──

ニッコリと、アルダープは俺に微笑みかけた。

まるで「どうだ、小僧。俺の采配、見事だったろう?」とでも言いたげに。

 

「………………ッ!!」

 

なんて……なんてでっけぇ男なんだ……!

俺は胸を熱くした。

口では散々に罵ってたけど、ダクネスのためでもあり、俺のためでもあった。

損得も全部計算して、それでも俺たちを助けてくれたんだ……!

 

(ありがとう、アルダープさん……!)

 

「カズマ、今だけは本当に聞いて! あの人、絶対おかしいから! 今もカズマに向かって悪人顔してたし裏があるって!」

「命の恩人に向かって何馬鹿なこと言ってんだ! あれは俺の無事を見て安堵してる男の顔だろ! 空気読めないやつは黙ってろ、感動のラストシーン中なんだよッ!!」

 




短いですが裁判パート終焉できりがよかったのでご勘弁を……

最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…

  • 第6章(現在の章)
  • 第7章
  • 第8章
  • リメイクしてテンポよく進める
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