死刑は回避した。
それは確かに喜ばしいことだったはずなんだが、結局エルロード王国でドラゴン討伐という、どう考えても命がけの刑罰に置き換わった時点で、俺の中で喜びは帳消しになった。
「ったく……なんで俺ばっかりこんな目に……」
だが、これはチャンスだ。
アルダープさんが「デストロイヤーさえ討伐してくれたんだ。ドラゴンの討伐くらいアクセルの街の英雄なら成し遂げてくれるだろう」と俺に作ってくれたチャンスなのだ。
あの人の期待を裏切っては男が廃るぜ。
「いや、あのおじさんはそんなこと言ってなかったんですけど――」
「おいアクア、『おじさん』じゃなくて『アルダープさん』な? 俺の命の恩人に失礼な言動をするのはやめろよ」
「で、でも、本当に――」
「アクアアクア、今のカズマの目は曇ってるので何を言っても無駄ですよ。そっとしておきましょう? 諦めも肝心ですよ」
「あー……まあ、うん。めぐみんがそう言うなら」
アクアとめぐみんが何かやかましいが、俺は気にしない。
そんなことを思いながら、俺はアクセルの街の見慣れた門をくぐる。
ドラゴンの討伐なんて準備なしにはできないという訳で、テレポートで一時的に帰ってきたのだ。
「とりあえずまずはウィズの店に行って……それからエルロードに行く準備もしないと。……はぁ」
「どうしたのよカズマ、ため息なんてついちゃって。もしかしてダクネスが心配なの?」
「ダクネスなら大丈夫ですよ。あれでも貴族なのでしょう? 腹芸が得意には見えませんが、王女様と知り合いのようですし、今回の件で悪いようにはなりませんよ」
二人のそんな言葉を聞いて、ふと王都に残っているダクネスのことが脳裏によぎり、再びため息を吐いた。
――そう、ダクネスとは別行動なのだ。
王都を出るとき「アイリス様に挨拶をせねば。……そして、あのアルダープ殿にも礼を伝えておきたい」とかなんとか。
めちゃくちゃ貴族っぽいことを言って、俺たちとは別方向へ消えていった。
俺もあの王女様とお話がしたいと駄々を捏ねたが、「お前は駄目だ! 絶対アイリス様に悪影響だし、何より常識知らずで無礼を働くに違いない!」と拒否されてしまった。
俺のことを一体何だと思っているんだ。
流石に王族の前でそんな無礼なことはしないに決まってるだろ、アクアじゃあるまいし。
「まあ……あいつもあいつで、色々整理したいことあるだろうし、貴族して何かしなきゃならないことでもあるんだろうな……」
ちょっと寂しいが、きっと考えがあってのことだろう。
そんなこんなで今アクセルの街に帰ってきたのは俺とアクア、それからめぐみんの三人だ。
「でもよかったわね、カズマ。死刑は回避できたし、今回は爆発オチじゃなかったもの。あとちょっと裁判長の判断が遅かったらカズマさんはテロリストの仲間としてその名が世に轟いてたわ」
「いや、まだ爆発してないだけでこれからドラゴンとバトルなんだが。爆裂確定してんだが」
「ふっふっふ。ドラゴンスレイヤーの称号……伝説の大魔法使い……ふぁぁ! なんと甘美な響き! 最高ですね!」
めぐみんがニコニコとマナタイト製の杖に頬ずりしているのを見て、俺は頬を引きつらせる。
もう俺としてはデストロイヤーで大物討伐はお腹いっぱいなんだよ。
ドラゴンとか言う強敵との戦闘を危機として望まないでほしい……。
俺はため息をつきながらウィズ魔道具店へ足を進める。
「……まあ、ひとまずゆんゆんと合流しなきゃな。体調治ってるといいんだが」
「そうね。ゆんゆん、なんか最近無理してる感じだったから、ちょっと心配よね。あの子、全然大丈夫じゃないのに大丈夫って言っちゃうタイプでしょ?」
そんなアクアの言葉とともに魔道具の扉が見えてきた。
めぐみんは一瞬だけ顔を曇らせる。
ウィズ魔道具店の看板を見上げ、俺はふう、と肩の力を抜いた。
「なんか、やっと帰ってきたって感じだな。……トラブルだらけの王都から、平和なアクセルだ」
「うんうん、やっぱりアクセルが一番ね! 空気もきれいだし、住民も変な人ばかりだし」
「それ、褒めてるのか?」
アクアとめぐみんを連れて、扉を開ける。
チリン、と鳴るベルの音と同時に、いつものあのゆる〜い雰囲気が迎えてくれた。
「いらっしゃいま……か、カズマさん! 裁判、無事に終わったんですか!?」
「まあな。それよりゆんゆんの様子はどうだ? 大丈夫か?」
カウンターの奥から、ウィズが驚いた様子で顔を出す。
俺が質問にすると、その表情はあまりよろしくなく――
「はい……ですが、まだあまり食欲もなくて。とりあえずあちらの方で横になってもらっています」
「それは……ありがとな。店もあるのに迷惑かけたな」
「いえいえ、カズマさんたちは王都で大変だったでしょう? それにこの数日間商品を見に来るお客さんはいらっしゃいますが何も買わずに出て行ってしまうので大丈夫でしたよ」
「お、おう。そうか……」
そう言いながらウィズは俺たちをゆんゆんがいる方へ案内する。
ウィズが扉を開けると、そこには布団にくるまったゆんゆんが小さく寝息を立てていた。
……顔色は、変わりないか。
悪化してないだけよかったと思うべきだろうか。
その顔は白く、額には汗を吸い取るためのタオルがのせられている。
まだ完全に回復したとは言い難い。
「……ゆんゆん、戻りましたよ」
めぐみんがそっと彼女の枕元に座り、優しく髪をなでる。
その瞬間、その手のぬくもりを感じ取ったように、ゆんゆんが微かにまぶたを動かした。
「……ん……? ……めぐみん……?」
「おはようございます。ずいぶんと遅い起床ですね」
「えっと……亡霊は早くエリス様の所に還った方がいいわよ?」
「なっ! 誰が亡霊ですか! 勝手に人を殺さないでください!」
「で、でも、どうせめぐみんは裁判で爆裂魔法を使って、カズマさんはそのリーダーとして極刑に――」
「めぐみん。やれ」
「了解しました」
「ああっ、冗談! 冗談だからめぐみんは手をわきわきしないでぇ! カズマさんも何を命令したのかわからないですけどめぐみんのこと止めてください!」
「……はぁ。くだらない冗談はよしてくださいよ。……ただいま戻りました」
「めぐみんの言うとおりだぞ。でもまあ、案外元気そうでよかったよ。ただいま」
「お、おかえりなさい! ……でも本当によかった……その……死刑にならなかったんですね」
「まあな。そもそも俺は街を救った英雄で、何も悪いことをしてないのは明らかだったんだ。負けるわけないな!」
ドヤ顔してみせると、ゆんゆんはほっと安堵のため息をついた。
しかしすぐに、その視線がきょろきょろと店内を見回し、不安げな声を漏らす。
「……あれ? ダクネスさんは……? 一緒じゃないんですか……?」
「ああ、それなんだけどな、裁判でお世話になった王女様に挨拶して、アルダープさんに礼を言いに行くとか、いかにも貴族っぽいこと言って、王都で別行動してる」
「えっ……礼って……えっ、王女様!? それにあ、あのアルダープに……!? 王族も大変ですが、あの貴族はいろいろと悪い噂しか聞かないんですけど大丈夫ですかね……」
「おい、アルダープさんは俺の命の恩人なんだ! さんをつけろよ!」
「ご、ごめんなさい……?」
謝ったことに免じてデコ助野郎とは言わなかった。
そんな俺を見て、本当に心から安心したらしいゆんゆんは小さく笑って、ふわりと目を細めた。
「よかった、ダクネスさんも無事で。……ということは、裁判も無罪放免ですか?」
「…………いや、無罪放免ではないんだけどな……」
「――とまあ、そんな感じで、死刑は免れたなだが、代わりにドラゴン退治を命じられたわけだ」
「そうだったんですね。い、いろいろお疲れ様でした……。ひ、一先ずは死刑回避ってことでよかったですね!」
軽く肩をすくめてそう語ると、布団にくるまったゆんゆんは俺のことを励ますように声をかける。
めぐみんも横で静かに頷きながら、ゆんゆんの枕元に腰を下ろす。
……ドヤ顔をしながら。
「何がともあれ、この裁判がうまくいったのは私の弁護あってのことでしょう。ふふん、あの裁判は我々の的確な弁護があったからこそ乗り越えられたのです!」
こいつ、裁判で何かしたっけ……
俺は愕然とした。
「そうよ! この女神アクアと紅魔族の知能が合わされば怖いものなしってね! 『異議あり』って言ってめぐみんとのコンビで検察官とか悪代官のおじさんをけちょんけちょんにしたのよ!」
こいつ、裁判で邪魔しかしてないよな……
俺は訝しんだ。
「……えっ? そ、そうだったんですね……めぐみんもアクアさんも、まさかそんな活躍するなんて……正直驚きました」
「ゆんゆん! もしかして私のこと信用してなかったのかしら! めぐみんはともかく、女神たる私の実績を信じられないなんて……カズマだったら今ごろ罰として高級シュワシュワを奢らせてるところよ!?」
「ちょっと待ってください! アクアはともかく、私とあなたは紅魔の学園からの仲ではないですか! 紅魔族随一の天才と謳われしこの私の頭脳を知っていて、どうしてそんな反応をするのか聞こうじゃないか!」
「ご、ごめんなさい!?」
醜い言い争いだ……
てかお前ら、そもそも裁判中に何をやったか自覚して言ってるか?
アクアとめぐみんの圧に押されて謝ってしまうゆんゆんだったが、俺は軽く片眉を上げて呆れたように。
「謝る必要ないぞ、ゆんゆん。めぐみんに関しては、あの重苦しい裁判所の空気の中で、堂々と爆裂魔法を公衆の面前で漏らす宣言して速攻で退廷させられてたし」
「……ぐぬっ!」
「アクアはアクアで、異議ありって叫ぶタイミングも分かってないし、発言内容も全部余計なことばっかで、退廷させられかけてたし。言っとくが、あの場でお前らの発言が俺に有利に働いた瞬間なんて、マジで1秒たりともなかったからな!」
「か、カズマ? さすがに1秒くらいはあったと思うのですが……」
「私なんて最初から最後まで有利になる発言しかしてないんですけど!」
審理が進むたびに裁判官が頭抱えてたからな!?
そんなやつが何言ってんの!?
そんな中、ゆんゆんがぽつりと小声で。
「……ああ、やっぱり」
「「やっぱり!?」」
ゆんゆんの発言にわーわーと騒ぎ出した二人を見て、俺はなんだかスカッとした。
思わずブフッと吹き出してしまうと、弁護人(笑)の矛先は俺に向かう。
「どうして今笑ったのですか!」
「ええ、今の笑いは私たちを馬鹿にする笑いだったわ! せっかく弁護人してあげたのにその恩を思い出させてあげましょうか……拳で!」
「あっぶねぇっ!? 拳は反則だろ!? というか、弁護ってのは『被告人を助けるための発言』をするもんなんだ! 裁判を混乱させたり、被告の印象を悪くするのが弁護人の仕事だってのか!?」
俺の言葉も聞かず襲いかかってくるアクアのことを十字固めで押さえつけようと飛びかかろうとしたのだが……
ゆんゆんが小さく「ふふっ」と笑った。
だがその笑みはどこか弱々しくて、無理して浮かべたようにも見えた。
「その……ゆんゆん。うるさくして悪いな」
「いえ、別に大丈夫というか、むしろ安心するというか……。なので何も謝らなくて大丈夫ですよ?」
「でも、なんか今無理して笑ってたような……。裁判の間、心安まらなかっただろ?」
「いえいえ! わ、私こそ力になるどころか、変なのを送りつけてしまって、裁判を不利にしちゃったみたいで……」
「「変なの……!?」」
アクアとめぐみんがゆんゆんに抗議しようとした……
そのときだった。
――コンコン。
ウィズ魔道具店の扉をノックする音、それに対して「はい、ただいま~」と反応するウィズの声が聞こえた。
「……誰だ? 客か?」
「この店に訪ねてくるなんて……よっぽど暇な人か奇特な方なんでしょうね」
「ゆんゆん、それは言ってやるな」
辛辣なゆんゆんに苦笑いしていると、ドアの方からとある声が聞こえてくる。
それは聞き覚えのある声で――
「カズマさん! サトウカズマさんはいらっしゃいますか! 爆裂魔法の影響で冬眠から目覚めたジャイアントトードが――」
王都の検察官、セナが魔道具店の前に立っていた。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める