「我が名はねりまき! 紅魔族随一の酒屋の娘にして、マイマスターの忠実なるサーヴァント! 邪王真眼の求めに応じて参上したのデスッ!」
威勢のいい名乗りとともにその少女の背後で爆発が起こる。
――ヒーローの登場シーンか!?
俺は、突然のことで突っ込むこともできずにいたのだが、ねりまきと珍妙な名を名乗るその少女の姿を見ためぐみんはピクリと反応して起き上がろうとしたが、カエルの粘液を纏った状態で滑り、起き上がれずにいた。
何度か起き上がろうとしていためぐみんだったが――
「ふっ。この窮地というタイミングに駆けつけるとは……やはり我が忠義の眷属……!」
「いや、諦めんなよ。そんな地面に突っ伏した状態で格好つけようとしても滑稽だから」
「……カズマ、すみませんが魔力をわけてほし――」
「マスター、こちらMPポーションです」
「おお、準備がいいですね!」
俺にドレインタッチをさせようとしていためぐみんだったが、ねりまきはポーションを用意していたようだ。
しかもご丁寧なことにストロー付き。
めぐみんは上体を支えてもらいながら、チューチューとポーションを吸い上げる。
最後にズズッと音を立てると、めぐみんは勢いよく立ち上がった。
「復活ッ!! めぐみん復活ッ!!」
さながら14キロの砂糖水を飲み干した後。
先ほどまで生まれたての子鹿よりも貧弱だったアークウィザードだったが、今やもう一発爆裂できるんじゃないかというほどに完全復活を成し遂げた。
「助かりましたよ、ねりまき。……もしかしてポーション常備しているのですか?」
「まあ、一人旅してる時に魔力切れになっちゃったら困るからね。まあ、ストローはめぐみん用に用意したやつだけど」
「私用……?」
「ほら、ゆんゆんの様子を見に行ったら『めぐみんがカエルを討伐しに行って……。不安だから見にいってほしいんだけど……』って言われたから、どうせいつもの通りだと思って」
「なるほど。まったくあの子は心配性ですね……。今回ばかりは助かりましたが…………助かったと言っていいのでしょうか、この全身テラテラ状態で」
「怪我もないし命はあるんだから助かったでいいでしょ」
「…………あの素晴らしいタイミングでの登場……もしかしなくても時を伺ってましたよね?」
「そりゃ当然でしょ、私たち紅魔族なんだから」
当然であってたまるか!
俺、あの子のこと殴っても許されると思うんだが!
いいか、一発かましてきてもいいよな!?
「もう少し早めでもよかったと思うのです。具体的には私が捕食される前に。まあ、確かに危機的状況を演出したりするのはわかりますが」
わかってたまるか!
というか、紅魔族はどいつもこいつもこんなんばっかなのか!?
助けてくれたことに関してはありがとうだけども!
めぐみんも俺と同じ気持ちなのか、不満そうに頬を膨らませていた。
「機嫌直してよ。ほら、ここにお風呂セットあるから。わざわざテレポートして買ってきた石けんも用意してるからさ」
「…………産地は」
「アルカンレティア産」
「香りは」
「いつもの」
「成分は」
「洗浄力高めの組成」
「石けん洗剤石けん洗剤」
「飲める」
「流石は我がサーヴァント。パーフェクトだ」
「感謝の極み」
二人は示し合わせたかのように呼応し、親指を立てた。
なんなんだコイツら……。
置いてけぼりな俺は思わずため息を吐いた。
「ほら、カズマ。何を呆けているのですか。早くお風呂に行きますよ」
……ホント、誰のせいだと思って。
カエルの討伐が終わり、めぐみんはアクアとセナを連れて浴場へ。
俺は特に汚れているわけじゃないので、ゆんゆんに討伐が終わったと報告に行こうと街中を歩いているのだが。
「デストロイヤーの時は世話になったな」
「いやいや、ああ言うときはお互い様だよ」
俺の隣にはねりまきがいた。
「なあ、お前は三人と一緒に風呂入りに行かなくてよかったのか?」
「カズマさんと同じで汚れてないし、ゆんゆんがいないとね」
そう言ってねりまきは俺の前方を歩く。
ゆんゆんのことが心配だ……ということだろうか。
その顔はどこか暗さを感じる。
「そう言えば俺の名前知ってるみたいだけど、ちゃんと自己紹介したっけか?」
「あー、そういえばしてないね。ほら、クリスさんとか、街の冒険者とかから……特にめぐみんとゆんゆんからいろいろ聞いてるから、もう既にされたって勘違いしてたよ!」
ねりまきが笑いながら俺の方を見る。
その目は何か期待に満ちてる目で――
「……コホン、改めて。俺の名は佐藤和真。数多のスキルを習得し、魔王軍の幹部や大物賞金首を屠りし者」
「お、おおお……っ!!」
「こんなんでいいのか?」
「いいよいいよ! やはりめぐゆんが見込んだパーティーのリーダー! 期待以上だった!」
「めぐゆん?」
「めぐみんとゆんゆんの二人組のことね」
「二人とは友達ってことでいいのか? めぐみんとはサーヴァントとかマスターとか呼び合ってるし、ゆんゆんとも親しいっぽいし」
今日助けてくれた時「ゆんゆんから聞いたから駆けつけた」的なこと言ってたし、お見舞いに顔を出すくらいだからゆんゆんとも友達なのかと思ったんだが……
ねりまきは人差し指を立てて、横に振る。
「ふっふっふ。我とマスターの邂逅は、宇宙の意志がもたらした因果の連鎖。運命が交差し、星々が瞬く瞬間――」
「いや、そういうのいいから」
「……むぅ。カズマは私の名乗りを聞いても笑わなかったし、名乗ってくれたし、紅魔族の美学を理解するタイプだと思ってたのに……」
「いや、笑ってないだけでおかしいとは思ってるからな?」
「ええっ!?」
いや、心底心外そうな顔されても。
今の俺の中ではゆんゆん以外の紅魔族は全員変なやつだって認識になりつつあるんだが。
「カズマさんにはガッカリだよ」
「いや、勝手に期待して勝手に失望するなよ。紅魔族が特殊なだけなんだからな? そんなことより」
「そんなことでは流せない由々しき問題なんだけど!」
「そんなことより、だ。話を戻すが、めぐみんたちとは友達ってことでいいんだよな?」
体操不服そうなに頬を膨らませるねりまき。
だが、これ以上紅魔族の常識についてといたところで話が平行線になると思ったのか、諦めてため息をついた。
「……まあ、そうだね。めぐみんもゆんゆんも私も、紅魔の里の魔法学校の同級生だったんだよ。元々めぐみんとはその以前から遊ぶ仲だったんだけどね」
「へぇ、そうだったのか!」
「なんだか意外そうだね?」
「いや、あの二人ってどっちもボッチ属性だろ?」
俺がそう言った瞬間、ねりまきの手が俺の肩をがっしりと掴まえる。
なんだか嫌な予感がして思わず離れようとしたが、めぐみん以上に力があるのか、ねりまきの手から逃げることはかなわなかった。
「カズマ」
「ひゃ、ひゃい、カズマです……」
低く唸るようなねりまきの声に、思わず俺の声が裏返る。
まるで怒っているかのようなプレッシャーを感じ、目をぎゅっと閉じていると。
「その通り、その通りなんだよカズマ!」
「ごめんなさ……!! ……今なんて?」
「その通りだって言ったんだよ! いやぁ、めぐゆんのことわかってるねぇ! そう、二人はボッチ気質なんだよ!」
「お、おう」
「片や爆裂魔法を覚えるほどの天才……というか他のことには興味がない変人。片や秀才だけどコミュ障……かっこいいを恥ずかしいって言う変人。普通に過ごしたら普通は関わり合わない二人なのに、それが今こうして一緒に冒険したり遊んだりしてるのは奇跡! そう、日々の何の変哲もない日常を過ごしていると思ったらそれは間違いなの! 実は奇跡の連続! 私は毎日奇跡の連続を目の当たりにしてるんだよ! ねえ! そう思わない!?」
何この人……怖っ。
超高速で詠唱し始めたぞ!?
「だからこそ、そんな二人は紅魔の学園で出会ったのは運命だったの! 委員長と不良っていう馬が合わないからこそ突っかかり合う関係! そして主席と次席を奪い合うライバル! ちなみに私は三席ね。そんな二人の邪魔にならない、けど間近で感じられる特等席にいたんだよ。最初こそゆんゆんは『話しかけてくれないかなぁ……』って感じで私たちの周りをウロチョロしてくるかわった子って印象だったんだけどね? めぐみんがいよいよ我慢できなくなって話しかけに言ったらまた面白い子だってわかって! ゆんゆんが特に用事があるのはめぐみんだったから私は少し距離を置いてたんだけど、ゆんゆんがチラチラ私の方を見てくるの! そしてなんて言ったと思う? 『わ、私! あなたにも負けないんだから!』だよ! めぐみんだけじゃなくて私までライバルとして認めてきたの! もちろんゆんゆんはコミュ障だからこんな変な言い方になちゃうのは当然のことだよね、うん! でも私的にはその時、ゆんゆんは気持ちに気づいてないだけで無意識でめぐみんと話したいけどめぐみんの邪魔もしたくないって思いで三人で仲良くしたいと思ってこうしたんじゃないかって……! いじらしいと思わない!? まあ、結局めぐみんが一々遠慮する必要なんてないって言って仲良く三人で友達になったんだ。でもね、私はそこで気づいてしまったのだよカズマくん。めぐみんとゆんゆんは有人を超えた何か奥ゆかしい糸で繋がってるんじゃないかってね。もちろん私だってめぐみんとゆんゆんの両方を親友だって思ってるんだけど、そういうことじゃあなくてね。あの二人は互いにぼっちじゃん? 加えて優秀な子だから頼ることができる人ってのがいないわけで。そうすると自然と境遇の誓いもの同士が惹かれ合っていくのはやっぱり世界の定めなわけで! 私はその間に挟まるのをよしとはしなかったんだけど、二人の圧に負けちゃってね。でもおかげで高濃度のめぐゆニウムを吸入できてるからかなり幸福の絶頂にいる学園生活でぇえああああああああああ脳が震えるぅぅうううっ!!」
カーズマは――
理解できなかった。理解しようとも思わないが。
身を引こうとしたが、ねりまきに肩を掴まれているので逃げることはできない。
マシンガンガールを止めることもできず
そして、逃げたいと思っても逃げれないので
――そのうちカズマは考えるのをやめた。
「ごめんね、カズマさん。つい早口になっちゃって」
「イヤ、ウン、ダイジョウビ……」
ウィズ魔道具店へ向かう途中、暴走機関銃の餌食になってしまった俺。
今さらおしとやかぶってるが、さっきの暴走トークで「やっぱり紅魔族って残念なやつらばっかだな」と心の中でそっと結論づけた。
そんなやりとりをしていると、俺たちはようやくウィズの魔道具店に到着する。
ドアを開けると、テーブルにゆんゆんが座っていた。
「か、カズマさん! お帰りなさい!」
「ただいま。……寝てなくていいのか?」
「なんかソワソワして落ち着かなくって。ウィズさんに今お茶を入れてもらったんですよ」
そう言ってゆんゆんはテーブルの上にあるカップを見せる。
いい香りの紅茶が湯気とともに鼻腔を擽る。
「それにしても、ちゃんとねりまきと合流できたんですね!」
「合流っていうか、戦闘が終わるときだったけどな」
「そうなんですか?」
「ああ。めぐみんが爆裂魔法で14匹のカエルを倒して、後は俺の華麗なる弓術スキルで……余裕だったぜ!」
そう言いながらゆんゆんの方を見ると――
おおっと、これは訝しんでる顔ですね。
「――余裕だったぜ?」
「なんで疑問形で言い直したんですか」
「いや、なんか俺の言葉信用してなさそうだったから……。いや、マジで今回は15匹俺たちだけの力で倒したんだよ。な、ねりまき!」
「え、う、うん! そうだね? 私が来る前には確かに15匹討伐してたもんね?」
「そ、そうなの?」
ゆんゆんを心配させたくない。
その思いはねりまきも同じようで、俺の言葉に同調する。
……まあ、そもそも嘘は言ってないからな。
俺たちだけで15体倒したが、その後にどういうわけか追加でトードが湧いて出てきただけだ。
しかし、そんな俺たちの言葉をゆんゆんは怪しんでるようで。
「ねえ、やっぱり心配させたくないからって嘘ついてるんじゃない? あのパーティーメンバーでジャイアントトードの討伐が順調に終わるなんて思えないんだけど……やっぱり途中で、ねりまきが助けてくれたんじゃないの? アクアさんもめぐみんもいないし、きっとお風呂に行ってるんじゃないかなって……。ねえ、カズマさん、どうなんです?」
「……」
このボッチ娘、紅魔族というだけあって頭がいいとは思っていたが、こんなに推理が的確なんて……!
苦しい。
あまりに苦しくて、思わず俺は苦笑いで目をそらす。
「ねりまき、めぐみんたちはどこ行ったの?」
「……まあ、ゆんゆんの察してるとおりなんじゃない?」
「やっぱり……」
そのつぶやきを聞いて、ねりまきも俺と同じように苦笑いをする。
そんな俺たちを見て、ゆんゆんはため息をつきながらも、ふっと力が抜けたように微笑んだ。
「でも、全員無事に帰ってこれたみたいでよかった……ほんとうに」
ひとまず全員が無事に帰ってきたことに、ゆんゆんは心底安心した様子だった。
その笑顔を見て、俺はようやく肩の力が抜けるのを感じた。
しかし、実際問題はまだ解決してない。
これから俺たちはエルロード王国に行きドラゴンの討伐をするのだ。
俺はそろそろ本題を切り出そうと、視線をねりまきとゆんゆんに向けた。
「それでさ、ゆんゆん。話は飛ぶんだが、これからエルロードに向かうだろ? 体調の方……大丈夫か? まだ顔色、完全じゃないし」
「ううん……正直、まだ万全とは言えないです。少し動くとすぐにくらくらしちゃって……」
ゆんゆんは少し戸惑ったように視線を伏せると、小さく首を横に振った。
その言葉を聞いて、俺もねりまきも顔を見合わせる。
それを見るとゆんゆんは少し焦ったように。
「いや、でも、ずっとこんなじゃないと思うの。ただ、なんでこうなったのか、原因が……」
「え、原因ってレベル酔いでしょ?」
「「………………はぁ!?」」
思わず俺とゆんゆんの声がハモった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ゆんゆんは確かにレベルアップしたけどさ……」
「そうよ! 私、デストロイヤーのコアをテレポートしてから一回も戦闘してないんだけど!」
「いや、でも…………ゆんゆん、それ、ちょっと見せてね」
俺とゆんゆんが理解できずにいる中、ねりまきが急に立ち上がり、ゆんゆんの冒険者カードを指差す。
「え? カード……?」
「ついこの間までレベル13だったのに…………ほら見て。今は――」
「レベル……23!?」
「うそ、私、まだ14だったはずなのに……!」
「それだけじゃないよ。魔力も、確か200くらいだったと思うんだけど、それが……ほら、今じゃ400に迫る勢いだよ」
「えっ、マジかよ!?」
どういうことだ!?
横から覗き込むと、そこには信じられない数値が刻まれていたのだ。
ゆんゆんも自分のカードを食い入るように見つめ、驚きに目を見開いていた。
俺たちは思わずそう言うように声を荒げるが、ねりまきがなだめる。
「まあまあ、落ち着なって二人とも」
「落ち着いてる場合か! 何でいきなり10レベル近くゆんゆんのレベルアップ上がってるんだよ!? まさか、夜な夜な――」
「そんなことできるわけないじゃないですか!」
確かに、冒険を重ねればレベルも上がるし、ステータスも成長する。
だがそれは段階的に上がっていくものだ。
それが9レベル上がったら魔力も倍近くになるか……。
「そりゃ体調もおかしくなるよね……。急激にステータスが上昇すると、体内の恒常性が追いつかなくなって、不調が出ることがあるんだよ。魔力量が急に増えると処理しきれなくなって、最大魔力量を超えて魔力を生成したり、その逆があったり。症状としては頭痛やめまい、倦怠感が出るって、学園でぷっちん先生が言ってたよね」
「そう言えばそんなこと言ってたかも……」
「あれれ? もしかして次席なのに忘れてたの?」
「お、覚えてたわよ! で、でも、まさか自分がなるだなんて思わないでしょ?」
声を荒げるゆんゆんに、ねりまきが、ふっと微笑んで肩に手を置いた。
「まあ、時間が経てば体が適応してくるはずだから。それまで無理せず、ゆっくり回復していけばいいよ。多分だけど後一週間くらいじゃないかな?」
「……うん。ありがとう、ねりまき」
ゆんゆんが、ぽろっと涙を浮かべそうになる。
正体不明が取り除かれた彼女の様子に、俺もホッと胸を撫で下ろした。
……が。
「ところでねりまき?」
「なぁに?」
「私の冒険者カードの情報、いつの間に見たの? 私ですらレベルアップしたことに気づかなかったし、魔力量も覚えてないのに……」
「……」
「あの、一応知ってると思うんだけどね? 冒険者カードって個人情報だから許可なしで見ようとするのはよくないことだって……」
「わ、私レベルの親友になると、そんなステータスの変化、冒険者カードなんて見なくても手に取るようにわかるよ。それこそゆんゆんの今のバストの数値も何カップかも――」
「ちょっとその話詳しく」
「わあああああ! やめ! ねりまきストーーップ!! カズマさんも食いつかないでぇ!」
ゆんゆん。
俺も悪かったと思ってる。
でもな、流石にグーで打つはよくないと思うんだ。
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第7章
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リメイクしてテンポよく進める