王家の竜車――
それは、俺が今まで知っていた馬車とは全くの別物だった。
「ひいぃぃやあぁああああ!? 速すぎッ!? いくら何でも速すぎだろ新幹線か!?」
道なき道を滑るように、というか、新幹線を超えてジェット機かってくらいの勢いで地を駆け抜ける謎の乗り物。
車輪はなく魔法で浮遊しており、馬の代わりに二足歩行のトカゲみたいなモンスター――リザードランナーが牽引している。
そのスピードたるや尋常じゃない。
俺が悲鳴を上げていると、うっとうしいと言わんばかりにめぐみんがため息をつく。
「シンカンセン、とは何かわかりませんが、上位種のリザードランナーは時空をも超える速度で走ると伝承にありますし、それと比べれば怖がることもないでしょうに」
「いや、何でそんな落ち着いてんだよ!? なんか内臓が後ろにズレてる気がするんだが!」
「この竜車は王家の特注品ですよ、振動はゼロに等しいです。それでも顔色を悪くするとは……もしかしてカズマは乗り物酔いするタイプでしたか?」
「振動じゃなくて速さだって! こんなの生物の本能的に恐怖するに決まってんだろ!」
「しかし魔除けの結界の魔道具が搭載されていると説明されたでしょう? 怖がる必要はありません。ですので静かに安心して乗っていてください」
「理屈はわかってんだよ! 理屈は!」
そう言いつつも、周囲を見れば――
クレアはお茶を飲みながら優雅にアイリスを眺め、ダクネスは前方で御者のように手綱を握り、アクアは絶叫し、ねりまきとゆんゆんは座席でチェスをしながら対話を楽しんでいる……。
俺だけじゃねぇか、死にそうなの!
「お前ら肝っ玉据わりすぎか!?」
「カズマは冒険者の癖に小心者過ぎなのです。確率で言えば隕石が頭に落ちるより低――ムグッ!?」
「あっぶねぇ! おまっ、フラグ立てようとするんじゃねぇ!」
ただでさえ死にそうな状況なのに、さらにフラグ建築までされたらたまったもんじゃない!
俺は何か不吉なフラグを建てようとしためぐみんの口を手で塞ぐと、それを見たゆんゆんがいきなり立ち上がる。
……その反動でチェス盤はひっくり返り、ねりまきはそんな駒がバラバラの大惨事に愕然としていた。
「ちょっとめぐみん!? また余計なこと言おうとしてたの!? アクセルの街を目指して旅してたときもそうだったけど、そのせいで魔物に襲われてたでしょ!」
「そ、それはあの時、我が邪王真眼の魔力に魅了された悪魔が――!」
「めぐみんは天才だと思ってたけどもしかしなくても何も学ばないバカなの!?」
「なにおう! 紅魔族随一の天才の私をバカ呼ばわりとはどういうことか!」
「バカでしょ! 先生にフラグは世界に影響を与える言霊だって言われたの忘れてるから!」
「ぷっちんの言うことを真に受けないでください! あれは紅魔族の様式美のようなもので、たとえ今『魔物に襲われる確率なんてゼロに等しい』なんて言っても、実際にそんなフラグなんて――」
めぐみんがフラグを口走った……その時だった。
御者を務めていたダクネスの声が響いた。
「みんな! 前方にモンスターだ! 一度止まるので戦闘の準備を頼む!」
「「ジィー…………」」
俺とゆんゆんはめぐみんを凝視する。
しばらくは澄ました顔で俺たちの視線に耐えていためぐみんだったが、ずっと圧を送り続けているとめぐみんは耐えかねて気まずそうに目を逸らした。
「……フ。抑えていたのですがね……我が強大な魔力を。しかしやはり当てられてしまったようで……」
「めぐみんのバカぁ! やっぱりこうなるじゃないのよぉ……!」
ゆんゆんの叫びが竜車の中に響いた。
モンスターは大型の魔獣だった。
複数体、こちらを睨んでいたのだが――
「下がっていてください!」
そう言って前に出たのは、アイリス。
彼女は腰の剣を構えると、鮮やかに抜刀して……
「参ります! 『エクステリオン』――ッ!」
その瞬間、斬撃の軌跡が白い閃光を描く。
空間すら裂いたような威力の一撃は、そこにいた大型の魔物を跡形もなく一掃した。
爆裂魔法レベルの攻撃規模で、まさかこんな少女が繰り出したとは思えず、俺は目を丸くした。
「な、なんだ今の……」
「どうでしたか、カズマ様? 皆さんには及ばないかもしれませんが、私、頑張ってみました!」
「お、おう。まあ、凄んじゃ……ないか、な……?」
「はい、ありがとうございます! 皆様のような素晴らしい活躍をできるようにこれからも精進しますね!」
アイリスが俺の方を振り向き、目を輝かせてくる。
その純粋な視線に当てられた俺は罪悪感と威厳の消失に心の中で悶えていた。
そんな中、ゆんゆんがぽろっと口を滑らせる。
「いや、私たちより……むしろすごいんじゃ……」
「おい、ゆんゆん。それは私の爆裂魔法が劣っていると、そう言うことですか」
「いや、だってめぐみんが爆裂したら倒れ――」
「よろしい! そんなことを言うのでしたらデストロイヤーを討伐し、そのスキルポイントのすべてを威力上昇につぎ込んだ我が一撃を見るがいい!」
「でももう敵はいないし、今ここで撃っても無駄うちじゃ……って、もうなんか詠唱仕上がってる!?」
「ちょうどあそこにいい感じの岩がありますし、ジャイアントトードでは不完全燃焼だったのですよ。さあ、我が究極の魔法をとくと見よッ! 『エクスプロージョン』――ッ!!」
めぐみんの爆裂魔法が炸裂し、熱風が俺たちの髪を焦がした。
……こうして比較してみると意外とめぐみんの方がバカみたいな威力してるもんだ。
こんなバカみたいな威力の魔法の使い道って……やっぱアイリスの方が凄いな。
そう思って倒れているめぐみんに魔力を分け与えようとしていると、アイリスが目を輝かせて興奮した様子で。
「す、すごい! 凄すぎます! なんて凄まじい魔法なんでしょう……! 王都で戦いを見てきた私ですが、あんな火力、初めて見ました!」
「ふ……当然です。我が爆裂魔法は全てを破壊し、全てを焼き尽くす…………。あっ、肩を貸してください、ゆんゆん」
「それはいいけど…………やっぱり王女様の剣技の方が凄いんじゃ……こんな火力の魔法使いどころが限られすぎてるし」
「ゆんゆん、ちょっと黙ってください」
「肩貸さなくてもいいかしら」
めぐみん……そう格好つけるんだったら自力で起き上がってから言えよ。
ゆんゆんに支えられながら言っても何もかっこよくないからな?
俺がジト目でめぐみんの事を見ていると、パシャリと後ろからシャッター音が聞こえてきた。
何かと思って音の方を見ると、そこには無表情でカメラ型の魔道具のシャッターを切っているねりまき。
それからその隣にはクレア。
今ねりまきから無言でカメラを差し出され、それを無言で受け取り一心不乱に連写していた。
終始無言ながら、二人はどこか通じ合っていた。
俺は思った。
……いくらアイリスが可愛くてもああはなりたくないな。
しばらく走ってはモンスターと戦いを繰り返しながら旅は進んでいく。
本当はこんなにモンスターに遭遇することなんてないらしいし、めぐみんのフラグが原因かと思っていたのだが、流石に数が多すぎる。
……主にアンデッド。
しかしアクアがいるおかげでアンデッドはすぐに浄化されるし、アイリスも働いてくれるし、よく竜車が止まるということ以外はこれといった問題はない。
戦闘があったばかりにも関わらず、高速移動による揺れもない静かな車内では、穏やかな時間が流れていた。
そんな中、俺とクレアだけは熱くなっていた。
しかしそれは仕方がないことだ。
だって――
「それで、アイリス様はお忍びで王城を抜け出して隣の村に潜入したことがあるのですが、その時の屋台でいただいた100万エリスの串が非常においしかったと目を輝かせながら私に報告してきて……」
「絶対ぼったくりだけどそれに気づかないアイリス様かわいい! アイリス様マジ天使!」
「それから――って、ちょっと待てほしい! その串はぼったくりだったのか!?」
「そんなことよりはよう! 次の話をはよう!」
「あ、ああ……それでだな、アイリス様がこの串を日頃頑張っている兵士の皆に感謝の気持ちを伝えたいとおっしゃったのだ。その気持ちだけで兵士たちは喜ぶだろうと私は言ったのだが、兵士にしっかり感謝の気持ちを伝えたいと。その言葉を聞いた屋台の人はアイリス様のお言葉に感銘を受け、兵士の分を無料で――」
アイリスの話を聞けば聞くほどどんなにかわいらしく素晴らしい子なのかがわかる。
俺はこの子のためなら死ねる!
そう思うレベルでアイリスの事を――妹のように思うようになっていた。
俺はロリコンじゃないので、あくまで恋愛の対象外であることは確実に明記させてもらうこととする。
鼻血出すほどぞっこんなクレアと違って。
……それにしてもクレアからどんどんアイリスのエピソードが出てくる出てくる。
これも小さい頃からアイリスの教育係をしてきたからだろうか……いや、絶対それだけではない気がするが。
ちなみに、本当はクレアの他にレインという教育係もいるらしいが、アイリスとクレアの仕事を代わりにこなすために王都に残っているそうな。
そんなこんなで俺たちは話に花を咲かせていたのだが――
静かに窓の外を見ていたアイリスはいつの間にか真っ赤になって手をバタバタさせていた。
「ク、クレア! もういい加減私のお話早めにしませんか? その話はもう聞き飽きましたよ……」
アイリスは自分の話を永延とされて恥ずかしかったのか、耳まで赤くなっている。
頬を膨らませる姿があまりに可愛らしく、頭がクラリとくる。
さっきの戦闘とのギャップにやられそうだ。
「そ、そんな話より、私はカズマ様たちの冒険者としての話を聞きたいです! めぐみんさんや、ゆんゆんさんのことも!」
「ほほう。王女様は見所があるようですね。我が武勇伝を語るにふさわしい逸材でしょう。ではまず私が上位悪魔を屠ったときの話でも――」
「ちょっと待て。めぐみんの話じゃなくて俺の話を聞きたいって言ってるんだ。俺の活躍を存分に語ってやろうじゃないか。まずは俺の財布を盗もうとしたヤツにスティールを使った話を――」
「お、お二人の話両方聞きたいです!」
こうして俺たちはアイリスにいろいろな話をしてやった。
「爆裂魔法で悪魔の群れを吹き飛ばす話」「盗賊にスティール対決で圧勝した話」「爆裂魔法で温泉を掘った話」「初心者殺しをおちょくった話」などなど……めぐみんに関してはすべての話の落ちが爆裂魔法なんだが。
そんな俺たちが話を語っている途中、アイリスはとても嬉しそうに、そして少し寂しげに微笑んだ。
「どうしたんだ? もしかしてあんまり面白くなかったか?」
「ああ、いえ! そうではないんです! ……あなたが、なんだか……昔のお兄様みたいだなぁ……なんて。昔を懐かしく思ってしまいまして」
「……………………今なんて?」
俺は思わず聞き返した。
「えっ、えっと……実の兄とはもう、こうしてお話しすることはしないので……」
「違う、そこじゃない。その前に俺が何みたいだって?」
「えっと……兄様みたい……」
「もう一度言ってください。お願いします」
俺は目を見開き、身を乗り出す。
「お、お兄様みたい、です……」
「もう一度。できれば、もう少し……恥じらいの気持ちを入れて」
アイリスは数秒口ごもると――
「…………お、お兄……ちゃん?」
――その瞬間、俺の中にあった何かが爆ぜた。
「ぶっはあああああ!!?」
アイリスの会心の一撃を受けた俺――ではなくクレアが鼻血を豪快に噴き出し……
頭が沸騰したのだろう、目を回しながら気絶した。
その瞬間、竜車が急停止し、ダクネスがドアを開けて駆けつける。
「窓が急に赤くなったのだが大丈夫、か……!? クレア殿! その血は!?」
「く、クレア!? クレア! どうしましたか!? 血が! お兄ちゃん! く、クレアが大変なこと、に……お兄ちゃんっ!?」
「だ、大丈夫だ、問題ない……!」
「で、でも心臓を抑えて……!」
「大丈夫で……グブッ……」
「お兄ちゃん! しっかりしてくださいお兄ちゃん!」
そのウルウルさせた瞳は凶器そのものだ。
そんな凶器で殴られて鼻から血は流れるし心臓が苦しいが……むしろ幸せです!
だが、このままだと心配しているアイリスが可愛すぎて俺も死にかねない……
「ア、アクア……数少ないお前の出番だ。俺とクレアに回復魔法を……」
「数少ないって何!? 今日カズマより活躍してるわよ私! アンデッド倒したりしてるし! それはそれとして、鼻血ごときに私の神聖な魔法を使わせないでほしいんですけど!」
そう言いながらもアクアは『ヒール』の魔法を唱えた。
アクアの癒やしの光が俺とクレアを包み、ほどなくして俺たちは蘇生……
もとい、クレアは目を覚まし、俺たちの鼻血は止まった。
――まだドラゴンの討伐も始まってないのに不安しかない。
昨日8/1誕生日だったのに出番が少ない女神様に涙を禁じ得ない……
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
-
第6章(現在の章)
-
第7章
-
第8章
-
リメイクしてテンポよく進める