エルロード王国の王都に着いたカズマたち。
明日謁見する予定なので今日は観光や討伐に向けて準備を……準備?
情報収集をそこそこに、気が付けば俺はちょっぴりカードゲームで遊んでいた。
い…いや…ちょっぴりと言うにはその域を超えていたのだが……
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺は謀略のクロードとか言うやつに情報収集目的で勝負を挑んだと思ったらいつの間にか財布がパンパンになっていた…
な…何を言ってるのかわからねえと思うが俺も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
過集中だとかゾーンに入っただとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「いや、何やってんだ俺!? …………いあ、でもまあ、これで必要な魔道具や装備品を揃えれば準備はより万全になるわけで……むしろ正しい判断だったんじゃないか? うん、そうに違いない」
自分に言い訳をしつつ、俺はカードゲームをさらに続行する。
徐々に貯まる戦利品の重みを感じてご満悦でいたのだが。
「何の騒ぎかと思って見に来れば……まさか、カズマがその中心にいるとは思いませんでしたよ」
「……げッ」
背後から近づく複数の足音。
振り返ると俺は思わず顔をしかめることになる。
そこにはめぐみんご一行と、どういう訳かアクアが立っていた。
別行動してたはずなのにどうして一緒にいるんだと質問しようと思ったのだが。
「準備をするとか言っていましたが……一体、何をしていたのですか?」
「い、いや……準備だよ? 遊んでないよ?」
「随分と楽しそうな声を響かせていましたが」
「うぐっ!? で、でもこれ見ろよ! 勝ちに勝ちまくって、ほら大金だ! これで必要な魔道具とか、装備品とか、色々買えるだろ!」
ジト目のめぐみんに突っ込みを入れられて、慌てて金貨を見せつけた。
胸を張って言ったのだが、どうにも皆の視線が冷ややかだ。
――いや、確かに冷静に考えれば賭博で荒稼ぎが冒険の準備なわけないが……。
「そんなことより、お前ら。アクアと別行動だったよな? どうして一緒にいるんだよ。 途中で合流したのか?」
「え、ええと……まあ、そういう感じ、というか……」
「何でゆんゆんはそんな煮え切らない言い方なんだよ」
あやふやな返事をするゆんゆんに首をかしげる。
他の人に機構かと思って目をやるが、めぐみんとアイリスは気まずそうに目をそらすし、ねりまきは「あ、あははは……」と誤魔化すように笑う。
「……おい、何だその反応。どうせまた厄介ごとに巻き込まれていたんじゃないだろうな」
「どうせって何よ。確かにめぐみんもダクネスもゆんゆんも変な子だけど、今期に限っては何も変なことしてないわ。謝って、変にみんなのことを怪しがったの謝って!」
「いやどう考えてもお前だわ!! どうせ人助けして調子乗って、ギャンブルで有り金全部溶かしたり――」
「してないわよ! ……ほ、本当よ?」
「わかってる。俺はわかってるから。俺が大変だから、俺に心配かけたくないから俺以外のメンバーに泣きついて借金したんだろ? 大丈夫だ。変にこじれないように俺が全部立て替えておいてやるから正直に言ってくれ。な?」
「どうして悲しい顔するの? ねえ、本当なんですけど! 信じてよカズマさん!」
いい加減正直に言わないなら攻撃してやろうかと思っていると、横から割り込んできたのはダクネスだった。
何やら息を荒くしているのを見て、俺は嫌な予感がした。
「いやなに、アイリス様をナンパする軽薄な男どもを返り討ちしただけだ」
「……ナンパを返り討ち? アイリスに群がる虫を追い払ったのか! よくやった……って言いたいんだが、どうしてそんなに顔赤くしてるんだよ。まさか殴り飛ばして警察沙汰になって、連行されて牢獄プレイだとか言って楽しんできたんじゃないだろうな?」
「誰がするか!」
「お前以外にいないだろ」
「いや、そもそもアイリス様の前でそのようなはしたないことを言うな、たわけ!」
「じゃあ一体何やったんだよ」
「ええっと、実はララティーナは、その……男性とサウナで我慢対決をしまして……」
アイリスの口からそんな言葉がこぼれた瞬間、俺は悟った。
つまりアイリスをナンパした不運な男が、ダクネスに絡んでしまい、サウナで「どっちが長く耐えられるか」などという意味不明な勝負に巻き込まれた。
そして当然、その結果は想像に難くない。
今頃、その可哀想な男は限界を超えてぶっ倒れ、そこにプリーストとして引っ張り出されたのがアクアで、意図せず集合したってことか。
――うん、合点がいった。合点がいったが……。
「どうしたんだカズマ?」
「いや、何も」
「そうか、ならいいのだ。どれ、そろそろ日も傾いてきたし、クレア殿のところに戻るとしようか」
そう言ってダクネスは宿泊所の方へ。
……何というか、ドラゴンの討伐が迫ってるのに暢気すぎやしないだろうか。
俺は大丈夫なのだろうかと、思わず頭を抱えた。
その夜。
布団に横たわりながらも、俺は目を閉じられずにいた。
昼間の賭け勝負での圧勝劇、その余韻がまだ身体のどこかに残っているのか。
それとも明日、金鉱山へ挑むことへの不安が胸の奥を占めているのか。
理由がはっきりと見えない漫然とした不安。
ただ一つ言えるのは――とにかく眠れない。
「……はぁ。くそ、羊でも数えるか」
数えてはみるものの、十数匹も過ぎれば頭に浮かんでくるのは羊ではなくドラゴンやら駄女神の負債やら。
ああ、ますます目が冴えてきやがった。
諦めて布団を抜け出し、肌寒い廊下を足音を忍ばせて歩く。
ティンダーでコップに注いだ牛乳を温める。
そして、湯気が立ってきていい塩梅になってきた頃、廊下から聞こえる小さな足音が。
「誰だ?」
「……もしかしてお兄様?」
「その声、アイリスか?」
振り返ると、そこには薄いナイトガウン姿のアイリスが立っていた。
月明かりに照らされた顔は、ほんのり赤く染まっている。
「こんな時間にどうした」
「お、お兄様こそ……もしかして眠れないのですか?」
「まあな。明日を考えると緊張してな。そういうアイリスこそ?」
「……実はお兄様と同じで、ほんのちょっぴり」
彼女は少し視線を逸らし、頬をかきながら照れくさそうに笑った。
その様子に可愛らしいと思わず微笑み、ちょうど温まったホットミルクを差し出す。
「ほら。あったかいの、飲むか?」
「ありがとうございます」
小さな手でコップを抱きしめ、湯気の立ちのぼる牛乳を口に含むアイリス。
その仕草は、王族として振る舞う彼女ではなく、年相応の少女そのものだった。
「緊張するようなんてな。いつもしっかりしてる姿しか見ないし、剣の腕だってもの凄いし。正直、俺みたいに眠れないなんて意外だな」
「わ、私だって……緊張するくらいありますよ!」
むっとした表情で言い返してくるが、その顔はやっぱり子供らしい。
思わず俺は笑って、アイリスはそれに対して頬を膨らませる。
「むー、子供扱いしないでください……」
「悪い悪い、でもむしろ安心したよ」
「どういうことですか!」
俺なんかにこんな風に不安や弱さを見せてくれている。
信頼してくれている証拠だと思うと、なんだかこそばゆいような、嬉しいような気分になる。
そんな会話をしているうちにカップの中は空に。
「よし、じゃあそろそろ寝るか。寝れそうか?」
「何というか、まだ眠くないといいますか」
「もし一人で寝れないときは、俺が添い寝しても――」
「それは大丈夫です!」
即答で断られてしまった。
まったく、恥ずかしがり屋さんめ。
「じゃあ眠くなるまで昔話でもするか?」
「……いいのですか?」
「もちろん。何にする? 桃太郎とか、鶴の恩返しとか」
「え、えっと……もしよければ、お兄様の昔のお話を」
その言葉に、俺は一瞬言葉を失った。
だが、すぐににやりと笑みを浮かべる。
「よし! じゃあそうだな……ネトゲ廃人の話にするか」
「ネトゲハイ神……? それはどんな神様ですか?」
「俺の、まあ、通り名みたいなもんだ。よく仲間にそう呼ばれたもんだ」
「お兄様は神様として崇められるほどの実力が!?」
興奮してむしろ眠りから遠ざかっていくアイリス。
それに釣られて、俺の話に熱が入る。
しかし肩の力は抜けていった。
こうして言葉を交わしている間だけは、不安も緊張もどこかへ消えてしまう。
明日、どんな困難が待ち構えていようと、アイリスが笑ってくれるなら、俺はもう少し頑張れる気がする。
なんて、思ってみたり。
翌朝。
結局あのあと昔話に熱が入りすぎて、ベッドに戻ることなく台所の椅子に座ったまま寝落ちしてしまった。
気づけば朝日が差し込んでいて、首は痛いわ、背中は固まるわ。
寝不足で頭はぼんやりするわで最悪な目覚めを迎える羽目になった。
「カズマ! なんだそのだらしない寝方は! 刑罰としてドラゴンの討伐をしに来たの自覚はあるのか!」
「見損なったぞサトウカズマ。アイリス様がお身体を休める機会を奪うとは……! 子供に夜更かしは厳禁だろうに!」
ダクネスとクレアの二人に両側から叩き起こされ、朝から熱い説教を浴びる俺。
だがなぜだろうか。
縁気と心は軽やかだった。
アイリスもまた、目をこする姿を見せながらも柔らかな表情を浮かべている。
……まあ、楽しんでくれたみたいだし結果オーライか。
そんなこんなで朝食をとり、準備を整えた俺たちは、いよいよ王城へ向かうことに。
王城に着くと、兵士に「城主自らお出迎えになるので待っていろ」と告げられ、俺たちは城の前でしばらく待つことになった。
「にしてもすげぇ……これが金と権力の象徴か」
「こらっ、無礼なことを言うな!」
「いやでも……ベルゼルグ王国のよりデカいというか……」
目の前にそびえ立つ王城は、俺たちが普段拠点にしているベルゼルグ王国の城とは比べ物にならないほどの規模と豪華さだった。
装飾も細やかで、敷地は広大、白壁は太陽の光を浴びて輝いている。
それを見て、めぐみんまでもがうっとりとした様子で城を見上げ。
「これは堪りませんね……ここに爆裂魔法を撃ち込んだら一体どうなってしまうのか……考えただけでも詠唱が漏れてしまいそうです……!」
「ね、ねえめぐみん? さすがに冗談よね? ただでさえこの国に爆発物送りつけてカズマさん死刑になりかけたのに、これ以上は……!」
「いや、爆発物送ったのはゆんゆんでしょう」
「うぐぅ……っ!?」
「それに、一度爆発したなら二度も三度も同じようなものでしょう」
「いやぁあああ! 本気で詠唱始めないで!? ねりまきも止めるの手伝ってぇ!」
「うーん、面倒くさいから私は別にいいかなぁ」
「なんでそんなやる気ないのよぉ! お願いだからやる気出して押さえ込むの手伝って!」
「…………まったく、しょうがないなぁ……本当はもっとめぐゆん堪能したかったんだけど……」
本気も本気、赤い瞳を輝かせるめぐみん。
それを見たゆんゆんは慌ててめぐみんに攻撃を仕掛けるがそれでも抵抗するので、ねりまきに救援を求めていた。
そんな中、その横でアクアが。
「ねえねえ! あのお城のてっぺんの旗をアクシズ教のシンボルに変える芸を見せたら、皆びっくりするんじゃない?」
「よし、お前たち二人は帰っててくれ! めぐみんはこれからドラゴンに対して爆裂魔法を使う大役がある。ここで暴発してもらっては困る! そしてアクアは……ほら、私の財布だ! 昨日の稼ぎと合わせてギャンブルでもしてろ! お願いだから!」
ダクネスが珍しく慌てた顔で叫んだ。
涙目で二人を牽制して……いやほんと、子守役って大変だな。
その横で俺とクレアは顔を見合わせて。
「よし、カズマ。わかっているな?」
「ああ、もちろんだクレア。アイリスの婚約は、俺の支援金の件がぱあになっても……」
「二人も何を馬鹿なことを言っているのだ! そんなことより、早くこの二人を抑えるのを手伝ってくれ!」
待ちくたびれたダクネスをからかって遊んでいること数十分。
待てど暮らせど来ない王子様が来たのだろう、王城の扉が開かれた。
「まったく、これだからベルゼルグの田舎者は……。城の前で騒がしいぞ。礼儀というものをわきまえろ」
その声の方に視線を向けると、そこに立っていたのは赤毛の少年。
まだアイリスと同じくらいの年齢に見え、その顔にはそばかす、頭には小さな王冠が光っていた。
きっとこいつがアイリスの許嫁のレヴィ王子なのだろう。
俺たちは予定通りの時間に来たのにもかかわらず待たされてたのに、その謝罪の一つもない。
自分が王であることを疑わない傲慢な少年を目にした俺は――
「許嫁、チェーンジ!!」
「なっ!?」
――そう言葉に出していた。
カズマに明日はあるのか。デュエルスタンバイ!
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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第6章(現在の章)
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第7章
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第8章
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リメイクしてテンポよく進める