衝撃の事実を暴露したねりまき。
それはめぐみんが爆裂魔法を撃たないとボンとなるというもので……
「ねえ、ボンってどういうことかしら」
「ボンはボンだよ。制御できなくなって暴走した魔力が体内で暴発するの。普通は回復量と消費量のバランスが釣り合うところで最大魔力量が決まるんだけどね。めぐみんは……その、何ていうか……特殊だから回復量が凄くて許容上限を越えちゃうっていうか」
「あの、私がレベルアップで体調崩してたときと似てて、自分の体に合ってない魔力量だと制御できずに暴走するんですよ。めぐみんはそれが常に起きてる状態で……」
「……またサラッととんでもないこと言うな」
俺は頭を抱えながらゆんゆんとねりまきに問い詰める。
「確か前に、爆裂魔法を毎日使わないと死ぬって言ってたし……実際、使わない日が続くとめぐみんの体調が日に日に崩れていくのを見てたから、何かあるなとは思ってた。けど……まさか、ボンって……マジか」
「……マジなんです。めぐみん自らが爆裂魔法になります」
あのめぐみんなら自分が爆裂魔法自体になれるんだったらそれはそれで喜びそうなもんだが、つまりそれって特攻兵みたいなもんで……
俺の頭の中で「爆発四散しためぐみん」の絵面が浮かんでくる。
思わず背筋が凍る。
常識の範囲外すぎる話だ。
そんな俺の横では、アクアが腕を組み、珍しく神妙な顔をしていた。
「うーん……確かにめぐみんの魔力量は桁違いね。私には及ばないけど同じ紅魔族の二人の何倍もあるわ。前から魔力のせいで中毒みたいな状態になってるんじゃないかって疑ってたの。でも、まさか放っておいたら爆発するなんて……ねぇ」
「そ、そもそもそんなことが本当にあり得るのですか!? 私は未だかつてそんな話を聞いたことは……しかし、この魔道具は反応していない。つまり……それは嘘ではない、ということになるのか……」
検察官も冷や汗をかきながら口を挟む。
凝視した魔道具はピクリとも動かない。
つまり、ねりまきもゆんゆんも本気で言っている。
ついでにアクアも。
「か、隠そうとしてたわけじゃないんですよ?」
おずおずとゆんゆんが口を開く。
申し訳なさそうに視線を伏せて。
「一度打ち明けた時に……めぐみんが冗談みたいに誤魔化しちゃったから、私もそれ以上は言い出しづらくて……」
「はぁ……なるほどな」
「その、めぐみんもみんなに心配かけたくなくてそう誤魔化したんだと……」
「まあ、初耳なのは魔力量が限界超えると爆発するって部分で、毎日爆裂魔法を使わないと調子崩すってのは俺も知ってたし……。だから、気にすんな」
「カズマさん……」
できるだけ優しく言ってやると、ゆんゆんは少しほっとした顔を見せた。
検察官の人も俺たちのやりとりを見て「まったく……もしドラゴンを討伐できずにこの街に居続けるのであれば相談してください。適切な場所に案内する」と言ってくれた。
これにて一件落着と思ったのだが……
一つ、ショックのあまり大事なことを忘れてた。
にわかにざわつき始めた牢屋の外。
看守が慌てた様子で敬礼し、そして――
静かで凛とした声とともに現れたのは、金色の髪を揺らすジト目で見てくるアイリスだった。
アイリスはまず俺たちの姿を見て、次に床に転がるダクネスや寝息を立てるめぐみんを見て……ため息をひとつ。
「お兄様…………どうしてこんなことになったのですか? 捕まったと聞いたので急いで参りましたが、ララティーナとめぐみんさんは寝てますし……」
今までに体験したジト目の中で一番攻撃力がある。
やめろ、俺の心が抉られる。
「まったく……ダスティネス卿がご一緒なら、このようなことにはならないと思っていたのですが……」
「いや、むしろダクネスがいたせいで、さっきは検察官が泣きそうになってたんだが……」
「本当に一体どういう状況なのだ」
クレアも呆れて首を振る。
兄として、アイリスに無様な姿を見せ続けるわけにはいかない。
ここは俺が代表して、ことの顛末を説明してやろう。
「実はドラゴン退治に向かうまではよかったんだが問題が起きたんだ」
「問題ですか?」
「ああ。道中は幸いにも俺を中心にゆんゆんとねりまきも頑張ってくれたおかげで――」
チリーン。
「……お兄様」
「ち、違う! 嘘じゃな……ねりまきの魔法があんまりにも優秀すぎて俺のスキルの方が補助的な扱いになってたっていうことだ」
「な、なるほど?」
「それでだ。俺たちはドラゴンが潜むという鉱山の入り口に着いていよいよ中に入って探索を開始したんだ。そこはずいぶんと不気味でな。ダクネスも震えるほどだ」
「恐怖で震えてたのはカズマだけよ? ダクネスはドラゴンの一撃がどれだけ気持ちいいかって興奮してただけで――」
「アクア黙っとけ。それで俺たちは鉱山の中を探索したんだが、その奥には黄金に輝く竜がいたんだ。生物とは思えない巨大な肉体を見て俺たちは戦略的撤退を選んだんだ」
「いや、カズマさんが怖じ気づいて逃走しただけじゃ――」
「ゆんゆん五月蠅い。それで俺はめぐみんに作戦を練り直すために爆裂魔法の中止を言いに行ったんだが、もう詠唱済みでな。仕方なくドラゴンを起こさないようにと反対方向に撃ったんだ」
「その方が街がある方に撃ったら意味ない――」
「ねりまきお黙り」
必死に弁解する俺の横で、アクアたちが余計な口を挟んできた。
俺はあくまで正しいのは自分だと話を進めるが、誰かが口出しする度にアイリスの顔は微妙なものになっていく。
これには深いわけがあるのだと事情を説明したいが、弁明しようとすればするほど呆れられそうなので俺は口を塞いだ。
「まあ、何がともあれ皆さんが無事だったというのは喜ばしいことです」
アイリスの呆れ顔は安堵の表情に変わる。
クレアはまだ呆れている様子だったが、その中にわずかに滲んでいた緊張が緩むのを感じる。
「さて、クレア。後のことは頼みました」
「はっ。では検察官殿、この者たち取り調べの最中で申し訳ないのだが、身柄は私が保証するのでどうか釈放を……」
「あ、いえ、一応身柄の確認と処遇の決定は終わっています。この後は釈放の流れだったのですが、先ほど爆裂魔法の件でドラゴンを倒すまでの間は毎日爆裂魔法を撃つと言うものですから……近隣に迷惑をかけないようにと指導していたところで」
「そ、そうでしたか。こちらの方でも指導しておきます」
クレアがこちらの方を睨んでいるが「俺は関係ない。そういうのはめぐみんに直接言ってやってくれ」――と言ってやりたいが、言えない事情がある。
後でしっかり話さないとな……眠っているダクネスとめぐみんにも。
そう思いながら眠りこけている二人の方を見る。
「……随分とぐっすりだな。もうすぐ釈放なんだがもしかしておぶって出ないといけないのか?」
「それには及ばないわカズマ! 私はプリーストよ。状態異常の解除なんてお茶の子さいさいよ!」
そう言ってアクアは二人に魔法をかけると、二人は目をこすりながらも目を覚ました。
どうやら帰り道まで苦労することはなさそうだ。
めぐみんだけならともかく、ダクネスは重いからな。鎧が。
「ふぁぁ……ん? あれ、魔王城は? 私は確か爆裂魔法で魔王を討伐して次の魔王になったはずなのですが……」
「寝ぼけすぎだよめぐみん。まああれだけねりまきの魔法受けてるんだからしょうがないと思うけど」
「ゆんゆん……? そ、そうですよ! よくもやってくれましたねねりまき! 我がサーヴァントを自称しながら寝首をかこうとはいい度胸です!」
「ちょ、ごめ、ごめんて! いたたた!? 極まってる! 三角固極まっちゃってるから!」
目覚めが悪かったのだろう、めぐみんの不興を買ったねりまきに関節技が炸裂する。
めぐみんとねりまきでは体格ではねりまきの方が有利だが、普段から喧嘩をして慣れているめぐみんに軍配が上がったってところか……不意打ちもあったが。
一方でダクネスの方はと言うと。
「む……ん……く、ご、拷問は……? 鞭と激しい言葉責めが待っていたはずなのだが……」
「おはよう。随分と過激な夢だったみたいだな」
「ゆ、夢? ああああっ、なんて悪いタイミングで起こしたのだ!」
「いいタイミングだと思うんだが」
「いいタイミングな訳……いや、そうだ、今は牢屋の中……現実での拷問が待っているというわけだな!」
「違うよ? お前が寝てる間に全部終わったよ?」
「あっ、あぁ……もう、終わったのか……!」
「項垂れてるところ悪いがアイリスがいるんだが?」
「ア、アイリス様!? おいカズマ、どうして早く言ってくれなかったのだ! というかそれならそうと早く起こしてほしかったぞ!」
どっちだよ、起こせとか起こすなとか……どっちかにしてくれ。
というか二人とも自分が望んでる夢が見てるが、サキュバスじゃなくても催眠魔法には見たい夢が見れるという効力があるのだろいうか。
そんなくだらないことを考えていると、廊下の奥から慌ただしい足音が響いてきた。
息を切らせた駆け込んできたのはさっきまで俺たちの対応をしていた看守だ。
「大変です! 先ほどまで鉱山の奥で眠っていたはずのドラゴンが――鉱山から出て活動し始めました!」
牢内が一瞬で静まり返った。
その場にいた全員が硬直し、次の瞬間にはざわめきに包まれる。
「ドラゴンが……?」
「冬眠中で、鉱山の奥にまだ眠っていたのでは……」
クレアや検察官の人が首をかしげる中、俺は一瞬で察した。
ゆんゆんもねりまきも何かを察したような顔をしていた。
いや、本当は信じたくないが……さっきまで寝ていたのに今起きているってことは十中八九俺たちが原因だろう。
俺たちは顔を見合わせて頷いた。
「爆裂魔法だな」「爆裂魔法ね」「カズマさんが騒いじゃったから」
……約一名変なことを言ってる人狼がいたが、俺とゆんゆんの意見は一致した。
ねりまきは不服そうに眉をひそめながら「爆裂魔法もそうだけど絶対カズマさんが物音立てたのも原因の一つだって! 何も原因は唯の一つって訳じゃないでしょ」と反論するが俺は。
「爆裂魔法で間違いないな。めぐみんの爆裂魔法の余波――魔力と熱で、洞窟の奥で眠っていたドラゴンを刺激してしまったに決まってる」
「いや、でもねりまきが言うことにも一理あるような……ちゃんと山の反対側に撃って爆裂魔法の威力も半減させましたし……」
「俺の足音はねりまきの消音魔法で消されてたし、俺も潜伏スキルを使ってたから気づかれない! 逆にめぐみんの爆裂魔法は五大公害の一つだ、少し離れたくらいで効果が半減したからって反対側に撃ったからって魔力の波動は洞窟の中まで届いてしまうに違いない! ドゥユゥアンダスタンッ!?」
「はい? 今なんて……」
「とにかく今は原因を考えてる暇はない! ドラゴン討伐をするのは俺たちだ。俺たちが行くしかない、そうだろ」
「そ、そうですね! 街に被害が出ないうちになんとかしないと!」
実際、ドラゴンが暴れだしてこの街に来たらどれだけの被害が出るか。
しかもここはエルロード王国の首都。
ここが壊滅的な被害を受けてしまったらその影響は国全体へ広がる。
話がややこしくなる前にうまく注意をそらせることに成功した俺は、勢いをそのままにドラゴン討伐に向けて指示を出す。
「よし、アクア。早速支援魔法を頼む」
「わ、わかったわ! でもドラゴン倒す気でしょ? さっきは失敗したけど大丈夫なの?」
「不幸中の幸いって言っていいのかわからないが、ドラゴンは鉱山から出てきたんだ。つまり俺たちが外まで誘導する必要はなくなったってことだ! ダクネスはもしドラゴンが俺たちの方に突っ込んできたときに備えて身構えておいてくれ」
「ああ、任せろ。今度こそあのドラゴンの一撃を……!」
本当にわかってるのかこのドMは……
後でデコイを使ってわざとこっちに注目させないように注意しないとな。
「ゆんゆんはダクネスを魔法で援護してくれ! 中級魔法でもあれだけ威力があれば鬱陶しがるだろう」
「わ、わかりました!」
「ねりまきもゆんゆんと同じくダクネスの援護だ。上級魔法ならダメージも入るはずだし頼んだぞ!」
「いや、ちょっと無理」
「ようしそうしたら――今何て言った?」
「いや、無理だって」
ねりまきが俺たちから目をさらせて申し訳なさそうにする。
申し訳なさそうってことは何かしらの事情があるんだろうが、よりにもよってこんな時に……
ゆんゆんはねりまきの肩を掴んで。
「一体どうして……! 協力できないならちゃんと理由を言ってよ!」
「そりゃ私だって協力したいよ」
「じゃあ……!」
「でもね、私、上級魔法を使えないんだ。より正確に言えば習得してないんだよ」
「……え?」
ゆんゆんの素っ頓狂な声が聞こえる。
めぐみんも驚きのあまり声を出せないでした。
「えっと、覚えてないって? 普通、紅魔族ってのは上級魔法を覚えて、それからいろいろな魔法を覚えるんだよな?」
「いや、私たち三人って特殊大分でさ。学園で上級魔法を習得する前に別の魔法を覚えたんだよ。いや、まあ緊急事態だったししょうがないとは思うんだけどね? まあとにかく、上級魔法は使えないから中級魔法でいかせてもらうね」
「あ、ああ、そうか。じゃあそれでよろしく頼むな」
「もちろん!」
「でもそういうことなら早く言ってくれれば……」
「いや、何というか、言い出しにくくってさ」
まあ、めぐみんとゆんゆんの反応をみればわかる気がする。
紅魔族として上級魔法を覚えていないことがどれだけ異常なのか。
……いや、めぐみんは爆裂一筋だし、ゆんゆんも覚えちゃいないんだが。
「あれだけ多彩な魔法を習得してたから、てっきりもう上級魔法も覚えてるかもって……」
「いやぁ、何というか、普段から上級魔法必要な場面がなくって習得する気なかったんだよね」
「……本当にそれだけならいいんですが」
「本当にそれだけだから! もう、疑い深いなめぐみんは」
めぐみんは疑いの目を向けるが、それが嘘であれ本当であれ、今はそれを言い争うべきときじゃない。
俺は最後に残るめぐみんに何をするか指示を飛ばす。
と言ってもコイツがやることなんて毎度一つしかないんだがな。
「めぐみんはわかってるな。爆裂魔法であいつを一撃で……」
「無理です」
「お前もか! 何が無理なんだよ!」
「カズマこそ焦りすぎですよ! 私、さっき爆裂魔法使ったばかりなのですが……まだ爆裂魔法一発分の半分しか回復してないのですが」
「あっ」
俺はめぐみんの言葉を聞いて、胸の奥がさらに重くなった。
そうだ、問題は――
「……つまり、爆裂魔法は明日以降じゃないと撃てないのか……」
「一応あと数時間もたてば撃てますが、それにしたってあのドラゴンを討伐できる威力を出せるかと言えば……」
普段のめぐみんであればもっと自信満々にできると言ってのけるだろうに……
別の作戦を考えなきゃならない。
でもねりまきは上級魔法が使えない、ゆんゆんも上級魔法を使えない、めぐみんも爆裂魔法を使えない……いや、しばらくすれば使えるが倒しきれない。
俺やダクネス、アクアなんて攻撃に関しては戦力外だ。
決定打となる一撃を誰も使えない状況。
どうしようかと頭を抱えていると、そんな俺を心配そうにのぞき込むアイリス。
「あ、あの、もしよければ今は緊急事態ですし、きっとレヴィ王子からも許しが出るはずです。私もお力に……」
「い、いや、ありがたいがそれは最終手段にさせてくれ。このままだと俺たちがドラゴン討伐で活躍しなかったってことで処刑される可能性もあるし、そもそも原因は俺たちにあるんだ。無理そうだったら頼むからさ」
「……そうですか。……お兄様、どうかご無事で」
「おう!」
俺はアイリスに応え、作戦もまとまらないままドラゴンがいるという方へ走り出す。
…………どうしよう、アイリスの攻撃で倒すって方法しか思いつかないんだが?
最近忙しいので投稿頻度が減りそうです。原作小説1巻分を1章として、どこまで書こうかという…
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